*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
国内市場の勝ち組として和製インテグレーター候補の一つ
に常に名前があがる。 しかし2000 年にUPS との合弁を打
ち切って以降これまで国際分野で本格的な動きは見られない。
国内一般宅向け集配網強化に愚直なまでに専念している。
08 年度から始まる次期3 カ年計画で、そのビジネスモデルの
独自性はいっそう顕著になりそうだ。 (大矢昌浩)
ただし、「宅急便」の平均単価は下落し続けている。
この上半期も昨年同期と比べて三円下がった。 現在
六四二円。 下落率は過去五年間で一〇%超に達して
いる。 しかし、これは「売り上げに占める法人顧客
の割合が増えているためだ。 定価ベースで販売でき
る個人顧客の割合が下がれば単価は下がる。 宅急便
の単価の下落は顧客層の変化で説明できる範囲にと
どまっている」と同社では分析している。
もっとも、市場からはヤマトが大口顧客向けに安
値攻勢をかけているという声も聞こえてくる。 この
点について同社で百貨店や通販の営業を担当する流
通ソリューション営業部の枡田健課長は「大口顧客
に対する提案は相対なので単価よりも利益を重視し
た方針をとっている。 しかし、それもコストシミュレー
ションの結果であり、決して無理な安売りをしてい
るわけではない」と説明する。
実際、単価の下落とは裏腹に、〇六年度以降、同
社の業績は増収増益基調にある。 営業利益率も約六%
という水準を維持している。 そこには郵政&日通連
合によるコンビニ窓口の開拓や百貨店物流子会社の
買収など、露骨なヤマト包囲網の影響は見られない。
拠点倍増計画が、少なくとも現状では吉と出ている。
さらに来期から始まる次期三カ年計画では、緻密
な配送ネットワークを武器として、従来ドメインと
してきたB
to
C、C
to
Cの枠を踏み越えて、こ
れまで弱点としてきたB
to
Bのメーカー物流や国
際物流に本格的に攻め込む計画だ。
メーカーソリューション営業部の永田輝巳課長は
「既存市場で価格競争をするつもりはない。 メーカー
向け市場でも当社独自のアプローチをとる。 具体的
にはリサイクルや修理、リコール品の回収などの『C
to
B』を切り口にメーカーに入り込み、そこからB
第2部
ヤマト運輸
──独自モデルの進化を加速
集配拠点数で郵政と逆転
郵政とヤマト運輸の集配拠点数が今年逆転した。
昨年後半から今年三月末にかけ、郵政は全国約四七
〇〇カ所の集配局を約三六〇〇に集約した。 一方の
ヤマトは二〇〇二年以降一貫して拠点の増設を進め
ている。 その結果、五年前に約二二〇〇だった拠点
数が現在は約三七〇〇に達し、ついに郵政を上回った。
今期も一〇〇拠点以上が増設される見込みだ。
拠点を増やせば、それに比例して固定費も膨らむ。
ヤマトの場合、拠点区分の細分化と並行して、集配
ネットワークの仕組みも見直したことから、一時は
現場の混乱も招いた。 その影響もあって〇四年度、
〇五年度と営業利益率は五%以下に低迷した。 しか
し、拠点増設のスキームが固まり、オペレーション
が落ち着いてきたことで、一連のネットワーク再編は、
ようやく収穫期を迎えたようだ。
「当社の顧客数は今期に入って前期比で一〇%近
く伸びている。 とくに小口・中口顧客の取り込みが
堅調だった。 拠点を細分化して顧客との距離を物理
的に縮めたことで、小回りの利くようになったこと
が効いている。 もはや大崩れはしない。 今後も顧客
との関係強化が続く限り、事業規模は拡大していく」
と同社の山中純リテールソリューション営業部課長
は自信を深めている。
国内の宅配便市場は既に成熟しているといわれる。
事実、昨年度のゆうパックを含めた国内宅配便取扱
個数は全体では前年比〇・六%増、一八九六万個し
か増えていない。 これに対してヤマト単独の取扱量
は同じ時期に四五〇〇万個増えている。 結果として
ヤマトの市場シェアは約一ポイント伸びた。 市場の
淘汰と上位集中が加速している。
DECEMBER 2007 14
ヤマト・佐川の次の一手
15 DECEMBER 2007
to
Bへと拡げていきたい」と説明する。
昨年四月、ヤマトとセイノーホールディングスが中
心となり、大手特別積み合わせ運送会社一五社のジョ
イントベンチャーとしてサービスを開始したボックス
チャーターの「JITBOXチャーター便」の取扱
も順調に拡大している。 ロールボックスをユニット
とする中ロットの混載便で、貸し切り輸送からの乗
り換えを狙った商品だ。 今年一〇月の取扱実績は前
年同期比の二倍、過去最高を更新した。
出遅れ感のあった国際物流もライバルたちとは全
く異なる独自のモデルで本腰を入れる。 これまでヤ
マトは地域的には国内限定、業務は宅急便事業に特
化してきた。 国際物流や3PL的な付加価値物流も
グループ会社ではカバーしてきたものの、実態とし
ては分断されていた。
それでも「現場レベルではグローバル化の必要性
をそれほど感じてはいなかった。 しかし実際に目の
前を流れている荷物は輸入品ばかりになっている」
と流通ソリューション営業部の枡田課長は指摘する。
今後この傾向には拍車がかかる。 日本と東南アジア
諸国連合(ASEAN)は今年八月、輸入品の約
九割の品目の関税を撤廃する協定に大筋で合意した。
中国や韓国も含め、今後一〇年以内にアジア域内の
関税はなくなる可能性が高い。
そこで必要になるのは、外資系インテグレーター
の手がけるようなB
to
Bの国際エクスプレス便では
ないとヤマトは見ている。 「これまでの国際エクスプ
レス便は、サンプル品や書類の輸送をメーンとするニッ
チなサービスだった。 それに対して当社は通常の商
取引を対象にする」と枡田課長はいう。
例えば中国に物流センターを設置して、現地で調
達した商品をそこで保管し、注文に応じて宅急便で
日本の顧客に直送する。 既にSPA(製造小売り)
を荷主とする運用が始まっている。 中国で生産した
アパレル品を現地で保管し、日本国内の店舗に宅急
便で配送している。 さらには中国から最終ユーザー
に直送する国際B
to
Cの案件も出始めている。 O
EM品に宅急便のラベルを貼り、コンテナで日本に
持ち込んで、そのまま発送する。 この仕組みによっ
て荷主は日本国内の物流センターがいらなくなる。
国際B
to
C物流に決済機能を付加
さらに次期三カ年では海外の仕入れ決済代行業務
を開始する。 中国の複数の調達先に対する支払いを
ヤマトが代行、そのままヤマトが現地に在庫し、荷
主の指示に応じて出荷する。 その時点で在庫の所有
権が本来の荷主に移り、ヤマトが荷主に対して売り
上げを立てる。 これを利用することで、荷主は需要
に合わせた購買が可能になる。 在庫負担がなくなる
ため運転資金を抑えることができる。
枡田課長は「荷主ごとにフルカスタマイズした仕
組みを提供するコントラクト・ロジスティクスは当
社には向かない。 国際物流や3PLでも当社は汎用
的なインフラを提供するかたちで事業を展開してい
く。 そこで肝になるのは『
to
C』や『
to
スモールB』
の配送機能だ。 インテグレーターの国際B
to
Bと
は商売の領域が全く違う」という。
ヤマトは台湾で、日本の宅急便と全く同じB
to
C、
C
to
Cをメーンとした宅配便モデルを展開している。
この配送機能を使うことで日本発・台湾着の国際B
to
C物流が展開できる。 同様に中国や韓国にも宅
急便を持ち込むことで、緻密な域内配送ネットワー
クを軸とする独自の国際物流モデルを展開していく
計画だ。
C to C の強化にも余念がない。
昨年、ネットオークションの出品
者と落札者が匿名で取引できる
「オークション宅急便」を発売した。
ヤフーオークションに続き今年10
月には楽天オークションと提携し
システムを連携している。 利用実
績は未公表だが、当初予想を大き
く上回る規模に達しているという。
今年11 月には個人会員制サー
ビス「クロネコメンバース」を開
始した。 予め依頼主と届け先の住
所を登録しておくことで、全国の
「宅急便センター」に配置した専用
端末(写真)で自動的に送り状を
作成できる。 送り状の作成が面倒
だという個人客の要望に応えた。
ヤマトホールディングスの売上高と営業利益率
2002 2003 2004 2005 2006 2007
12,500
10,000
7,500
5,000
2,500
0
10
8
6
4
2
0
(単位:億円) (%)
売上高
営業利益率
特集
|