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AUGUST 2005 16
店頭起点のサプライチェーン競争
メディセオ・パルタックHD誕生の意味
「パルタックの英断に非常に興奮している」――。 日
雑卸大手のパルタックと、医薬品卸最大手のメディセ
オホールディングスの合併を受けて、菱食の廣田正会
長は日経流通新聞にこうコメントした。 合併の第一報
に接した流通関係者の多くが、同じような感想を抱い
たのではないだろうか。
今年一〇月一日付で発足するメディセオ・パルタッ
クホールディングスの年商は二兆円を超す。 かつてな
いメガ卸の誕生として、また業種をまたぐ大手卸同士
の合併として特筆すべきできごとだ。 後日、振り返っ
たときに、あのときが中間流通の歴史の大きな転換点
だったと言われる可能性もある。 それほど変化の兆し
を感じさせる合併劇だった。
近年の卸を取り巻く再編の波は、業種を問わず熾
烈を極めていた。 とりわけ医薬品と日雑品は、行き着
くところまできたと思えるほど上位企業への寡占化が
進展。 すでに数年前から、次のステップでは業種をま
たいだ再編が避けられないとささやかれていた。
ただし、その際に主役を演じるのは、相対的に資本
力の弱い日雑卸ではなく、加工食品卸か総合商社に
なると目されていた。 体力のある加食卸が日雑卸を呑
み込み、欧米では一つのカテゴリーとして確立してい
るドライグロサリーという括りが出現するという読み
だった。 だが今回の合併で、こうした読みは、オペレ
ーションの実体を理解できていない部外者の憶測に過
ぎなかったことが明らかになった。
改めてパルタックとメディセオの合併を検証してみ
ると、効果的な組み合わせであることが分かる。 何よ
りも両社の取扱商品はオペレーション上の特性が似通
っている。 いずれも常温帯の非食品で、バラピッキン
グを主体とする細かい物流が欠かせない。 配送頻度の
高い食品と比較すると、緊急性などの違いはあるもの
の日雑と医薬品はいずれも配送頻度が低い。
さらに今回の合併は、見事なまでに互いを補完し合
っている。 日雑の市場規模は全体でも二兆円程度で、
加工食品に比べると一桁小さい。 このためパルタック
は、卸として有数のオペレーション能力を誇りながら、
GMS(総合量販店)や食品スーパーが構成するサプ
ライチェーンの中では食品の?添え物〞のような地位
に甘んじてきた。 日雑業界の中でのシェアをいくら高
めても、経営体力の増強には限界があった。
一方、医薬品卸の圧倒的なトップ企業であるメディ
セオには、パルタックに欠けている資本力がある。 た
だ医薬品というコスト負担力の大きい商材を扱ってい
ることもあり、緊急性や確実性を重視しすぎる高コス
トのオペレーションが悩みのタネ。 現在、約六〇〇億
円を売り上げているOTC(大衆薬)事業などに欠か
せないローコストの物流は苦手だった。 これが今回、
パルタックと組むことによって一気に解消する。
ドラッグストアの潜在力
こうした相互補完によって、一〇月からスタートす
る新会社は、二社を単純に足し合わせた以上の存在
感を発揮できる見通しだ。 まず、得意分野が絞り込ま
れたことで営業ターゲットが以前よりずっと明確にな
った。 非食品分野においてライバルの追随を許さない
圧倒的な商品供給能力も確保し?業種卸〞から?業
態卸〞への脱皮を進める体制が整った。
このことは、新会社とドラッグストアの関係をみて
いくと理解しやすい。 食品スーパーにとっての日雑卸
の立場とは違って、ドラッグチェーンにとって新会社
は有力かつ欠かせない流通パートナーになりえる。 一
中間流通の進化が、これまでとは異なるフェーズに入
った。 パルタックとメディセオの合併を機に業種間の垣根
は一気に低下し、卸は特定の小売り業態を意識した生き
残り策を模索しはじめた。 製配販の各プレーヤーは流通
の役割分担を再考する必要がある。 (岡山宏之)
第4部
17 AUGUST 2005
特 集
般的なドラッグストアの店頭にある一万〜二万アイテ
ム程度の商品のうち、新会社は一社だけでおよそ半分
を扱える。
現在の日本の小売業界で、ドラッグストアは希有な
成長力を持つ業態として注目されている。 単価下落な
どの影響で、ほとんどの小売業が既存店売上高の前
年割れに頭を悩ませている。 これに対してドラッグス
トアの既存店は、高いレベルで成長し続けている。
ただし、ここにはカラクリがある。 ドラッグストア
の既存店も実質的にはマイナス成長のところが少なく
ないのだが、いま医療分野で進められている医薬分業
の進展によって、従来は病院で処方されていた医薬品
が徐々に市中の調剤薬局で扱われるようになっている。
この調剤薬局部門の売り上げを取り込んだドラッグス
トアの既存店が、トータルで見ると成長している。
さらにドラッグストアの持つ将来性の大きさも衆目
の一致するところだ。 高齢化の進む日本では、軽微な
病気に対応するための?かかりつけ薬局〞や、患者が
自ら主体的に健康管理をする?セルフ・メディケーシ
ョン〞へのニーズが飛躍的に増すと見られている。 薬
剤師が常勤するドラッグストアの店頭は、こうした社
会的ニーズの受け皿となる可能性が高い。 生活に欠か
せないパートナーの役割を担うことになるドラッグス
トアは、それゆえに価格競争とは一線を画する小売業
になる見込みが大きい。
実際、アメリカには、売上高が四兆円を超え、約一
五〇〇億円の純利益を叩き出す、ウォルグリーンとい
う世界一のドラッグストアがある。 独り勝ちを続ける
ウォルマートの向こうを張って三〇期連続で増収増益
を続ける全米屈指の小売業だ。 物流は自社で手掛け
ているが、米国では珍しくかなりの割合の商品をピー
スピッキングしている。 当然、コストが掛かるため、
店頭での売価はウォルマートよりずっと高い。 にもか
かわらず、消費者に支持され続けているのは、ウォル
グリーンが徹底した社員教育に基づく店舗運営で顧
客の心を掴んでいるからだ。
ドラッグストア業界の事情に詳しい流通アナリスト
の鈴木孝之プリモリサーチジャパン代表は、「いずれ
日本でもウォルグリーンのようなドラッグストアが生
まれる。 まだ現状は、候補企業を一社に絞り込める段
階ではないが、マツモトキヨシやイオンのウエルシア
が中心になって進めているドラッグチェーンのグルー
プ化が鮮明になってくれば、近いうちに混戦から抜け
出す企業が明らかになるはずだ」と指摘する。
イオン・ウエルシア・ストアーズ
ドラッグストアのチェーン展開は、GMSや食品ス
ーパーなどよりコンビニエンスストアに近い。 地域に
密着しながら店舗網を展開している。 ただしセブン
―
イレブン・ジャパンが成長過程で自ら共配センターの仕組みを整えてきたのとは違い、現状ではドラッグチ
ェーンのバックヤードは未成熟だ。 出店に追われてオ
ペレーションの高度化にまで手が回らない。 中にはマ
ツモトキヨシのように3PLを使って中間流通の高度
化を進めてきた企業もあるが、大半の企業は卸やベン
ダーにオペレーションを一方的に依存している。
見方を変えれば、ここにはまだ小売業と卸が手を携
えながら共に成長できる余地が残されている。 メディ
セオ・パルタックHDは、このドラッグストアの有力
パートナーになることを狙っている。 「小売りの店内
作業まで含めたオペレーション改革を手伝う」(パル
タックの山岸十郎副社長)ことで?業態卸〞というコ
ンセプトの有効性を証明できるかどうかが、新会社に
問われることになる(本誌二〇ページ参照)。
米ウォルグリーンの売上高の推移
'94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04
5
4
3
2
1
0
(兆円)
売上高
AUGUST 2005 18
ドラッグストアの可能性を見越して、小売業界の動
きも慌ただしい。 単一企業として圧倒的な存在感を発
揮しているマツモトキヨシに対抗して、イオンは計十
二社で「イオン・ウエルシア・ストアーズ」というド
ラッグチェーンの連合体を形成。 この分野で日本初の
ナショナルチェーンになることを目指している。
イオンのH&BC事業を加えた十二社の売上規模
は七二六七億円(二〇〇四年度)。 グループとして見
れば、すでに最大のライバルであるマツキヨグループ
を凌駕している。 約七兆円の市場規模があるとされる
この業界にあって、近い将来、一兆円の売上規模と、
販売シェア一〇%を確保しようと目論んでいる。
ただし、現状のウエルシアは、イオンを中心とする
緩やかな企業連合に過ぎない。 参加企業すべてにイオ
ンは資本参加しているが、持株比率が低いため強権を
発動できる立場にはない。 もともとドラッグチェーン
には、地域の有力者がトップに座るオーナー系の企業
が多い。 このため一気に単一企業に統合するのは現実
的ではない。 そこでイオンという全国チェーンの求心
力を利用して、段階的にグループ化を進めてきた。
すでに「ウエルシア」ブランドのPB商品の開発な
どを積極的に展開している。 とりわけ注目すべきは人
材育成に注力している点だ。 この七月末にイオンは
「イオン・ウエルシア・ストアーズ人材総合研修機構」
という組織を新設し、薬剤師の育成とサービスレベル
の高度化に本腰を入れた。 この組織がサービスレベル
の向上にどれほどの効果をもたらすかは未知数だが、
意外な成果を生みだすかもしれない。
ドラッグストアの店頭では、薬剤師の免状を持つ人
件費の高い従業員が、品出しやレジ打ちなどのオペレ
ーション業務を兼務している。 彼らの負担を軽減し、
医療人としての本来の役割に専念できる体制を整えれ
ば大きなアドバンテージにつながる。 そのための早道
は、現状ではばらばらの店頭やオペレーションの標準
化を進めて、これを中間流通の見直しにまでつなげる
ことだ。 ここまで実現できれば、店舗での顧客サービ
スレベルの向上とローコスト化に直結する。
こうした方針をウエルシア全体に浸透させるうえで、
新設する研修機関が貴重な役割を演じる可能性があ
る。 そうなれば緩やかな企業連合ではあっても、実務
面では大きな進歩につながり、ウエルシアグループの
規模が威力を発揮することになる。 この状況が目にみ
える段階になれば、日本でも、欧米並みに小売業の寡
占化が進み始めるはずだ。
明確になる流通上の役割分担
流通の究極的な変化は川下から始まる。 自動車産
業のようにメーカーが流通全体を完全にコントロール
できるサプライチェーンもあるが、これは例外に過ぎ
ない。 かつての日本で典型的なメーカー主導型のサプ
ライチェーンを形成していた、家電業界や化粧品業界
の変化、さらに最近のビールメーカーと小売りの綱引
きを見れば、メーカーがサプライチェーンを主導する
時代が終焉しつつあるのは明らかだ。
近代の流通の進化は、おおむね四つの段階に整理で
きる。 ?メーカー主導、?メーカーと小売りがせめぎ
合う時代、?小売り主導、?流通上の各プレーヤー
による合理的な役割分担の時代――。 戦前の日本に
おいて卸は圧倒的な力を持っていた。 しかし戦後は、
流通上の覇権争いのなかで翻弄され続け、主導権を
握ったプレイヤーとともに行動してきた。 今後、中間
流通の役割分担が再定義されれば状況は変わっていく
はずだが、ここでは話を分かりやすくするためにメー
カーと小売りの主導権争いだけを考える。
19 AUGUST 2005
戦後の日本で、まず流通の主導権を握ったのはメー
カーだった。 それが高度成長期になってダイエーに代
表されるチェーンストアが急成長すると、主導権は
徐々に川下にシフトして、メーカーと小売りがせめぎ
合う時代に入った。 小売りが自社専用のセンターを設
置してセンターフィーを収受するのは、こうした力関
係を示す何よりの事例だ。 そして日本の流通の大半は、
いまだにこの段階を卒業できずにいる。
翻って欧米の流通に目を転じると、とうに日本とは
異なる段階に入っていることが分かる。 象徴的なのは
ウォルマートの足跡だ。 八〇年代にディスカウントス
トアとして米国内で台頭したウォルマートは、中間流
通として自前の物流拠点を構えていた。 その強大な販
売力を背景に、取引メーカーの在庫を置かせて、PO
Sデータを開放する変わりに管理まで一任していた。
この状態は、小売り主導型の流通の典型といえる。 そ
してウォルマートの業務を効率化するために、メーカ
ーの負担ばかりが増す歪んだ構図だった。
もはや取引の?透明化〞は避けられない
この片務的な役割分担が見直されたきっかけは、ウ
ォルマートがスーパーセンターを本格化し食品販売に
参入したことだった。 賞味期限をほとんど考えなくて
いい商品を扱っていた時代には、メーカーにとって在
庫管理の負担も耐えられる範囲内だった。 ところが大
量の食品を扱いはじめた結果、メーカーが需要予測を
誤って賞味期限を過ぎてしまった在庫は廃棄せざるを
得なくなった。 この責任まで一方的に担わされたメー
カーは耐え難いところまで追い詰められた。
この状態を解消するためにメーカーは知恵を絞った。
大手食品メーカーのクラフトフーヅは、九四年にすで
に欧州で経験済みだった?クロスドッキング〞をウォ
ルマートに提案し、中間で在庫を持たない商品補充の
仕組みへの移行を促した。 それから二年間を掛けてク
ロスドッキングの仕組みを検証したウォルマートは、
その効果を認めて全米で展開することを決めた。
また、同じ時期にP&Gとウォルマートが取り組ん
だECRも、流通上の役割分担を明確に定義し直し
てメーカー側の負担を軽減する狙いがあった。 このよ
うな流れの中から、取引条件に応じてプレイヤーのコ
スト負担が変わるメニュープライシングが生まれた。
このときにクラフトやP&Gが、ウォルマートと構
築した関係は、前述した流通の進化の四段階目の「合
理的な役割分担」に相当する。 相変わらず小売り主
導の面が色濃いという意見もあるだろう。 しかしウォ
ルマートの主要サプライヤーの側も少なからず業績を
伸ばし続けていることを考えれば、結果としてウィン
―ウィンの関係に近づいたと見なすことができる。
そして、この際に流通上のプレーヤーすべてを襲っ
た無視できない変化が、取引の?透明化〞だった。 互いに原価まで公開し合い、一番コストを安くできるプ
レーヤーが納得ずくで機能を担う。 競争原理によって
サプライチェーンを高度化し、コストが下がれば店頭
で消費者に還元。 これによってまた売り上げを伸ばす
という好循環が生まれ不可逆的な成長が始まった。
このようにして能力の劣るプレーヤーをドライに淘
汰するやり方を非人間的な状態とみるか、ムダの排除
による進歩とみるかは、多くの日本人にとって評価の
分かれるところだろう。 しかし海外の話とはいえ、こ
うした効率的なサプライチェーンが現実に存在してい
る以上、そうした方向に日本の流通が進化するのはも
はや避けられない。 そこに到達する時間軸と、日本特
有のあいまいさが将来どこまで残るのかを、改めて見
極める必要がある。
特 集
イオン・ウエルシア・ストアーズ(メンバー12社)の概要
ツルハ 95.1 東証1部 41 ※1,428 447 東日本
スギ薬局 00.1 東証1部 35 1,050 288 中部・関西
CFSコーポレーション
(ドラッグストア部門) 00.4 東証1部 ― 989 227 静岡・首都圏
グリーンクロス・コア 00.2 東証2部 7 ※590 128 関東
クラフト 99.1 JASDAQ 9 490 107 全国
寺島薬局 02.5 JASDAQ 15 449 197 関東
メディカル一光 97.11 JASDAQ 7 92 58 中部・関西
クスリのアオキ 97.12 ― 2 ※290 56 北陸
ウェルパーク 01.1 ― 9 200 64 関東
タキヤ 00.4 ― 2 154 66 関西
いいの 02.9 2 141 58 関東
イオン(H&BC事業) ― 東証1部 ― 1,394 321 全国
04年度グループ合計 ― ― 7,267 2,017
05年度グループ目標 ― ― 8,000 2,200
企業名 提携年月 株式公開 資本金 展開エリア
(億円)
04 年度年商
(億円)
店舗数
(2 月現在)
※は予想数値
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