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JANUARY 2008 48
物流共同化
コープネット事業連合
10年以上かけ加盟生協の店舗物流を統合
チェーンオペレーション強化で再建図る
事業連合に機能のみ統合
コープネット事業連合は、九〇年代半ばよ
り一〇年以上かけ、加盟生協の店舗物流機能
を統合した。 従来各生協ごとに構築していた
システムや物流センターを、コープネットが一
括で管理。 コープネットに機能を集中するこ
とでスケールメリットを打ち出し、仕入れ価格
や物流コストを削減した。
コープネットは、関東地方を中心に一都七
県の地域生協が集まった最大規模の事業連合
だ。 一九九二年、さいたまコープ(以下、さ
いたま)、ちばコープ(同ちば)、いばらきコ
ープ(同いばらき)、とちぎコープ(同とち
ぎ)、コープぐんま(同ぐんま)の関東大手
五生協によって設立された。
九九年には全国の地域生協で事業高(売上
高に相当)第三位の規模を誇る、コープとう
きょう(以下、とうきょう)が加盟した。 さ
らに二〇〇五年にコープながの、〇七年には
市民生協にいがたも加わった。 これら加盟生
協の総事業高を合計すると、約四七〇〇億円
になる。
生協の活動は、一九四八年に施行された
「消費生活協同組合法(以下、生協法)」で
規定されている。 従来は県域を越えた活動と、
地域生協同士の合併が禁止されていたが、九
〇年代はじめの規制緩和で、県域を越えて複
数の地域生協が統合する「事業連合」の設立
が認可された。
ただし統合といっても、一般の会社同士の
合併とは大きく趣を異にする。 通常合併とい
えば、意思決定機関はひとつに統合されるの
が当たり前だ。 しかし、事業連合においては、
加盟生協が意思決定機関を持ち続け、互いの
独立性を保っている。 そしてPB(プライベ
ートブランド)商品の共同開発や共同仕入れ
を中心に、機能面だけ統合するというかたち
をとっている。
事業連合がこのように特殊な形態をとらな
ければならないのは、前述の生協法の規制に
拠るところが大きい。 それでもMD(マーチ
ャンダイジング)機能、店舗運営機能、物流
機能など実務レベルで統合可能なところは統
合して、合併同様のシナジー効果を生むこと
で効率的な運営をしようと、事業連合が各地
で誕生している。 現在、全国に十三の事業連
合がある。
コープネットの役員と、物流子会社・協栄
流通の社長を兼務する釘宮昌平氏は、「ひと
つひとつの生協の事業高は大きくても一〇〇
〇億円程度だから、小売業の規模としてはた
いしたことはないかもしれない。 しかし、コ
ープネット加盟生協の総事業高を合計すると
約五〇〇〇億円近くになる。 単一の生協とは
MD機能や商品のバイイングパワーが全然違
う。 物流も各生協バラバラでやるより、一定
の規模で行ったほうがコストは安くなる。 人
材育成もやりやすい」と、そのメリットを説
明する。
地域生協同士が統合した事業連合で日本最大の
コープネットは、加盟生協の店舗物流機能を統合し
た。 各生協ごとに構築していたシステムや物流セン
ターを再編。 コープネットに機能を集中することで、
仕入れ価格の条件改善や物流コストを削減した。 さ
らに商品の共同仕入れが中心だった事業連合をチェ
ーン本部として機能させることで、赤字が続く店舗
事業を再建する。
49 JANUARY 2008
個配供給が店舗事業の赤字を補填
生協の購買事業は、「店舗事業」と「共同
購入事業」からなる。 共同購入事業は、さ
らに「班供給」と「個配供給」に分けられる。
班供給は七〜八世帯の組合員が班を作り、ま
とめて商品を注文する。 商品は班に一括配達
され、分け合うというかたちをとる。 大手小
売業者には例を見ない業態で、店舗運営コス
トがかからないというメリットがある。 八〇
年代から九〇年代初頭にかけて、安心・安全
な商品を求める消費者のニーズが増加したこ
とを追い風に、急速に拡大した。
しかし、班供給は九〇年代中期をピークに
減少に転じる。 ライフスタイルの多様化によっ
て、班供給に参加できない組合員が増えたか
らだ。 その一方、組合員の家に直接商品を配
送する個配供給は、九〇年代後半から年率二
桁以上の成長を遂げている。 そして〇六年度
にはついに個配供給が班供給を上回った(図
1)。
個配供給の拡大によって事業高が増加し続
けている共同購入事業に対し、店舗事業は慢
性的な赤字体質に苦しんでいる。 釘宮役員は
「店舗事業は十二年連続で赤字が続いている。
店舗事業の赤字を、好調な共同購入事業の
利益で補填しているのが現状だ」と指摘する。
店舗事業の再建は、喫緊の課題だった。
しかしイオンやセブン&アイ・ホールディン
グスなど大手チェーンストアとの競争が激化
する中、前述の生協法の規制がハンディキャ
ップとなり重くのしかかる。 規模のメリット
が打ち出せず、コスト競争力で圧倒的に不利
な状況に置かれる店舗事業は大手小売店との
競争に疲弊し、赤字を垂れ流し続けた。
生協法の規制は、物流体制にも影響を与え
ていた。 各生協ごとに物流システムや物流セン
ターを抱えており、運営も自前で行う生協が
多かった。 改善の余地は大きかった。 釘宮役
員は「一番ムダだったのは、人件費だ。 拠点
を統合してしまえば、センター長の人数を削
減できる。 統合で施設の規模が倍になったと
しても、管理職を倍に増やす必要はない。 も
ちろん人件費だけでなく、光熱費など施設の
運営コストも削減できる」と説明する。
越谷に日配品の拠点を新設
コープネット設立当初は、他の事業連合と
同様に商品の共同仕入れから取り組み始めた。
手を付けやすく、コスト削減という点では最
も即効性があるからだ。 その後、九〇年代中
頃から本格的に店舗事業の物流改革に取り組
み始めた。
まずは物流の統合だ。 食品スーパーの物流
は、扱う商品分野によって大きく三つに分か
れている。 豆腐や漬け物など、製造後の販売
可能期間が比較的短い「日配品」と、肉や魚
などの「生鮮品」、冷蔵の必要がない加工食
品や日用雑貨類の「ドライグロサリー」の三
つだ。
当時、店舗用の物流施設を所有していた加
盟生協は、さいたまとぐんまのみだった。 ち
ば、いばらき、とちぎはまだ店舗数も少なか
ったため、物流施設をもっておらず、各ベンダ
ーが店舗に直接配送していた。 しかし、徐々
に増えていく店舗数に対し、ベンダー側の配
コープネットの釘宮昌平役員
図1 地域生協の事業別供給高の推移
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
14,000
16,000
供給高(億円)
96
年
97
年
98
年
99
年
00
年
01
年
02
年
03
年
04
年
05
年
06
年
店舗事業
共同購入事業(班)
共同購入事業(個配)
JANUARY 2008 50
送は次第に追いつかなくなっていった。
そこで、九〇年代中頃にぐんま以外の日配
品の物流を、さいたまが所有していた「桶川
日配センター(埼玉県桶川市)」に統合した。
生鮮品も同様に、「桶川生鮮センター」に統
合。 これによってぐんま以外の日配品、生鮮
品の物流が、さいたまの所有する二つのセン
ター経由に集約された。
ドライグロサリーは、ぐんまも含めコープネ
ットの加盟生協全てが九八年より日本生活協
同組合連合会(以下、日本生協連)の所有す
る「関東流通センター」を使用している。 同
センターの運営は日本生協連の物流子会社・
シーエックスカーゴに委託している。
九九年に加盟したとうきょうは、所沢に日
配品を扱う「所沢日配センター(埼玉県所沢
市)」と、生鮮品を扱う「所沢生鮮センター」
を独自に所有していた。 いずれのセンターも、
桶川、桐生の各センターの物量とほぼ等しい
規模があったことから、それまでの体制を維
持することに決定した。
しかし、築二〇年以上たった「所沢日配セ
ンター」の老朽化や、増え続ける物量に対し
増築で対応してきた「桶川日配センター」の
処理能力は次第に限界が見えてきた。 そこで
〇五年、日配品を扱う所沢、桶川、桐生の三
センターを統合し、新たに「越谷日配センタ
ー」を設立。 加盟生協の店舗事業の日配品を、
全て同センターに集約した。
同センターを新設した狙いとしては、冷凍
商品の仕入れ価格が約一〇%下がった。
とうきょうが加盟したことも大きい。 総事
業高が二六〇〇億円から四〇〇〇億円に拡大
したことで、商品開発や共同仕入れで今まで
食品の温度管理もあげられる。 冷凍食品は、
零下二五度の室内で保管、仕分けを行う必要
がある。 以前からその管理には細心の注意を
払ってきたが、より高いレベルの品質を求め
る組合員の期待に応えた格好だ。 これに伴い
従来は自前で行っていた運営をヒューテック
ノオリンに委託した。 庫内作業の効率性を上
げつつ、アウトソーシングによって物流コスト
を削減するためだ。
同じ〇五年には、生鮮品のセンターも統合。
「桐生生鮮センター」を閉鎖して「桶川生鮮
センター」に集約した。 その結果、現在、日
配品は「越谷日配センター」一拠点、生鮮品
は「桶川生鮮センター」「所沢日配センター」
の二拠点、ドライグロサリーは「関東流通セ
ンター」の一拠点体制となっている(図2)。
物流の統合と並行して、システムや運営も
コープネットに徐々に一本化していった。 九
〇年代中頃に、さいたまのシステムをコープ
ネット全体のベースとして設定。 〇三年から
はとうきょうのシステムに再設定した。 また、
〇四年には店舗EOS(Electronic Ordering
System :電子発注システム)システムを統一。
〇五年には店舗POS(Point Of Sale:販売
時点情報管理)システムの統合を開始した。
物流共同化で規模のメリットを追求
一連の物流改革による効果はてきめんだっ
た。 物流を統合し、納品先が集中されたこと
で、ベンダーからの仕入れ条件が大幅に改善。
図2 コープネットの沿革と、店舗物流の統合の経緯
92年90年代中頃98年99 年05年07 年10年
日配品生鮮品ドライグロサリー
さいたま
ぐんま
ちば、いばらき、とちぎ
とうきょう
日本生協連
日本生協連
コープネット設立コープとうきょう
加盟
コープながの
加盟
市民生協
にいがた
加盟
ユーコープ
事業連合
と統合
「桶川日配センター」
「桐生日配センター」
物流の統合
施設統合
「越谷日配センター」
「所沢日配センター」新設
「所沢生鮮センター」
「関東流通センター」
さいたま
「桶川生鮮センター」
物流の統合施設統合
ぐんま
「桐生生鮮センター」
「第二関東
流通センター」
ちば、いばらき、とちぎ
51 JANUARY 2008
以上に規模のメリットを追求できるようにな
った。 同時に物流コストも約二〜三%削減さ
れた。
「越谷日配センター」では、所沢、桶川、桐
生の日配センターでは扱えなかった、とんか
つ、サラダ、お弁当など惣菜品を扱えるよう
になった。 従来、惣菜品は各ベンダーが直接
店に配送していた。 店には二〇社近いベンダ
ーから惣菜品がバラバラに配送されていたの
で、店側は荷受けだけで手一杯だった。
これを同センターからの一括配送に切り替
えることで、荷受け回数はたったの一回と激
減。 搬送機材も今までの五分の一程度と省ス
ペース化され、荷受け作業の効率がよくなっ
た。 ベンダーからの仕入れ価格も下がり、惣
菜のコスト競争力が強化された。
システムや運営の統合も、物流コスト削減
に寄与している。 たとえば、さいたまコープ
所沢店。 統合以前に同店では、店舗から二〇
キロメートルの距離にあるさいたま所有の桶
川センターから生鮮品・日配品を配送してい
た。 店舗からわずか一キロメートル先にはと
うきょう所有の所沢センターがある。 しかし、
運営が統合されておらず、しかも受発注のシ
ステムも違うため、遠くの桶川センターを利
用せざるを得なかった。
釘宮役員は「受発注の仕組みを統一するこ
とで、施設の相互乗り入れができるようにな
った。 拠点を増設すれば一〇億円以上のコス
トがかかる。 それがわずか五億円程度のシス
テム投資で代替ができる。 このコスト削減効
果は大きい」と、システム統合の重要性を説
明。 さらに同氏は、「この一〇数年の物流へ
の取り組みで、約一〇%近いコスト削減効果
が出ている」と胸を張る。
共同仕入れからチェーン本部へ
従来、事業連合は商品の共同開発、共同仕
入れ機能をメインに担ってきた。 コープネッ
トは従来型の機能に加え、店舗の運営からシ
ステム、物流など様々な機能を統合すること
で、地域生協に対するチェーン本部としての
機能を果たしている。 このモデルを今後は日
本生協連と共に、他の事業連合にも広めてい
きたいという。
釘宮役員は、「既に商品開発機能は全て日
本生協連に集約した。 規模のメリットが打ち
出せない以上、もはや単一の生協でやるメリ
ットがない」と強調する。
物流も同様に、日本生協連と共同で取り組
んでいく方針だ。 日本生協連は現在、店舗事
業のドライグロサリーを扱う「関東流通セン
ター」のキャパシティが限界に近づいてきた
ため、千葉県野田市に「第二関東流通センタ
ー」を建設している。 同センターは一〇年に
稼働する予定だ。
さらに同年、コープネットは総事業高約二
三〇〇億円で、神奈川、静岡、山梨県内の六
生協からなるユーコープ事業連合と統合する。
事業連合同士の統合はこれが初となる。 両者
の総事業高は合計すると約七〇〇〇億円に上
る。 食品スーパーとしては首都圏でもかなり
の規模の事業体となる。 機能面の統合を今ま
で以上に強固にして、組合サービスの向上を
図っていくという。
コープネットとユーコープの統合をきっかけ
に、今後事業連合同士の統合が進み、仮に日
本生協連のもとに全ての事業連合が集約され
れば、総事業高が二兆六〇〇〇億円を超える
巨大な小売集団が誕生することになる。
この件に対し、釘宮役員は、「現時点では
まだ結論は出ていない。 生協の活動は本来、
地域密着型だ。 しかしある程度の規模がない
と、組合員を満足させる商品開発が出来ない
し、大手チェーンストアとの競争にも勝てな
いのも事実。 一般的に小売業は売上高一兆円
オーバーで力が付いたとみられる。 売上高数
億円では小売業として認められない。 地域密
着と規模の拡大の双方を並行させることが今
後の課題」と冷静に分析する。 コープネット
の生協改革は続いている。 (柴山高宏)
日配品・惣菜品を扱う越谷日配センター
日配品は自動倉庫で仕分け
荷姿の異なる物はカゴ車を使用
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