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中国とは地理的に近く、文化的にも縁の深い関係
にあるにもかかわらず、日系企業はなぜ他の外資系
の侵攻を許してしまったのか。 最大の理由はマーケ
ティングの軽視だ。 日系企業の中国進出は生産部門
が先行した。 日本から生産のスペシャリストを送り
込み、現地の割安な労働力を活かしてコスト競争力
のある高品質な製品作りを目指した。 その限りでは
一定の成功も収めた。
しかし、中国の国内市場向け販売、いわゆる“内
販”は、欧米系や韓国系に一〇年は遅れた。 日本以
外の有力外資系は九〇年代中頃には中国の将来の経
済成長を見越したサプライチェーンの整備に本腰を
入れた。 それに対し、ほとんどの日系企業は〇四年
末に中国政府が国内流通権を完全に外資に開放する
まで、マーケティングを現地の代理店に任せ切りに
してきた。 今そのツケが回ってきた。
早急に中国事業戦略の舵を切る必要がある。 これ
までの生産重視の姿勢を改め、市場の実態に即して
マーケティングを練り直し、サプライチェーンの再構
築を進めなければならない。 これに伴いグローバル・
ロジスティクスの目的も、従来のコスト削減から販
売支援に照準を移す。
二〇〇〇年以降、グローバル・ロジスティクスの
キーワードは「統合」と「可視化」だった。 各国の
拠点別、法人別に管理していたロジスティクスを統
合し、ルートごとに入札で協力物流会社を選定して
ボリュームディスカウントを引き出す。 さらには世界
全体の在庫ステータスを可視化して、作りすぎのム
ダを省き、在庫水準を下げる。 いずれも狙いはコス
ト削減だった。
次のテーマは海外の内販拡大だ。 その攻略には市
場から遠く離れた本社オフィスではなく、海外のド
攻めのSCMでシェアを拡大
「見える化」や「統合」は既に峠を越えた。 主要市場が日
本を始めとする先進国から、中国などの新興国にシフトする
のに伴い、ロジスティクス管理の矛先も在庫や物流コストの
削減を目指す守りから、市場シェアの拡大を狙う攻めに照準
を移している。 そこでは的確なマーケティング戦略に基づく、
売るためのロジスティクスが求められている。 (大矢昌浩)
生産重視・コスト偏重が裏目に
欧米で開催される国際ロジスティクス会議で現在、
最も集客力のあるテーマは「可視化:Visibility」や
最新の情報技術、効率化ノウハウなどではなく、売
り上げとシェアの拡大だ。 マーケティングにロジス
ティクスを効かせることで、ライバルと差別化し、
利益の最大化を実現した企業のケーススタディに、
多くの耳目が集まっている。
日本や欧米など流通インフラの整った先進国から、
BRICsを始めとする新興国へ、グローバル市場
は徐々に重心を移している。 とりわけ日系企業にとっ
て主戦場となっているのが中国だ。 クレディスイス銀
行の分析によると、中国の国内消費市場は二〇一〇
年には米国、日本に次いで世界第三位に浮上し、
一五年には日本を抜いて二位にのし上がる見込みだ。
日本以上の規模を持つ消費市場が日本海を隔てて向
き合うすぐ目の前に拡がっている。
ところが、その巨大市場で日系企業は他の外資系
企業に大きく遅れをとっている。 自動車は独VW、
米GM、韓国の現代。 デジタル家電は韓国のサムス
ンとオランダのフィリップス。 携帯電話はフィンラン
ドのノキアとサムスン。 日本製品が国際競争力を持
つ産業でさえ、シェアを獲得できずにいる。
一般消費財の劣勢はさらに深刻だ。 日用雑貨品は
P&Gが圧倒。 化粧品もP&G(OLAY)と仏ロ
レアル。 加工食品は仏ダノンとスイスのネスレ。 清
涼飲料は米コカ・コーラ。 ビールは米バドワイザー。
酒類は英ジョニーウォーカー等々。 商品別の市場シェ
アを眺めても、日系メーカーの名前はほとんど出てこ
ない。 小売業も仏カルフール、米ウォルマート、独
メトロなど外資系の上位は皆、欧米企業だ。
JANUARY 2008 12
第1部中国内販市場で欧米韓を巻き返す
解 説
メスティックなサプライチェーンの現場に出向く必要
がある。
ロジスティクスで差別化
既に一部の日系企業は動き出している。 サントリー
の事例は有名だ。 同社は他の外資系メーカーとは全
く異なるマーケティングを展開することで、上海の
ビール市場で圧倒的なシェアを握ることに成功した。
高価格で欧州風な味付けのプレミアムビールをドメイ
ンとする他の外資系を他所に、サントリーはボリュー
ムゾーンの大衆品に照準を定めた。 サプライチェー
ンは中小の卸問屋を専売特約店として教育し、細分
化した販売エリアごとに配置。 トラックとは違い市
内を自由に走れる三輪車を利用して多頻度小口配送
を実施した。
同様にコクヨも、上海で自転車配送チームを組織
して、オフィス用品のカタログ通販を軌道に乗せて
いる。 洗練された物流市場を持つ先進国とは異なり、
新興国の内販市場では物流機能の整備がマーケティ
ング上の大きな制約になる。 それだけに物流は大き
な差別化要因にもなる。
しかし、荷主企業が海外で自ら配送網を構築する
のは容易ではない。 時間と手間がかかり、リスクも
大きい。 実際、上海では成功したサントリーやコク
ヨも、中国の他のエリアへの商圏拡大には慎重にな
らざるを得ない。
中国全土を対象に短期間でシェアを獲得するには、
やはり信頼のおける物流パートナーが必要だ。 成熟
した先進国の市場とは違い、新興国の内販では、パー
トナーを選別してサプライチェーンのリスクと報酬の
分担を調整する、教科書通りのSCMとロジスティ
クスが試される。
13 JANUARY 2008
──中国の物流市場は外資系と現地系の二重構
造になっていると聞く。
「その通りだ。 中国の物流市場は現在、外資系
物流企業、中国国営物流企業、中国民営物流企
業が、ちょうど市場を三分の一ずつ占めている格
好だ。 市場規模自体は拡大しているが、その比
率はここ数年大きく変わっていない。 外資系荷主
は物流パートナーも外資系。 〇七年に調査してみ
たところ外資系物流企業の荷主は六六・七%が外
資系だった。 同様に国営物流企業は国営荷主。
現地の民間荷主は民間物流企業を選んでいる。
そして外資系同士の物流市場と、国内企業同士
の物流市場は運賃や品質など大きな開きがある。
つまり物流市場
はいまだ二重構
造になっている」
──現地系物流
企業の能力も急
速に向上してい
るといわれるが。
「私はそうは思
わない。 現地系の荷主は物流品質に価値を認め
ない。 そのため物流企業側も?安かろう、悪かろう?
になってしまう。 ロジスティクスのコンセプトを
中国企業はいまだ物流と同じだと認識している。
第三者物流、3PLだといっても実態としては幹
線輸送や配送など、単純で付加価値の低いとこ
ろだけをアウトソーシングしているに過ぎない。
受発注や在庫管理などは自分でコントロールして
いる」
──その理由は?
「アウトソーシングはリスクが大きいと考えてい
るからだ。 物流会社を通じて、商売の機密情報
が外部に漏れてしまうことを恐れている。 それだ
け物流企業の信用度が低い」
──日系をはじめとする外資系荷主企業が中国の
内販市場に乗り出している。
「これまでのように輸出入中心の物流であれば、
外資系物流企業にアウトソーシングしていれば良
かった。 しかし内販に本腰を入れるとなれば、外
資系荷主であっても現地系物流企業を使わざるを
得ない。 当然、品質は期待できない。 難しいこと
だが、荷主が自分で物流をコントロールするしか
ないだろう」
「物流市場の二重構造は解消されていない」
北京物資学院 躍 物流学院院長
中国の物流市場における物流企業と荷主企業の組み合わせ
(%)0 20 40 60 80 100
外資系物流企業
国営物流企業
民営物流企業
国営荷主民営荷主外資系荷主その他の荷主未分類
15.6
36.0
24.4
11.1
32.9
43.8
66.7
24.4
25.0
6.7
5.5
4.4
1.2
2.5
特集
JANUARY 2008 14
富士ゼロックス
ユーザー直販を全国展開
富士ゼロックスは二〇〇七年度の中国の内販市
場の売上目標を前年比三〇%増に置いている。 主
力商品はオフィス向けのカラー複合機と大型プリ
ンタ。 この数年、ディーラーを通じた従来の販売チャ
ネルとは別に、ユーザーへの直接販売を拡大して
いる。 その物流ネットワーク構築には多くの人員、
コスト、時間をかけてきた。
ディーラーを経由するのであれば、エンドユー
ザーまでの配送はディーラー任せで構わない。 し
かし直販ではそうはいかない。 配送先の数が格段
に増えるとともに、ディーラー向け以上のスピード、
正確性、安全性などの物流品質を求められる。
任せられる物流会社はいない。 現状、中国には
品質管理を含めて全土をカバーする配送ネットワー
クはない。 国営の大手物流業者は地域間、事業間
の連携などで問題がある。 日系を含めた外資を起
用しても結局は小規模なローカル企業が現場を担
うことになり、品質には不安が残る。
このため「既存のネットワークをどのように使い、
どのように全体の仕組みを作っていくかという観
点から、情報収集と地域ごとの選別を行い、必
死で当社のネットワークを探してきた」と富士施
楽実業発展(上海)有限公司の高橋泰介サプライ
チェーン・マネジメント・ダイレクターは語る。
こうして作り上げたのが、生産拠点を置く上海
をハブとした同社独自の全国配送ネットワークだ。
上海のほかに北京、広州、成都に大型の在庫拠点
を構え、そのほか地方都市に小規模なデポを置い
ている。 上海だけに在庫を集中すれば在庫を効率
的に管理できるが、リードタイムは長くなる。 と
りわけ消耗品や補修部品の在庫切れは許されず、
納期も厳しい。 リードタイムと在庫のバランスから、
こうした形をとった。
上海から在庫拠点までの幹線は大口で輸送し、
各デポでクロスドックを行い、小口配送する。 完
成品のほか、消耗品と補修部品が常時流れる小口
配送は生命線だ。 スピードと正確性、安全性を確
保するため、小口配送の管理には多くの自社スタッ
フを投入している。
幹線輸送は欧州系大手物流業者に委託し、末
端の配送では規模の大小を問わず、各地域の地場
物流業者を起用している。 高橋ダイレクターが着
任した三年前は大都市向けが多かったが、納入先
が大都市から地方都市に広がるのに合わせて自社
で地場の情報を収集し、物流業者を選定してきた。
末端まで物流品質をチェックし、問題があれば原
因を究明、問題解決まですべて行うため管理工数
と管理費は大きくなり、物流コストは高くなるが、
隅々までコントロールする体制を整えた。
一方、中核拠点の上海での体制整備も進めた。
中国の内販製品は上海工場で生産されたものと、
欧米や日本からの輸入品、そして深圳工場から香
港経由で輸入した製品の三種類がある。 上海工場
の製品は工場倉庫で保管。 輸入品は上海外高橋の
保税区倉庫に保管していたため、同じ上海に拠点
が二つある状態だった。
上海工場の倉庫スペースが不足していたことも
あり、在庫拠点の統合を目的に移転を決定。 日系
物流企業が設置した市内の国内貨物専用倉庫に
〇七年十一月に機能を移管し、上海のハブとした。
今後も必要に応じて外高橋を利用し、保税のメリッ
トは生かすが、新倉庫を中心拠点として明確に位
置付けた。
今後の課題は合理化だ。 内販の拡大に伴い地方
都市への配送がさらに増えても、現在の物流費比
率を維持することが目標。 ムダを減らし、効率化
を進めていく。 幹線輸送の物流業者選定では入札
の導入も検討している。 富士ゼロックス単体だけ
でなく富士フイルムグループ全体で入札を行うこ
とも視野におき、スケールメリットを出していき
たい考えだ。
ソニー
アイテム別にサービスレベルを設定
ソニーは中国で薄型テレビ、デジタルカメラ、
デジタルビデオカメラ、パソコンなどを販売し年率
二〇〜三〇%で売り上げを伸ばしている。 今や中
国市場はソニーにとって米国に次ぐ市場に成長し、
香港を含めると日本に匹敵する規模になっている。
市場の成長に加えて外資に対する規制緩和もあり、
販売のためのチャンスが増えているという。
索尼物流貿易(上海)有限公司(ソニーサプラ
イチェーンソリューション〈上海〉)の中山忠久董
富士施楽実業発展(上海)の
高橋泰介サプライチェーン・マ
ネジメント・ダイレクター
特集
15 JANUARY 2008
事総経理は「ソニーのブランドイメージは世界的
に高い。 低価格帯の商品を無視するわけにはいか
ないが、高価格帯の製品をいかに販売していくか
が重要になっている」と語る。
販売チャネルをみると、パソコンは多くの小売
店が入居するITモール、デジカメはITモール
とショッピングセンター、薄型テレビは量販店と、
それぞれの製品で異なる。 それだけ配送先は分散
している。 ディーラーや小売業者と協力し、お互
いに在庫を持たずに済む仕組みを目指しているが、
現状では店舗網の拡大が先行し、そのための物流
インフラが追いついていない状況にあるという。
このように製品の物流は複雑だが、ソニーサプ
ライチェーンとしては販売のニーズに応えるため、
受注後、基本的には二四時間、地域によって四八
〜七二時間での配送を顧客に約束している。 現在、
注文のうち八〇%以上について二四時間以内の配
送を達成している。
米国などではソニーの販社と大手ディーラーが
月次で交渉し、大量の商品を輸送する形が多いが、
中国では「個々のオーダーに対して迅速にデリバリー
を行うという非常に“日本的”な形をとっている」
(中山董事総経理)。
このため、内販物流では三菱商事とともに一九
九〇年代から上海を中心に全国をカバーするネッ
トワークを構築してきた。 上海の倉庫をハブに全
国九カ所にクロスドック拠点を置き、ディーラーへ
配送する。 基本的には上海で在庫を持ち、各拠点
の在庫は必要最低限に抑えている。 実際のオペレー
ションや配送管理は三菱商事が設立したトラック
輸送会社、上海浦菱儲運有限公司(現在は三菱
商事と日本通運の共同出資会社傘下)が行っている。
こうしたネットワークをベースにしながら、こ
の数年は新しい流れを作っている。 パソコンなど
高価で製品寿命が短く、より厳しいリードタイム
が要求される小型製品の航空輸送だ。 これらのア
イテムは他の商品とは別にトラックでの輸送時間
が八時間を超える地域については欧米系インテグ
レーターを起用し、二四時間配送を遵守する。 「製
品特性も販売チャネルも違うため、二つのネット
ワークを整理して考えていく必要がある」と中山
董事総経理は説明する。
現在、日本国内に比べ対売上高物流費比率は低
く抑えながらサービスレベルを維持しているため
「中国全土への販売を考えたとき、現地相場と比
べて運賃水準は多少割高でも上海浦菱儲運のサー
ビスには付加価値がある」(同)という。 当面は
上海浦菱儲運をパートナーとしていく考えだ。
ただし、「サプライチェーンのフローについては
柔軟に考えたい」と中山氏は強調する。 「米国の
ように大手ディーラーと連携し、オーダーと生産
計画をリンクさせることになれば、それに合わせ
てネットワークを変えていくことも必要になるだ
ろう」(同)と考えている。 地域別にサービスレベ
ルを設定するという考え方もある。 さらに、ディー
ラーを通さない直販の部分では宅配の需要がある。
現在は中国郵政傘下の物流会社が提供するEMS
で届けているが、直販が増えれば個人情報の管理
や代金回収という課題も出てくる。 こうした課題
に対して検討を続けていく方針だ。
豊田自動織機
物流品質でブランドを守る
豊田自動織機は上海にフォークリフトの販社、
昆山に生産工場四社を置き、カーエアコン用コン
プレッサー、自動車・繊維機械・産業車両用の鋳
造部品、フォークリフトなどを生産・販売している。
〇五年には自社の基準を満たす貿易・物流体制を
整備し、輸出入、物流センター、中国国内物流事
業を行うことを目的に、一〇〇%出資で物流子会
社の豊田工業商貿(中国)有限公司(TTLC)
を設立した。 TTLCはグループ外への外販も行
う一方、グループ向けとしてはこれまで中国で部
材を調達して日本に供給し、グループの生産・物
流のコストダウンを進めてきた。
そして現在、力を注いでいるのが国内物流だ。
各工場それぞれが手配していた調達・販売の一元
索尼物流貿易(上海)の中山
忠久董事総経理
家電量販店やIT モールが増えている
(写真は上海)
JANUARY 2008 16
管理に取り組み、輸出の帰り便での輸入貨物・国
内貨物の輸送、部品調達と販売物流の共同化な
どに取り組む。 生産、製品に対する知識を活かし、
生産状況と工場構内の状況をみながら、工場内部
を含めた物流の仕組み作りと合理化を進めている。
ただし、「コストが安いという視点だけでは、
方向を誤ることもある中国の環境では販売物流で
自社のブランドの商品を納期通り安全に届けるこ
とを、すべて物流業者に任せていたのでは難しい。
全体の仕組みを作り上げながら、工場と倉庫とい
う要所を押さえていく必要がある」とTTLCの
武藤裕幸董事総経理は話す。
例えばフォークリフトの販売には大きく分けて
三つのルートがある。 完成車については?スウェー
デンの工場からの輸入・販売、?日本からの輸入
・販売、?昆山で生産した製品の販売だ。 補修部
品はスウェーデンと日本から輸入している。 これ
を個別にそれぞれ物流業者に任せてしまうとルー
トが分散し管理が複雑になってしまう。 また外資
系物流業者に一括で委託しても、配送を行うのは
ローカルの協力企業で最終的に誰が運んでいるか
はわからない。 こうした中で工場側の入出荷と倉
庫の管理はあくまでも自社で行いコントロールを
利かせる。
輸入フォークリフトの例をみると、上海港で荷
揚げ後、保税区の倉庫に一旦保管し注文に応じて
全国二〇都市のディーラーに出荷。 即日〜四、五
日で納入する体制をとっている。 ポイントとなる
のは保税区倉庫。 入出庫、保管、メンテナンスのルー
ルに基づき、製品を熟知したTTLCが自社でオ
ペレーションを行っている。
バッテリー式フォークリフトは保管している間に
放電しバッテリーが消耗するため、適時充電作業
が必要になる。 それぞれの型に合わせた操作マニュ
アルや予備のバッテリー、付属品も正確に製品と
ともに出荷しなければならない。 入出庫時にダメー
ジがないか検査することも必要だ。 こうしたオペレー
ションには製品知識が必要になるため、物流業者
が行うのは容易ではない。 特に誤出荷はブランド
の信用にかかわるため、ミスは許されない。
入庫時と出庫時にしっかりした品質検査を行っ
ていれば、納品後にダメージが見つかっても、倉
庫から出荷されて以降、ということになるため、
原因の特定も容易になる。 物流をすべて自社で行
う必要はないが、「自社ブランドの信用を維持す
るために、品質はコントロールしなければならない」
(同)。 このため、上海市内に置く補修部品などの
倉庫でも、自社でオペレーションを行う体制をとっ
ている。
豊田自動織機はフォークリフトで世界一位の
シェアを持つが、中国でのシェアは他地域に比べ
低いのが現状。 安全性や環境への負荷、ランニン
グコストなどと価格のバランスではなく、価格の
みが重視されることが多いからだ。 しかし、市場
が成熟すれば本物志向が高まることが予想される。
武藤董事総経理は「将来に備え、物流面でもブ
ランドを傷つけぬよう高いサービスレベルを保ち、
自社製品のシェア拡大に貢献する」と語った。
JUKI
緻密な需要予測で在庫を適正化
中国では旧正月、国慶節などの大型連休に消費
が集中するため、生産・販売の季節変動が大きい。
工業用ミシンでは旧正月前に注文が集中する。
工業用ミシンでシェア世界一のJUKIでは、
中国統括会社の重機(中国)投資有限公司が輸
入ミシンと中国製ミシンの販売を行っている。 製
品の製造拠点を北京・天津近郊の廊坊と上海に置
き、年間三五万台を生産。 このうち、二〇万台
以上を中国国内で販売している。 米国などからの
輸入品の販売を合わせると中国での販売台数は二
五万台に達する。
高い品質を武器に、主に輸出用の縫製工場をター
ゲットにしており、輸入ミシン市場でのシェアは
四〇〜五〇%、工業用ミシン全体でのシェアは三
〇〜四〇%前後と推測される。 輸出用縫製工場
での需要はベトナムやインドが生産拠点として成
長していることもあり、将来的には頭打ちも予想
されるが、中期経営計画では年間六〜八%の販売
増が目標。 国内需要も含めて「中国市場は今後も
伸びていくとみている」と重機(中国)投資物流
部の井本浩部長は語る。
工業用ミシンの販売のピークが旧正月前にくる
ことには、連休中に設備を更新する工場が多いこ
とが背景にある。 JUKIは平均すると常時約
二カ月分の在庫を持っているが、夏頃から在庫を
積み増し、十二月には八カ月分にまで膨れあがる。
豊田工業商貿(中国)の武藤裕
幸董事総経理
17 JANUARY 2008
繁忙期だけでなく、在庫が少なくなる旧正月後の
販売機会の損失を抑えるため、徐々に在庫を適正
水準まで積み上げていくことが必要だ。
中国向けには部品や付帯設備を含めて三〇〇
種類を販売しており、このうち常時在庫を持つの
は一〇〇種類。 うち、製品は六〇〜七〇種類だ。
上海のほか全国一〇カ所の販売拠点から週次、月
次であがってくる機種ごとの販売見通しを集めて
需要を予測し、SCMシステムにより生産計画に
落とし込む。 情報は日本本社もリアルタイムで閲
覧できるため、日本本社が生産調整を行う。 すべ
ての機種で予測通りにいくわけではないが、需要
予測の精度は高く、全体の台数としては見込み通
りになっている。 ただし、生産に過渡の負担をか
けるわけにはいかない。 井本部長は「生産の平準
化と在庫の適正化のバランスが難しい」と話す。
在庫拠点は上海を中心に広州、武漢、廊坊、青島、
北京、煙台に置く。 上海と浙江省、江蘇省など華
東地域の販売は全中国の五割を占めることもあり、
定期的に販売が見込めるものは地方にも在庫を置
くが、それ以外はすべて上海に保管する。 各倉庫
では一定の在庫量を下回ると、その分を補充する
体制。 在庫管理の側面だけでみると、上海に在庫
拠点を集約することが望ましいが、納入先は一〇
〇〇弱に上る。
上海から離れた地域についてはデリバリーに時
間がかかってしまうため、在庫拠点を分散している。
例えば華南地区に上海から配送すると、受注から
納入までに大体五日かかってしまうが、「ディーラー
はそこまで待ってくれない。 主要都市に一〜二日
で納めるために、こうしたネットワークを作った」
と井本部長は語る。
倉庫と配送業務は物流業者にすべて委託してい
るが、「特に誤配送の防止と事故時の適切な処理、
下請け業者の管理の徹底を守ってもらっている」(井
本部長)。 上海の倉庫は富士物流がオペレーション
を行っているが、それ以外の地域では、もともと
香港で物流業務を委託していた大手物流業者、威
高物流集団を主に起用している。 「全車両にGP
Sを搭載するなど品質が高く、しかもコストは安
い」(同)という。 同社とは香港時代を含めると
三〇年以上にわたって関係を築き、パートナーシッ
プにより物流品質と精度を上げている。
今後の課題はアジア地域での輸入ミシンの在庫
統合。 アジア地域全体で輸入ミシンの在庫を一カ
所に集約し、在庫の最適化を図るため、検討を進
める考えだ。
ペンタックス
販社を設立し市場に密着
現在、内販を本格化しつつあるのが、ペンタッ
クス。 〇七年、上海に全額出資の販売会社、賓得
商貿(上海)有限公司を設立した。 デジタルカメ
ラと内視鏡の輸入・販売の拡大、アフターサービ
スの提供を目指す。 中国にはデジカメのレンズの
モジュール以外に生産拠点は置かず、製品は香港
を経由しフィリピンから、内視鏡は日本から輸入
している。
デジカメの輸入・販売は〇七年九月に開始した。
内視鏡は〇八年に始められる見通しだ。 これまで
同様、販売には代理店も活用するが、中国に販社
を設立することで市場ニーズをくみ上げる。
中国以外の地域では〇三年頃からデジカメへの
需要が伸び、〇五年〜〇六年頃に一服、販売の伸
びは鈍化している。 これに対し、中国では今後も
地方都市を含めて富裕層の拡大が見込まれること
から「まだまだ伸びる余地がある」(賓得商貿〈上海〉
の柴田智賀総経理)。 ペンタックスの最大市場は
米国、次いで日本、中国の順になっているが、中
国は日本と拮抗する勢いをみせているという。
現在、上海に航空輸入したデジカメは代理店が
引き取り、そこから小売店に配送される。 しかし、
今後は物流品質の管理強化とサービスレベルの向
上のため、「小売店への直送や上海での倉庫整備
を検討する必要がある」(柴田氏)という。 すると、
例えば販売を拡大するために販促品を製品に付け
て配送することも容易になる。
内視鏡もデジカメ同様、日本から上海まで航空
輸送し代理店に引き渡している。 ただし、内視鏡
の販売先は内陸の地方都市も多く、代理店は瀋陽、
北京、重慶などに拠点を持つ。 精密機器の上に補
修部品なども供給する必要があるため、デジカメ
以上に高い物流品質が要求される。 代理店の各拠
点への配送の自社管理も検討し、内視鏡について
も販売状況と物流コスト、安全性のバランスをみ
ながら「製品と同様にサービスの品質を上げてい
きたい」(同)考えだ。 (梶原幸絵)
特集
賓得商貿(上海)の柴田智賀
総経理
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