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FEBRUARY 2008 50
物流拠点
日産自動車
世界最大級の部品物流センターで進む
在庫削減とサプライチェーン改革
工場より広い物流センター
日産自動車の「相模原部品物流センター」
は、単一企業の施設としてはおそらく日本で
最大の物流センターだ。 広大な敷地に低層の
巨大建造物が九棟も群居する眺めは、まるで
工場のように見える。 実際、敷地面積は四二
万平方メートルもあり、日産がエンジンを生
産している「いわき工場」より広い。
日産のアフターセールス部品専用拠点とし
て、国内外のサプライヤーの部品を同センター
で集約管理している。 ここを経由する部品の
総売上高は年間二四〇〇億円余り。 部品事業
全体の約八割を処理している。
敷地内に九棟ある倉庫は、部品の大きさや
製品群、あるいは仕向地などによって役割を
分担している。 例えば一号棟(建屋約六・五
万平米)では、動きの早いワイパーなどの中
小物部品の保管と出荷を手掛けている。 同棟
の一部は、南関東・静岡エリアの部品販売会
社の物流拠点としても機能している。
また、二号棟(同六・三万平米)では、パ
ネル部品やガラスなどの大物部品を自動倉庫
と平屋の作業場を併用して処理している。 ほ
かに長尺品を専門で扱う五号棟や、エンジンや
ミッションなどの重量物を自動倉庫で保管す
る六号棟、動きの遅い部品を集約した七、八
号棟などからなる。
物量は膨大だ。 一日に平均四万一〇〇〇件
の入荷があり、納品のためにセンターを訪れ
るトラックは一日当たり三三六台に上る。 出
荷件数は、国内向けと海外向けを合わせると
一〇万六〇〇〇件。 その物量は、国内向けが
一〇トン車換算で一四〇台分、海外向けには
四〇フィート型海上コンテナ換算で五〇本分
にもなる(いずれも〇六年度実績)。
国内ではグループの部品販売会社三一社に
出荷しており、その先に販売会社(ディーラ
ー)や、一般の整備工場が連なっている。 海
外向けについても、国内サプライヤーの部品
を扱う輸出基地としてはもとより、欧米の現
地サプライヤーの部品を域外に出荷する際の
中継基地としても機能している(図1)。
一般に補修部品やオプショナルパーツなど
のアフターセールス部品の物流は、コスト管理
が甘くなりがちだ。 製品と違って競争原理が
働きにくい反面、補修部品の供給リードタイ
ムが長いと販売会社やエンドユーザーの満足
度を損ねてしまうことから、在庫を抱えてサ
ービスレベルを高めようとする傾向が強い。 過
日産自動車の「相模原部品物流センター」はアフ
ターサービス部品の中核拠点だ。 42万平方メートル
という広大な敷地を使って年間2400億円に上る
部品販売の物流を支えている。 1980年代のピーク
時には約300億円にまで膨らんだ同拠点の在庫量は、
保管アイテムの絞込みなどによって半減した。 最近
は販売会社まで含むサプライチェーン上の在庫削減
に取り組んでいる。
「相模原部品物流センター」(SPC)の概要
所在地………………… 神奈川県相模原市
敷地面積………………… 425,000m2
建屋面積(9棟合計)…………253,100m2
管理アイテム数…………………… 33万点
入荷件数………………… 41,000件/日
出荷件数……………… 106,000件/日
SPC売上高… …… 2,422億円(06年度)
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去の日産もそうだった。
補修部品には、旧モデルの部品も扱わざる
をえないという厄介な特性がある。 新型車を
投入するたびに管理アイテムが増え、用品の
品揃えも多様化しつづける。 このため相模原
センターが稼働した三六年前に二六万点だっ
た管理アイテム数は、いまや二二〇万点にま
で膨れ上がっている。 センターで在庫してい
る部品はその一部でしかないが、放っておけ
ばこれも増えつづける一方だ。
「サービス部品のアイテム数というのは、基
本的な管理の考え方を変えないかぎり減るこ
とはない」とSCM本部サービス部品物流部
の中村昌弘課長はいう。 顧客満足を満たしな
がら、アイテム数の増加に伴うコストアップを
いかに抑制するかがアフターセールス部品の物
流では問われるのである。
注文の在庫引当率は九八・五%
日産は一九七二年に相模原センターを稼働
させ、国内の競合他社に先駆けて一極集中型
の部品販売網を構築した。 その後、九九年に
横浜・本牧に輸出拠点を構えて、海外向けの
物流業務を一部移管した。 しかし現在でも相
模原センターがグローバルネットワークの中核
であることに変わりはない。
この体制の是非については、社内で常に議
論の対象となってきた。 もともと日産の工場
は関東近郊に集中していたのだが、七五年に
「九州工場」が稼働して以降、九州エリアの
部品サプライヤーとの取引が増加。 補修部品
を九州から相模原に運び、これを再び西日本
に供給する流れができてしまった。
「社内には『九州工場から直接出荷すれば
いいじゃないか』と言う人がたくさんいる。
だが補修部品の物流の仕組みは、在庫を前提
に考える必要がある。 注文を処理する施設や、
問い合わせに対応する機能、そのためのシス
テムなど多くのインフラが欠かせない。 拠点
を分散させて物流の“線”を細くするよりも、
わざわざ運んででも集中管理するほうがコス
トは安い。 われわれの中では、そういう結論
になっている」と中村課長は説明する。
国内市場については、確かに一極集中で対
応することが可能だ。 日産の部品販売網では、
突発的な注文に対応するため階層ごとに在庫
するアイテム数に差をつけている。 中核とな
る相模原センターでは三三万種、全国の部品
販売会社の拠点では一・五万〜七万種(部販
の小規模拠点で〇・四万〜一・二万種)、完
成車の販売会社の拠点では一五〇〜二〇〇種
を在庫するようにしている。
相模原センターからの出荷パターンは二通
りある。 エンドユーザーの実需が発生したのに
部品販売会社に在庫がない「緊急注文部品」
と、部品販売会社などが手持ち在庫を補充す
る「在庫補充部品」だ。 これらの納品リード
タイムに差をつけることで、顧客満足度を維
持しながら作業負荷を低減している。
「緊急」については基本的に受注した翌日
に届けている。 一カ月間で三五〇万件ほどあ
図1 日産のサービス部品のサプライチェーン物流
国内エンドユーザー
米国内販会社
メキシコ日産
米国工場
米国内配給会社(カナダ)
米国日産(全米9デポ)
北米エンドユーザー
整備工場
欧州内販会社
スペイン工場
欧州日産(全欧3デポ)
欧州エンドユーザー
整備工場
英国工場
欧州内配給会社(31社)
GOM地域内販売会社(135社)
GOM地域エンドユーザー
販売会社
KD工場・生産工場・部品メーカー
整備工場部品商
販売会社
(全国161社/
2655拠点)
一般整備工場 他
(全国約67,000軒)
契約部品商
(全国
約1,600店)
納整センター
(88カ所)
部品販売会社
(全国31 / 252拠点)
国内市場
北米市場欧州市場
GOM市場
日産相模原
部品物流センター
(SPC)
部品メーカー
内製工場
※GOM=General Overseas Markets
シート・
カーペット等
一部返送あり
SCM本部サービス部品物流
部の中村昌弘課長
FEBRUARY 2008 52
る注文のうち九八・五%は、相模原センター
もしくは部品販売網に在庫があり、即日もし
くは翌日の一四時までに発注者に製品を着荷
させる。 センターで一六時までに注文を受け
ると、その日のうちにピッキングと出荷作業
を行い、翌朝には部品販売会社に到着。 同日
一四時までに販社に着くという流れだ。
「在庫補充」のリードタイムは緊急品よりも
一日長く設定している。 一九時三〇分までの
受注分を、翌々日の午前中までに部品販売会
社に届ける。 そして日産の部品販売網に在庫
がなかった残りの一・五%については、新た
にサプライヤーから調達するため、その分の
リードタイムがかかることになる。
現状の九八・五%という在庫引当率は、業
界の平均水準を上回るレベルだ。 この数値を
さらに改善しようとしたら、在庫アイテム数
の引き上げなどによるコストアップを覚悟し
なければならない。 現状は収益性などとの見
合いで落ち着いた結果とみるべきだろう。
一極集中から世界六極管理へ
海外向けのフローは、もう少し複雑だ。 グ
ローバル化が進展した近年では、相模原セン
ターだけで集中管理する体制はもはや現実的
ではなくなっている。
自動車メーカー各社は、生産の海外移転に
伴って、部品調達の現地化も進めてきた。 国
内であればリードタイムより物流コストを問題
にできるが、日本から出荷すると数十日かか
唯一、空白地帯として残りそうなのは中近東
と北部アフリカの一帯だけだ。 ここについて
はアラブ首長国連邦のドバイに拠点を置くこ
となどを検討したが、まだ実現していない。
販社まで含むトータル在庫にメス
事業展開の変化に対応する一方で、相模原
センターでは在庫削減と作業の効率化に取り
組んできた。 八〇年代のピーク時に三〇〇億
円分あった在庫は、現状では一五〇億円弱ま
で減った。 一時は約一〇〇億円に落としたが、
直送用品などを新たに在庫化したことから現
在の水準になっている。
ってしまう海外はそうはいかない。 現地生産
の車種を対象に、在庫型の部品センターを現
地に構えることは自然の成り行きだった。
実際、日産が八〇年代に製造拠点を立ち上
げた米国と欧州では、既にかなりの規模の部
品センターを構えている。 米国ではスマーナ
工場(テネシー州)の一角に中核センターを
置いて、これを含む九デポで全米をカバーし
ている。 欧州についてはアムステルダムにあ
る中核センターなど三デポで、EU全域とロ
シアをまかなっている。
これらアフターセールス部品のグローバル
物流の整備に、五年ほど前から本腰を入れた。
世界を六極にわけて各エリアにハブ拠点(相
模原、米国テネシー州、オランダ、中国、タ
イ、メキシコ、南アフリカ)を設置。 日本か
ら供給する部品と現地調達部品の両方をここ
で管理して、域内で競争力のある部品サプラ
イチェーンを形成しようという構想だ。
ただし、各地のハブ拠点で在庫しているア
イテム数は、米国で約八万、欧州で一四万弱
と、相模原センターに比べると格段に少ない。
この数は現地生産している車種や販売車種・
台数、部品の現地調達比率などによっても変
わってくるのだが、小規模なハブ拠点の場合、
日本から出荷するほうが有利なケースがある。
実際、まだ物量の少ないタイでは、近隣諸国
へは日本から直接出荷している。
このグローバル物流ネットワークが構想通
りに完成すれば、ほぼ世界中をカバーできる。
中小物部品を扱う1号棟での作業
平屋で6.5万m2ある施設内
国内向け中小物ピッキング
セット済みで納品される部品
自動搬送台車で格納エリアへ
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在庫を半減できた最大の理由は、九〇年代
初頭に管理の考え方を根底から改めたからだ。
「それまでは基本的に何でも持つという考え
方だった。 これを、新たに定めた基準に従っ
て、必要なもの以外は持たないようにした」
(中村課長)。 結果として、九〇年頃のピーク
時に約四六万あった在庫アイテム数は、現状
では三三万まで減った。 一時期、周辺で借り
ていた倉庫も不要になり、逆にスペースを貸
せるぐらいの状況になっている。
部品サプライヤーとの協業も強化してきた。
多頻度小口化の進展に対応するため、納品の
ジャスト・イン・タイム化を進め、注文の在
庫引当率を悪化させることなく在庫を減らし
てきた。 バーコード添付などの作業について
も、事前にサプライヤーが処理するという役
割分担を九〇年代前半に徹底した。
二〇〇〇年以降は、こうした協業体制にさ
らに磨きをかけた。 たとえば国内向けに中小
物を扱っている一号棟では、入荷した部品を
自動搬送台車で当該エリアに運んで棚入れし、
これを必要に応じてピッキング台車で摘み取
っている。 その際の構内作業を効率化するた
め、入荷段階でサプライヤーに処理してもら
う仕事をさらに増やした。
「センター内で使っている専用台車を部品メ
ーカーさんに貸し出し、ある程度の仕分けま
でやってもらっている。 台車のどの棚に、ど
の部品を入れるといったところまで決めてあ
り、現場ではこれをそのまま自動搬送台車に
連結して移動させればすぐに棚入れできる」
とサービス部品物流部調達管理グループの近
藤章太郎主担は説明する。
いま直面している主な課題は、相模原セン
ターから先のディーラーに至るまでのトータル
在庫の削減だ。 日産は最近、全社をあげて在
庫削減活動に取り組んでいる。 その一環とし
て部品事業部としても、大手経営コンサルテ
ィング会社の支援を受けながら抜本的な改革
を実施しようとした。
しかしその後、改革の対象領域は縮小さ
れ、まず〇六年は部品販売会社の「発注在庫
管理」を中心に見直した。 以前のやり方では、
各部品販売会社に所属する二、三人の担当者
が相模原センターへの発注と在庫管理を手掛
けていた。 ところがこの方法では、思惑など
によって管理にバラツキが生じ、不良在庫の
廃棄処分などにつながっていた。
そこで新たな方法として、過去の実績から
需要が予測できる部品についてはすべて相模
原センターで管理するように変えた。 こうす
ることで管理責任の所在を明確化し、部品販
売会社にとっての在庫削減とコスト削減を実
現しようという狙いだ。 すでに〇七年初頭か
ら新システムが稼働しており、まだ試行錯誤
をつづけている部分はあるものの相模原セン
ターで集中管理できる体制になった。
次の活動のスコープとして、販売会社まで
含めてどうするかという検討をすでに始めて
いる。 「これは相当、長いレンジの話になると
思う」(中村課長)という言葉通り、簡単に
成果の出る取り組みではない。 しかし、相模
原センターのインフラを有効活用するために
も、サプライチェーン改革は避けられない課
題だ。 (フリージャーナリスト・岡山宏之)
SCM本部サービス部品物流
部の近藤章太郎主担
図2 相模原部品センターで保有している在庫の推移
※在庫月数(売価ベース)は年平均
年度別在庫金額・月数推移
90 91
2.22
1.15
92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
250
200
150
100
50
0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
(億円) (カ月)
00 年
直送用品を
SPC 在庫化
93年
直送用品の一部を
SPC在庫化
在庫金額
在庫月数
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