ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年2号
ケース
事業統合日本ミルクコミュニティ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2008  54 事業統合 日本ミルクコミュニティ 物流管理組織を強化して統合推進 全国の需給調整機能を一カ所に集約 準備不足で現場は混乱  日本ミルクコミュニティは、二〇〇〇年に発 生した雪印集団食中毒事件をきっかけに、生 産者団体を母体とする全農系の全国農協直販 と全酪連系のジャパンミルクネット、および雪 印乳業の市乳事業部門が統合して〇三年一月 に発足した。
工場の統廃合や販売・物流体制 の効率化により市乳事業を再構築することが 統合の目的だった。
 統合前の旧三社は、市乳事業分野で牛乳を はじめ乳飲料・果汁・デザート・生クリーム・ 清涼飲料などの商品群をそれぞれ抱えていた。
重複する商品も多く、小売りチェーン向けP B商品なども入れると三社の商品は合わせて 五〇〇〇アイテムもあった。
また物流拠点の 数も三社で五〇カ所におよんでいた。
 会社設立の半年前に発足した準備委員会 が、統合に向けてアイテム数の絞り込みと物 流拠点の統廃合に取り組み、スタート時まで にアイテム数を一九〇〇に、物流拠点を三九 カ所に集約した。
しかし準備期間が短かった ため新会社は十分な体制のもとでスタートを 切ることができず、物流面では当初、統合の マイナス面が露呈していた。
 物流現場には、拠点の統廃合によってそれ まで扱っていなかった製品が集まり、アイテ ム数が一気に増えた。
しかも、出荷システム の一本化を待たず、旧三社のシステムをその まま運用する形でのスタートとなった。
現場 の出荷指示が別々のシステムから出ることで、 作業は混乱し、生産性は統合前よりも著しく 低下してしまった。
 システムの統合が遅れたのは、販売チャネ ルが、GMS(量販店)やCVS(コンビニ)、 宅配用牛乳の販売店、学校給食、業務用卸な ど多岐にわたるうえ、大口顧客であるGMS やCVSとの取引形態に旧三社で違いがあっ たことも一因だった。
三社のうち雪印乳業は GMSやCVSと卸経由で取引を行っていた のに対し、ほかの二社は直接取引だった。
 スタート時点では取引先の口座が統合され ておらず、取引先のなかには一社で口座の数 が三つあるケースもあった。
このため同じ取 引先からの注文でありながら、商品によって 受注・出荷を別々に処理し、一カ所の納品セ ンターへ別々の車両で配送するといった非効 率な現象も起きていた。
 こうした事態に対し、発足後の新会社はた だちに口座の統合に着手するとともに、アイ テムの絞り込みや工場・物流拠点の統廃合を 柱とする構造改革プランを策定、〇五年度の 黒字化をめざして収益改善に取り組んだ。
 〇四年度までに子会社の生産拠点を含む三 工場を相次ぎ閉鎖し、物流拠点も五カ所を撤 収、アイテム数を八五〇まで整理した。
この 結果、構造改革プランの目標を一年前倒しし て〇四年度の決算で単年度黒字を達成、収益 面では一定の成果を上げることができた。
た だし、この時点では市乳事業統合の主要なテ 日本ミルクコミュニティは乳製品メーカー3社の事 業統合による2003年の会社設立以来、需給管理の 一元化や物流システムの一本化を進め、拠点数や配 送コースの大幅な集約を目指してきた。
既に日配品 の物流効率化にはメドがたち、現在は在庫型のロン グライフ商品の一元管理に取り組んでいる。
55  FEBRUARY 2008 ーマの一つである物流効率化については、出 荷拠点や配送コースの集約などがようやく緒 に付いたばかりだった。
物流管理組織の強化から着手  同社はここから本格的な物流改革に乗り出 す。
当時、同社の物流は営業統括部のロジス ティクスグループが担当していた(〇六年三 月にロジスティクス部に改組)。
同グループで は独自にプロジェクトチームを設け、〇四年秋 から半年かけて物流効率化のための改革案を 立案、〇七年度を最終年度とする三カ年計画 にまとめ、〇五年春から実行に移していった。
 真っ先に手がけたのは物流管理組織の強化 だった。
同社は設立当初から地域事業部制を とっている。
全国を北 海道・東北・関東・中 部・関西・九州の六つ の地域に分けて地域ご とに事業部を置いてい る。
六事業部にはそれ ぞれ「ロジスティクスセ ンター」(以下、ロジセ ンター)と呼ぶ組織を置 き、取引先からの受注、 工場への発注(生産依 頼)、出荷デポの在庫管 理、出荷指示など物流 関連の管理を担当させ てきた。
 当時のロジセンターは、本社ロジスティクス グループの管轄下にはありながら、事実上は 各事業部の指示のもとで単に受注などの業務 を処理するだけの部署に過ぎなかった。
ロジ スティクスグループでは、物流効率化を進め るには営業部門の協力を得て配送コースの見 直しなどを断行していくことが重要と考えて いた。
そのためには、地域の物流管理組織で あるロジセンターがもっと権限を持って、事 業部のなかで積極的な提案を行うことのでき る存在となる必要があった。
 そこで〇五年四月、新たにロジスティクス センター長の職制を設けた。
センター長には工 場長や支店長と同じ権限が与えられ、生産・ 営業部門と同等の立場で事業部の経営に携わ ることが使命とされた。
同時にロジセンター の陣容も強化した。
受注や在庫管理、出荷指 示などの従来からの業務を担当する物流課の ほかに、新たに配送コースの見直しなどの効 率化提案を行うことを主たる業務とする企画 課を設けた。
 こうして地方組織のてこ入れを図った上で、 次に本社ロジスティクスグループと地域ロジセ ンターとの役割分担の見直しに着手した。
 各事業部のロジセンターが地域ごとに物流 を管理するという発足当初からの体制は、統 合前に雪印乳業が構築しようとしていたもの だった。
旧雪印乳業の市乳部門では各工場の 物流課が物流管理を担当していた。
牛乳のよ うな日配品はもともと地域内需給型商品で、 雪印乳業は全国に工場を配置して工場単位で 需給管理を行う体制をとっていた。
 受注窓口も各地の工場だった。
各工場では 注文を受けた商品のうち、他工場で生産して いる商品を転送によって品揃えしなければな らない。
自分の工場でつくっている商品でも 需要予測の誤差によって過不足が生じるため、 やはり工場間の転送によって需給を調整する 必要があった。
こうした調整を各工場が個別 に行うのではなく、ブロック単位で集約する というのが雪印乳業の構想だった。
それを新 会社が引き継いだ。
 もっとも、ブロック単位で需給がすべて完 結する商品ばかりではない。
一工場で集中生 産して全国に供給している商品もある。
急な 需要の変動から生じる過不足をブロック間の 転送によって補わなければならないこともし ばしばだ。
こうした需給調整のための転送業 務を、統合後の新会社では各地域のロジセン ターが日常業務として担当していた。
 例えば関東地区の工場では、集中生産して いる品目や他地域の工場で生産数量が足りな くなった品目について、関東事業部だけでな く、ほかの五事業部の需要分もまとめて生産 している。
これを従来の体制では、関東のロ ジセンターが各事業部の発注数量をもとに工 場ごとの転送・配車計画を作成していた。
そ の業務負荷は大きく、しかもロジセンターご とに業務の重複が生じており非効率だった。
 そこで〇五年六月に本社のロジスティクス 年度別お取引先配送コース推移 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 1,767 コース 1,520 コース 1,397 コース 1,385 コース 年度別拠点推移 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 39 カ所 34 カ所 33 カ所 32 カ所 FEBRUARY 2008  56 グループに「配車センター」を新設し、需給 調整にかかわる業務を一カ所に集約した。
各 ロジセンターはその地域で必要とされる品目 の発注データ(生産計画)だけを作成すれば いい。
このデータを配車センターが集約して、 各地の工場別に生産依頼を行うと同時に、工 場など「出荷デポ」間の転送・配車計画を作 成する。
すると入庫情報で在庫の更新が行われる。
顧客別の物流コストが一目で  情報を一元的に管理できるようになったこ とを受けて、次に情報の有効活用をめざした。
同社は出荷デポの荷役・配送業務をすべて外 部へ委託している。
荷役料や運賃の単価は契 約内容によって異なり、デポ、転送区間、配 送コースごとに決められている。
この運賃・ 料金情報を登録しておき、毎日の転送データ や出荷データからデポでの荷役料や転送・配 送にかかる運賃を自動的に割り出すシステム をつくった。
 このシステムで算出した毎日の運賃・料金 データを、まず業務委託先の協力物流会社に 提供し、同社への請求データとして利用して もらうことにした。
これによって双方の請求・ 支払い業務を簡素化することができた。
 さらに事業の収支管理にもデータを活用す ることにした。
システムで算出する運賃・料 金データから顧客別の物流コストを割り出し て、営業部門などに提供できるようにした。
このシステムは、従来から物流効率化策とし て重点的に取り組んでいた配送コースの見直 しにとりわけ効力を発揮した。
 同社では旧全農直販から引き継いだシステ ムによって毎日、配送コースごとの積載率を とっている。
ロジセンター企画課のスタッフが そのなかから平均積載率の低いコースを抽出 し、配車計画の見直しを行ってきた。
ただし  同社の商品には、牛乳のように賞味期限が 短く、在庫を持たないものと、果汁や清涼飲 料のような在庫型商品とがある。
前者は工場 が出荷拠点となり、後者は主に出先のデポに 在庫を持って出荷する。
同社では工場のデポ も出先のデポもともに「出荷デポ」と呼び、各 地域のロジセンターが出荷デポの在庫管理を 担当している。
配車センターはこれらの出荷 デポ間の転送・配車計画を作成 し、各デポから顧客への配送計 画は従来通りロジセンターが担 当することにした。
 この役割分担のもとで情報の 流れが一元化され、同社の物流 システムの大枠が完成した。
その 情報フローは次の通りだ。
まず 各地のロジセンターが顧客から の受注情報を処理して各出荷デ ポの在庫引き落としを行い、デ ポへ出荷指示を出す。
その日の 出荷が終わると、需要予測値と デポの在庫情報をもとに翌日の 発注データを作成し、配車セン ターへ送る。
 配車センターでは各ロジセン ターからの発注データをもとに 全国の出荷デポ間の転送・配車 計画を作成。
この転送情報を転 送先のデポでは入庫情報として 利用する。
計画通り商品が入庫 販売店 (簡易端末) FAX/TEL 受注 物流システム概念図 出荷デポ (在庫修正データ入力) 出荷伝票 生産工場・デポ (在庫修正データ入力) 出荷伝票 転送 EOS受注 量販店/CVS 量販店/CVS 量販店/CVS 納品 出荷 納品 納品 生産計画・在庫管理 ロジセンター 生産発注 転送・配車計画 LL商品管理 チーム メグミルク物流システム 出荷指示 転送・配車計画 生産発注 全国生産分転送・配車計画 自動発注処理 販売店 (インターネット) 運賃請求書 自動計算 料金データ 提供 庫内作業費 請求書 容器受払 管理表 売上・転送 仕入・他勘定 在庫データ 自動計算 配車 センター ホストコンピュータ 売上計上・製品受払 運賃等会計計上 運送会社 庫内作業業者 出荷データ連結 出荷履歴システム 納品 納品 57  FEBRUARY 2008 コースの見直しには顧客の了解が必要だ。
配 送時間帯の変更などでサービスレベルが低下 するケースもあり、営業担当者の協力を得る のは難しかった。
新システムで顧客別の物流 コストを把握できるようになったことで、営 業からの協力を得やすくなった。
 同社は〇七年一月に富士通などと共同で営 業、生産、物流、財務システムなどの基幹系 システムと、予算編成システムなどの管理系シ ステムからなる経営統合システム「MEGM IS」を稼働させている。
これによって、そ れまで月次で行っていた事業活動の収支管理 を、リアルタイムに近い形でできるようにな った。
それとともに、物流システムから「M EGMIS」へデータを提供するかたちで物 流費を管理する機能が新たに加わった。
収益 への貢献度を物流コスト削減という側面から も評価できるようになった。
 「これをみれば営業担当者には顧客ごとに どれだけ物流コストがかかっているかひと目 でわかる。
利益をあげるためにどうやって物 流コストを下げればいいのかを自然と物流部 門に相談に来るようになる。
そこからわれわ れの効率化提案を受け入れようという素地も うまれる」とロジスティクス部の田辺良一部 長は期待する。
在庫も転送費も廃棄ロスも減る  〇七年度は物流効率化三カ年計画の最終年 度にあたる。
その仕上げとして、もう一つの 課題であるLL(ロングライフ)商品の物流 再構築に取り組んでいる。
LL商品はほかの 市乳製品とはやや性格が異なり、賞味期限が 六〇〜一二〇日と比較的長く、常温でも流通 できるという特徴がある。
同社はこのLL商 品についてもこれまで、ほかの製品と同じ物 流管理体制をとっていた。
 だがLL商品はほかの製品よりも在庫過多 となる傾向があった。
LL商品は一工場で集 中生産し全国へ供給している。
生産は週に 一度、しかも出荷前の検査に一週間を要する。
需要予測から生産、出荷までの期間が長いた め、予測の精度を上げるのが難しく、どうし ても計画数量が実需より大きくなりがちだ。
 こうした商品を、計画のサイクルが短いほ かの製品と同じように分散管理するのは、在 庫過多を防ぐうえで適切ではないと判断した。
LL商品については、これまで全商品を対象 に進めてきた転送計画の集約だけでなく、需 要予測、生産計画の作成、在庫管理まですべ て一カ所に集約することにした。
 〇六年一〇月に本社ロジスティクス部にL L商品管理チームを設け、ロジセンターから 同チームへ、業務の移管を開始した。
これま でに関東・東北・北海道の各地域がLL商品 管理チームによる集中管理体制に切り替わっ た。
残る西日本の三地域も〇八年三月までに 新体制へ移行する予定だ。
これによって、従 来のようにロジセンターが地域ごとに需要を 予測して必要数量の生産要求を行うのではな く、LL商品管理チームが全国のデポの在庫 を管理しながら生産数量を決めるかたちに変 わる。
 この集中管理体制への移行に合わせて、デ ポへ商品を供給する方法も変更する。
これま でのように工場から出荷デポへそれぞれ供給 するのではなく、全国に数カ所の親デポを設 けて親デポから各地のデポへ必要な数量だけ 補充する。
これまでは全国のデポに余分な在 庫を抱え、その挙句、売れ残った商品は廃棄 処分しなければならなかった。
「補充方式な ら無駄な在庫や転送にかかるコストを減らす ことができ、商品廃棄ロスの削減にもつなが る」と田辺部長はメリットを強調する。
 事業統合から五年が経ち、これまでにスタ ート時には三九カ所あった出荷デポを三二カ所 へ集約、取引先への配送コースを〇三年度の 一七六七コースから一三八五コースへ集約し た(〇六年度実績)。
この数値の推移に、市 乳事業の構造改革に欠かすことのできなかっ た物流再構築の足跡が刻まれている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) ロジスティクス部の田辺良一 部長

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