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安田倉庫
──業界トップクラスの利益率を堅持
東京・横浜に豊富なアセット
──利益率が高い理由は。
「これまで当社は首都圏に集中して倉庫拠点を展
開してきました。 東京港、横浜港周辺に有力なア
セットを持ち、時代の変化に応じて首都圏周辺の交
通の要衝に衛星状に新たな倉庫を建設してきました。
モノの流れが集積する地域、しかも港に近いところ
に倉庫群を持っていることで、立地における効率性
があります」
「取扱品目にも特徴があります。 他の倉庫会社に
比べて精密機械部品・製品の比率が高い。 医薬品や
陶器メーカーなど、外資系の荷主も多い。 取り扱い
が難しくアイテム数の多い貨物を主に取り扱ってい
ます。 つまり港湾周辺の倉庫群と、きめ細やかな在
庫管理などの物流管理が当社の強みになっている」
──他の倉庫会社のように物流事業ではなく不動
産事業が利益を下支えしている、ということでは
ないのですね。
「当社は物流事業が売り上げの八割を占める?倉
庫本流?です。 不動産事業の比率は二割に過ぎず、
その不動産にしても、新規に投資して開発すると
いうことはしていません。 以前から所有していた
土地を周辺環境の変化に応じて開発しているだけ
です。 そのために採算性がよく、稼働率も一〇〇%
に近い」
「堅実で安定感のある企業風土を伝統のもとに培
ってきました。 それだけに内向きの会社という批判
を受けることもありますが、顧客からの信頼が得ら
れているのだと思います。 この財産、DNAはこれ
からも大事にしていきたい。 ただし、変化に対応す
ることも必要です。 そこで二〇〇四〜〇六年度まで
の前中期経営計画と、〇七〜〇九年度の現中期経
営計画では、これまでのビジネスモデルを変えてい
くことを目指しています」
──確かにこのところはM&Aやアライアンスへ
の取り組みを積極的に進めていますね。 〇五年に
は中央倉庫と業務提携し、〇六年には子会社の安
田運輸が第一製薬子会社、第一物流の一部事業を
譲り受けました。 今年一月には日本IBMロジス
ティクス(現・日本ビジネスロジスティクス、J
BL)の完全子会社化を実施している。
「M&Aは規模の拡大だけではなく、当社のニー
ズに応じた形で取捨選択しながら今後も取り組んで
いきます。 例えば〇三年には芙蓉エアカーゴを子会
社化し、航空貨物取扱事業に参入しました。 〇六年
に第一製薬の子会社、第一物流の医薬品配送を譲り
受けたのは、医薬品の共同配送拡大の一環です。 今
後もJBLのような形で買収案件が出てくる可能性
もあります」
「中央倉庫とは定期的に意見交換会を開いており、
業務提携の効果も上がっています。 上海では合弁
で保税区外にフォワーディング会社を設立しました。
災害発生時の事業継続相互協力協定も締結していま
す。 また、当社の北大阪営業所では、倉庫作業を中
央倉庫に委託しています。 当社は関西には倉庫がほ
とんどないので、中央倉庫の倉庫を借り受け、文書
保管も行っています。 引っ越し事業でも協力するなど、
相互補完の関係を構築しました」
──設備投資にも積極的です。
「物流事業では昨年、埼玉県加須市と大阪市住之
江区で倉庫を取得し、今年十一月には横浜で建設し
ている最新鋭の新山下倉庫が竣工する予定です。 一
五億円を投じた新システム『YOURS ?』も安定
FEBRUARY 2008 20
営業利益率10%以上を堅持している。 1919年創業とい
う長い歴史を通して培った事業構造と浮利を追わない堅
実さで安定経営に努めてきた。 しかし、ここ数年は物流
子会社の買収や同業者との提携など、環境の変化に対応
する動きを見せている。 (聞き手・梶原幸絵)
安田倉庫 田中稔 社長
注目企業トップが語る強さの秘訣総合13位
稼働に入りました。 中期経営計画の滑り出しは順調
です」
──加須や大阪、新山下の新倉庫の荷主は決まっ
ていますか。
「一部これまでの業務の再配置も行いますが、基
本的には先行投資です。 増床余地のあった倉庫に
ついてはほぼすべて増床しきってしまいました。 大
阪で新たな拠点を確保したかったということもあり、
関東内陸部と大阪での倉庫買収を決めました。 仕事
が決まってからいい物件を見つけるのは難しい。 提
案力を強化し、新しいニーズを取り込み、新倉庫の
フル稼働を目指します」
「もっとも自社倉庫の整備は現計画の三カ年で一
段落します。 次のステップとしてはアライアンスを
進めていきたい。 首都圏で倉庫が必要になったとき
には、他社の倉庫を借り、当社が管理して業務を行
うといったかたちです」
バランスのとれた収益構造
──業績についてはどのように自己評価していま
すか。
「前中期経営計画での目標数値に対して〇六年度
の実績は、売上高こそ若干届きませんでしたが、経
常利益や営業利益率では目標を達成しました。 物流
施設の拡充や一部上場などの施策もやり遂げており、
ひとまず成功といえます」
「もっとも過去数年間の業績好調の要因には、世
間の好景気の影響で荷動きがよかったということも
あります。 荷主の在庫圧縮の動きは続いていますが、
入庫高、回転率、出庫高、貨物輸送トン数は悪くな
かった。 しかし、現在は景気の先行きに不安感があ
ります。 景気の後退に伴いモノの回転が悪くなれば、
入庫高が落ちてくる可能性がある。 すると、流通加
工などの作業量も落ちることになる」
「しかし、その点でも当社の事業モデルは非常にバ
ランスがいい。 〇六年度の連結売上高の二九六億円
のうち、保管料は一八%、倉庫作業料は一五%、陸
運料は二五%、国際貨物取扱料は一八%、物流賃
貸料は五%、不動産賃貸料は一五%です。 国際貨
物は弱いという指摘を受けていますが、それでも二
割弱の水準です。 それぞれの業務で、まんべんなく
ある程度のものを蓄えてきました」
「このうち一つの収入が落ち込んでも、ほかの部
分である程度カバーできます。 景気が悪くなったと
きには、バランスのよい事業構造が強みを発揮して
くれる。 これは一つだけが突出していてはできない
ことで、当社の特色の一つです」
──しかし、そうしたバランスの良さは会社とし
ての特徴を出しにくい、競争優位点が分かりにく
いということにもつながります。
「確かに従来は小粒でもキラリと光る会社として市
場で評価されてきましたが、今後は存在感を高める
ためにも、売り上げを伸ばしてもう少し規模を拡大
したい。 とくに国際分野と陸運、文書保管やトラン
クルームには力を入れます」
「国際分野では中国をメーンのターゲットにします。
天津に上海のフォワーディング会社の支店を設立す
る計画です。 またベトナム関連の営業活動も本格化
しています。 インドにも足がかりができればという
思いがあります。 陸運は採算性は低いのですが、伸
び率が高い。 これも必要な機能です。 文書保管は安
定的に取扱量の増加が見込める、非常にいいビジネ
スモデルを築くことができたので、もっと増やして
いこうと思っています」
高付加価値貨物を安定的に取り扱う
倉庫業の中でも利益率の高さは突出している。 2007年
3月期の他の財閥系倉庫会社の売上高営業利益率は4.8%
〜8.1%の幅にあるが、安田倉庫は収益性の高い不動産
事業の売り上げ比率が低いにもかかわらず、営業利益率
10.9%を誇っている。
売上規模では他の財閥系に見劣りがするものの、首都
圏に集中して立地する自社倉庫の採算が良いうえ、精密機
器や医薬品など、付加価値の高い貨物を持つ荷主と、安
定した取引関係を結んでいることが強みになっている
ただし07年4月からの3カ年計画では最終年度の売上高
営業利益率を10.6%と現状よりも下に置いている。 これ
は利益率で見劣りのする国際物流、陸運の比率を上げるこ
とを想定しているため。 当面の収益性には目をつぶっても
必要な機能は確保しておこうという考えだ。
本誌解説図1 売上高と営業利益の推移
〈売上高〉〈営業利益〉
(単位:億円)
400
350
300
250
200
150
100
50
0
40
35
30
25
20
15
10
5
0
03
年度
02
年度
04
年度
05
年度
06
年度
07
年度(予想)
09
年度(計画)
売上高
営業利益
21 FEBRUARY 2008
特 集《平成20 年版》
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