ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年2号
特集
物流企業番付平成20年版 安田倉庫

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

安田倉庫 ──業界トップクラスの利益率を堅持 東京・横浜に豊富なアセット ──利益率が高い理由は。
 「これまで当社は首都圏に集中して倉庫拠点を展 開してきました。
東京港、横浜港周辺に有力なア セットを持ち、時代の変化に応じて首都圏周辺の交 通の要衝に衛星状に新たな倉庫を建設してきました。
モノの流れが集積する地域、しかも港に近いところ に倉庫群を持っていることで、立地における効率性 があります」  「取扱品目にも特徴があります。
他の倉庫会社に 比べて精密機械部品・製品の比率が高い。
医薬品や 陶器メーカーなど、外資系の荷主も多い。
取り扱い が難しくアイテム数の多い貨物を主に取り扱ってい ます。
つまり港湾周辺の倉庫群と、きめ細やかな在 庫管理などの物流管理が当社の強みになっている」 ──他の倉庫会社のように物流事業ではなく不動 産事業が利益を下支えしている、ということでは ないのですね。
 「当社は物流事業が売り上げの八割を占める?倉 庫本流?です。
不動産事業の比率は二割に過ぎず、 その不動産にしても、新規に投資して開発すると いうことはしていません。
以前から所有していた 土地を周辺環境の変化に応じて開発しているだけ です。
そのために採算性がよく、稼働率も一〇〇% に近い」  「堅実で安定感のある企業風土を伝統のもとに培 ってきました。
それだけに内向きの会社という批判 を受けることもありますが、顧客からの信頼が得ら れているのだと思います。
この財産、DNAはこれ からも大事にしていきたい。
ただし、変化に対応す ることも必要です。
そこで二〇〇四〜〇六年度まで の前中期経営計画と、〇七〜〇九年度の現中期経 営計画では、これまでのビジネスモデルを変えてい くことを目指しています」 ──確かにこのところはM&Aやアライアンスへ の取り組みを積極的に進めていますね。
〇五年に は中央倉庫と業務提携し、〇六年には子会社の安 田運輸が第一製薬子会社、第一物流の一部事業を 譲り受けました。
今年一月には日本IBMロジス ティクス(現・日本ビジネスロジスティクス、J BL)の完全子会社化を実施している。
 「M&Aは規模の拡大だけではなく、当社のニー ズに応じた形で取捨選択しながら今後も取り組んで いきます。
例えば〇三年には芙蓉エアカーゴを子会 社化し、航空貨物取扱事業に参入しました。
〇六年 に第一製薬の子会社、第一物流の医薬品配送を譲り 受けたのは、医薬品の共同配送拡大の一環です。
今 後もJBLのような形で買収案件が出てくる可能性 もあります」  「中央倉庫とは定期的に意見交換会を開いており、 業務提携の効果も上がっています。
上海では合弁 で保税区外にフォワーディング会社を設立しました。
災害発生時の事業継続相互協力協定も締結していま す。
また、当社の北大阪営業所では、倉庫作業を中 央倉庫に委託しています。
当社は関西には倉庫がほ とんどないので、中央倉庫の倉庫を借り受け、文書 保管も行っています。
引っ越し事業でも協力するなど、 相互補完の関係を構築しました」 ──設備投資にも積極的です。
 「物流事業では昨年、埼玉県加須市と大阪市住之 江区で倉庫を取得し、今年十一月には横浜で建設し ている最新鋭の新山下倉庫が竣工する予定です。
一 五億円を投じた新システム『YOURS ?』も安定 FEBRUARY 2008  20  営業利益率10%以上を堅持している。
1919年創業とい う長い歴史を通して培った事業構造と浮利を追わない堅 実さで安定経営に努めてきた。
しかし、ここ数年は物流 子会社の買収や同業者との提携など、環境の変化に対応 する動きを見せている。
      (聞き手・梶原幸絵) 安田倉庫 田中稔 社長 注目企業トップが語る強さの秘訣総合13位 稼働に入りました。
中期経営計画の滑り出しは順調 です」 ──加須や大阪、新山下の新倉庫の荷主は決まっ ていますか。
 「一部これまでの業務の再配置も行いますが、基 本的には先行投資です。
増床余地のあった倉庫に ついてはほぼすべて増床しきってしまいました。
大 阪で新たな拠点を確保したかったということもあり、 関東内陸部と大阪での倉庫買収を決めました。
仕事 が決まってからいい物件を見つけるのは難しい。
提 案力を強化し、新しいニーズを取り込み、新倉庫の フル稼働を目指します」  「もっとも自社倉庫の整備は現計画の三カ年で一 段落します。
次のステップとしてはアライアンスを 進めていきたい。
首都圏で倉庫が必要になったとき には、他社の倉庫を借り、当社が管理して業務を行 うといったかたちです」 バランスのとれた収益構造 ──業績についてはどのように自己評価していま すか。
 「前中期経営計画での目標数値に対して〇六年度 の実績は、売上高こそ若干届きませんでしたが、経 常利益や営業利益率では目標を達成しました。
物流 施設の拡充や一部上場などの施策もやり遂げており、 ひとまず成功といえます」  「もっとも過去数年間の業績好調の要因には、世 間の好景気の影響で荷動きがよかったということも あります。
荷主の在庫圧縮の動きは続いていますが、 入庫高、回転率、出庫高、貨物輸送トン数は悪くな かった。
しかし、現在は景気の先行きに不安感があ ります。
景気の後退に伴いモノの回転が悪くなれば、 入庫高が落ちてくる可能性がある。
すると、流通加 工などの作業量も落ちることになる」  「しかし、その点でも当社の事業モデルは非常にバ ランスがいい。
〇六年度の連結売上高の二九六億円 のうち、保管料は一八%、倉庫作業料は一五%、陸 運料は二五%、国際貨物取扱料は一八%、物流賃 貸料は五%、不動産賃貸料は一五%です。
国際貨 物は弱いという指摘を受けていますが、それでも二 割弱の水準です。
それぞれの業務で、まんべんなく ある程度のものを蓄えてきました」  「このうち一つの収入が落ち込んでも、ほかの部 分である程度カバーできます。
景気が悪くなったと きには、バランスのよい事業構造が強みを発揮して くれる。
これは一つだけが突出していてはできない ことで、当社の特色の一つです」 ──しかし、そうしたバランスの良さは会社とし ての特徴を出しにくい、競争優位点が分かりにく いということにもつながります。
 「確かに従来は小粒でもキラリと光る会社として市 場で評価されてきましたが、今後は存在感を高める ためにも、売り上げを伸ばしてもう少し規模を拡大 したい。
とくに国際分野と陸運、文書保管やトラン クルームには力を入れます」  「国際分野では中国をメーンのターゲットにします。
天津に上海のフォワーディング会社の支店を設立す る計画です。
またベトナム関連の営業活動も本格化 しています。
インドにも足がかりができればという 思いがあります。
陸運は採算性は低いのですが、伸 び率が高い。
これも必要な機能です。
文書保管は安 定的に取扱量の増加が見込める、非常にいいビジネ スモデルを築くことができたので、もっと増やして いこうと思っています」 高付加価値貨物を安定的に取り扱う  倉庫業の中でも利益率の高さは突出している。
2007年 3月期の他の財閥系倉庫会社の売上高営業利益率は4.8% 〜8.1%の幅にあるが、安田倉庫は収益性の高い不動産 事業の売り上げ比率が低いにもかかわらず、営業利益率 10.9%を誇っている。
 売上規模では他の財閥系に見劣りがするものの、首都 圏に集中して立地する自社倉庫の採算が良いうえ、精密機 器や医薬品など、付加価値の高い貨物を持つ荷主と、安 定した取引関係を結んでいることが強みになっている  ただし07年4月からの3カ年計画では最終年度の売上高 営業利益率を10.6%と現状よりも下に置いている。
これ は利益率で見劣りのする国際物流、陸運の比率を上げるこ とを想定しているため。
当面の収益性には目をつぶっても 必要な機能は確保しておこうという考えだ。
本誌解説図1 売上高と営業利益の推移 〈売上高〉〈営業利益〉 (単位:億円) 400 350 300 250 200 150 100 50 0 40 35 30 25 20 15 10 5 0 03 年度 02 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度(予想) 09 年度(計画) 売上高 営業利益 21  FEBRUARY 2008 特 集《平成20 年版》

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