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トランコム
──求車求貨事業を次のステージへ
“水屋”商売をシステム化
──二〇〇〇年以降、急ピッチで業績が拡大してい
ます。 これは読み通りですか。
「二〇〇〇年前後に成長の手応えを感じることが
できたのは事実です。 現在、当社の柱となっている
求車求貨事業、『物流情報サービス事業』と呼んで
いますが、それを私が担当したのが九八年で、当時
は全く利益が出ていなかった。 売り上げは三〇億円
程度ありましたが、利益はトントンにするのが精一
杯という状況でした」
「正直なところ求車求貨事業を担当した当初は、
どうやって仕事をたたもうかとなかば本気で考えて
いました。 ところが、事業の中身をよく調べていく
うちに、何が悪いのかがわかってきた。 そして二〇
〇〇年頃には、この商売はもっと伸ばしていけると
思うように変わりました。 一〇〇億円を目指してい
こうと目標を掲げるようになっていた」
──二〇〇〇年は、ちょうどITバブルで求車求貨
システムが雨後の筍のように乱立した時期でもあり
ました。
「当社の場合、ITブームとは全く無関係でした。
それまでの当社の求車求貨事業は、簡単に言えば個
人営業の“水屋”の集団に過ぎなかった。 完全な個
人技の世界で、できる人間は、できない人間の一〇
倍も売り上げる。 そして、できる人間はノウハウを
自分だけの秘密にしてしまい、他の者に教えるとい
うことをしない。 そのため、できる人間が一人辞め
ただけで、全体の売り上げがガタンと落ちてしまう」
「それでは、まともなビジネスとは言えません。 少
なくとも私の事業観には合わない。 そこで個人では
なく組織として求車求貨事業を運営するかたちに根
本から改めました。 当然、それを面白くないと考え
る者たちも出てきます。 実際、売上実績でベストテ
ンの一〇人のうち、半分が会社を去ってしまいまし
た。 もちろん売り上げは大きく下がりました。 それ
でも私は昔通りのやり方を続けるよりも、そのほう
がマシだという考えでした」
──しかし、組織として求車求貨事業を運営すると
いっても手本がない。
「当然、試行錯誤しました。 求車求貨事業は一人
最低でも月に七〇〜八〇万円の差益をとれなければ
人件費や固定費をペイできません。 しかし、伝統的
な水屋業は“猛者”の世界で、素人がやっても一日
に一〜二台マッチングするのがせいぜい。 そうした
一日一〇万円、二〇万円の売り上げしかない人間を
どうやって五〇万円、一〇〇万円にできるよう育て
ていくか。 それがこの商売の肝です」
「その方法として最初は各地に社員五〜六人の小
規模なセンターを作ろうとしました。 ところがうま
く機能しない。 センター長任せになってしまい、チ
ームで動く体制にはならなかった。 すぐに方針を改
めて、いったんセンターを引き上げて全て集約しま
した。 そして同じ建物の中で方面別にチームを作っ
て運営するかたちに変えました。 そこでチーム制の
運営スタイルを固めると同時にリーダーを育ててい
きました。 そうやって育ったリーダーを、改めて各
地にセンター長として展開していったんです」
——確かにITとは全く無縁ですね。
「ITを使った求車求貨システムが次々に立ち上が
っていったのは我々にとって大きな脅威でした。 我々
の仕事は、そのうち全てネットに移行してしまうの
ではないかと恐怖しました。 そのため、かなりの金
額を使って分析しました。 しかし分析の結果、ネッ
地場の配送会社から家電製品の共配ベンチャーに転身し
て株式公開にまでこぎ着けたが、市場環境の急変に直面。
共配に見切りをつけて求車求貨システムに再度、舵を切っ
た。 伝統的な“水屋”の商売を、チーム制の情報サービ
ス事業に近代化したことで、二度の業態転換を成功させて
急成長の波に乗る。 (聞き手・大矢昌浩)
トランコム 清水正久 社長
注目企業トップが語る強さの秘訣総合16位
FEBRUARY 2008 24
25 FEBRUARY 2008
特 集《平成20 年版》
トでは求車求貨ビジネスは成り立たないと我々は判
断した。 〇一年のことです」
──結局、ネット上の求車求貨システムはほとんど
が消えてしまいました。
「もちろん我々もITは利用しますが、それは社
内的な情報共有や指数化など、チーム制の仕組みを
回すため、あるいは決済の仕組みなどに利用してい
るのであって、顧客とのインターフェースとしてで
はありません。 今でも昔ながらの電話でのマッチン
グが圧倒的です」
「そのために当社の求車求貨事業は人によって向
き不向きが大きい。 顧客との会話のやりとりが仕事
の中心になりますから、みんなから好かれて、トラ
ブルがあっても上手に処理できるコミュニケーショ
ン能力が必要です。 なおかつ常に判断を求められる。
そうした人材をどれだけ育て、確保できるかによって、
求車求貨事業の成長のスピードが決まります」
──事業規模の拡大はどこまで続くと見ていますか。
「現在の求車求貨の使われ方は、荷主から委託さ
れた荷物を運びきれないので、同業者が傭車を探す、
あるいは、たまたま空いてしまった車両の荷物を探
すというかたちが中心です。 その市場だけならば日
本全体でも一〇〇〇億円〜二〇〇〇億円の規模でし
ょう。 しかし当社が今進めているのは、荷主の配車
機能を丸受けすることです。 そうなれば市場規模は
数兆円にも跳ね上がる」
「当社は単に求車求貨の情報をマッチングしている
だけではありません。 日常のトラブル対応などを通
じて、サービスの質についても責任を持って管理し
ています。 そのために各運送会社のサービスの質を
把握している。 その管理能力と輸送力を確保する力
では誰にも負けないという自信がある」
求車求貨機能で3PLを差別化
──求車求貨と並ぶもう一つの柱である3PL事業
(ロジスティクスマネジメント事業)については。
「共配事業の縮小均衡を図りながら、業態転換を
進めていきました。 医薬品卸や日用雑貨品の物流セ
ンター事業をコンペで受託したことがきっかけとな
って、3PL的なサービスに進んでいくことになり
ました」
──しかし、家電共配や求車求貨と違って、3PL
事業や通常の貨物運送事業は他社との差別化が難し
い。 実際、求車求貨事業に比べて売り上げの伸びも
小さい。 むしろ求車求貨にリソースを集中した方が
大きな成長が期待できるのでは。
「アナリストなどからも同じことをよく言われます。
しかし市場環境はいつ、どう変わるか分かりません。
当社は過去にそのことで大変な苦汁も舐めてきまし
た。 求車求貨だけに特化するリスクは小さくはあり
ません。 また先ほども少し説明しましたが、求車求
貨は3PLや通常の貨物運送事業を展開する上でも
武器になる。 求車求貨機能を持っているために、当
社は効率の良い元請けとして荷主の配送を一手に引
き受けることができる。 次のステップで、さらにそ
れを3PL事業に拡大する。 そうしたかたちで当社
独自の事業モデルを展開していくことが現在の方向
性です」
──今年四月から次期三カ年計画に移ります。
「現在、最終的な数字を詰めているところです。
次期三カ年計画とは別に当面の目標は売上高一〇〇
〇億円においていますが、それには現在の事業を拡
大するだけでなく、国際物流の本格展開やM&Aも
必要になると考えています」
環境変化に対応し二度の業態転換を断行
1955年創業の地場の配送会社、愛知小型運輸を前身と
する。 2代目として創業者の跡を継いだ武部芳宣現会長が
同社を家電製品の共同配送ベンチャーに業態転換。 主要家
電メーカー全社が参加する家電物流のプラットフォーム事
業を成功させた。 95年には株式の店頭公開も果たした。
ところが90年代後半に入って有力家電量販店が相次い
で専用センターを設置するようになったことから環境が急
変。 メーカー販社から店舗に納品する輸送ニーズがなくな
り、共配事業は縮小。 新たな活路を求車求貨事業と3PL
に求めた。 2000年以降は求車求貨事業の順調な拡大によっ
て再び業績を成長軌道に乗せている。 02年に東証2部上場。
本誌解説
トランコムの事業別売上高の推移(連結)
700
600
500
400
300
200
100
0
(億円)
04 年
3 月期
05 年06 年07 年08 年
(見込み)
その他事業
貨物運送事業
ロジスティクスマネジメント事業(3PL)
物流情報サービス事業(求車求貨)
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