ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年3号
海外Report
買収効果を活かせずに赤字に転落サプライチェーン統合で収益回復

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2008  40  大手小売りの購買力に対抗するため、米事務用品・家庭用品メーカーのニューウェルラ バーメイドは過去十年にわたって相次ぐ企業買収を断行した。
その結果、売上規模は拡大 したが、収益面では赤字に転落。
統合が後手に回り著しい非効率が発生していた。
三期連 続の赤字決算という危機から同社を救ったのは、サプライチェーンの見直しを軸にした業 務改革だった。
同社ヨーロッパのサプライチェーンを統括するビンセン・ウォーター副社長 がその軌跡を語る。
           (取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議? 買収効果を活かせずに赤字に転落 サプライチェーン統合で収益回復 米ニューウェルラバーメイド 買収攻勢で規模を拡大  一〇〇年以上の歴史を持つ当社ニューウェ ルラバーメイドは、米国ジョージア州に本社 を置く、売上高六二億ドル(六五七二億円) の消費財メーカーです。
当社には四つの事業 部門があり、文房具用品部門と家庭用掃除機 部門がそれぞれ売上高全体の三分の一ずつを 占めています。
そして残りの三分の一が日曜 大工用品部門と乳母車などの家庭用品部門で す。
地域別に見た売上高比率は、米国とカナ ダが八〇%で、欧州が一七%、アジアなどが 三%となります。
 当社は過去一〇年ほどの間に集中的に企業 買収を重ねてきました。
その結果、売上高は 国際企業として中堅規模となりました。
買収 の背景にあったのは、取引先である小売業者 のバイイングパワーが大きくなったことです。
例えば、当社の一番の取引先はウォルマート で、全売上高の一〇%以上を占める販売先と なっています。
そうした大手小売りに対抗す るために、メーカーであるわれわれも一定の 規模を確保することを迫られたのです。
 しかし当社が積極的に買収を仕掛けていっ た当初は、どうやって業務を統合していけば 買収のシナジー効果を得ることができるのか、 その具体案までは持っていませんでした。
 私がサプライチェーン業務を担当している欧 州における文房具部門だけに限っても、一九 九七年から二〇〇〇年まで毎年、企業買収を 行いながらも、それをようやくひとつのブラ ンドにまとめて本社を統一するのは〇一年に なってからのことでした。
しかも当初はマー ケティングや財務処理、IT(情報技術)シ ステムを統合することに主眼が置かれており、 物流業務やサプライチェーンの統合などが真 剣に話し合われることはありませんでした。
 しかし当社が〇二年の決算で二億ドルを超 す赤字を出したことで、社内の意識は大きく 変わりました(図1)。
前年が二億五〇〇〇 万ドルを超える黒字決算でしたし、それ以前 の四年間では平均で三億ドルの黒字が出てい たのですから、売上拡大の矛盾がここで一気 に噴出したことになります。
 これは当社にとっての「大惨事」であると 同時に、業務効率化の必要を強く意識する契 機にもなりました。
足場を固めることなく売 上拡大に走ったことで、業務の効率化がおろ そかになったことは明白でした。
M&Aによる成長の軌跡 1902 年 ニューウェル社創業 1920 年 ラバーメイド社創業 1972 年 株式公開 1979 年 ニューヨーク株式市場に上場 1992 年 文具用品サンフォード買収 1997 年 イギリスの文具メーカー・べロール買収 1998 年 ドイツの文具メーカー・ロットリング買収 1999 年 フランスの文具メーカー・レイノルズ買収 同  年 ラバーメイド買収で売上高を倍増 2000 年 2002 年 米国の大工工具メーカーアーウィング買収 2005 年 文具メーカー・ダイモ買収 2006 年 新CEO 就任でサプライチェーン改革 ジレットからパーカー、ウォーターマン ペー パーメイト買収 … … … … … … … … … … … … … 41  MARCH 2008  事態は〇三年になっても好転しませんでし た。
四半期ごとの赤字が続く中、何とかキャ ッシュフローだけでも改善しようとして、ま ずは在庫を絞り始めました。
ところが、それ が裏目にでて、特に第四四半期に入って店頭 での棚の補充率が著しく悪化してしまいまし た。
これが売上機会のロスにつながり、二年 連続の赤字が確定しました。
 サプライチェーンにおいて、可視性や柔軟 性を高めることなしに、強引に手持ちの在庫 だけを減らしたために、業務が複雑になり店 頭の補充を切らしてしまったのです(図2)。
TMSで輸送会社を絞り込む  こうした失敗を経て、ようやくサプライチェ ーン全体を見直す動きが本格化しました。
買 収した企業ごとにばらばらだったサプライチ ェーンを統合して効率化する動きです。
赤字 を出していたときの売上高に占める物流コス トが十三%を超えていたことを考えれば、取 り組みは遅きに失した感さえありました。
 前年比で五%ずつ物流コストを削減するこ とを改革の目標に据えました。
その手始めと して欧州では〇四年から文房具用品部門のサ プライチェーン改革に着手しました。
欧州に おける同部門の売上高は約四億ドルで、一五 カ国に一二〇カ所の納入先がありました。
チ ームを作って改革に取り組んで、物流センタ ーや工場を集約し、SKU(在庫保管単位) も半分以下に減らしました(図3)。
 どうして文房具部門から業務の効率化に取 り組んだかといえば、一つには同部門が欧州 における売上高の約半分を占める一番大きな 部門であったからです。
そして、もう一つは 荷姿が小さく取引単位が大きいことから、売 上高に占める物流コストの割合が一番小さか ったことが理由です。
つまり簡単な部門から 手をつけて、その成功例をほかの部門にも活 かそうとしたのです。
 業務改善の手順としては、〇三年中にER P(統合基幹業務システム)をSAPに統一 して、それまで各社が抱えていた古いシステ ムを一掃しました。
〇四年一月にカスタマー サービス部門を一つにまとめ、社内でやり取 りするデータも統一して、SKUを絞り込み ました。
そして同年下半期に物流センターの 数を絞り込み、その後、営業や製造のプラン ニングを見直しました。
これらの手順をさら に詳しく述べると次のようになります。
■買収前に各社が持っていたレガシー・シス テムと手作業を排除する ■ITシステムを一本化することでコスト削 図1 売上高と純利益(損益)の推移 (単位:100 万ドル) 純利益 売上高 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 -50 -100 -150 -200 -250 6400 6200 6000 5800 5600 5400 5200 5000 2002 2003 2004 2005 2006 売上高 純利益 図2 2003 年の在庫水準と店頭の棚の補充率 (%) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11 月 12 月 (注)DOHとはディス・オン・ハンド・インベントリーの略語。
365 日を在庫回転数で割った数値を指す。
数値が低くなるほど、 効率のよい在庫管理ができていることを表す。
100 80 60 40 130 110 90 70 店頭の棚の補充率 DOH 店頭の棚の補充率 在庫水準 図3 ヨーロッパの文房具部門の    サプライチェーン改革 改革以前 改革以後 物流センター 19 13 工場 7 4 SKU 31000 15000 バーコード 7 1 データベース 15 1 メインフレームシステム 15 1 需要計画 4 1 サプライチェーン計画 10 4 減とよりよい意思決定をサポートする ■ウェブ対応の貨物追跡システムを使うこと で情報を共有する ■社内だけでなく、社外のサプライヤーやロジ スティクス業者、顧客とも情報を共有する ■遅配や誤配などが起こったときはウェブを 通じて事前に連絡する ■計画や実行の変更を常時システム上でアッ プデートすることで現場の業務の柔軟性を 確保する  当社は米国市場において、〇二年に「G─�
� OG」(現「Oracle Transportation Manage ment」)という輸送管理システム(TMS) を導入しています。
これを機に、米国ではそ れまで一四〇〇社あった協力物流会社を三〇 〇社に絞り込みました。
欧州にも同じソフト を導入しました。
そして協力会社数を三〇〇 社から五〇社に絞りました。
これによって支 払いコストの九〇%を上位二〇社の協力会社 に集中することができました。
四つの指標で効率化を判断  協力会社を集約したことで、積載効率を 上げて輸送コストを下げること、そして輸送 品質を高めることができました。
同時に、主 要な協力会社から三カ月おきに作業内容や改 善計画、コスト削減への取り組みといった内 容の報告書を提出してもらうことにしました。
今後の目標は、現在利用している個建て輸送 (LTL)を減らし、貸切輸送ですべてをま かなうことで、支払いコストを一層引き下げ ることです。
 一連のサプライチェーン業務の効率化の成 果はすぐに次の五つの点に現れました。
?それまで二五%以上あった売上三〇〇ユー ロ以下の出荷件数が一%以下に減った ?それまで二五%以上あった二週間以内の欠 品によるバックオーダーが一%以下に減った ?売上高当たりの出荷件数が三〇%減った ?カスタマーサービス部門の一人当たり売上 高が四五%増えた ?遅配・誤配に関する顧客からのクレームが 大幅に減った  私たちのチームが目指したことは、サプラ イチェーン業務を世界のトップ水準に引き上げ ることで、常に成長を遂げながらも利益を確 保できるプラットフォームを作ることでした。
それはサービスレベルと物流コスト、在庫レベ ルという三点のバランスをとることで達成可 能だと考えました。
 業務改善を図るために四つの指標を二つに 組み合わせて使いました。
一つの組み合わせ は、売上高に占める物流コストとオンタイム配 送の比率です。
もう一つの組み合わせは、店 頭の棚の補充率と在庫水準です。
 この取り組みによって〇四年から〇六年に かけて、売上高に占める物流費の割合を一年 で約一ポイントずつ落としながらも、オンタ イム配送を八〇%の前半から九八%にまであ げることができました(いずれも欧州文房具 部門のみの数字)(図4)。
 在庫については、〇三年の失敗にこりて、 〇四年から〇五年には一時的に増えますが、 〇六年には〇四年を大幅に下回る水準まで落 としました。
同時に、店頭の棚の補充率を九 六%以上に引き上げることができました(図 5)。
 こうしたサプライチェーン改革が進行してい る〇五年に、当社は新たにダイモという文房 具メーカーを買収しました。
当社の文房具部 門としては最大の買収で、同部門の売上高は それまでの一・五倍になりました。
サプライ チェーン改革の流れに沿って、買収から半年 でダイモの物流センター一五カ所を統廃合す ることができました。
 この短期間における効率化の成果は、〇六 年の決算の利益額を押し上げることに一役買 ってくれました。
当社の決算は、〇五年から 再び黒字となり、〇六年の決算では黒字額を 大きく伸ばし赤字に陥る以前の水準にまで戻 しました。
新CEOが改革の旗振り  〇六年はまた、当社のサプライチェーン改 革が大きく前進した年でもあります。
この年、 マーク・ケッチャムが当社の新CEO(最高 経営責任者)に就任して新しいビジョンを打 ち立てました。
ニューウェルラバーメイド全体 のブランド力強化(“Brands That Matter?) を掲げ、?一つの統一した会社となる、?顧 MARCH 2008  42 ライチェーンは、同業他社との差異化におい て大きな武器となるという考え方です。
 組織面では新たにグローバル・サプライチェ ーン部門を作りました。
その下に位置する私 が率いる欧州のサプライチェーン部門には、私 を含め八人が常勤しています。
これまで各事 業部門が持っていたサプライチェーン業務の大 部分を当部門に吸収しました。
 地域ごとの現場改革のプロジェクトやハブ センター、配送センターの業務、輸配送業務 やカスタマーサービス業務の管理を、当部門で 一括して行っています。
各事業部門が行うの は、販売と生産計画をたてること、在庫を管 理することです。
 赤字に陥ったときの売上高に占める物流コ ストの割合を一〇〇とすると、各部門でばら ばらにサプライチェーン改革に取り組んでいた 段階でその比率を七五まで落とすことができ ました。
今後は汎ヨーロッパのサプライチェー ン体制を確立することで、さらにその数字を 六〇まで落とすことを目標に掲げています。
 サプライチェーンの改革が成功するかどうか は、社内の優秀な人材を確保できるかどうか も重要になってきます。
人材の確保には、ト ップダウンの指示に加えて、社内のコミュニ ケーションを円滑にすることが求められます。
さらにできるだけ早い段階で新しいリーダー シップを確立して、チームごとに課題に取り 組む体制を敷きます。
加えて、主要メンバー がやる気を維持できるように常に気を配るこ とも不可欠です。
          (談) 客重視のブランドとなる、?トータルコストの 削減を果たす、?革新的な企業となる──の 四つの方針をたてました。
 具体的な取り組みとしては、シェアード・ サービスの確立やサプライチェーンの改革、ヨ ーロッパでのプラットフォーム作りなどが盛り 込まれました。
 それまでも、地域ごと、ブランドごとには サプライチェーン改革に取り組んできました が、新CEOの旗振りで、それが全社的な取 り組み課題へと変わったことは大きな意味を 持ちました。
トップダウンの判断が下ったこ とで、これまでサプライチェーンの改革に乗 り気でなかった社内のグループとの駆け引き や議論に時間を費やす必要がなくなりました。
全社的な決定なのだから否応なく従ってもら うという姿勢です。
各部門の既存のノウハウ を持ち合って、全社的なノウハウにすること ができるようになりました。
 具体的な施策のうち「シェアード・サービ スの確立」は、サプライチェーンの改革を念 頭に置いた取り組みです。
これまで各ブラン ドや事業部門、地域ごとに行なっていたロジ スティクス業務は、いわばそれぞれのコスト センターとして機能していたのですが、その 機能を一カ所に集中することで、業務の一層 の効率化を図ろうというものです。
 さらに欧州における売上拡大もサプライチ ェーン改革の重要な課題として浮上してきま した。
欧州市場は米国市場の約二倍の規模が あります。
しかし、欧州における当社のプレ ゼンスはまだ小さく、開拓の余地は大いに残 されています。
欧州市場での売り上げ拡大を 目指すうえでもローコストで効率のいいサプ 図4 売上高物流費比率とオンタイム配送 (%) (%) 2004 2005 2006 100.0 97.5 95.0 92.5 90.0 87.5 85.0 82.5 80.0 9.0 8.5 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 オンタイム配送 売上高物流費比率 オンタイム配送 売上高物流費比率 図5 在庫水準と店頭の棚の補充率 2004 2005 2006 店頭の棚の補充率 100 98 96 94 92 90 88 86 84 82 80 115 110 105 100 95 90 85 80 在庫水準 店頭の棚の補充率 DOH (%) 1ドル= 106円 43  MARCH 2008

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