ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年3号
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日本通運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2008  52 中期計画の数値目標は達成可能  日本通運が二〇〇六年四月に開始した中期 経営計画「パワーアップ三カ年計画」は今年四 月、最終年度を迎える。
〇九年三月期の損益 計算上の目標は売上高が二兆円、営業利益が 五四五億円(営業利益率三・〇%)、当期利益 が三五三億円である。
 ただ、〇七年度に施行された減価償却費の税 制変更の影響四〇億円を除くと、営業利益のタ ーゲットは五〇五億円となる。
営業利益五〇五 億円は〇八年三月期営業利益計画四八八億円 に対して三・五%の増益、営業利益率で二・五 %の水準である。
株式市場では計画発表当初か ら保守的との見方が大勢を占めたが、現時点で も日本通運の現計画は達成可能な水準と考えら れる。
メリルリンチ日本証券では、〇九年三月 期営業利益は五二五億円、前期比七・六%増、 営業利益率は二・八%を予想している。
 一方、〇九年三月期末の財務面の計画は、設 備投資が二七六〇億円(三カ年累計)、有利子 負債残高が三六〇〇億円、ROE(株主資本 利益率)が六・六%、ROA(総資本利益率) が二・七%としている。
中期計画の開始から 二カ年が経過する〇八年三月期末までの設備投 資は約二二〇〇億円と順調に進捗しており、有 利子負債残高も〇九年三月期末で三五〇〇億 円程度まで縮小可能と判断している。
 彼らは中期計画において三カ年の方向性を示 したが、最終年度を迎えるに当たって、再確認 したい。
その内容は、?国際事業、海外事業 の拡充、?3PL事業の強化、?差別化した 商品の開発と拡販、?小口貨物事業の改革で あった。
 国際・海外事業の拡充は、中国の非連結子 会社の株式持分の拡大に伴う連結組み入れとい う形で具現化しつつある。
また、過去二年間 の業績は国内物流の営業利益の低迷を、国際 関連事業の利益貢献が相殺する形でサポートし てきたと言えよう。
次に3PL事業の強化につ いては、国内倉庫を中心とした設備投資実績 から判断できるように、今後の事業拡大の足場 固めができつつある局面だと言える。
具体的な 利益貢献は、〇八年三月期に竣工した倉庫が 通期稼働する〇九年三月期業績で確認できる だろう。
さらに、差別化商品については、警 備輸送の売上高が順調に伸びている点でその成 果を確認できる。
宅配便切り離しの影響  最後に、小口貨物事業の改革では、既に昨年 一〇月にアナウンス済みの通り、日本通運は日 本郵政の子会社である郵便事業株式会社(日 本郵便)と宅配便事業を統合する予定となって 日本通運 郵政と宅配便統合し小口貨物事業改革 新会社立ち上げに向けた課題をみる  二〇〇九年三月期を最終年度とする中期経 営計画は順調に進んでいる。
施策の一つに掲 げる小口貨物事業の改革については、日本郵 政との宅配便事業統合を決めた。
これは中期 経営計画の総仕上げともいえるが、未だ不透 明な要素が多い。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 第37回 53  MARCH 2008 いる。
両社のアナウンス資料によれば、?両社 は〇八年一〇月をめどに宅配便事業の新会社 を設立する、?新会社は日本郵政または日本 郵便の子会社とする(議決権比率や新会社の 規模は別途合意する)、?両社は設備資金や顧 客基盤、人材、物流機能、施設、設備、情報 システムなどを提供するとし、最終契約は〇八 年四月に締結する予定としている。
 日本通運の宅配便「ペリカン便」の事業収支 は会計上の問題から把握することは困難だが、 過去五年間の取扱数量の減少、単価の低迷、庸 車・下請費の上昇などから判断する限り、これ までの利益貢献は限定的だったと考えられる。
仮にペリカン便の営業収支が赤字であれば、宅 配便事業が連結範囲から外れて持分法適用会 社となることで利益貢献する可能性もある。
メ リルリンチ日本証券 では〇九年三月期下 期、一〇年三月期上 期業績予想には、ペ リカン便の一五五〇 億円の減収、ペリカ ン便に従事する推定 人員五〇〇〇人から 推測される人件費の 減少、傭車や下請費 など変動費の減少を 織り込み、現時点で は営業利益に与える 影響は小さいとみて いる。
注目される単価戦略  もっとも、新会社の事業スキームが確定して いない現状では具体的な業績貢献を予想し難い というのが実情だ。
具体的には、?トップマネ ジメントや両社の人材提供数、給与水準、労働 時間など労務関係、?宅配便に関わる資産の提 供や共用方法、?新ブランド、および単価設定 など不透明要因があると考えられる。
 まず、仮に日本通運の社員が新会社に出向し た場合、基本的には新会社からの給与支給とい う形を取る可能性があるが、日本通運からの負 担(出向負担金)は発生するのかどうかとい う問題がある。
当然、両社の給与水準は異なる とみられるため、当面は出向元の給与水準を維 持するといった暫定措置が必要になろう。
また、 勤務時間の体系も両社で異なると推定される。
宅配便事業は夜間作業が多いため、新たな就業 規則を設けることも必要になるだろう。
トップ マネジメントには社風の異なる両社を束ねる強 力な統率力を持った人材が望まれる。
 次に、事業資産の移行をスムーズにするため には、当面は現行の資産保有形態を維持し、習 熟度が向上した段階で改めて資産保有を議論す るということも考えられる。
例えば、日本通運 は幹線トラックが発着可能なターミナルを全国 に保有しており、日本通運の通常業務と宅配 事業でこれを共有することも想定される。
その 際、日本通運が資産を保有したまま、新会社 に一定の賃料で賃貸する案が出てくる可能性が ある。
また、貨物追跡や細かな時間帯輸送は、 新たなシステムを構築するよりは日本通運の情 報システムを利用するのが得策だろう。
 最後に、新ブランドの構築と単価設定だが、 特に単価設定については個人比率の高い日本 郵便の単価が相対的に高いと考えられるが、こ れを相対的に低単価と推定されるペリカン便と どのように混在させるのかは業界全体をみる上 での関心事となる。
新会社は当然ながら収益 性を重視した戦略を想定していると考えられる が、過度な値下げによるシェア拡大を指向すれ ば、業界全体にネガティブになる可能性がある。
 新会社は一〇月からの事業発足の際の混乱を 回避するためにも、数カ月前から事前のオペレ ーションテストを実施しなければならない。
逆 算すると、四月の最終契約締結後、即座に事 前テストを実施しなければ、現場の問題点を発 見できない恐れがある。
トラック業界では画期 的な提携関係であるだけに、スピーディーな対 応が望まれる。
メリルリンチ日本証券では、新 会社のスムーズな営業開始のためには、宅配便 事業のシステム構築で先行する日本通運が、持 分法適用会社とはいえ、より積極的に新会社の 立ち上げに貢献する必要があると考える。
つちや やすひと 一九九七 年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券などを経て、二〇〇 五年一〇月にメリルリンチ日 本証券に入社。
運輸セクタ ー担当アナリストとして活 躍している。
著者プロフィール 日本通運の過去10年間の株価推移(円) 《出来高》

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