ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年3号
特集
流通業の物流 メーカーを呑み込み垂直統合

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

 センターフィーで利ザヤを稼いでいるうちは、まだ可愛い。
巨 大化した小売業は、流通の川上に遡り、メーカーを支配下に置き 始めている。
SCMの主導権はカテゴリーシェアが握る。
業態や業 種の違いは関係ない。
メーカー、卸、小売り、物流企業まで入り 乱れ、サプライチェーンの覇権争いが激化している。
(大矢昌浩) ている。
買い物客は売り場を一回りするとルート通り でも最低二キロは歩くことになる。
そのために店舗滞 在時間は平均で三時間〜四時間にも及ぶ。
 店舗や物流センターは土地建物まで自社所有・自社 運営を基本としている。
日本では今年八月に延べ床面 積五万五〇〇〇平米の自前の物流センターが愛知県・ 弥富に稼働する。
これに合わせて物流子会社のイケ ア・ディストリビューション・サービスも設立。
約一〇 〇人のスタッフを雇用して現場運営に当たる計画だ。
用地は今後の増設も視野に入れ、約二七万平方メート ルを愛知県企業庁から約一〇〇億円で購入した。
 外資系企業が日本で物流インフラを資産として所有 するケースは珍しい。
しかし同社は「賃貸ではランニ ングコストが高くつくうえ、賃料相場が予想以上に高 騰した場合には低価格が維持できなくなってしまう。
当社にとって、その影響は為替の変動よりもはるかに 大きい」と判断している。
 ただし、工場だけは別だ。
ファブレスを徹底してい る。
同社の商品アイテム数は約一万。
すべてがPB (プライベートブランド)商品で、原料の調達から設 計、ムダのない生産管理、国際輸送までを直接コント ロールしているが、生産設備はメーカーの所有する既 存の生産ラインを活用することで投資を抑えている。
 イケアグループの〇七年度の売上高は一九八億ユー ロ(約三兆二〇〇〇億円)。
この一〇年で四倍近く拡 大した。
今や同社は三六カ国に二六〇店舗を展開する 世界最大の家具販売チェーンであると同時に、圧倒的 なカテゴリーシェアを誇る最大手の家具メーカーでもあ る。
しかしそのサプライチェーンにおいて生産は最も 付加価値の低いプロセスとして位置付けられている。
 巨大化した小売りがPB展開を進めていくことで メーカーを下請け化する。
この動きが現在、家具以外 第1 部 メーカーを呑み込み垂直統合 製造小売りの物流戦略  北欧デザインの家具やインテリアを低価格で販売す るイケア(IKEA)は、製品開発から販売方式に至る サプライチェーンの全てのプロセスを、物流コストを ベースに設計している。
家具流通における最も大きな 費用項目が物流費。
それを限界まで絞ることで相場 より二五%安い価格を実現しているという。
 輸送コストを抑えるために、中型以上の家具は組み 立て式にして、パーツを「フラットパック」と呼ぶ平 たい段ボール箱に梱包した状態のまま店頭販売してい る。
世界標準パレットの積み付けに合わせて、フラッ トパックのサイズを設定。
そこにピッタリ収まるよう に製品デザインの段階でパーツの形状や寸法を調整し 積載効率を高めている。
 店舗からの補充発注は全て四〇フィートコンテナ単 位。
日本を含むアジア地区の店舗は現在、上海とマレ ーシアのハブ拠点に発注をかけている。
一〇日に一回 のペースで商品を消費地の物流センターに海上輸送。
そこでコンテナをバラした後、店舗の営業時間終了後 にパレットのまま店頭まで運び込む。
 その後の店内物流は買い物客の役目だ。
店舗の展 示スペースに陳列した商品には、それぞれ在庫ロケー ションを記した札が貼付されている。
買い物客は店の 入り口で配布されたショッピングリストに、気に入っ た商品のロケーション番号を記入していく。
そして展 示スペースの最後に設置された「セルフサービスエリ ア」と呼ばれるスペースで、ロケーション番号から目 指す商品を自分でピッキングしてレジで精算する。
 店舗は一日平均二万人の来店を前提に設計されて いる。
売り場は二階建てで約四万平方メートル。
うち 一万平方メートルがセルフサービスエリアに充てられ MARCH 2008  16 にもあらゆる分野に広がっている。
世界三八カ国・八 〇カテゴリーを対象としたエーシーニールセンの調査 によると、小売店におけるPB商品の販売シェアは〇 五年時点で一七%に上っており、年々増加する傾向 にある。
また小売業界の寡占化とPBの拡大には強 い因果関係のあることが認められている。
取引条件をFOBに変更  日本トイザらスは、PBや限定商品(エクスクルー シブ)など独自商品の販売比率を三〇%まで引き上 げることをを当面の目標に置いている。
五年前から 独自商品の拡大に取り組み、〇一年度の約十一%を 〇五年度には二六%にまで高めたが、中国製玩具の リコール問題で躓き、〇六年度は一八・一%に逆戻り してしまった。
品質管理体制を再構築して改めて目 標の達成を目指す。
 日本の玩具市場の規模は〇六年度で六四〇〇億円 とされる(ゲーム機を除く)。
トイザらスはそのうち 約三割のシェアを握る巨人だ。
メーカーから大量の商 品を直接仕入れて低価格で大量販売する米国式の玩 具流通を日本に持ち込んだ当初は、日本のメーカーは 卸への遠慮もあってトイザらスとは距離を置く傾向に あった。
しかし、「日本市場におけるシェアが拡大し ていくのにともなって、メーカー側の対応も変わって きた。
今では日本でも直接取引が当たり前になり、P Bやエクスクルーシブにも有力メーカーが積極的に協 力してくれるようになった」と、日本トイザらスの平 塚勝啓執行役員サプライ・チェーン本部長はいう。
 一方で異業種との競争は激化している。
米国では ウォルマート、日本でもGMSや家電量販店などが人 気商品に的を絞って価格攻勢をかけている。
そうした 異業種は利益構造が違うため、採算を度外視して玩 具を集客の目玉にすることができる。
これに対してト イザらスはカテゴリー専門店の特徴を活かし独自商品 で対抗しようという戦略だ。
 これがロジスティクスにも大きな影響を与えている。
同社がメーンの商材とする玩具製品や子供用自転車は 八割以上が中国製だ。
従来はそれをメーカー側で日本 に持ち込んた後でトイザらスが購入していた。
これを 改め、現地のコンテナバースで商品の受け渡しを行う FOB(Free On Board)へ切り替えを進めている。
独自商品が増加したことで日本トイザらスが管理する 輸入貨物は今や年間四〇〇〇〜五〇〇〇TEUにも 達している。
既に大手玩具メーカーに匹敵する物量が ある。
船会社との交渉もそれだけ有利になる。
日本 に輸入して以降もメーカー側の倉庫を経由しなければ 陸上輸送費が下がる。
そのコストメリットを折半する ことでメーカー側の承諾を取り付け、取引条件の変更 を進めている。
 「効果の大きい大型商品から段階的に手を付けてい る。
既に自転車は九割がたFOBに移った。
次は中 型以下の商品に広げていく。
こちらから要請しなく てもメーカー側からFOBを求めてくるケースも増え てきた。
これを手始めに今後、当社のロジスティクス 管理の対象はサプライチェーンの上流にどんどん遡っ ていくことになる」と平塚本部長は説明する。
 日本市場ではこれまで各商品カテゴリーの大手メー カーが流通の主導権を握ってきた。
それだけメーカー のカテゴリーシェアは大きく、一方で小売業は小規模 分散が顕著だった。
しかし今や大手メーカーを超える カテゴリーシェアを持ったチェーンストアが多くの分野 に誕生している。
チェーンストアの巨大化がいよいよ 閾値を超えた。
小売り主導のサプライチェーンが本格 的に動き始めている。
日本トイザらスの平塚 勝啓執行役員サプラ イ・チェーン本部長 17  MARCH 2008 IKEA船橋の「セルフサービスエリア」。
高さ10メートルもの高層積みのパレッ トラックがそびえる 特集 35 30 25 20 15 10 5 0 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 目標 図1 日本トイザらスの独自商品構成比 PB商品 5.5 5.5 7.1 8.5 10 11 10.2 13.8 11 15 7.4 10.7 限定品 30 (%) 15.6 11.0 21.0 24.0 26.0 18.1

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