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SOLE 日本支部フォーラムの報告
The International Society of Logistics
APRIL 2008 80
クリナップの生産工場を見学
納期から逆算するJITシステム
二月のフォーラムでは、福島県い
わき市に位置するクリナップの生産
工場で、受注から納品までを一括
管理するシステム「CPS(クリナ
ップ生産管理システム: Clean Up
Production System)」を見学した。
CPSによる生産計画の立案とジャ
ストインタイム(JIT)生産、C
PSと配送システムの連動による品
質保証・納期遵守の仕組みをみた。
生産高の八〇%は受注生産
上野駅から常磐線を走る特急で約
二時間、いわき駅の一つ手前。 我々
が降り立った湯本駅は温泉の町であ
る。 昔の呼び習わしなら蝦夷地への
玄関口の一つ、勿来(なこそ)の関
を少し越えた辺り。 この地に全国で
一〇カ所あるクリナップの工場のう
ち八つが集結している。 我々はその
中の二つの工場、湯本工場と鹿島シ
ステム工場を見学した。
大手住宅機器メーカー、クリナッ
プのシステムキッチン製品としては
「クリンレディ」や「キャプラン」な
どが有名だ。 加えて同社は、厚さ
一・二ミリメートルのステンレスを
用いた「クラフツマン」という高級
キッチンから、過敏症の顧客のため
にゴムその他の樹脂部品を一切除い
たものまでさまざまな製品をそろえ、
ニーズに敏感に対応している。
生産高の八〇%は顧客の注文を受
けてから作る。 ほぼ完全な受注生産
方式を採っている。 キッチンのよう
に消費者の近くで使用される製品を
供給する会社として、消費者のニー
ズに最大限に応えることが成長のよ
りどころであるという気概が、その
生産形態だけでなく職場の社員の表
情にも表れていた。
後ほど詳細に述べるが、工場のラ
インを流れる仕掛かり品を積んだ台
車には、顧客の注文一件一件で異な
る型番の部品が積まれ、組み立てら
れるようになっている。 数十万に及
ぶという部品の種類もクリナップの
顧客志向を物語っている。
さて、湯本駅から迎えのマイクロバ
スに乗り込んで約十五分後には、第
一の見学場所である湯本工場に到着
した。
プレス金型は九〇秒で交換可能
湯本工場では、敷地出入口に最も
近い場所が工場製品の出荷場所にな
っている。 我々の見学は、この生産
工場における下流地点から上流へと
いう順路で行うことになった。 この
ような見学順路は、いわば納期から
逆算してプル方式で生産計画を立案
しているCPSの計画順序をまさに
なぞるようなものである。 しかし説
明の都合上、ステンレス素材のプレ
スから始まる通常の生産順序に従っ
て解説することにしよう。
最初はシステムキッチン上部のワ
ークトップと呼ばれる部分の生産で
ある。 ワークトップの天板部分は、主
として食材をカットする平坦な部分
と、水仕事を行うボウルと呼ばれる
へこんだ部分とから構成される。 ス
テンレス部分も大きくはこの二つの
部分から成り、薄いステンレス板を
木製天板に張り付けた後に、木製の
外枠を取り付けることにより一つの
ワークトップとなる。 我々が見学し
たフロアでの作業工程は、ワークトッ
プ上部のステンレス部の成型と、既
にカットされている木製外枠との組
み立てである。
鋼板メーカーから購入するコイル
状のステンレスは、クリナップ内の
加工工場において社内需要者の要求
に応じてステンレス板に加工される。
湯本工場は、生産計画に基づきステ
ンレス板を購入。 ステンレス部の加
工・成形工程の第一ステップとして、
ステンレス板をプレス機四機にかけ
る。 ステンレス板の薄さは一ミリメ
ートルにも満たない。
まずプレス機の一号機によってボ
ウル部分の九〇%の成型が行われ
る。 その際、均一な薄さに成型す
るため、縁部分の素材を中央のボウ
ル部分に流し込みながらプレスする。
これにより、縁部分のステンレスは
中央部分に引き込まれた形で出てく
る。 次の二号機は、ボウル部の残り
一〇%を成型し外壁の張りを出すた
めのものである。 さらに三号機によ
りボウル部以外のフランジ(つなぎ)
部分の形状付けを行い、最後にカッ
ティングとビスの穴開けを四号機が
担当する。
ボウル成型の際、クリナップ独自
といわれる排水管継ぎ手部分の一体
成型がなされる。 これらの各プレス
機横では作業員一人が補助作業を行
う。 受注生産に対応するため、金型
の入れ替えは九〇秒で行えるように
81 APRIL 2008
ため、配送先別に分類され留め置か
れる。
ここでは「SLIMシステム」と
呼ばれる二次配送用の搬送計画ソフ
トにより最適化を行い、どのトラッ
クを用いて、どのような輸送経路で、
どのような配送順により顧客に届け
るかの具体的な計画を立案する。 一
般の宅配業者に負けず劣らず、プラ
スマイナス一五分の誤差で顧客に配
送することを目標にしているそうだ。
梱包、輸送に関しては、ISO14
001に基づき環境に配慮したリタ
ーナブル梱包等も取り入れつつある
ものの、現行では圧倒的に段ボール
が多いという。
湯本工場を一時間ほど見学した
後、今度はCPSの生産管理部門と
キッチン・キャビネットの生産ライ
ンを持つ鹿島システム工場に向かっ
た。
生産指示カード「作る権利書」
鹿島システム工場では、まずショ
ールームにおいて、一九八三年に生
産を開始したクリンレディの販売一
〇〇万台突破の記念展示や、電力で
簡単に扉の開く最新式のシステムキ
ッチン「S
.
S
.
」の展示にて、シス
テムキッチンの進化(写真2)を理
解し、二階ミーティング室でビデオで
CPSの概要を教授いただいた。 ビ
なっている。 プレス品は半日単位で
ロット生産され、加工組み立てライ
ンへ送られる(写真1)。
次の加工組み立てラインで、ステ
ンレスの板は安全性、強度等のため
の長辺部の折り曲げ機械に入り、長
辺部の加工成形がなされる。 この折
り曲げ手順は一品一品ごとに異なっ
ており、折り曲げ機のプログラムは
もとより、上と下からステンレスを
支え圧縮するための金型もそれぞれ
入れ替わり、瞬く間に段取りを終え
て次のステンレス板を上下から挟む
仕組みになっている。 後の工程と同
様、ここではロット単位で加工、組
み立てをすることはない。 一品ごと
の生産が全工程に行き渡っている。
さて、既に中央がカッティングされ
L形とに分かれる形状の製品が多く
の付属部品とともに組み立てられる。
配送時間の誤差は一五分以内に
流れ作業工程が終わり、梱包さ
れた製品はローラーにより、我々が
最初に入った出荷エリアへ運ばれる。
その一箱一箱には一七ケタの数字と
バーコードの印刷された約一〇セン
チメートル×二〇センチメートルの
大きさの生産指示カードが貼られて
いる。 その上には受注日や梱包され
ている品番、顧客名も記入されてい
て、必要な情報は人の目で認識でき
るようになっている。
この生産指示カードは“現物現場
主義”のもと、加工から組み立て
まで一品一葉の生産指示カードがセ
ットされた部品とともに流れていき、
必要によって裏に設計書等が添付さ
れる。 製品は出荷予定よりも半日先
行して生産されるように管理されて
いるため、出荷エリアに到着して約
三〜四時間をこのエリアで待つこと
になる。 この“半日先行”は品質保
証と納期厳守のための重要な仕組み
の一つだ。
生産指示カードが張られた製品
は、十一トントラックにより全国六
八カ所(東日本は四七カ所)に設け
られているプラットホームに搬送さ
れ、そこから顧客までの二次輸送の
縁部分の加工を終えたステンレス板
とプレス機にかかったボウル部分は
仮留めされ、シーム溶接により約十
五秒で溶接される。 その様子は、上
下にかみ合って動く歯車の中に溶接
部分を入れて回転させているだけの
ように思える。 しかし、後から見た
溶接部はひずみもなく、見事なまで
に二つのステンレス部品を一体化さ
せていた。
以上のようにして一体化したステ
ンレス部分は、別に加工された木製
部品とともに流れ作業工程に入り、
両者が一体化して我々が日ごろ目に
するシステムキッチン上部のワーク
トップが出来上がる。 流れ作業工程
ではCIライン、CLラインの二つ
が平行に流れており、大きくI形と
プレスの現場。 ステンレス部の加工・成型の第1ステップだ
対面システムキッチンにより、キッチンで団欒も楽しめるよ
うになった。 収納能力も飛躍的に拡大し、システムキッチ
ンは進化している(写真はS.S. プラン4ファミリア1)
写真1
写真2
APRIL 2008 82
デオは、四九年に座卓の生産を東京
都内で始めた会社の沿革から、ここ
いわき地区における八工場と岡山地
区の二工場の紹介、当時の常磐炭坑
離職者の採用というこの地方特有の
事情なども紹介された。
クリナップの「ものづくりの考え
方」は、?基本理念は「人間尊重」、
?基本思想は「経営効率の向上を
はかる」:あらゆる無駄を排除する、
?基本思想の原点は「マーケットイ
ン」、?生産システム構築の追求、で
ある。 CPSには、顧客と営業との
間で交わされるシステムキッチンの
提案書を初期データとして入力し、
受注明細リストや生産指示書を経な
がら「作る権利書」と呼ばれる生産
指示カードに落としてゆく。 生産指
示カード一枚は、作業の標準化が図
られた生産工程内の“現場現物主義
に基づく”唯一の指示書である。 工
程内にはカンバンをはじめとした有
効な生産ツールや、品質管理ツール
が使われている。
この生産革新を追求するCPS
は、自己完結・自律分散型のビジネ
スモデルであり、?受注したら営業
支援システムに入力する(営業)、?
生産指示カードをリアルタイムに出
力する(生産)、?出荷便順に生産
着工順を組む(生産)、?生産指示
カード通り調達・生産する(資材・
生産)、?納品予定日に合わせて輸
配送する(物流)、というシンプルな
ルールに基づいている。
このようなCPSの概略の説明を
受けた後、我々は敷地内にある三つ
の工場建屋のうちの第一工場に案内
された。
生産管理をボードで可視化
第一工場では配送エリアを右手に
見ながら、まずはCPSの心臓部と
いえる二階の生産管理部門の見学に
向かった。 生産管理部門の部屋には
資材調達チームも同居している。 使
い切り購入、後補充購入、計画購入
の三種類の計画に沿って調達するた
め、関連会社と購入物品の在庫を示
す整理箱が壁に設置されていた。
工場内ラインを見下ろすこの小部
屋には、生産管理に使うパソコンが
一〇台ほど置かれており、「受注受
付」から「出庫リスト出力・配布」
までの一〇工程を示すカードが天井
からぶら下がっている。 各月の月間
計画生産量とその修正値を示す数
字のボードも誰からも見える位置の
フックにかかっている。 作業工程の
最適化や精緻な生産計画の立案は
コンピュータの中で計算されるもの
の、そこから出力され精査された後
工場全体の目標となった数値は、旧
来の自然な方法でディスプレイされ
のため全部で一七六通りのバリエー
ションがこのラインを流れる可能性
があるが、顧客の仕様に合わせた組
み合せ部品が一括して青色の台車に
載せられ、納期順にショップを流れ
ている。
組み立てライン見学後、湯本工場
よりさらに大きな出荷エリアに足を
止めた。 数時間後の出荷に合わせて
次々と梱包製品がローラー上を流れ
てきた。 幹線便と呼ばれ、定時にや
って来る十一トントラックによるプ
ラットホームへの出荷は、湯本工場
での出荷と全く同じだ。 幹線便は明
け方三〜四時までには各プラットホ
ームに製品を届ける。 そこからはS
LIMシステムにより最適化された
配送計画に基づいて、小回りの利く
トラック輸送により、誤差十五分以
内を目標に末端の顧客に商品を配達
する。
現場現物主義で作り込む
第一工場の見学後、我々はショー
ルーム二階にあるミーティングルー
ムに戻った。 ミーティングルームで
は、参加者と工場側との間で最後の
質疑応答が交わされ、また便宜を図
っていただいた工場側に対し見学者
からの謝意が表され、正味二時間の
クリナップ工場見学が終わった。 最
後に、本工場見学を終えての感想を
ていた。
一七六通りの仕様に対応
第一工場のキャビネット生産量は、
日産平均二一〇〇台。 一階フロアに
は、製品の型番に適合させる形で複
数の組み立てラインが設置されてい
る。 ラインにおける生産速度の平滑
化のため、ライン間での労働力の相
互支援はあるものの十分でなく、今
後の課題とのことである。
キャビネット全体の組み立て作業
には人間が従事しているが、側板等
の木工加工にはほぼ全自動の工作機
械が充てられ、生産指示カードに添
付されている仕様データにより一件
一件の仕様(ダボ用穴の穿孔等)に
加工されていた。 我々見学者に配慮
して、わざと工作機械に作動エラー
を起こさせ、エラーを知らせる掲示
板とそれに反応して飛んでくるショ
ップ長の復旧処理をデモしていただ
いた。
二交代制で稼働する三号ライン
は、一分にも満たない時間でクリン
レディ一台を作り出す。 クリンレデ
ィのキャビネットには、中央に位置
するメーンのコンテナの下にフロア
ーコンテナという引き出しがついて
おり、メーンのコンテナの形状・配
色のバリエーションは四四、フロアー
コンテナのバリエーションは四つ。 こ
83 APRIL 2008
以下で総括する。
?顧客対応の受注生産が貫かれてい
るものの、現場における生産指示
は込み入ったものでなく、「作る
権利書」と呼ばれる生産指示カー
ド一枚で処理されている。 このシ
ンプルさは驚きである。 バックボ
ーンの情報システムCPSが?現
物現場主義〞で長年作り込まれて
きた証だろう。
?JIT方式を現場の従業員に可視
化するための特別で複雑なツール
はあまり目につかず、カンバンや
パイロットランプ、大きな掲示板
といったシンプルな手段が採られ
ていることに自然さを感じた。
?納入日を起点としたプル方式の生
産管理システムCPSは、配送シ
ステムSLIMとの連動により初
めて可能であり、かつうまく機能
している。
?一件一件の顧客に対応した完全受
注生産方式、納入日時から逆算
した一件ごとの生産では、完成
時の品質検査で要処置となった場
合、納期に遅れずに処置できるの
か、または再生産が可能なのかと
疑問を持ったが、半日先行生産・
出荷エリアでの三〜四時間待ちの
余裕が重要、と理解した。
?顧客対応の社是は、高級品や自然
志向の製品開発・生産にも向けら
れているが、乗り越えるべき技術
開発も残っているようであり、こ
れらの克服が他社との差別化をさ
らに明確にするものと思われる。
?近年テレビ、冷蔵庫、洗濯機とい
った家電製品の知能化・情報化傾
向が見られる。 クリナップ製品に
関するこれらの点での進展につい
ては詳しくは知らないが、システ
ムキッチンは食器洗い機や料理器
具等の他の電気製品のプラットホ
ームとなるため、積極的に知能化
を検討すべきかもしれない。 これ
は、姉妹製品であるバスルームに
ついても考えられる。
次回フォーラムのお知らせ
次回フォーラムは4月16日(水)「ロ
ジスティクスと保全業務革新」を予定し
ている。 このフォーラムは年間計画に基
づいて運営しているが、単月のみの参
加も可能。 1回の参加費は6,000 円。
ご希望の方は事務局( sole-j-offi ce@
cpost.plala.or.jp)までお問い合わせ
ください。
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