2008年4月号
ケース

生産改革 沖データ

リードタイムを一週間に短縮  オフィス用プリンターメーカーの沖データ は、ここ数年、国内外で販売台数を大幅に伸 ばしている。
最大の要因はオフィスにおける カラープリンターの需要が急速に拡大したこ とにある。
その火付け役となったのがほかな らぬ同社だ。
二〇〇二年に一〇万円台とい う普及価格帯の高速・小型機種を市場に投入 し、世界的なカラー化の流れをつくった。
以 来、市場の成長を上回るペースで売り上げを 伸ばし、〇六年にはカラープリンターの世界 シェアで二位に躍り出ている。
 同社の売り上げ比率は海外が八七%と圧倒 的に高い。
うち欧州と米国で七五%を占める。
生産拠点も一九九〇年代から国内から海外へ 段階的にシフトさせてきた。
現在はプリンタ ーの九割以上をタイの二工場と中国の一工場 で生産している。
 プリンター本体の国内での生産拠点は現在、 福島工場一カ所のみ。
ドットプリンターとモノ クロプリンターを生産している。
昨年五月ま では、カラープリンターのうち日本市場向け の大型高機能機種については福島工場で生産 していたが、海外でも需要が見込めることか ら、量産のために中国へ生産を移管した。
国 内の生産を日本向けの高機能機種に絞り、急 激な需要拡大には主に海外の工場で対応する 戦略をとっている。
 福島工場は国内唯一の生産拠点であると同 時に、海外の生産拠点のオペレーションをグ ローバルに管理する「生産センター」の役割 を担っている。
「生産センター」では成長する 市場に対し最適な商品供給体制の実現を目指 して、“READY TO SELL”を合 言葉に各生産拠点のサプライチェーン改革を 主導している。
その一環として福島工場自ら もプロセス改革に取り組んでいる。
 同社はサプライチェーン改革を進めるに当た り、グローバルな販売・生産管理システムの統 合を行って、プロセス間のスムーズなデータ連 携による計画サイクルの短縮を図った。
販売 拠点数の最も多い欧州を皮切りに販売系から ERPシステム「SAP」の導入を進め、そ の上で生産系とのリンクを行うというステッ プで、〇六年八月に福島工場とタイの二工場 でSAPが全面稼働した。
これによって需給 調整・生産計画、調達、生産管理が一元化さ れた。
 これに合わせて福島工場では、生産計画の 短サイクル化を図るとともに、業務改革によ るプロセスの変更を行い、大幅なリードタイム の短縮を実現した。
それまでは販社のオーダ ーが確定してから商品を生産するまでに五週 間のリードタイムを要していたのに対し、新 しい生産プロセスではオーダー確定から一週 間で生産できるようになった。
 リードタイムを短縮するために大きく見直 した点のひとつは、サブアッセンブリー工程 を内製化したことだ。
従来、福島工場では最 沖データの福島工場は、生産のリードタイムを縮 めるプロセス改革で物流効率化に成果を上げてい る。
工程間移動を短くし省スペース化を図る一方で、 部材倉庫を“見える化”して在庫圧縮に取り組んだ。
07年度には目標を上回る在庫の削減を達成。
空い たスペースには外部倉庫に保管していた部材を取り 込むことで物流コストも大幅に削減できた。
51  APRIL 2008 終組み立てを行う前のサブアッセンブリーを外 部へ委託していた。
外注先に部品を支給して から組み立てを終えて工場へ納入されるまで には一週間かかっていた。
一週間サイクルの 生産にはとても間に合わない。
そこで構成部 品をフラット化して、工場ですべて単品から 組み立てる方法に切り替えることにした。
サブアッセンブリーを内製化  サブアッセンブリー工程を内製化しようと すると、工場内に作業を行うためのスペース が新たに必要になる。
福島工場では“ムダ取 り改革”と呼ぶ生産性向上や作業改善のため の現場の実践活動によってこのスペースを生 み出した。
 “ムダ取り改革”とは、リードタイムの短縮 や在庫の削減を目指して福島工場が独自に進 める業務改革のこと。
セル生産(一人生産) 方式を新たに採用するとともに、“3定”す なわち「定位」「定品」「定量」という生産活 動の基本に立ち返って、業務を見直していく 取り組みだ。
本来あるべきところに必要なも のが必要な分だけある、という状態を維持す ることでムダを排除するという考え方をとる。
 福島工場では副事業所長を本部長とする推 進体制でこの改革に臨み、テーマ別のプロジ ェクト活動や工程ごとの作業改善チームによ る活動を進めている。
さらに月に一度「実践 会」を開いて、生産管理や部品調達など各部 門のスタッフと作業改善チームのリーダーが、 部品管理、組み立て、梱包などの工程を一緒 に回り、その場で問題点や解決策を話し合う といった活動も取り入れている。
こうした活 動によって、一人でこなせる作業範囲を広げ、 工程間の無駄な動きをなくしてスペースを生 み、段階的にサブアッセンブリー工程の内製化 を進めた。
 リードタイムを短縮する上で課題はもう一 つあった。
従来、工場ではサプライヤーが納 めた単品の部品や中途組み立て部品を受け入 れ・検収した後、いったん外部の倉庫に搬送 して保管していた。
構内に部品を置くスペー スがなかったからだ。
このため生産のたびに 半日から一日かけて外部の倉庫へ部品を集め に行かなければならなかった。
 SAP稼働後の新しい生産プロセスでは、商 品によってはオーダーの確定から最短三日と いう短期間で生産しなければならないものも ある。
「三日でものづくりをするためには外 部倉庫との間の無駄な往復をやめ、サブアッ センブリーを内製化する動きに並行して部品 を(工場の)なかに取り込むことが不可欠だ った」と生産センター生産技術第二部の涌沢 庄治課長は説明する。
 福島工場では部品を保管するため六カ所に 外部倉庫を借りていた。
面積は合わせて六〇 〇〇平方メートルあった。
これをすべて撤廃 し在庫を工場構内に移すことにした。
そのた めには新たに工場内に保管スペースを作らな ければならない。
六〇〇〇平方メートルのう ち事務所部分などを除いても四五〇〇平方メ ートルの保管スペースが必要になる。
そこで 〇七年度からはこの数字を一つの目標に、ス ペースを生む“活スペース”のための業務改 革を進めた。
 セル生産の拡大などのライン改革と構内倉 庫の保管方法の見直しがその主な柱だ。
例え ば、サブアッセンブリー工程を内製化した当 初は、プリンターを組み立てる工程とは別に サブアッセンブリー工程を設けていた。
ここに 生産センター生産技術第二 部の涌沢庄治課長 沖データの福島工場。
“ムダ取り改革”に積極 的に取り組んでいる APRIL 2008  52 セル生産方式を取り入れ、それまでプリンタ ーの組み立てだけ行っていたオペレーターが、 サブアッセンブリーから最終組み立てまでを 一人で担当するようにした。
このようなイン ライン化を進めることによって、生産性がア ップするとともに工程間の移動距離も縮まり、 スペースの創出が可能になった。
 こうした取り組みによって、〇七年度上期 は目標をはるかに上回る成果を上げた。
活ス ペースについては年間で七〇〇平方メートル という目標を掲げていたのに対し、上期だけ で年度目標の二倍に当たる一三七六平方メー トルのスペースを創出することができた。
ラ イン改革による分が七〇二平方メートル、構 内倉庫での保管効率向上による分が六七四平 方メートルという内訳だ。
しかも五月にはカ ラープリンターの生産が中国に移ったため、三 〇〇〇平方メートルのスペースが空いた。
こ れを合わせて、早くも目標の四五〇〇平方メ ートルに近い保管スペースを生み出すことが 可能になった。
 四月から、空いたスペースへ外部倉庫に保 管していた部材の移転を開始し、八月までに はすべての倉庫で撤収を終えることができた。
六カ所の倉庫は最も近いところで工場から五 キロ、遠方では三〇キロ離れたところまで各 地に点在し、工場と各倉庫との往復で年間に 五万キロ以上のトラック輸送が行われていた。
外部倉庫の全廃によって、保管費のほかにこ うした輸送にかかる費用も要らなくなり、年  外部倉庫の撤収を終えすべての部材を倉庫 に取り込んだ後で、高額の大物部材を中心に 一三二品番を選んで色別管理を開始した。
「誰 でも一目で在庫状況がわかるようにするのが 狙いだった。
データ上の管理だけでなく、現 場でも見える管理を行うことで、在庫削減が 進めやすくなった」と生産センター製造統括 部の川田昇治ムダ取り推進課長は強調する。
間に一億五〇〇〇万円のコスト削減が可能に なった。
CO2排出量は年間に二四・二トン 削減できる見込みだ。
“色別管理”で在庫半減へ  ムダ取り改革のもう一つの柱である棚卸し 在庫の削減でも成果を上げている。
この活動 は生産計画を担当する部門、仕掛かり状況と 在庫状況を分析して部品の調達を管理する資 材部門、および現場の倉庫で実際に管理を担 当する部門が一体となって行った。
 生産計画をもとに、資材部門が部材の発注 計画を作成し、納期にサプライヤーに部材を 納めてもらうまでの一連の流れの中で、?サ プライヤーによる部品の納入をなるべく生産 のタイミングに近づける、?一回の納入単位 を少なくする、?調達のリードタイムを短く しJIT(ジャストインタイム)納入を拡大 する、?発注計画の運用を見直すなどの取り 組みによって在庫削減を進めた。
これも“ム ダ取り”の発想によるもので、発注数を抑制 し納入をコントロールすることを活動の基本 とした。
 この活動では、部材倉庫で導入した「色別 管理」が効果を上げた。
一日の生産に必要な 所要量をもとに、部材の在庫を日数に換算し て管理し、在庫日数が一カ月を超えるものに 赤色、一カ月未満で一週間以上のものに黄色、 一週間未満のものに青色のプラカードを立て て色別に表示するというものだ。
外部倉庫の社内取り組みの経過 2007年上期実績 ?物流用燃料を約80%削減 ?CO2 排出を約24.22t削減 3000+702+674=4376 ? 差異124 ?は現有スペースを使用 1300+540=1840 ? の活スペースを計画 上 期下 期 2007 年度 生産拠点変更 ▲3000?(生産海外移管分) 予定なし 構内ライン改革 ▲702? 目標:▲1300? 構内倉庫改革 ▲674? 目標:▲540? 構内空きスペース 外部倉庫取込み 注:▲は削減を表す 外部保管設備の取込み:240? (金型1133 型の構内保管化) 社外生産委託の取込み:600? sub Assy/梱包のキット化:900? 延6431 ? ×0.7=4500 ? (占有率=70%) 構内:4376+124=4500 ? 外部:4500 ?・・・取込み完了 53  APRIL 2008  色別管理を導入した当初は、一三二品番の うち半数以上の品番に赤いプラカードが立っ ていた。
この光景をまず資材部の担当者に見 てもらった。
資材部ではサプライヤー別に購 入担当者が決まっている。
赤いプラカードの 品番の担当者に、在庫日数が一カ月分を超え ていることへの注意を喚起し、購入のタイミ ングや数量の見直しを促した。
 さらに、週次の生産計画から割り出される 部材の所要数量と、現在の在庫数量、および 次回の納入予定日をグラフと表で表して担当 者に提供した。
部材購入の時期や数量が適切 かどうかを担当者が判断する際の材料にして もらうためだ。
これを見れば現在の在庫数量 で何週間先までの生産計画に対応できるかが わかる。
次回の納入予定日にもまだ在庫に余 剰があることが見込まれる場合には、サプラ イヤーに納入を延ばしてもらうなどの対策を 講じることができる。
 このほか今回の取り組みでは、過剰在庫を 防ぐために発注について新たなルールを作っ た。
これまで生産数量の変動から緊急に発注 を行うケースがたびたびあった。
そういう場 合に担当者は、必要な数量よりも多めに発注 してしまう傾向があった。
そこで、緊急時に も担当者が独自に発注数量を決めず、一定の マニュアルをもとに判断するよう改めた。
 福島工場では〇七年度計画で棚卸し在庫を 〇六年度の実績に対して五〇%削減する目標 を立てている。
すでに上期だけで三五%を削 減しており、九月からスタートした色別管理 などの成果によって年間でも目標達成のめど が立った。
川田課長は「目標を数値化して誰 が何をやるかをきちんと決めた上で早め早め に取り組んだことが好結果につながった」と 振り返る。
在庫削減目標を上積み  今年の一月からは、別の取り組みも開始し ている。
一三二品番のうち海外から調達して いる部材を除く八七品番をターゲットに、サ プライヤーの協力を得てJIT納入を拡大す ることにした。
これまでに五〇品番について、 サプライヤーからJIT納入の同意を得るこ とができたという。
 また、福島工場が調達している海外向け部 品の見直しも行う。
現在は海外工場で使う部 品の一部を福島工場が調達し有償で提供して いるが、今後は現地で部品を調達する方法に 変えていく。
これによってさらに在庫圧縮を 図る考えだ。
 このような取り組みによって下期は一八四 〇平方メートルのスペースを新たに生み出せ る見通しだ。
これを有効活用してさらに生産 革新やコスト削減を進めている。
まず、部材 や中途組み立て品に続いて、外部保管してい た金型設備を工場内に移した。
社外に一部を 委託していた生産も取り込んだ。
 さらに今後は製品の組み立てを行うための キッティング工程を取り込んでいく。
これま では納入された部材をいったん倉庫に保管し てからピッキングを行い、ラインサイドへ供給 していた。
これからは納入時に一台の製品を 組み立てるのに必要な部材をそろえるキッテ ィング作業を行い、早めにラインに供給でき るようにする。
また梱包資材のキット化も進 め、生産に同期化して資材を準備する形に変 えていく計画だ。
 福島工場では棚卸し在庫削減の年間目標 を、当初の五〇%から 三分の一まで引き上げ て意欲的に取り組んでいる。
「ムダ取り活動を システムとうまく融合させながら地道に進め て目標を達成していきたい」と川田課長は抱 負を語る。
 〇八年下期には日本とタイに続いて中国の 工場でもSAPが稼働し、販売と生産のシス テムが完全に統合される。
グローバル・オペ レーション・センターでもある福島工場が生 産改革に予想以上の成果を上げたことで、同 社のサプライチェーン改革に弾みがつくことは 間違いない。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 生産センター製造統括部の 川田昇治ムダ取り推進課長

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