ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年4号
ケース
ビジネスモデル ヒラキ

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APRIL 2008  54 ビジネスモデル ヒラキ 「180円スニーカー」支える格安物流 中国物流園区活用し国内在庫を抑制 大量発注、直輸入、大量販売  ディスカウント通販のヒラキ(本社・神戸 市中央区)の名物商品、一足一八〇円のスニ ーカーが二月に復活した。
初代「一八〇円ス ニーカー」は販売累計五六五万足(今年一月 末時点)を記録したが、材料費の高騰などで コストが上昇したため、昨年一月に生産を中 止していた。
 しかし、採算性は厳しくても一八〇円スニ ーカーはヒラキの象徴だ。
再挑戦を決め、靴 ひもなしのスリッポン仕様に変更するなどコ スト削減の工夫を施し、一方ではクッション 性を高めるなど機能性も充実させて「新一八 〇円スニーカー」を仕上げた。
この春夏期で は二五万足を用意している。
 ヒラキの創業は一九七八年。
「靴のヒラキ」 の称号で、格安の靴や衣料品をメーンに食料 品なども扱う総合ディスカウントショップを神 戸市西区に開店した。
その後、兵庫県内に三 店舗を出店するのと並行して、通販事業に進 出。
大手小売店や量販店を対象に自社企画製 品の卸販売にも乗り出した。
昨年は中価格帯 婦人靴中心の専門店と専用の通販サイトも開 設し、商品ラインナップを広げている。
 二〇〇一年十一月に販売を開始した一八〇 円スニーカーが同社の成長のきっかけとなっ た。
以来、通販事業を原動力に業容を拡大し てきた。
〇五年三月期には同事業の売り上げ は店舗販売を超え、〇七年三月期では連結売 上高の五〇・三%を占めている。
〇六年十一 月には念願の東証二部上場も果たした。
 〇八年三月期の売上高は二五〇億円と過 去最高を更新、四期連続増収を見込んでいる (図1)。
ただし利益率では苦戦している。
〇 六年三月期と〇七年三月期はクレジットカー ド事業からの撤退に伴う特殊要因などがあっ たが、これを除けば営業利益率はそれぞれ五・ 九%を確保していた。
これに対して〇八年三 月期は原材料費や中国での人件費上昇、広告 宣伝費の増加などにより、三・四%に低下す る見込みだ。
翌〇九年三月期は若干持ち直し て三・九%収益性の改善は大きな課題となっ ている。
 同社の自社企画製品の主力価格帯は一八〇 円〜二〇〇〇円前後。
一八〇円スニーカー以 外にも、ビジネスシューズ九八〇円、子供靴 三八〇円など低価格化を徹底している。
さす がに新一八〇円スニーカーの利益はないに等 しいが、自社開発商品全体では五〇%の粗利 益率を確保している。
 格安の価格設定ながらも利益を出す仕組み のキモは、大量発注、直輸入、大量販売にあ 「180円スニーカー」の大ヒットで知られるヒラキ。
靴を中心に衣料品や日用雑貨品などの格安商品を カタログやネットを使って販売する東証二部上場企 業だ。
商品の大部分は中国の工場に生産委託した 自社開発商品。
現地の保税物流園区の機能を活用 し、割高な国内物流を回避している。
梅木孝雄専務執行役員 55  APRIL 2008 る。
自社で企画・開発した製品を海外の生産 委託工場に大量に発注して原価を抑え、中間 業者は一切介さず直輸入。
自社店舗、通販、 卸販売の三つのチャネルを通じて大量販売す る独自の一貫体制を構築している。
 大量生産には常に売れ残りのリスクがつき まとう。
直輸入では返品も不可能だ。
ここで 複数の販売ルートを持つことが効いてくる。
通 販で売れ残りが出ても、総合店、専門店、卸 販売を通じて処分販売し、在庫をさばくこと ができる。
自社開発商品は粗利益率が高いだ けに値下げ余地も大きい。
 商品の九五%、特に靴では九七〜九八%を こうした直輸入品が占めている。
今後はベト ナムなど東南アジアからの調達も拡大するが、 現在、大部分は中国の委託工場で生産してい る。
低価格を打ち出すため、二〇年をかけて 内陸部を含めた中国全土で委託工場を開拓し てきた。
 現在継続的に取引関係にあるのは一五〇〜 一七〇社。
ヒラキの梅木孝雄専務執行役員営 業本部長兼靴事業推進部長(取材時の役職) は「工場を見つけては育成し、緊密な協力関 係を構築してきた」と語る。
もともとヒラキ は靴の部品メーカーを前身とする。
その知見 も生かし、現地工場に生産コスト低減と品質 管理を徹底させた。
人海戦術で二〇〇〇万点を出荷  靴や衣料品にはサイズ・色展開があるため、 ヒラキのSKUは四万八〇〇〇にも上る。
そ の物流管理にも低価格戦略に基づく“ヒラキ 流”を徹底している。
商品単価が低い分、売 上高に占める物流コストの比率は同業他社と 比べて高くなる。
それだけに物流の合理化に かかってくる部分は大きい。
 物流はすべて自社で管理し、国内物流セン ターも自社で所有し運営している。
中国から 輸入した商品は兵庫県朝来市の生野事業所の 物流センターに集約保管し、通販顧客、卸販 売顧客、自社店舗に出荷している。
 センター運営ではクイックデリバリーを重視 し、出荷の作業効率向上に力を注ぐ。
ただし、 効率化は自動倉庫やマテハン機器などの機械 化によるものではない。
人の力を最大限活用 するという基本方針に立っている。
機械の判 断は一方向、一通りだが、人は即座にいく通 りもの複雑な判断ができるという考え方だ。
 メーンとする通販事業には毎年四〜六月と 一〇〜十一月頃をピークとする物量の季節変 動がある。
これまでの一日当たりの出荷件数 は最高一万四〇〇〇件だが、閑散期には五〇 〇〇件を割ることもある。
「出荷場に機械を 入れても稼働率が変動し結局フル稼働はしな いため、費用だけかかって効率はそれほど上 がらない。
スペースもとるため、むしろセン ター全体の効率が落ちてしまう」と梅木専務。
このため、“人海戦術”をとり、出荷の変動 に応じて人員を投入することでピーク時の膨 大な出荷量をこなしている。
 〇六年度の通販出荷件数は前年度比五% 増の二一二万一六九二件。
一件当たりの出 荷点数は一〇〜十一点のため、点数では一八 七九万点に達する。
その出荷場は倉庫 面積約一万七〇〇 〇坪の第一センタ ー内のワンフロア に置いている。
こ こでは、誤出荷を 防ぐためピッキン グした商品と出荷 伝票の照合にデジ 第一センター。
敷地は1万坪 05年3月期 06年3月期 07年3月期 08年3月期(見込み) 09年3月期(計画) (単位:百万円) 売上高 営業利益 純利益 営業利益率 22,493 1,346 143 6% 23,839 1,159 684 4.9% 24,735 1,115 454 4.5% 25,000 850 320 3.4% 25,500 1,000 370 3.9% 図1 連結業績の推移 180円スニーカー(左)と480円のキッズスニーカー。
バリエーションも豊富 APRIL 2008  56 いう変則的な運用になっている。
製品を搬入 した時点では増値税の還付手続に入れず、製 品が実際に海外に持ち出されて初めて、手続 が可能になる。
このため、保税区に製品を保 管すれば保管期間の分、生産工場への増値税 の還付時期は遅くなり、キャッシュフローに 負担がかかってしまう。
 加えて、工場側が製品を保税区に搬入する 際には専用車両を使用することが義務付けら 管することで、物流センター全 体の生産性を上げた。
 国内での在庫保管、倉庫整備 は負担が大きい。
「この段階で 抑えたい」と梅木専務。
しかし、 売り上げ増に伴い仕入量は拡大 している。
このままいけば保管 量の増加にセンターが対応でき なくなる事態も想定される。
そ こで進めているのが、中国への 在庫移管による国内在庫の削減 だ。
海外での生産・保管はリー ドタイムが長くなるリスクもあ るが、国内で一〜二カ月分の在 庫を持つことで回避している。
 取り組みを始めたのは〇二年 六月。
深圳の福田保税区に倉 庫を設置し、製品保管を開始し た。
ところが、中国の「増値 税」制度のために委託工場の負 担が大きくなり、〇四年七月に 利用を停止することになってしまった。
 中国では物品の販売や加工、輸入などに増 値税が課される。
日本の消費税とほぼ同様だ が、基本税率は一七%と高率だ。
ただし、輸 出品の場合は部材購入で支払った仕入増値税 が還付や控除の対象になる。
還付率は品目に よって異なり、靴やアパレルは現在十一%だ。
 保税区は基本的に外国と見なされるが、輸 出に伴う増値税還付については内国扱い、と タルアソートシステム(DAS)を使っている が、ピッキング作業自体には機械は使用せず、 すべて人の力で行っている。
 社員は常駐していない。
約二〇〇人のパー トが現場を取り仕切り、自ら工夫を凝らして 効率を上げてきた。
ものの置き場、通路の通 行方向など出荷場全体のルールを決めた上で それぞれが目標を持ち、改善を日々続けてい る。
成果は職能給で報いられるためやりがい もあり、自発的な改善が続くといった好循環 になっている。
 今後はJANコードによる商品の庫内移動 の管理強化も計画しているが、「機械や情報 システムの導入は、効果が上がる部分に限定 する。
重装備な機械化は考えていない」と梅 木専務はいう。
中国への在庫移管を開始  生野事業所では昨年十一月、卸販売事業の 拡大に向け、倉 庫面積約二五〇 〇坪の第二セン ターを開設した。
また、これまで は第一センター に卸販売商品と 通販商品が混在 していたが、こ れを改め、それ ぞれ集約して保 第二センター。
敷地は3800坪 カート1台分の容積に合わせ出荷リスト1枚に注 文がまとめられている。
積み方にも工夫。
通販の出荷オペレーション 読み込み待ちのカート。
混雑を避けるため、皆 でルールを作り、置き方を決めている。
カートに商品をピッキングしていく。
熟練者は 歩き方、ものの持ち方から違うという。
DASにより、伝票と商品を照合。
1時間で400 件が読み込み可能。
57  APRIL 2008 れ、積み替えも必要という運用がされていた。
こうしたコストもあったため、保税区利用を 見直し、中国での在庫保管はいったん中止す ることにした。
 中国での在庫保管を再開したのは〇五年。
保税区利用の停止後、中国での保税物流の状 況が変わった。
中国政府は〇三年、自由貿易 区を整備する「保税物流園区」構想を打ち出 した。
第一号として上海外高橋保税物流園 区の設立が認可され、〇四年に同園区が開業。
これに続いて大連、天津、青島、寧波、張家 港、厦門、深圳でも物流園区の設置が決まり、 順次稼働していった。
物流園区の“みなし輸出”を活用  物流園区には保税区と同様の優遇措置が 講じられている上、これまでの保税区にはな いさまざまな機能が認められている。
最も大 きいのは、区内への搬入が輸出とみなされる “みなし輸出”。
物流園区に貨物を持ち込んだ 時点で増値税の還付手続ができる。
 これを受けてヒラキは、〇五年九月、まず 上海の物流園区に倉庫を設置した。
上海から の輸送が輸入全体の四四・八%を占めるため、 まず上海での合理化が必要と考えた。
次は三 三・八%を占める華南地区。
昨年七月、深圳 の物流園区に倉庫を開設した。
上海、深圳と もに大手船社OOCLの兄弟会社OOCL ロジスティクスの大型倉庫を流通量に応じて 利用している。
 物流園区での拠点設置には、もう一つの狙 いもあった。
貨物の混載出荷だ。
以前はアイ テム数が少なく、アイテム当たりの販売量が 多かったため、工場一社からの一回当たりの 輸入量はコンテナ単位だった。
しかし、その 後アイテム数を増やしたことで、工場からの 出荷の小ロット化が進んだ。
 これに伴い、輸入コンテナの積載効率の低 下というムダが発生するようになった。
コン テナ本数とトータル運賃、作業量が増加して しまった。
そこで、物流園区倉庫での混載を 進め、〇六年度までに積載率を八八・一%に 引き上げた。
〇七年度も積載率は順調に推移 している。
〇八年度は九〇%以上、将来的に は九五%が目標だ。
 混載により、国内物流センターでのオペレ ーション負担も軽減できた。
工場からコンテ ナが直送される場合、サイズ・色別に商品が 詰められていないことも多い。
しかし、物流 園区では日本からの積み合わせの指示に基づ きバンニングする。
国内センター側で、コン テナ内の各SKUの位置を把握しているため、 入庫したコンテナのデバンニング作業の負担が 減った。
 「物流園区の使い勝手は今のところ非常に いい」と梅木専務は評価している。
実際、物 流園区の利用は、国内在庫の三〇%抑制と いう大きな効果を生み出した。
コンテナの積 載率向上により、輸入コンテナの本数も抑え られた。
単純に売上高と比較すると、〇七年 度の売上高の増加率一・一%(見込み)に対 し、〇七年度のコンテナ本数は三一〇〇TE U(同)と前年度から一・六%減少する。
 一八〇円スニーカーなどの商品は間接費の 上乗せが難しいため、工場から日本に直送せ ざるを得ない。
しかし、それ以外については 物流園区倉庫への集約を推進し、物流園区を フル活用していく方針だ。
貨物量が増加して いる青島でも、物流園区倉庫の設置計画を進 めている。
このほか、通関などのオペレーシ ョン上のハードルは高いが、ピッキング作業の 中国移管についても検討していく。
 ヒラキでは、物流管理はすべて物流部が行 っている。
以前は通販、卸販売といったそれ ぞれの事業部で物流管理機能を持っていたが、 これを物流部に集約し、各事業部は営業に集 中する体制に改めた。
さらに今年四月一日付 のカンパニー制導入では、物流部を本部機能 の一つとし、名実ともに全社の物流部門に位 置付けた。
 今後も物流部は合理化を進めていくが、自 社の物流を行うだけでは頭打ちになりかねな い。
競争力を一層向上していくため、物流業 への進出も視野に入れている。
四月一日、通 販カンパニー社長兼物流部長に就任する梅木 専務は、「将来的には、これまで培ってきたノ ウハウを生かして外部からの物流も受託して いきたい。
物流部が、物流カンパニーとして 独り立ちできればと考えている」と将来像を 描いている。
         (梶原幸絵)

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