2008年4月号
海外Report

補修用部品のSCM改革に着手ネット利用で二四時間対応可能に

APRIL 2008  42  船舶用エンジンメーカーのバルチラ社では、二億アイテムを超える補修用部品を管理して いる。
地盤とする欧州各地の工場隣接型倉庫の他に、中東、米国、アジアの自由貿易区 域にそれぞれ補修用部品の専用拠点を設置。
ネットで受けた注文の処理を時間帯に応じて 各エリアの拠点に振り分けることで、年三六五日・二四時間体制で補修用部品を世界各地 に供給する仕組みを作り上げた。
同社のサービス部門を管理するドナル・リンチ副社長が その取り組みについて語る。
       (取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州サプライチェーン&ロジスティクス会議? 補修用部品のSCM改革に着手 ネット利用で二四時間対応可能に フィンランド・バルチラ社 製造からソリューションへ  当社は、フィンランドの首都ヘルシンキに本 社を置いています。
前身となる二つの会社は、 いずれも一九世紀に設立されました。
一つは 製材工場の建築業者で、もう一つは窯業の会 社でした。
その二つの会社が一九九〇年代に 入って合併して、バルチラができました。
現 在、二ストローク、四ストロークといった船舶 用中型エンジンの分野では、四〇%以上の市 場占有率を持つトップ企業となりました。
 二つの企業が合併した後もM&A(企業買 収)や事業部門の売却を通して、事業の拡大 と再編を続けています。
私自身、四年前にバ ルチラに入るまでに、いくつかの企業でサプ ライチェーン業務に取り組んできましたが、こ の会社ほどM&Aに積極的な会社を知りませ ん。
例えば最近買収したのは、エンジンのピ ストンの修理において高いノウハウを持つ従 業員七人の会社といった具合です。
 しかし企業を買収するということは、その 企業のノウハウだけでなく、取引のあるベン ダーや3PL企業との関係も引き継ぐことに なりますので、サプライチェーンの最適化を 図るうえでは、さまざまな困難が生じてきま す。
その問題については、後でお話しするこ とにします。
 当社にとって、サプライチェーンの最適化 を考える上で優先順位が高いのは、工場での 調達に関するインバウンドのロジスティクス業 務よりも、補修部品のロジスティクス業務で す。
それは現在三二億ユーロ(五〇二四億円) 近くある当社の売り上げのうち、販売後のサ ービスを提供する部門の売り上げが全体の四 〇%を占めていることからもわかります(図 1)。
 バルチラは、販売したエンジンを最後まで サポートすることを同業他社との重要な差別 化要因と見なしています。
そういう意味では、 当社の本業はエンジンの製造業から、トータ ルソリューションの提供に変わってきたという ことができます。
 サービス部門の一つの柱となる補修部品の 供給については、革新的なサービスと、サー ビスの地理的範囲の拡大を主眼に置いて業務 の改善を進めているところです。
当社は「一 年三六五日、週七日、一日二四時間」、補修 部品を供給できる体制づくりを進めています。
 当社が最も大切にしているのは、エンジン を販売した後も、エンジンが常に稼働した状 態を保つのは当社の責任だという考え方です。
それを実現するには、効率的でしかも低コス トのサプライチェーンを整えることが必要にな ります。
アジアに二拠点開設  これまで三年かけて、補修部品のサプライ チェーンの改革に取り組んできました。
以前 は部品の在庫は、欧州に七カ所ある生産工場 に隣接する倉庫で抱えており、主にそこから 出荷していました。
それまでも米国テキサス 州とアラブ首長国連邦のドバイの二カ所に補 修部品専用センターを構えていました。
しか 43  APRIL 2008 しそれだけでは、顧客の要望に迅速に応える ことができないと判断しました。
 この判断は当社が二〇〇六年に行った顧客 とベンダーの動向調査に基づくものです。
調 査によれば、補修部品の四五%は欧州域内の 港に向けて発送され、別の四五%はアジアの 港に向けて発送されているのがわかりました。
それまでの欧州中心の在庫の配置では、市場 の変化についていけないことがわかったので す。
 加えて、部品ベンダーの中で、韓国や中国、 日本といった極東の国々の割合が増えている こともはっきりしました。
そこで、〇六年以 降、韓国の釜山とシンガポール、米国のフロ リダ州の三カ所に補修部品専用のセンターを 新設しました(図2)。
 韓国のセンターは延べ床面積が二〇〇〇平 方メートルで、主に二ストローク型のエンジン の部品を在庫しています。
センターには一〇 トンクレーンも据え付け、当社の従業員とし ては、二人のエンジニアを含む五人を配置し ています。
輸送などのロジスティクス業務は 現地の3PL業者であるテナム社に外注して います。
作業員の増員が必要な時は、テナム 社の協力を受けます。
このセンターに入庫し てくる部品の大部分は韓国、中国、日本とい った国で作られたものです。
 シンガポールには、二ストロークと四ストロ ーク型のエンジンの部品を在庫しており、立 ち上げ時と比べると一年半の間に出荷量は八 倍にも増えました。
米国では、従来からテキ サス州に部品専用センターを持っていました。
それに加えてフロリダ州にも新たに部品専用 センターを作ったのは、フロリダには多くの 客船が運航しており、そうした顧客により近 い立地に部品の在庫を持つことが必要だと考 えたからです。
 当社の補修部品専用センターの一つの特徴 として、いずれも自由貿易区域(Free Trade Zone)に作られていることを挙げることがで きます。
これは最初にテキサス州のセンターを 立ち上げた時から一貫しています。
 自由貿易区域にセンターを持つことは主に 二つのメリットがあります。
一つは関税がか からないこと。
例えば、テキサスのセンターで 仕分けして出荷するときでも、外国籍の船や 海外に向けての部品には課税されません。
ま た通関業務が不要なことから、税関が閉まっ ているときでも荷受けができるのでその分客 先までのリードタイムを短縮できます。
図1 バルチラ社の概要 31% 6% 舶用部門 エンジン部門 61% サービス部門 40% サービス部門 29% 発電機部門発電機部門 売上高に占める部門別の割合従業員数に占める部門別の割合 31億8900 万 ユーロ 舶用部門 31% 1万4346 人 16% 図2 倉庫と補修部品専用センター オランダ ノルウェー フィンランド スウェーデン フランス イタリア アラブ首長国連邦 ドバイ 米国フロリダ州 韓国・釜山 シンガポール スイス 米国テキサス州 倉庫 補修部品専用センター APRIL 2008  44 3PL企業の集約が課題  補修部品のロジスティクス業務の難しさの 一つは、そのアイテム数の多さにあります。
五 〇年前に販売したエンジンの部品から、最新 式のエンジンの部品までを常に在庫しておく 必要があるのです。
網羅するエンジンの種類 は五〇を超え、必要となる補修部品のアイテ ム数は二億を超えます。
 ただし、その中で常時動くのは一五万アイ テムにすぎません。
五カ所の補修部品専用セ ンターには、そうした動きの速い部品を置い ています。
サプライヤーからの部品の納入に は平均で九〇日かかりますが、顧客からの発 注には数日中に応えなくてはならないことも 業務を難しくする一つの要因になります。
 在庫が過去五年間、一〇年間、動かなか ったからといって処分することはできません。
動きの遅い部品は、その分を料金に上乗せし ているので、そうした部品の発注がかかれば、 非常に利益率の高い取引となるからです。
 しかし、ほとんど動かない部品の注文が あると、まずその部品を探し出すまでに時間 がかかってしまいます。
例えば一〇年も動か ない部品となると、情報システムの統合以前 のこととなり、社内に書類が残っていません。
そうした場合、社内でそのエンジンの製作に 携わった人間を見つけて、それを手掛かりに 部品を探していかなければなりません。
現場 にとっては非常に根気のいる仕事となる一方、 どうしても作業に時間がかかってしまいます。
 そうした動きの遅い部品の作業負担を軽減 するために、それまで欧州各地にバラバラに あった在庫の集約を始めました。
その第一弾 として、それまでフランスやスイスにあった在 庫をオランダにある倉庫に集約しました。
オ ランダの倉庫を選んだのは、大きな港や空港 に近いという立地を勘案してのことです。
 オランダの倉庫では、補修部品のスペース を拡張して、最新式のマテハン機器やパレッ ト用のラック、ソフトウェアを導入しました。
その結果、オランダの倉庫で補修部品をカバ ーするエンジンのタイプの数は、七種類から 四二種類に増え、在庫のアイテム数も四倍に 増えました。
週当たりの出荷件数は八〇〇〇 件を超えるようになりました。
そこでは一〇 〇人の従業員がロジスティクス業務に携わっ ています。
今後は、フィンランドやノルウェー、 スウェーデンの在庫についても同様に集約し たいと思っています。
 補修部品のサプライチェーンにおいて、今後 さらなる見直しが必要となるのは、サプライヤ ーと3PL業者との取引についてです。
M& Aを繰り返して大きくなった企業の常として、 取引のあるサプライヤーと3PL企業の数は どうしても多くなります。
部品のサプライヤ ーは四三〇〇社に上り、3PL企業は一六〇 社となります。
 3PL企業については、DHLやTNT、 キューネ+ナーゲルといった大手と取引がある のはもちろんのこと、地域ごとに異なる3P L企業に輸送業務を委託しています。
当社に とって3PL企業の数を絞り込むことが必要 なのは明らかですが、その方法として、複数 の3PL企業を束ねる4PL企業に業務を外 注するのか、それとも自社で3PL企業を束 ねていくのかを検討している段階です。
 ロジスティクスにかかるコストを引き下げる ことは、当社にとっても顧客にとっても必要 なことです。
しかし、補修部品という性格上、 緊急に対応しなければならない注文も少なく ありません。
例えば、乗客二〇〇〇人を乗せ た豪華客船のメインエンジンが故障すれば、一 刻でも早く補修部品を届ける必要があります。
 一週間の出荷件数は平均すると二万件とな りますが、このうち一割強の出荷が、そうし た一刻を争う性格のものです。
合計の重量で は二〇〇トン近くに上ります。
こうした注文 の輸送には、航空便や国際宅配便を使ったり、 必要があれば飛行機やヘリコプターをチャータ ーすることもあります。
 緊急でない貨物の場合も、航空便を使うこ とが多く、海上輸送は、時間をかけて修理を 行うプロジェクトや、重要部品の在庫補充に 使うことに限られてきます。
時差を利用して二四時間対応  当社が現在力を入れているのは、インター ネット上での受注です。
「スペア・オンライン・ サービス」と「ELDOCオンライン・サー ビス」という二つのサイトにアクセスすれば、 部品を注文できるようになっています。
二つ のサイトがあるのはネットの習熟度によって、 45  APRIL 2008 ンターを持つようになったことで、その間の 時差を利用できるようになりました。
すると 各センターでは八時間労働であっても、三交 代制となり、顧客からみれば二四時間体制と なるのです。
 例えば、太平洋を上海に向けて航行中の米 国籍の客船が、サブのエンジンに故障を発見 したとします。
ネットが接続可能なら、船の 上からでも、あるいは船会社の本社からでも 部品を発注することができます。
当社はその 注文を受けて、シンガポール、あるいは釜山 で部品の在庫を探し、船の到着に合わせて部 品を上海に配達し、さらに必要とあればエン ジニアを派遣することもできるようになった のです(図3)。
上級者向けと初級者向けに仕様を変えている からです。
サイトには、補修部品のカタログ があり、そこから必要な部品や部品の仕様書、 部品の交換の際のマニュアルを見ることがで きます。
 そこから簡単に部品が見つかれば発注する ことができますが、故障個所に対応する補修 部品がわからない場合は、故障した状況をメ ールで送ることで、当社のエンジニアが必要 な部品を探し出すというサービスも提供して います。
またサイトには、発注した部品の貨 物追跡が可能なので、リアルタイムで情報を 手にすることができます。
 オンラインの発注に対しては二四時間体制 で対応しています。
欧州とアジア、米国にセ 1ユーロ= 157円 図3 世界中いつでもどこでも対応  指定納品場所 配達 釜山の センター 米国の 船会社本社 発注 発注 在庫確認

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