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座談会「運賃相場を読む」
大手荷主と元請けが回答
本誌編集長(司会) 今回の調査結果をどう読むか。
トータルのざっくりした数字としては、二トンが二万
三〇〇〇円、四トンが二万八〇〇〇円、一〇トンが
三万九〇〇〇円。 一五トンが四万四〇〇〇円。 これ
が現在の相場という結果になったわけだが実感とし
てはどうか。
黒澤明ロジスティクス・サポート&パートナーズ社長
(以下・黒澤) ドンぴしゃだろう。 我々が日頃見聞
きしている実勢相場を正確に反映している。
中根治ロジスティクス・サポート&パートナーズ専務
(以下・中根) 値上がり基調が実証された。 運送業
の現場は既に困窮し切っている。 廃業も増えた。 地
域によっては運送会社が見つからないところさえ出
てきている。 需給は既に逆転している。 少なくとも
底は打ったという実感通りの結果になっている。
黒澤 前回調査から現在までの、この三年間で運賃相
場がターニングポイントを迎えたのは確かだろう。 今
後、運賃は上がっていく要素しか見あたらない。
司会 結果の詳細を見ていく前に、調査概要を整理
しておこう。 まず今回のアンケート項目は継続性を考
慮してカサイ経営の使用していたフォームを完全に踏
襲しながら、いくつか新しい設問も加えた。 また回
答数自体は前回調査の一六〇社から二四六社と大幅
に増えているけれど、アンケートの回答者は、本誌
の読者が中心であるため前回までとは大きく顔ぶれ
が異なる。 これは考慮に入れておく必要がある。
黒澤 カサイ経営の調査は、河西先生が旭硝子出身
で素材型メーカーに強かった関係で、ガラスや紙、化
学といった素材系メーカーの回答者が多かった。 それ
に対し今回は全業種に満遍なく回答者が分布してい
る。 その違いはやはり結果にも影響している。 ただ
し、今回のほうが全体のバランスがいいし、母数が
多いために信頼性も高いと考えていいはずだ。
中根 また今回は食品関連の荷主が二四社ある。 ほ
かに食品を扱っている卸や小売りも相当数入ってい
る。 次回の調査では、定温輸送の実勢運賃も調べら
れるかもしれない。
本誌記者 具体的な回答者の属性としては、荷主は
売上高一〇〇億円以上。 「一〇〇〇億円以下」とい
う括りでも実際には五〇〇億円以上がボリュームゾー
ンになっている。 一方で五〇億円以下の回答者も全
体の三分の一を占めているが、ここは運送業がほと
んど。 運送業で数十億円あれば、地方では中堅以上。
つまり大手荷主と元請けが今回の回答者だ。 年間の
支払い運賃にもそれは表れている。
3PL導入は道半ば
司会 次に「採用している運賃制度」(図1)。 これ
は「届け出運賃(距離制)」「エリア/距離制」「個建
て」が三分の一ずつ。 「時間制」は九・六%と、思っ
たよりも少ない。
中根 時間制や「件数建て」は小売業のルート配送
や、現地で据え付けがあってユニック車(荷物の積み
卸し用のクレーンを装備した車両)を必要とするよう
な、距離では効率を測りにくい輸送に限られる。 また
今回のアンケートでは回答の選択肢になかったが、小
売りではセンターフィーと同じで通過金額に対するパ
ーセンテージで運賃を計算しているケースもある。 恐
らくそれは今回、個建てとしてカウントされているは
ずだ。
司会 協力運送会社との契約では「本社一括契約」
と「拠点・部署ごと契約」が、ほぼ真っ二つに分か
マクロ的なトレンドを知るだけでは足りない。 運賃相
場情報を実務に役立てるには、数字の背景まで読み込む
必要がある。 今回の調査から見えてきた市場の実態を、
本誌とともにデータ分析を担当したロジスティクス・サ
ポート&パートナーズの二人と議論した。
APRIL 2008 16
第2 部
ロジスティクス・サポート&パートナーズ 黒澤明 社長、中根治 専務/本誌編集部
れた(図2)。
黒澤 回答者が大手中心であることを考慮に入れる
と、本社一括契約が少ない気がする。 思ったほど3
PL的、元請け的なアウトソーシングが進んでいない
という印象だ。
本誌記者 そこは数字の内訳を見るとはっきりとし
た傾向があって、メーカーはほとんどが本社一括。 拠
点・部署ごとに契約しているのは卸や小売り。 業態
が契約形態に大きく影響している。
司会 「協力運送会社の数(図3)」は一〇社以上が
多い。 六社以上で全体の六割以上となっている。 一
方で一社に集約している会社も五・三%ある。
黒澤 全国一律で一社に集約するというのは、現実
にはまだ難しいだろう。 しかし「二社〜五社」「六社
から一〇社」辺りは地域別に見れば一社に集約して
いる可能性がある。
司会 「物流業務・費用の管理組織(図4)」として
は、本社物流部や物流子会社など全社横断的な管理
部門を設置しているケースが最も多かった。
本誌記者 それでも「事業部門・営業部門が管理」
というメーカーも依然として多い。
中根 小売りの専用センターを運営する卸や運輸業
は物流自体が仕事だから業態として「各拠点単位で
管理」にならざるを得ない。 「経営者が直接管理」と
いうのもそうだ。
特積運賃──昭和六〇年タリフに集中
司会 それでは具体的に特積み運賃から見ていこう。
現在は全体の半数近くが昭和六〇年タリフを使ってい
る。 昭和五五年や五七年はほとんどなくなった。 逆
に平成六年、十一年は増えている。 ちなみに特積み
の相場を金額ベースに換算して前回の二〇〇五年調
査と比較すると、今回は四・一ポイント値上がりし
たことになる。
中根 平成十一年タリフを使っていると答えた回答
者は実は運送業に多い。 ひょっとすると鉛筆を舐め
たのかも(笑)。 一方で昭和五五年と五七年の極端に
低い運賃も運輸業が多い。 一般の荷主はやはり六〇
年に集中している。
本誌記者 国交省の貨物課に取材したところ、現在、
運送会社が届け出ている運賃は大部分が平成二年タ
リフの水準だそうだ。
黒澤 届け出と実態はだいぶ乖離している。 もとも
と届け出は運送会社が欲しい運賃であって実勢より
も高めになる。
時間制運賃──名古屋地区が突出
司会 次に時間制運賃。 二トン車だけは前回の二万
二九一七円から今回は二万二五一六円と若干下がっ
たものの、四トン、一〇トン、一五トンはいずれも
かなり上がっている。 実数を上げると四トンが二万
七八一一円で一〇六七円増、一〇トンが三万八七六
〇円で三四二二円増、一五トンに至っては四万九八
八七円で六三六二円増だ。
本誌記者 ただし時間制運賃に関しては注意が必要
だ。 時間制は八時間換算で運賃が設定されているが、
超過分の追加料金は実際にはもらえていないことが
多い。 つまりサービス残業になっている。 加算運賃
をどれだけカウントしているかによって運賃の意味
も変わってくる。 二トン車の微減というのも実態は
分からない。
黒澤 確かに残業代をそのままもらえるのであれば、
運送会社もおいしい商売だ。
中根 それでもまともなメーカーでは、ちゃんと残業
17 APRIL 2008
届出運賃
30.3%
個建て
27.0%
件数建て
6.8%
時間制
9.6%
エリア/距離制
26.3%
図1 採用している運賃制度図2 本社一括契約 VS 拠点・部署ごと契約図3 協力運送会社の数
1 と2 が混在
0.5%
1. 本社で一括契約
52.3%
1. 本社で一括契約
52.3%
2. 拠点・部署
ごと契約
47.2%
2 社〜5 社
27.2%
1社
5.3%
6 社〜10 社
23.2%
10 社以上
41.5%
なし 2.8%
分を支払っている。 最近はコンプライアンス(法令順
守)に敏感になってきているので、それが運賃相場
にも影響している可能性はある。
本誌記者 しかし、それはあくまでもメーカーと物
流子会社間の取引の話だろう。 元請けの取引と、そ
の下請けとの取引では全く違う。 運送会社から見る
と、荷主と直で取引きしている仕事については、も
ともと全く問題はない。 問題なのは業者間取引だ。
黒澤 地区別に見ると名古屋の値上がりが著しい。 特
に大型車。 名古屋の一五トンの運賃は五万二九五〇
円で他の地域と比べても突出している。 これはやは
りトヨタの影響だろう。 名古屋は事業者数も増えて
いるので競争は激しいはずだから、本来はもっと上
がっていいものが、今のところはこのレベルに抑えら
れているということかもしれない。
距離制運賃──短距離輸送が急騰
司会 距離制運賃では二トン・四トンの近距離輸送
が大幅に値上がりしている。 異常値の可能性も否定
できないが、「四トン・二〇キロメートル」は三年前
と比べて一七ポイントも上がっている。
中根 これまでが下がり過ぎだった。 小型車の近距
離輸送は、それこそ素人ドライバーを使って人件費を
極限まで絞り込んでいたが、それではもはや人が集
まらない。 まともな運賃をもらえなければ運送会社
としてもやっていけなくなっている。 開き直ってバン
ザイしている状態だろう。
本誌記者 卸や小売りの二トンや四トンはやりたく
ないという運送会社は多い。 一方の川上のメーカー輸
送では一〇トン、一五トンの幹線輸送が儲からない
と言われる。
黒澤 確かに卸の下請けは運賃が安い上に仕事が細
かい。 しかも色々と、うるさく言われる。
司会 逆に二トン、四トンの長距離は下がっている。
黒澤 そもそも小型車はせいぜい一五〇キロメートル
まで。 長距離には使わない。 あっても専用便ぐらい。
荷主もムダな使い方はしなくなっている。
中根 時間制運賃の二トンは横ばいだったのに、距
離制の二トンは少なくとも近距離については上がって
いる。 そして特積みタリフも上がっている。 これには
共同配送の影響もあるのではないか。 つまり近距離
の荷物を貸し切りで運ぶのではなく、個建ての共同
配送に流すようになっているのでは。
黒澤 実際、大都市圏の食品の共配は今や飽和状態
になっている。 積載率がいよいよ一〇〇%近くにな
り、これ以上荷物を増やそうとすれば、車両台数自
体を増やさなければならない。 踊り場にさしかかっ
て、共配からこぼれる荷物が出てきている。
司会 しかし、その踊り場を超えるのは容易ではな
さそうだ。 基本的に共配は荷主一社では満載になら
ない荷物を運んでいるわけだから、これからさらに
増やしていくには荷主が既に満載にできている荷物
にまで手を広げていかなければならない。
黒澤 当初対象にしていた荷物の隣接分野を取り込
んで物量を増やすというパターンはあり得る。 食品を
スーパーに納品しているのなら、そこに雑貨も乗せる
といった具合だ。 ただし、そうなると共配は限りな
く路線便に近づいてしまう。 他の商品と混載するこ
とを荷主は嫌うし、品質面で共配のメリットが薄れて
くる。
中根 そのため共配会社は車両数を増やすことをた
めらっている。
本誌記者 逆に一〇トン・一五トンを近距離で使う
ケースというのは。
APRIL 2008 18
図4 物流業務・費用の管理責任組織(件数ベース)
その他
本社経理・財務部門が管理
本社調達・仕入部門が管理
経営者が直接管理
事業部門・営業部門が管理
各拠点単位で管理
本社物流部・物流子会社など
独立したスタッフ部門が管理
0 10 20 30 40 50 60
65
33
32
26
7
4
30
70
黒澤明ロジスティクス・サ
ポート&パートナーズ社長
中根治ロジスティクス・サ
ポート&パートナーズ専務
中根 工場の横持ち輸送などだ。 定期運行に近い、バ
スのようなもの。 ここでは高齢者ドライバーの活用が
目立っている。
一〇トンと一五トンの運賃差が縮小
黒澤 一〇トンも一五トンも、五〇キロメートル以下
の近距離輸送が大幅にアップしている。 これは二ト
ン・四トンと同じ理由だろう。 これまでが安すぎた。
車種を問わず総じて近距離は上がっている。
司会 大型の長距離はどうだろう。 一〇トンの東京
→大阪が「八万一〇〇〇円〜三〇〇〇円」という結
果をどう見るか。
中根 現状では悪くはないレベルの運賃という印象だ。
黒澤 大手メーカーが元請けに支払う運賃の水準だ
ろう。 元請けが下請けに出す運賃はそれをずっと下
回っている。
本誌記者 一五トンの長距離に関しては、運賃がむ
しろ下がる傾向にある。
黒澤 車両総重量の規制緩和によって一五トン車の
普及が始まったのが一九九四年。 当初は台数も少な
かったため、他のトラックと比べて実勢運賃が高か
った。 一〇トン車の一・五倍とまではいかなくても、
それに近いレベルにあった。 しかし現在は一五トン車
が珍しくなくなってきているため、一〇トン車との
格差が縮まってきたようだ。
司会 減価償却の済んだ一五トンもそれだけ増えて
いるはずだ。
黒澤 そのために一五トンの月極運賃も前々回の六
年前の調査では一二〇万円以上だったものが、前回
は約一〇五万円、今回は一〇〇万円以下に下がって
きている。
司会 逆に一五トンが普及したことで一〇トンの運
賃が頭打ちになっているということも言えるかもし
れない。
中根 幹線輸送は軒並み大型化の傾向にある。 荷主
自身、車両の使い方を工夫するようになってきた。 単
に協力運送会社をたたくだけでなく、コストが下が
るように合理的に考えるようになっている。
中型免許制で四トンが上下に二分
本誌記者 これからは中型免許対応車が市場に出回
ってくる。 中型免許の上限となる六トン車だ。 これ
が運賃相場にどう影響してくるのか。
黒澤 中型免許が始まったのが昨年六月だから、実
際に影響が出てくるのは二〜三年後になるだろう。
中根 普通免許では四トン車に乗れなくなることで、
都市圏の集配や宅配は完全に二トンに流れる。
本誌記者 結局、現在の四トンが二トンと六トンに
分かれていく。
黒澤 とはいえ、四トンは現在の小型の主流。 これ
から一〇年は残る。 車両の代替えの時に少しずつ分
かれていく。
中根 現状でも二トンと四トンなら実勢運賃はほと
んど変わらない。 だから四トンを借りておいたほう
がいいという話はコンサルティングの現場でもよく出
てくる。 一〇トンと一五トンでもそれは同じ。
黒澤 それは運送会社から見ても同じで二トンは儲
けが薄い。 だったら四トンにしておこうとなって、二
トンの供給が足りなくなることもある。 店舗納品な
どは二トンしか使えない場所もある。 そのため二ト
ンと四トンの運賃が逆転することも珍しくない。
司会 車両ごとの需給も相場に影響するということ
だな。 次回の調査では六トンの扱いも検討すること
にしよう。
19 APRIL 2008
8,787 10,157 11,468 10,214 9,419 10,509 11,721
12,134 13,412 15,162 14,442 13,577 14,315 15,039
17,758 19,158 21,948 21,009 19,768 20,207 20,625
21,254 23,400 26,663 25,794 24,451 24,304 23,804
24,893 27,110 31,837 30,549 28,554 28,882 28,086
31,385 34,767 41,742 38,257 36,474 35,734 34,384
36,974 41,125 52,432 46,992 45,067 42,853 42,261
40,700 55,904 65,380 54,539 55,353 47,866 45,841
33,932 51,560 64,156 54,367 52,875 45,513 52,345
41,056 51,729 45,680 42,986 40,706 36,185
38,239 45,842 43,357 40,758 39,756 44,163
10,547 11,786 13,640 13,206 11,851 12,381 13,750
14,633 16,013 18,110 17,873 16,932 16,886 17,161
21,665 22,666 25,831 24,609 24,194 23,688 23,401
25,936 26,706 31,084 29,849 28,853 27,993 27,542
30,381 31,085 36,688 35,539 33,302 33,358 30,729
38,409 39,223 46,531 43,700 40,968 40,319 39,347
45,972 47,082 56,639 52,541 49,990 48,599 47,699
55,840 60,678 65,839 67,348 61,443 61,901 59,837
56,104 60,673 65,414 66,873 60,223 61,832 60,879
39,570 45,566 51,649 50,992 50,293 49,910 42,490
43,770 45,413 49,764 49,582 48,969 49,335 52,073
2トン車4トン車
20km
50〃
100〃
150〃
200〃
300〃
400〃
東京→ 大阪
大阪→ 東京
東京→名古屋
名古屋→東京
20km
50〃
100〃
150〃
200〃
300〃
400〃
東京→ 大阪
大阪→ 東京
東京→名古屋
名古屋→東京
車種 距離帯 S60 S63 H6 H10 H13 H16 H19
図5 普通車・距離制 実勢運賃の推移(全産業平均)
17,706 16,434 19,389 19,389 17,797 17,629 21,084
23,857 22,673 26,209 26,866 24,084 23,685 25,834
34,073 32,758 37,705 36,993 33,832 32,830 33,880
39,921 39,676 45,796 43,525 39,800 38,652 40,029
46,920 46,604 53,571 51,690 46,469 46,326 45,735
59,130 58,384 67,204 63,121 58,243 56,867 55,042
71,551 70,235 80,864 74,712 69,859 66,690 66,197
81,412 86,462 89,772 84,754 81,924 77,665 83,162
81,008 87,389 93,508 86,465 82,382 75,133 81,227
63,302 61,791 70,713 68,136 65,847 63,123 62,502
67,102 67,618 70,963 67,716 64,053 60,886 62,230
17,793 19,651 23,699
25,675 27,567 28,668
36,663 38,422 39,612
44,408 45,681 47,660
52,400 56,482 56,417
64,255 66,792 64,535
76,816 78,373 77,732
96,005 88,140 81,408
90,650 86,615 89,720
79,210 72,986 67,106
74,200 73,271 71,339
10
トン車
15
トン車
車種 S60 S63 H6 H10 H13 H16 H19
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