ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年4号
特集
トラック運賃2008 トラック運賃の基礎知識タ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

トラック運賃の基礎知識 タリフとは何か  荷主が現状のトラック運賃相場を知りたければ、 複数の運送会社に相見積もりを依頼すればいい。
た だし、各社の見積もりが揃っても、どの運送会社 を選ぶべきかを判断するのは簡単ではない。
極端に 高い見積もりを出してきた運送会社は論外としても、 極端に安い料金は、その信頼性が懸念される。
安い 運賃でも利益の出せる理由を確認できなければ、と ても仕事は任せられない。
 物流コンサルタントの河西健次氏(元カサイ経営 社長・故人)は生前、「見積もり金額の妥当性を判 断するには、荷主は自分の会社の運送原価を把握し なければならない」と、繰り返し主張していた。
し かし、実際に自社の運送原価を把握している荷主企 業は稀だ。
サービスを提供する運送会社自身、荷主 別の営業原価を把握していないことが珍しくない。
 トラック運賃は、荷主とトラック運送会社との交 渉で決まる。
そこでは実際の輸送条件以上に、お互 いの力関係がモノを言う。
合理的な主張が必ずしも 通るとは限らない。
原価計算にかけた手間は往々に してムダになってしまう。
しかも輸送条件は常に変 化し、輸送毎の原価を計算する手法や自動化ツール は確立されていない。
 そのため、荷主と運送会社の運賃交渉は、国土交 通省(旧・運輸省)が以前に公示していた「タリフ (標準運賃表)」を使うことが、いまだに業界の慣習 となっている。
タリフを基準にして、そこから何割 引するのかを折衝するのだ。
 一九九〇年まで、日本ではトラック運賃に認可制 が敷かれていた。
運送会社の規模や、荷主の物量を 問わず、誰もが運輸省の定めた公定料金で取引する ことが義務付けられていた。
ただし、強制力はなか った。
認可運賃の時代にも、実際の取引に公定運賃 が適用されるケースは、国や自治体など立場上ルー ルを無視することの許されない公共団体が荷主とな る場合に限られていた。
 もともとタリフは小規模トラック運送会社の輸送 原価を基にして設定されているため、調達力のあ る中堅以上の運送会社の実際の原価とは差があった。
荷主を獲得するために価格攻勢に出る運送会社は当 時から後を絶たず、荷主もそれを利用した。
認可運 賃はあくまで目安に過ぎなかった。
 九〇年の「物流二法(貨物自動車運送事業法と 貨物運送取扱事業法)」の施行によって、日本のト ラック運賃は認可制から事前届出制に移行した。
三 〇日前までに地元の運輸局に運賃表を届け出て、特 に問題を指摘されない限り、各社で自由に運賃を決 めて構わないという規制緩和だ。
実勢運賃が市況 によって左右されている市場の実態を行政が追認し た格好だった。
ただし、この規制緩和後も運輸省は 九九年まで届出運賃の基準として、運輸支局ごと に「通達」という位置付けで地域別のタリフを公示 していた。
 二〇〇三年四月、物流二法が再び改正され、運賃 制度は事前届出制から事後届出制に変わった。
運賃 の変更後三〇日以内に新運賃を届け出ればよいとす る制度で、届出後に行政から修正を指導される含み は残しながらも、事実上は運賃の完全自由化だった。
これに合わせて各地の運輸局によるタリフの公示も 廃止された。
しかし、タリフ自体は今日に至るまで 運賃テーブルとして生き残り利用されている。
 認可運賃時代から最後の平成十一年公示タリフま で、運賃水準は物価や人件費の値上がりを反映して、  荷主と運送会社との運賃交渉には一般に「タリフ」が使わ れている。
旧・運輸省が各地の運輸局ごとに公示していた標 準運賃表だ。
運賃が自由化された今もなぜタリフだけが一人 歩きしているのか。
それは、どのような体系になのか。
物流マ ンの基礎知識として押さえておく必要がある。
  (大矢昌浩) APRIL 2008  28 第5 部 数年に一度のペースで更新が行われている。
具体的 には、昭和五五年、昭和五七年、昭和六〇年、平 成二年、平成六年、平成十一年に新たなタリフが制 定され、毎回五%程度の値上げが実施されている。
それぞれのタリフは、その公示時期をとって「昭和 ○年タリフ」「平成○年タリフ」と業界では呼ばれ ている。
 公示タリフは基準運賃を境にして上下一〇%(平 成十一年タリフだけは上下二〇%)の幅を持ってい る。
この幅は、運送会社が国土交通省に運賃表を届 け出る際に、原価計算書の添付を省略できる範囲を 示したものだが、実際の運賃交渉でも「昭和○年タ リフの上限」、「平成○年タリフの下限」というように、 運賃水準を示す基準として用いられている。
運賃体系を整理する  平成十一年タリフに基づいて現行の運賃体系を 整理すると、トラック運送のサービス商品は大きく、 荷主が車両を専用で使用する「貸し切り(引越、特 殊輸送を含む)」と、荷物単位で輸送を委託する「積 み合わせ(特別積み合わせ便、宅配便を含む)」の 二つに分類される。
それぞれについてタリフが設定 されている。
 貸し切りのタリフには「距離制」と「時間制」の 二つの料金制度がある。
距離制は「使用する車両」× 「輸送距離(キロ程)」で運賃を計算する。
ベースと なる運賃とは別に、壊れやすい荷物や貴重品、危険 品などの特殊な荷物、休日や深夜・早朝などの輸送 には割増運賃が付加される。
その一方、一回の運送 距離が運送距離二〇〇キロメートル以上で三カ月以 上の長期契約は一五%以内、往復貨物は二〇%以内 の割引運賃が設定されている。
 工場出荷のように同じ種類の荷物を計画的に大量 に輸送する場合には、貸し切りであっても契約を個 建て運賃にすることができる。
その場合には、使用 する車両の距離制基準運賃を、一台当たりの積載個 数で割った数に、〇・七を乗じることで一個当たり の運賃を計算する。
つまり満載にすれば三割引にな る。
ただし、長期契約割引が適用されている場合に は個建て割引は利用できない。
 時間制運賃は、ルート配送や納品先で製品の据え 付け作業が発生するケースなど、輸送距離と業務付 加が必ずしも比例しない場合に主に適用される。
運 賃は「使用する車両」×「使用時間」で計算する。
「使用時間」は、「八時間制(三トン車までは走行八 〇キロメートル、三トン車超は一〇〇キロメートルを 想定)」と「四時間制(三トン車までは走行四〇キ ロメートル、三トン車超は五〇キロメートルを想定)」 の二つが基準になっており、それを超過する場合に は割増運賃が加算される。
 積み合わせ運賃は、「荷物の重量・容積」×「輸 送距離(キロ程)」で個建て運賃を計算する。
運送 会社の営業所から集荷先・配達先までの距離が一五 キロメートルを超える場合には、基準運賃とは別に 集荷・配達料が加算される。
逆に荷主が運送会社の 営業所に荷物を持ち込む場合には減額がある。
 割増運賃としては、貸し切りと同様の品目割り増 しに加え、再配達料、移送料(積み卸しのための荷 物の移動)、連絡運輸中継料(複数の運送会社が中 継して荷物を運ぶ場合の手数料)などの設定がある。
ちなみに平成十一年タリフの中継料は、中継一回に つき五〇キログラムまでが「五八〇円以上、六四〇 円以下」、以上五〇キログラムを超すごとに「一三 〇円〜一四〇円」と設定されている。
160 150 140 130 120 110 100 90 80 昭和55年昭和57年昭和60年平成2年平成6年平成11年(年度) 上限 基準運賃 下限 図1 国土交通省(旧・運輸省)公示タリフの運賃水準    (昭和55年認可基準運賃を100とする) 図2 公示タリフの体系 重量・容積×距離車両×時間車両×距離 個建て時間制距離制 積み合わせ貸し切り トラック運賃 29  APRIL 2008

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