ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年9号
ロジビズ再入門
小売業態別ロジスティクスのモデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2005 70 小売りが一括物流の名の下に専用センター を設置することで、中間流通の階層は一段階 増え、サプライチェーン全体の効率は悪化する。
これを改め、フルラインの商品を取り揃えた汎 用センター一カ所で工場と店舗を繋いだ時に サプライチェーンは最適化する。
日本市場にお けるSCMの基本的な方向性だ。
センターフィーで一儲け 九〇年代以降、日本では自社専用センター の設置に乗り出すチェーンストアが後を絶たな い。
各ベンダーにそれぞれ店舗に納品させる従 来の体制を改め、全てのベンダーの商品を専 用センターにいったん取り揃え、そこで店舗別 に仕分けて一括して納品することで、輸送効 率を改善し、同時に店舗側の荷受けの負担を 減らすというロジックだ。
投資効率上、情報システムやマテハン機器 などの必要な設備を持った専用センターを設 置するには、そのエリアで一定の販売量を確保 していることが条件になる。
その規模は在庫を 保管しない通過型センター(TC)で年間通 過金額一〇〇億円程度、在庫型センター(D C)では二〇〇億円程度と言われる。
ところが実際には、それだけの販売量を確保 できないチェーンストアまでが専用センターの 設置に動いている。
センターの建設・運営費 はセンターフィーという名目でベンダー側から 徴収できる。
フィーの料率も買い手側の立場 を利用してチェーンストア側で一方的に決めて いるのが実状だ。
例え投資効率の悪いセンタ ーであってもチェーンストアの懐は痛まない。
チェーンストアは利益を上げることさえでき る。
センターフィーの料率を、センターの運営 を委託している3PLに支払う料金よりも高 く設定することで、その差額が手に入る。
そん な新たな収益源を享受するチェーンストアが出 てくると、他のライバルたちも黙ってはいられ ない。
小売り主導の「一括物流」が一斉に全 国に拡がっていった。
チェーンストアが新たに専用センターを設置 すれば、工場と店舗を結ぶ中間流通の階層は 一段階増加する。
サプライチェーン全体の効 率はそれだけ悪化する。
これを改め、店舗で販 売する商品をフルラインで取り揃えた汎用型 の中間流通センター一カ所に階層を減らした 時に、日本市場のサプライチェーンは最適化 する。
そのモデルをどうやって実現するか――それ が日本市場におけるSCMの最大のテーマだ ( 図1)。
既にSCM先進企業は取り組みを進 めている。
イオンやウォルマート・ストアーズ などの大手量販店、そしてコンビニエンス・ス トアや家電量販店などの有力チェーンストアは、 いずれも強力な販売力を背景に、中間流通を 自社で完全にコントロールする形の垂直統合 を図っている。
一方、加工食品や日用雑貨品、薬品などの 既存の卸は、フルラインかつ全国規模の?メ ガ問屋〞の実現を目指し、過去一〇年に渡っ て合従連衡を重ねている。
その結果、大手数 社への上位集中が急速に進んでいる。
さらに は各業界の大手メーカーは、販社と物流子会 社を再編し、従来の自社専用インフラを汎用 的な業界プラットフォームとして活用するため のリストラクチャリングを図っている。
これまで日本市場は、有力メーカーが自社 専用のインフラで全国を網羅する、縦割りの サプライチェーンを特徴としてきた。
市場規模 が右肩上がりで充分な需要のある環境では、生 第5回小売業態別ロジスティクスのモデル 71 SEPTEMBER 2005 産効率を重視したプッシュ型のサプライチェー ンが上手く機能した。
ところが市場規模の拡 大が止まり、供給過剰に陥ったことでメーカー 別・縦割りのメリットよりもその弊害が目立 つようになってきた。
同時にサプライチェーンの主導権はメーカー の手を離れ、需要を握る小売側に移った。
こ れに伴い卸は従来のメーカーの販社機能から、 小売りの購買支援機能に、自らの役割を一八 〇度転換させることを迫られている。
そしてメ ーカーには既存の専用インフラの使用に対しN Oが突きつけられている。
小売業態別の四つのモデル こうして小売りを起点として川下から日本 市場のサプライチェーンが再編されようとして いる。
そのモデルも既に明らかになっている。
具体的には小売りの業態別に以下の四つのモ デルが日本市場における新しいサプライチェー ンのビジョンとして提示されている( 図2)。
い ずれも工場から店舗を中間流通拠点一カ所で 結ぶ形だが、業態によってサプライチェーンの リーダーと中間流通の担い手の顔ぶれは異な っている。
?百貨店は、本来の物販機能の比重が下が り、今や商業施設を開発する不動産開発業に 近い業態となっている。
実際、アパレル製品を 中心とした百貨店チャネルのマーチャンダイジ ングと在庫管理は、テナントとして店舗に入居 しているアパレルメーカーが担っている。
工場 から店舗までの垂直統合をアパレルメーカーが 実現している格好だ。
百貨店とは対照的に?コンビニエンス・ス トアのチャネルでは、小売側が工場から店舗ま でのサプライチェーンを掌握している。
コンビ ニで中心商材となっている加工食品は、弁当 はもちろん、今やナショナルブランドメーカー の商品までが、実質的にコンビニのプライベー トブランド商品と化している。
その商品企画か ら物流までをコンビニが完全にコントロールし ている。
?全国スーパーおよび家電やドラッグなどの 専門量販店は、自社専用センターを設置し、工 場からの直送を指向している。
このチャネルで は少なくとも物流面において、卸は既に中抜 きされている。
大手メーカーと大手小売りの協 働によるSCMを基本とする欧米型のモデル に近い。
これに対して?その他の地域スーパーや小規 模小売店のチャネルでは、大手卸がサプライチ ェーンのリーダー役を果たしている。
全国規模 でフルラインの品揃えを持つ大手卸は、汎用 型の物流インフラによって地域スーパーや小規 模店のバックヤード機能を担い、また購買力 と情報力によって、規模に劣るチェーンストアの経営を支援しようとしている。
こうした小売業態別のサプライチェーンに、 メーカーはそれぞれ対応しなければならない。
工場出荷機能以外の既存の自社専用インフラ は、百貨店以外のチャネルではもはや必要とさ れていない。
しかし、長年投資を積み重ねて築 き上げた設備と人員は、そう簡単には手放せ ない。
中間流通の運営を完全に小売りや卸に 明け渡せば、サプライチェーン上の影響力も低 下してしまう。
メーカー物流は受難の時代を迎 えている。

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