2008年6月号
値段
値段
セイノーホールディングス
一時は営業赤字寸前に
セイノーホールディングスは、宅配便を除く
特別積み合わせトラック事業では我が国トップ
クラスの売上規模を誇る。
特別積み合わせは 流通業界を中心とする小口貨物のジャストイ ンタイム輸送の需要拡大にマッチし、一九七 〇年代から急成長時代に入る。
同社の業績も 七〇〜八〇年代はまさに順風満帆であり、お おむね右肩上がりの利益成長を実現してきた。
ところが、九一年度に利益のピークを付けた 後は一転して苦境の道を辿ることになる。
バ ブル経済崩壊後の長く厳しい景気低迷に加え、 九〇年施行の「物流二法」による規制緩和が 追い打ちをかけた。
一般のトラック事業者で も積み合わせ輸送が可能となり、事業者数も 急増。
二〇〇三年には同法の改正により一般 事業者の営業区域規制撤廃や最低車両数規 制などが行われ、過当競争に拍車がかかった。
また、多頻度小口輸送ニーズが高度化した ことで、商業貨物の宅配便シフトが鮮明にな る。
宅配便で出遅れた同社は、市場の頭打ち と過当競争による長期継続的な運賃低下のダ ブルパンチを受けた。
収支は急速に悪化し、二 〇〇〇年度には売上高営業利益率が〇・三% と営業赤字寸前にまで落ち込んだ。
その後、利益水準は大きく改善したが、関 東西濃運輸や濃飛西濃運輸などの運輸関連、 およびトヨタカローラ岐阜や岐阜日野自動車 などの自動車販売関連の関係会社の連結子会 社化による影響が大きい。
事業環境や収益体 質自体が大きく改善したわけではない。
自動車運送の利益率は一・四% 最近の状況を見てみよう。
月次発表による と、〇七年度の西濃運輸単体トラック営業収 入は前年度比〇・八%減となった。
取扱数 量は〇・二%増と微増だったが、平均単価が 一%低下し、減収を余儀なくされた。
輸送単価は恒常的な低下傾向が続いてい る。
さらに、燃料単価が大幅に上昇している にもかかわらず、昨秋以降、運賃低下幅は 徐々に拡大している。
当然ながら収支は悪化 しており、〇七年度の連結営業利益は当初一 四〇億円を見込んでいたが、二度の下方修正 を経て現時点(四月二四日)では前年度比 七・四%減の一〇〇億円にとどまる見通しと なっている。
これはまずまずの利益水準に見 えなくもないが、半分以上が自動車販売など 関連事業の収益であり、本業である自動車運 送事業の営業利益率は一・四%にすぎない。
同社もこれまで全く手をこまねいていたわ けではない。
収支改善に向け、関連会社の連 結子会社化による重複運行の解消や間接業務 セイノーホールディングス 営業利益予想は当初計画の半分以下 アライアンスが苦境脱却への第一歩 本業の収益低迷が続いている。
最大の要因 は同業他社との運賃の叩き合いによる顧客獲 得競争だが、今年四月にスタートした中期経 営計画に抜本的な改善策は見当たらない。
市 場での評価は低く、現在の株価水準が続けば 買収の標的になる可能性もある。
収益体質の 改善に早急に取り組むべきだ。
板 王亮 クレディ・スイス証券 株式調査部 第40回 JUNE 2008 46 の費用削減を実施してきたほか、閑散期の幹 線トラックの減便(庸車コスト削減)、ユニッ トロード化(荷物を定型の容器に入れ荷さば きを行う)による作業時間短縮と効率化、高 付加価値商品の開発、ロジスティクス(3P L)事業の拡大に注力してきた。
しかし、いずれも抜本的な収益体質改善に はつながっていない。
〇五年度を初年度とす る中期経営計画「G5プラン」では、最終年 度の〇七年度は営業利益二三五億円(その 後、一四〇億円に下方修正)を目指していた が、結果的には当初計画の半分以下にとどま る見通しとなっているのである。
今年四月にスタートした新中期経営計画 「CS向上3カ年計画」では、計画最終年度 (一〇年度)の営 業利益一四三億 円を目標として設 定した。
同計画で はCS(顧客満足 度)向上、ロジス ティクス事業の拡 大、ネットワーク の強化、資産の有 効活用など様々な メニューが並ぶが、 率直なところ、い ずれも有効打とな り得るかは疑問だ。
前中期計画にお ける利益計画が未 達に終わった最大の要因は、取扱規模を拡大 しても、運賃下落によって売上高の伸びが大 幅に抑制されたことにある。
運賃を是正しよ うとすればライバル企業に顧客が流れ取扱数量 が減少するため、妥協するという繰り返しで、 単価と数量のトレードオフ関係から抜け出すこ とができなかった。
新計画では、こうした状 況の解消に結びつくような施策が見当たらな いところが問題と言える。
トラック業界には再編が不可欠 クレディ・スイス証券では、過当競争体質 が明らかなトラック運送業界で抜本的な収支 改善を図るためには、業界再編が不可欠であ ると考えている。
苦境脱出の最善策は、業態 や規模の似通った企業同士が、運賃の叩き合 いをやめて経営統合を果たすことだ。
不毛な顧客獲得競争からの脱却の契機にな り得ることに加え、重複している幹線輸送の 削減による積載効率改善、重複ターミナルの 再編による効率化や資産再活用、不足気味の トラックドライバーの有効活用など、効用は 計り知れない。
障害が大きくとも、検討する 意義は十分すぎるほど大きいだろう。
過当競 争が見られる業界で、大きな再編を経験して いないのはトラック運送業界ぐらいである。
同社の田口義隆社長は投資家向け中期経営 計画説明会の席上で、業界全体の効率化のた めには同業他社との協力関係を築くことが不 可欠である点を指摘し、単独ではなく同業他 社とのアライアンス(提携)を通じて、全体 最適な輸送ネットワーク構築に向けた努力を行 っていく旨を表明した。
これは十分とはいえ ないまでも一歩前進であると言えよう。
海運 業界、空運業界の先例を見れば、緩やかな業 界再編であるアライアンスも、過当競争体質 の改善に一定の効果をもたらす可能性が高い。
いずれにせよ、今のままの収益体質では株 主が期待するリターン、すなわち株主資本コ ストを賄うことはできない。
クレディ・スイ ス証券の試算では、同社の〇七年度予想当期 純利益八〇億円を基準にすると、株主資本の 増加原資である超過利潤(当期純利益─株 主資本コスト)は一〇〇億円近いマイナスと なる。
すなわち、現状のままでは理論上同社 の株主資本は年間一〇〇億円近いペースで毀 損されていくことになる。
同社の株価は現在 (四月二四日)、一株当たり純資産に対し〇・ 五倍弱の水準で取引されているが、理論的に みて必ずしも不合理であるとは言えない。
このような株価水準が続けば、当然ながら 被買収リスクは高くなる。
既存株主の不満が 高まれば、買収防衛策を維持できるかどうか はわからない。
抜本的な収益体質の改善は喫 緊の課題であると言えよう。
(円) 《出来高》 セイノーホールディングスの過去10年間の株価推移 いたざき おおすけ 一九八 八年三月神戸市外国語大学 卒。
同年四月岡三証券入社。
その後、シュローダー証券、I NGベアリング証券を経て、 二〇〇一年二月にクレディ・ スイス証券に入社。
八八年以 来、運輸セクターを中心にア ナリスト活動を展開している。
著者プロフィール 47 JUNE 2008
特別積み合わせは 流通業界を中心とする小口貨物のジャストイ ンタイム輸送の需要拡大にマッチし、一九七 〇年代から急成長時代に入る。
同社の業績も 七〇〜八〇年代はまさに順風満帆であり、お おむね右肩上がりの利益成長を実現してきた。
ところが、九一年度に利益のピークを付けた 後は一転して苦境の道を辿ることになる。
バ ブル経済崩壊後の長く厳しい景気低迷に加え、 九〇年施行の「物流二法」による規制緩和が 追い打ちをかけた。
一般のトラック事業者で も積み合わせ輸送が可能となり、事業者数も 急増。
二〇〇三年には同法の改正により一般 事業者の営業区域規制撤廃や最低車両数規 制などが行われ、過当競争に拍車がかかった。
また、多頻度小口輸送ニーズが高度化した ことで、商業貨物の宅配便シフトが鮮明にな る。
宅配便で出遅れた同社は、市場の頭打ち と過当競争による長期継続的な運賃低下のダ ブルパンチを受けた。
収支は急速に悪化し、二 〇〇〇年度には売上高営業利益率が〇・三% と営業赤字寸前にまで落ち込んだ。
その後、利益水準は大きく改善したが、関 東西濃運輸や濃飛西濃運輸などの運輸関連、 およびトヨタカローラ岐阜や岐阜日野自動車 などの自動車販売関連の関係会社の連結子会 社化による影響が大きい。
事業環境や収益体 質自体が大きく改善したわけではない。
自動車運送の利益率は一・四% 最近の状況を見てみよう。
月次発表による と、〇七年度の西濃運輸単体トラック営業収 入は前年度比〇・八%減となった。
取扱数 量は〇・二%増と微増だったが、平均単価が 一%低下し、減収を余儀なくされた。
輸送単価は恒常的な低下傾向が続いてい る。
さらに、燃料単価が大幅に上昇している にもかかわらず、昨秋以降、運賃低下幅は 徐々に拡大している。
当然ながら収支は悪化 しており、〇七年度の連結営業利益は当初一 四〇億円を見込んでいたが、二度の下方修正 を経て現時点(四月二四日)では前年度比 七・四%減の一〇〇億円にとどまる見通しと なっている。
これはまずまずの利益水準に見 えなくもないが、半分以上が自動車販売など 関連事業の収益であり、本業である自動車運 送事業の営業利益率は一・四%にすぎない。
同社もこれまで全く手をこまねいていたわ けではない。
収支改善に向け、関連会社の連 結子会社化による重複運行の解消や間接業務 セイノーホールディングス 営業利益予想は当初計画の半分以下 アライアンスが苦境脱却への第一歩 本業の収益低迷が続いている。
最大の要因 は同業他社との運賃の叩き合いによる顧客獲 得競争だが、今年四月にスタートした中期経 営計画に抜本的な改善策は見当たらない。
市 場での評価は低く、現在の株価水準が続けば 買収の標的になる可能性もある。
収益体質の 改善に早急に取り組むべきだ。
板 王亮 クレディ・スイス証券 株式調査部 第40回 JUNE 2008 46 の費用削減を実施してきたほか、閑散期の幹 線トラックの減便(庸車コスト削減)、ユニッ トロード化(荷物を定型の容器に入れ荷さば きを行う)による作業時間短縮と効率化、高 付加価値商品の開発、ロジスティクス(3P L)事業の拡大に注力してきた。
しかし、いずれも抜本的な収益体質改善に はつながっていない。
〇五年度を初年度とす る中期経営計画「G5プラン」では、最終年 度の〇七年度は営業利益二三五億円(その 後、一四〇億円に下方修正)を目指していた が、結果的には当初計画の半分以下にとどま る見通しとなっているのである。
今年四月にスタートした新中期経営計画 「CS向上3カ年計画」では、計画最終年度 (一〇年度)の営 業利益一四三億 円を目標として設 定した。
同計画で はCS(顧客満足 度)向上、ロジス ティクス事業の拡 大、ネットワーク の強化、資産の有 効活用など様々な メニューが並ぶが、 率直なところ、い ずれも有効打とな り得るかは疑問だ。
前中期計画にお ける利益計画が未 達に終わった最大の要因は、取扱規模を拡大 しても、運賃下落によって売上高の伸びが大 幅に抑制されたことにある。
運賃を是正しよ うとすればライバル企業に顧客が流れ取扱数量 が減少するため、妥協するという繰り返しで、 単価と数量のトレードオフ関係から抜け出すこ とができなかった。
新計画では、こうした状 況の解消に結びつくような施策が見当たらな いところが問題と言える。
トラック業界には再編が不可欠 クレディ・スイス証券では、過当競争体質 が明らかなトラック運送業界で抜本的な収支 改善を図るためには、業界再編が不可欠であ ると考えている。
苦境脱出の最善策は、業態 や規模の似通った企業同士が、運賃の叩き合 いをやめて経営統合を果たすことだ。
不毛な顧客獲得競争からの脱却の契機にな り得ることに加え、重複している幹線輸送の 削減による積載効率改善、重複ターミナルの 再編による効率化や資産再活用、不足気味の トラックドライバーの有効活用など、効用は 計り知れない。
障害が大きくとも、検討する 意義は十分すぎるほど大きいだろう。
過当競 争が見られる業界で、大きな再編を経験して いないのはトラック運送業界ぐらいである。
同社の田口義隆社長は投資家向け中期経営 計画説明会の席上で、業界全体の効率化のた めには同業他社との協力関係を築くことが不 可欠である点を指摘し、単独ではなく同業他 社とのアライアンス(提携)を通じて、全体 最適な輸送ネットワーク構築に向けた努力を行 っていく旨を表明した。
これは十分とはいえ ないまでも一歩前進であると言えよう。
海運 業界、空運業界の先例を見れば、緩やかな業 界再編であるアライアンスも、過当競争体質 の改善に一定の効果をもたらす可能性が高い。
いずれにせよ、今のままの収益体質では株 主が期待するリターン、すなわち株主資本コ ストを賄うことはできない。
クレディ・スイ ス証券の試算では、同社の〇七年度予想当期 純利益八〇億円を基準にすると、株主資本の 増加原資である超過利潤(当期純利益─株 主資本コスト)は一〇〇億円近いマイナスと なる。
すなわち、現状のままでは理論上同社 の株主資本は年間一〇〇億円近いペースで毀 損されていくことになる。
同社の株価は現在 (四月二四日)、一株当たり純資産に対し〇・ 五倍弱の水準で取引されているが、理論的に みて必ずしも不合理であるとは言えない。
このような株価水準が続けば、当然ながら 被買収リスクは高くなる。
既存株主の不満が 高まれば、買収防衛策を維持できるかどうか はわからない。
抜本的な収益体質の改善は喫 緊の課題であると言えよう。
(円) 《出来高》 セイノーホールディングスの過去10年間の株価推移 いたざき おおすけ 一九八 八年三月神戸市外国語大学 卒。
同年四月岡三証券入社。
その後、シュローダー証券、I NGベアリング証券を経て、 二〇〇一年二月にクレディ・ スイス証券に入社。
八八年以 来、運輸セクターを中心にア ナリスト活動を展開している。
著者プロフィール 47 JUNE 2008
