ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年6号
物流不動産市場レポート
物流不動産投資市場

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

投資市場規模は二兆円近くに達する  まずはこれまでの物流不動産投資市場の 経緯から振り返っていきたい。
大型施設を 対象とした不動産賃貸業は、 以前から東京流 通センター、寶組、横浜港国際流通センター、 かわさきファズなどによって行われていたが、 物流施設が投資対象として注目され、投資 市場が拡大を始めたのは二〇〇二年からとい える。
 〇二年九月に竣工したプロロジスの「プロ ロジスパーク新木場」を皮切りに、〇三年一 〇月にはマルチテナント型施設の「プロロジ スパーク成田」が竣工するなど、首都圏を中 心に大規模な賃貸型物流施設が多数供給さ れるようになった。
〇四年一〇月には「プロ ロジスパーク大阪」や日本ロジスティクスフ ァンド投資法人に組み込まれた「大阪福崎物 流センター」が竣工するなど、関西圏での投 資もスタートした。
 物流施設の不動産投資の推移は、延べ床 面積の累計値である床面積ベースでは、〇三 年、〇四年は年間三〇万平米強と横ばいだっ たが、〇五年は六〇万平米弱と前年から倍増 し、その後も右肩上がりで拡大している(図 1)。
今年は二〇〇万平米弱と、〇五年の約 四倍もの床面積の竣工を見込んでいる。
 来年以降の施設の竣工は、現時点で確認 できるものは一三八万平米であるが、物流 施設は開発期間が短いことから、今後も上積 みが十分に予想される。
土地、建物合計の 推計値である価額ベースでは、関西圏での竣 工が相次いだ〇四年のみ前年比で下落してい るが、その後は床面積同様に右肩上がりで成 長している。
 今後の開発予定も含めた現時点の投資累計 は、投資物件数で二四七棟、床面積累計で は九一八万平米と一〇〇〇万平米に迫る勢 いで、価額ベースでは一兆七三一〇億円とな っている(図2)。
物流施設への不動産投資 が拡大を始めて一〇年も経たないうちに二兆 円近くにまで達しており、市場が急拡大して きたことが改めて確認できる。
 依然として物流施設の不動産投資の流れは 続いているが、サブプライムローン問題の影 響もあって、拡大一辺倒の動きは収まりつつ ある。
資金調達に苦慮する投資家が増加  次に、物流不動産投資市場の拡大可能性 について考察する。
現状の投資動向は、地 域ごとの物流施設の需給動向に十分に留意し ながらも、依然として投資を継続している企 業が多い。
数年前には数多くの投資プレイヤ ーが物流不動産投資市場に参入したが、物 流になじみの薄いプレイヤーは徐々に姿を消 し、現在は、投資実績を蓄積した企業によっ て、さらなる投資機会を探る動きが続いてい る模様である(図3)。
現在でも高い利回り を求める投資資金は十分にあるようだ。
JUNE 2008  60  2001年1月から今年4月までの物流不動産の投資額の累計は、1兆 7310億円になると推定している。
投資が本格化した02年から6年で2 兆円近くに達し、市場が急拡大してきた。
サブプライムローン問題を きっかけとする米国の金融不安から、日本の物流不動産投資市場も変 調の兆しがみられるが、同市場の拡大は当面の間続くと思われる。
そ こで、これまでの物流不動産の投資動向を振り返りながら、今後の見 通しについて解説していきたい。
物流不動産投資市場 一五不動産情報サービス 曽田貫一 徹 底 分 析 ! 特別寄稿 61  JUNE 2008 図1 物流施設への不動産投資の推移 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 ※1:ラサールインベストメントマネージメントによる投資事例 ※2:日本ロジスティクスファンド投資法人による投資事例 注…2002 年以前の竣工は「〜 2002」に集計して表示している。
横軸は竣工時期であり、投資時期とは一致していない 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 (千?) (十億円) 347 63 46 106 302 387 出所:一五不動産情報サービス 〜2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009〜 (見込み)(竣工時期) 1,941 321 313 599 1,094 1,550 1,980 2001 年9 月 JREIT 誕生 2002 年9月 プロロジスパーク新木場 竣工 214 2003 年10月 プロロジスパーク成田 竣工 2004年10月 大阪福崎物流センター 竣工※2 プロロジスパーク大阪 竣工 2005年5月 床面積(左軸) 日本ロジスティクスファンド投資法人上場 価格(右軸) 2004 年3月 ナカノ商会物流センター 竣工※1 図2 2001 年1 月〜2008 年4 月の物流不動産の投資実績累計(市場規模) 首都圏 137 528 万? 1 兆1460 億円 関西圏 41 215 万? 3580 億円 東海圏 15 41 万? 610 億円 福岡圏 18 62 万? 790 億円 その他地方都市 36 71 万? 870 億円 累計 247 918 万? 1 兆7310 億円 地域区分物件数面積ベース (延べ床面積の累計値) 価額ベース (投資額の推計値) 出所:一五不動産情報サービス 図3 不動産投資市場に影響する要因の今後の見通し 不透明感が強いものの、急激な上昇は考えにくい。
超低金利から脱し、上昇基調へ 不動産投資におけるローンがつきにくい。
2007年前半のような極端な借手優位は 期待できないものの、徐々に回復基調へ 限られた企業による不動産投資が続き、新規参入 および撤退はあまりみられない。
クロスボーダー投資が再び活発になり、新たな投資家による市 場参入やM&Aなどが起こる可能性もあるのではないか。
金利水準 借入の難易度 不動産売買市場 不動産開発会社および 投資家の動向 不動産投資市場の過熱感が収まり、一部では流動 性が滞る面も。
自社開発( 所有)が依然として多い。
また、所有物 件の建て替えなどの設備投資が続く。
自社物件の重要性は変わらないものの、賃貸型を選択 する機会が増えていくのではないか。
見通しがたてにくい。
短期(〜半年後) 中長期(半年後〜数年先) 物流会社(荷主)の賃貸選好度 算出方法 主要投資家および開発会社のプレスリ リース情報から日本全国の延べ床面積 5000 ?以上の賃貸型物流施設の投 資実績を集計した。
地域区分 首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、 埼玉県)、関西圏(大阪府、京都府、 兵庫県)、東海圏(静岡県、愛知県)、 福岡圏(福岡県、佐賀県)、その他 地方都市と区分している。
伸び率は下がるが、 上昇を続ける JUNE 2008  62  その一方、金融機関からの借り入れによる 資金調達に苦慮する投資家および開発会社も 増えているようだ。
活発だった昨年の物流不 動産投資市場は、外資系金融機関による積極 的な貸し出しに依存するところも大きかった が、現在ではサブプライムローン問題の影響で 影を潜めている。
 邦銀も不動産業向けの貸出割合が増加して いることが影響し、以前ほど積極的な貸し出 しを行っていないようだ。
別の見方をすれば、 金融機関による貸出先(物件)の選別が進ん でいると捉えることもできる。
 外資系金融機関は、過去の日本での不良債 権問題と同様に、損失処理を行っている最中 である。
また、外資系金融機関は、個別の ノンリコースローンを束ねたCMBS(※1) などの証券化商品そのものを扱っていたため、 再びローンを提供するためには、投資家から の証券化商品の組成過程に対する信頼を回復 する必要があり、若干時間がかかる可能性が ある。
 とはいえ、中長期でみれば、運用先に苦し む年金基金などの資金流入が再び不動産に向 かうことは十分に想定される。
さほど遠くな い将来において、新たな投資家の市場参入も ありうるのではないかと考えられる。
自社所有から賃貸型へ徐々に移行  最後に、賃貸型物流施設の今後の見通しに ついて解説する。
大型の物流施設については、 図1の通り不動産開発会社および投資家の事 例が増加しているが、昨年から大手物流会社 による自社物件の建て替えや新たな土地取得 も多くみられる。
また、不動産開発会社が企 画・開発した物流施設を、物流会社(倉庫会 社)が購入する事例もある。
 物流施設の所有もしくは賃貸の判断は、財 務面のみならず、そこで働く従業員に与える 影響など多角的に分析・検討した上で決定す るものと考えられる。
 企業は大規模な設備投資を行う際には、新 規の借り入れをすることが多いが、現時点で は過去に例をみない超低金利が続いているた め、企業の借り入れコストの負担は小さい。
し かし、今後の金利上昇局面で借り入れコスト も上昇すると、賃貸型が中心になるとは言わ ないまでも賃貸型を選択する機会が増えてく ると想定している。
もちろん、株主からの資 本効率向上の圧力やノンアセット型の経営な ども影響することも十分に考えられる。
 また、物流業界では、大手と中小の業績 格差(物流業務の寡占化)が進んでいるため、 自社所有が中心の中小物流会社から、賃貸型 も活用する大手物流会社へと徐々に業務が移 行している点も見逃せない。
資本市場の環境 変化や物流業界の変遷などを考慮すると、物 流施設の自社保有から賃貸への流れは、依然 として道半ばと考えられる。
 日本経済の先行きに不透明感が増しつつあ り、景況感と連動しやすい貨物の動きや物流 施設そのものに対するニーズにも十分な配慮が 必要な局面へと移行しつつある。
しかし、大 きな流れでみれば、大型の賃貸型物流施設を 供給する不動産投資市場の拡大は、当面は続 くことが予想される。
※1 CMBS( Commercial Mortgage Backed Securities) 商業用不動産に対する担保融資証券のことで、オフ ィスビルや物流施設などの商業用不動産向けのノン リコースローンを束ね、それを担保に発行される証券 のこと。
プロフィール そだ・かんいち 1999年4月、生駒シービー・リチャー ドエリス(現シービー・リチャードエリス)に入社。
同年、 生駒データサービスシステムに出向。
07年11月、生駒デー タサービスシステムを退社。
同年12月、一五不動産情報サ ービスを設立。
現在に至る。
会社概要 2007年12月設立。
物流施設や工場など、工業用不動産 に特化した独立系の不動産調査会社。
独自に構築したデー タベースを基に、物流不動産や工業団地などの市場分析や 調査業務を行っている。
今年4月、「物流施設の不動産投 資実績に関する調査レポート」を発表した。
http://www. ichigo-re.co.jp/20080417_report.pdf/

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