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UPS──フォワーディング事業を拡大
長期的視野で堅実経営
──サブプライム問題をきっかけに米国経済が変調
をきたしています。 売り上げの過半を米国市場に依
存するUPSとしては影響を免れません。
「当社は米国だけを見て仕事をしているわけでは
ありません。 米国はしんどくても、それ以外の欧州、
アジア、ラテンアメリカは全て増収増益基調にあり
ます。 当社の今後の展開はそうした市場にかかって
いる。 そのことを米国本社の人間はよくわかってい
ます。 従来の米国中心の経営からグローバル経営へ
完全に軸足をシフトしました。 ずっと米国で仕事を
してきた私が今年一月に日本に赴任した理由もその
ためだと理解しています」
──米国本社では、日本市場におけるUPSのこれ
までの経営をどう評価しているのでしょうか。 一九
九〇年代にはヤマト運輸との提携を軸に事業を展開
していました。 二〇〇四年に提携を解消して以降は
自社集配の拡充に動いていますが、市場シェアでは
まだライバルに遅れを取っています。
「宅配便世界最大手を自負する当社の沽券に関わ
る、という気持ちがあることは否定しません。 それ
でも日本の郵便会社以上の荷物を持っているヤマト
運輸が、当時の当社にとって最適なパートナーであ
ったことは事実です。 そして、当社がこれまで日本
に投資してきたものが今になってどんどん実ってき
ています。 これから日本は収穫期を迎えると本社も
期待をかけています。 製造拠点がいくら日本から出
ていっても、それによって得た利益は最終的には日
本に戻ってくる。 今後も日本が重要なマーケットで
あることは変わりありません」
「実はUPSに入社する前、私はフェデックスで
働いていました。 ご存じのように、フェデックスは、
まずやってみよう。 失敗したらその時に考えればい
いじゃないかという、起業家精神に富んだ会社です。
それに対してUPSは古い歴史を持ち、良くも悪く
も石橋を叩いて渡るところがある。 長い目でマーケ
ットを見ているんです。 それだけに、いったん勝負
に出たら絶対に負けない」
──日本でどうやって投資を回収していきますか。
「まずはフレート(フォワーディング事業)に力を
入れます。 そのために今年一月に『UPSエクスプ
レス・フレート』と呼ぶ商品のサービス範囲を拡大
しました。 オンラインで配達日を確認できるエアフ
レートサービスです。 世界主要都市のドア・ツー・
ドア輸送を、翌日から三日間のリードタイムでギャ
ランティーするものです」
「日本に来てから、当社の営業の人間とフォーカス
ミーティングを行いました。 まず、エクスプレスを
使っているお客さんの担当者に手を挙げさせました。
その中でフレートを使っているお客さんは? と聞
くと、全員が手を下ろさない。 営業統括としては当
然、これを見過ごすわけにはいきません」
「確かにこれまでは、当社の商品メニューの問題
から一歩下がらなければいけないところもありました。
しかし今やメニューは揃っています。 エアでもオー
シャンでもすべて対応できる。 しかも当社のフレー
トを使うお客様は、いざ緊急輸送が必要だとなった
時にはラベルをエクスプレスに貼り替えるだけでいい。
こうしたフレキシブルな対応と商品ポートフォリオの
厚みはフレートを獲得する上で、当社の大きな強み
になると考えています」
──九九年の株式公開以降、UPSは基本的に買収
によってサービス領域を拡大してきました。 今後も
世界市場では最大手でも、日本ではこれまでDHLや
フェデックスの後塵を拝してきた。 しかしヤマト運輸と
の合弁を2004年に解消して以降、日本における自社イ
ンフラの整備に本腰を入れている。 一連の投資はこれか
ら収穫期を迎える。 まずはフォワーディング事業の貨物
に照準を定めている。
高井由紀 UPSジャパン 営業部統括本部長
外資系物流企業の日本戦略
JUNE 2008 30
それは続くのでしょうか。
「顧客ニーズ次第です。 これまでの買収もマルチモ
ーダルに対するニーズが米国で大きくなり、それに
対応するのに自分たちだけでゼロから作っていくの
では時間がかかり過ぎるということから、LTL(特
別積み合わせトラック運送)にしろ、フレートにしろ、
その分野で既に成功している企業を買収してきたわ
けです」
「そうやってメニューを増やすという以外にも、B
RICsなどの新興国をカバーするという狙いで現
地の物流企業を買収することは今後もあり得るはず
です。 当社の財務状態であれば十分それは可能です。
ただし、当社が株式を公開した狙いは、正確に言え
ば、IPOで手にした現金で他社を買収しようとい
うのではなく、株式交換による買収を可能にするこ
とにあります」
──陸運事業やロジスティクス事業は、エクスプレス
と比べて収益性の点で見劣りします。 株式市場も厳
しい目で見ている。
「儲からない事業だから切り捨てようという考え
はありません。 当社としてはトータルで利益を出せ
るのであれば構わない。 そのほうが会社として長く
存続できると思います」
──株式市場からのプレッシャーがそれだけ小さい?
「もちろんプレッシャーはあります。 しかし株式市
場よりも顧客の声のほうが大事です。 逆に顧客の声
に真摯に耳を傾けていれば、後から収益は付いてくる。
株主にも貢献できるという考え方です」
独自の企業カルチャーを武器に
──この夏には、ANAと日系大手フォワーダーが
手を組んで日の丸インテグレーターが営業を開始し
ます。
「スモールパッケージの新規参入は米国市場でもさ
んざん経験しました。 新規参入組は、まずは低価格
で攻め込んでくる。 しかし、それに同調してしまう
と、こっちがおかしくなってしまう。 結局、指をく
わえて見ているしかありません。 それでも、しばら
くすれば顧客はサービスレベルの違いに気がついて
必ず戻ってきます」
──インテグレーター同士ではサービスレベルに、そ
れほど大きな差もないのでは。
「そうは思いません。 本当にグローバルに一〇〇%
のサービスができているインテグレーターが現在何社
あるでしょうか。 私は三社よりも少ないと見ています」
──差が付くとすればラストワンマイル、末端の集
配ドライバーの作業品質です。 今後はドライバーの
労務管理が大きな差別化要因になりそうです。
「その点で当社には大きなアドバンテージがありま
す。 当社の経営陣は皆、ドライバーを経験しています。
歴代社長もほとんどが叩き上げです。 有名大卒のエ
リートでも一年はハンドルを握る。 それだけに経営
陣が現場の空気を肌で分かっている。 現場とマネジ
メントが近い会社だといえます。 実は日本でも最近
ドライバー経験者を営業担当に起用してみたんです。
すると、やっぱり仕事ができる」
「もちろん私自身も制服を着て現場の集配の仕事
を経験しました。 チームスターズ(米国最大の運輸
労働組合)との交渉に携わったこともあります。 現
在、当社はチームスターズと長期的に極めて良好な
関係を築いています。 以前はチームスターズと当社
の密な関係は、周囲からコストアップ要因としてマ
イナスに受け止められていたのですが、今ではその
評価が全く変わりました」
1907 メッセンジャー会社として米シアトルで開業
1919 社名としてUPS(United Percel Service)を採用
1981 自社貨物ジェット機の保有を開始
1985 欧州6カ国で国際航空貨物輸送を開始
1986 ヤマト運輸との業務提携で日本市場進出
1990 ヤマト運輸との合弁でヤマトUPS設立
1995 UPSロジスティクス・グループを設立
1999 ニューヨーク証券取引所に株式公開
2001 最大手ビジネスコンビニ「Mail Box」を買収
米有力フォワーダーのフリッツを買収
2004 ヤマト運輸との合弁を解消、UPSジャパン設立
米メンローのフォワーディング部門を買収
2005 米陸上運送のオーバーナイトを買収
UPSの沿革
特 集巨大物流企業の攻防
31 JUNE 2008
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