ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年7号
ケース
新規事業 楽天

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2008  42 新規事業 楽 天 独自スキームで物流事業に本格進出 3PLの組織化でネット通販を支援 物流こそ成長のカギ  今年五月、楽天が物流事業部を発足させ、 物流事業に本格進出した。
楽天が運営する仮 想商店街「楽天市場」の出店者向けに物流業 務を代行する。
「『IT企業の楽天が物流なん て?』と思うかもしれないが、今後当社のさ らなる成長のためには、物流をやるしかなか った」と、楽天の宮田啓友物流事業事業長は 説明する。
 楽天市場は、出店者数二万四〇〇〇、取り 扱いアイテム数二三〇〇万、会員総数四〇〇 〇万人超を誇る日本最大のインターネットシ ョッピングモールだ。
出店者全体の売上高の 累計を示す「流通総額」は、二〇〇七年十二 月期時点で五三六九億円。
年間約七〇〇〇万 件の注文がある。
 楽天市場の主な収入源は、月五万円からの 出店料と、売上に応じた三・五〜五%の売上 手数料だ。
楽天市場を含むEC(Eコマース) 事業の売上高は前期比三〇・九%増の七五五 億一二〇〇万円(〇七年十二月期)で、グ ループ全体の売上高(二一三九億三八〇〇万 円)の三五%を占めるなど、大きく成長を続 けている(図1)。
 楽天市場の出店者は家族営業の、いわゆる ?さんちゃん系?の個人商店が多い。
ホームペ ージの作成と運営、商品仕入れ、受注、経理 といった一連の業務を、社長を含め数人で処 理しなければならない。
保管、梱包などの物 流業務も当然発生する。
これがかなりの負担 になるという。
 店舗運営が軌道に乗り、売り上げが伸び てくると、物流の課題はますます大きくなる (図2)。
「月当たりの出荷件数で一〇〇〇件 から三〇〇〇件のところで、成長の踊り場を 迎えることになる。
一時間に一〇個梱包して も、一〇時間で一〇〇個がやっと。
一日中出 荷作業に追われ、本来メーンであるはずのマ ーケティング活動に専念できない。
配達の遅 れが発生すれば、顧客離れを招いてしまう」 と宮田事業長は説明する。
 物流業者に委託するにも、個人商店だけに しっかりとした条件を引き出せない。
割高な 料金水準に加え、出荷量の上限などのルール 設定をあいまいにしたまま契約を結んでしま う。
その結果、物流業者に何の連絡もなしに 販売キャンペーンを行い、現場がパンクする などのトラブルが多発。
販売機会の損失を理 由に物流業者を相手取り訴訟を起こすケース さえあった。
 物流業者側から見ても小規模な通販業者と 今年5月、仮想商店街「楽天市場」を運営する楽 天に物流事業部が誕生した。
出店者に物流代行サー ビスを提供する。
楽天自らはアセットを持たず、各 地の有力3PLを認定パートナーとして選定し、現 場運営を委託する。
東海地区のパートナーにはハマ キョウレックスを選んだ。
楽天の宮田啓友物流事業事 業長 43  JULY 2008 の取引は決して楽な商売ではない。
ECには、 通常の店舗販売なら?死に筋?として扱うし かないニッチな商品にも買い手が付くという 特性がある。
売れ筋分析グラフの曲線を恐竜 の姿に例えると、しっぽの部分に当たるアイ テムがそれに当たることから、「ロングテール 現象」と呼ばれる。
 そのため現場運営には、極端な少量・多品 種物流が求められる。
五〇〜一〇〇坪程度に 細かく区切ったスペースに数千単位の間口を 設けなければならない。
しかも、「保管、梱 包にも出店者の愛着やこだわりがある。
特に 梱包はB to Bとは全然レベルが違う。
そうし た楽天ならではの物流ニーズに対応したオペ レーションが出来る物流業者はなかなかいな かった」と、楽天の平野雅史事業統括部兼物 流事業副事業長はいう。
?物流同好会?にプロが集結  〇六年九月、楽天に?物流同好会?が発足 した。
出店者から楽天として物流面のサポー トをしてほしいといった声が多くなったこと がきっかけだ。
システム開発を行う開発部門 の企画調査部が兼務というかたちで、外部の コンサルタントを招き、物流ニーズの調査や分 析を行った。
 〇七年四月、同好会を物流準備室に改称し た。
宮田事業長、平野副事業長をはじめ、E CのB to C物流に強い関心を抱いていた物流 のプロたちが、トヨタ、アスクル、デルなど 物流先進企業から集結した。
楽天営業部から も異動があり、店舗運営のエキスパートと物 流のプロによる混成部隊を組織した。
そして 今年四月、はれて事業部化した。
 楽天物流事業部では、自らの役割を「リー ド・ロジスティクス・プロバイダー(LLP)」 と位置付けている。
LLPとは、荷主の物流 部門が持つ全ての機能をアウトソーシングする 形態だ。
荷主の経営層が意思決定したロジス ティクス戦略に基づき、パートナーのLLP が計画を立て、実行する。
いわば、3PLの 進化形だ。
楽天自身はアセットを持たず、各 地の優良3PLと認定パートナーというかた ちで提携し、現場運営を委託する。
 宮田事業長は「通常のB to Bだと三〇〇〇 坪くらいのまとまったスペースが必要になる が、楽天出店者なら一店舗当たり五〇〜一〇 〇坪程度。
各地の3PLが保有する既存施設 の空きスペースを利用できる。
これによって 当社、出店者、3PLの三者にウィンウィン の関係が成り立つ」と説明する。
 ネット通販向けの物流代行サービスでは、同 社に先立ちネット書籍販売最大手のアマゾン が日本でも事業化している。
アマゾンとの違 いについて宮田事業長は、「アマゾンはあらか 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (単位:億円) 05年12月期06年12月期07年12月期 (単位:万件) 連結売上高 EC事業売上高 図1 楽天の連結売上高に占めるEC事業売上高と流通総額 注文件数 流通総額 図2 出店者の売り上げが伸び悩むポイント 第二のポイント 成長 第一のポイント 出店者の売上高 店舗運営 ECC による店舗運営コ ンサルティング等で成 長の第2 ステージへ 物流作業 店舗の物理的制限を排除 し、受注から出荷までの 自動化・代行による作業 負荷軽減 JULY 2008  44 じめ標準化されたプラットフォームを用意し、 ここに乗れる人だけ乗ってくださいというモ デル。
それに対して我々はロジスティクス・コ ンサルタントが一軒ごとに出店者の要望を聞 いて業務フローをカスタマイズする。
手間はか かるが、様々な商品を扱う楽天市場の特徴を 活かしながらサポートしていく」と説明する。
 ロジスティクス・コンサルタントはかなりの 時間をかけ、出店者とルールの読み合わせを 行い、オペレーションの内容を説明する。
そ して、物流コストやオペレーションの内容を規 定した「サービスレベルアグリーメント」を締 結する。
 宮田事業長は「B to Bではコスト、生産性 管理もある程度しっかりしているが、B to C はまだまだ。
オペレーションを規定したり、サ ービスレベルアグリーメントをきちんと締結し ているケースはほとんどない。
出店者の物流 に対する意識もそれほど高くない。
当社が両 者の橋渡し的な役割を果たしていく」という。
東海地区パートナーにハマキョウ  認定パートナーの選定は難航した。
昨年か ら選考に着手し、物流業者約四〇社と面談を するなどかなりの時間をかけたが、なかなか パートナーは決まらなかった。
現場運営は委 託するものの、作業フローは楽天側で規定し、 コストもガラス張りにするといった条件に難 色を示すところが多かった。
 宮田事業長は、「最初は受注するために低 しかしノウハウを蓄積する絶好の機会にはな ると判断した。
楽天物流の受託を機に、本格 的にB to C市場に参入するつもり。
いずれは B to C専門の事業部も設立したい」という。
 この提携を受けて今年五月、出店者の物流 を代行する「楽天物流サービス」開始と同時 に「楽天物流東海DC」が稼働した。
といっ ても、新たに楽天が専用センターを立ち上げ たわけではない。
ハマキョウの持つ静岡の複 数拠点の空きスペースを利用したものだ。
 サービスを開始したばかりということもあ り、温度帯管理の必要のない、ハンドリング しやすいものから取り扱い始めた。
現在はア パレルを中心に、雑貨等を扱っている。
今後 は商品の特性に応じて拠点を分け、温度帯管 理の伴うアイテムにも取り扱いを拡げていく 計画だ。
 ハマキョウとしては楽天物流サービス専門 のスタッフを増やすことは考えていない。
その 日の物量に応じてパートの数を調整する、同 社独自の「アコーディオン方式」などのノウハ ウを活用して既存のスタッフと施設を活用す い値段を提示しておいて、その後しばらくし て値上げしてくれといったことは物流業界で はよくあること。
荷主にとって物流業者の切 り替えは、商品を渡してしまっているので容 易ではない。
我々は一受注当たりいくらとい ったようにどんぶり勘定であいまいなことは 一切させないつもりだ」という。
 アイテム別に仕分け、棚入れ、ピッキング、 梱包が時間当たりどれくらい処理できるかと いうことを楽天、物流会社で相互に分析す る。
そして話し合いを繰り返し相互に詰めた 上で、生産性と単価を規定する。
事前に生産 性を規定しておくことで、物流業者から委託 料金を上げてくれといった要請があったとき にも、何が悪かったのかを分析できる。
想定 していた荷姿が違ったのか、動線が悪かった のかといった、具体的な原因まで落とし込ん で検証・改善が出来る、というわけだ。
 このスキームに賛同したのがハマキョウレッ クスだった。
今年四月、同社は第一号認定パ ートナーに決定した。
従来からハマキョウは B to C市場に興味を持っていた。
〇六年一〇 月からカタログやインターネット通販を行うム トウにコンサルとして入り、昨年一〇月にム トウの物流業務を全面受託している。
B to C 市場に本格参入する足がかりは出来ていた。
 ハマキョウレックスの内田貴啓執行役員開 発本部開発部長は「当社としてもB to Cは まだ始めたばかり。
我々の現場運営ノウハウ が、そのまま楽天でも機能するかは未知数だ。
楽天の平野雅史事業統括部 兼物流事業副事業長 45  JULY 2008 ることで、拠点全体の生産性向上を図る。
工 程別に生産性を規定するところでは、大須賀 正孝会長自らペンを持ち担当者と話し込むほ どの熱の入れようだ。
 楽天物流サービスの利用店舗数や売上高目 標は、現在は非公表としている。
宮田事業長 は「サービス開始以降引き合いが非常に強く、 今は順番待ちしていただいている状態。
ただ、 あくまで我々のミッションは、物流が原因で 売り上げが伸び悩んでいる店舗をサポートす ることにある。
そのサービスを事業化した以 上、フィーは当然徴収していくが、第一義的 な目的はそこではない。
この優先順位は間違 えないようにしている」と気を引き締める。
 まずは出店者の教育から始める必要がある。
「物流サービスを軽視している出店者は少なく ない。
配送キャリアの集荷に間に合わなけれ ばまた明日でいいやという考え方で出荷して いる店舗や、いつ出荷したかということ自体 あまり把握していないところもある」と宮田 事業長。
そのままアウトソーシングすれば混 乱は避けられない。
 物流業務をアウトソーシングする以上、決 められた時間に出荷指示を出さないと物流業 者はオペレーションができない。
入荷処理も 同様だ。
ルール通りに入荷予定データを送信 することが荷主の責任になる。
 物流業務を請け負う側のハマキョウもその 点を危惧している。
「入荷が制度化されてい るB to Bでは遅くとも前日には入荷データが 届き、そこから物流が始まる。
しかし出店者 にはその部分の意識が薄い。
物流業務を請け 負っている当社としてはコストに関わること なので、納期管理は徹底してもらいたい。
そ うすればエンドユーザーは決められた日にち に商品を受け取ることができる。
ルールの徹 底がコストの抑制だけでなく、サービスレベ ルの向上につながることを分かってもらいた い」と内田執行役員はいう。
出店者向けシステムを開発中  現状では店の在庫金額がいくらなのかを把 握している出店者自体ほとんどないという。
そこで楽天では現在、楽天物流サービスの利 用者向けの「出荷処理・在庫管理支援システ ム」の開発に取り組んでいる。
認定パートナ ーの倉庫管理システムと連動して、パソコン 上で在庫状況を確認できる。
 「物流を?見える化?すれば自然と意識も 高まってくるはず。
在庫過多の状況にも気付 いてもらえると思う。
システムは現在開発中 で、来年以降には提供したい」と、宮田事業 長はいう。
 楽天では、ホームページに載せる写真の撮 り方やメールマガジンの書き方、キャンペー ンの打ち方など、店舗運営の講義を「楽天大 学」を通じて提供している。
物流に関する講 義はまだ行っていないが、将来的には楽天大 学で物流の講義もしたいという。
平野副事業 長は「基本から教えなければならないので大 変だが、これは当社にとって資産になる」と 期待する。
 今後は東海DCのほかに全国に拠点を構え る方針だ。
ニーズが高い東京、大阪を優先的 に整備し、当面は関東、東海、関西の三地区 体制を目指す。
その際も、今回同様拠点を新 設することなく、既存の施設の空きスペース を利用していく方針だ。
 東海地区以外のパートナーはまだ決まって いない。
「コンペをするかもしれないが、大 阪に関しては現時点ではハマキョウと組むこ とで検討している」と宮田事業長はいう。
即 日配送や、他店舗と商品を同梱するなど、サ ービス向上も進めていく。
 宮田事業長は「当社に移ってきて感じたの だが、物流業界を見渡してみても、ECの B to C向けの物流オペレーションは非常に立 ち遅れている。
市場の急成長と物流のギャッ プはまだまだ大きい。
先陣を切ってこのギャ ップを埋めようとする企業も少ない。
ECの B to C物流には将来性がある。
今後必ず伸び る」と算盤を弾いている。
   (柴山高宏) ハマキョウレックスの内田 貴啓執行役員開発本部開発 部長

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