ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年7号
メディア批評
年金問題の追及に及び腰の政府とメディア求められる歴代社保庁長官と官僚の断罪

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 75  JULY 2008  『SIGHT』という季刊の雑誌がある。
こ れまでも度々呼ばれたが、今度は年金問題で、 ウォッチャーとして名高い岩瀬達哉と対談せ よという。
二〇〇八年夏号に載ったそれでは、 ずいぶんと彼に蒙を啓かれた。
 まず、なぜ日本に年金ができたのか。
昭和 一六年に当時の厚生省の年金課長、花澤武夫 が世界の一流国たる条件として年金をつくり たいと思った。
しかし、大蔵省も軍部も反対 する。
この戦争で負けたら年金も何もないぞ と言ってである。
それを花澤はこう説得した。
 「集めた年金を支払うのは四〇年後です。
そ の間は使えるじゃないですか」  つまりは最初から払う気はなかったという ことである。
これはドイツのヒットラー政権を 参考にしたのだとか。
ヒットラーはこれを使っ てアウトバーンをつくったり、ヒットラー・ユ ーゲントの養成をしたりしていたという。
また、 花澤は自分たちもそのカネを使うために、厚 生年金法の中に年金掛け金(保険料)を福祉 施設に使えるという条文を入れ、いわゆる中 抜きを続けてきた。
ドイツは敗戦でそれがス トップし、新しい制度を立ち上げたが、日本 はそのまま。
 昭和三四年に行政監察局が記録がズサンだ と注意したら、厚生官僚は「大変だからやら ない」「将来、年金を払う時に本人から聞いて 記録を直す」と言いながら、自分の年金はま ちがっているのではないかと言って来た人に、 「それじゃ、証拠を持って来なさい」と言って 追い返したという。
 岩瀬によれば「できたときから、運営も支 払いもめちゃくちゃのひどい制度」なのであ る。
国民年金からも中抜きをやってきたのだ が、なるほどと半面頷きつつ、半面呆れたのは、 役人は自分たちの共済年金に関してはちゃん と運営させているということである。
 逆に言えば、だから年金の一元化ができな いのだろう。
 岩瀬が国家公務員共済年金に取材に行った 時、当時、厚生年金はグリーンピアをつくっ たり、無駄使いの限りを尽くしていたのだが、 国共済はどうなのかと尋ねたら、大蔵省主計 局の共済課長が、  「国共済は同じような福祉施設を持っていま すが、別途、福祉掛金というものを取っていて、 年金には一切手をつけてません」  と答えたという。
 それで、厚生年金や国民年金は年金を使っ ているんですよと言ったら、彼は、  「えーっ?」  と驚き、  「そんなことをしたら加入者は不安になる じゃありませんか。
本当にやってるんですか」 と反応した。
 この感覚である。
自分たちなら不安でやれ ないことを官僚は国民に対してはやるのである。
岩瀬はこう提案する。
 「民主党の長妻さんが、責任問題をはっき りさせるために歴代の社会保険庁長官を呼 んで国会で喚問しようと言ったんですが、自 民党が反対したんです。
自民党だってさんざ ん痛い目にあってだまされてきているんだか ら、社保庁長官呼んで責任問題をはっきりさ せたほうがいいと思うんですよ。
でも、国会 で喚問をやってしまうと、政府として官僚を 管理できていなかった責任を追及されたら困る。
だから、かばってしまうんですね。
官僚はか ばわれることがわかっているから、多少のこ とはやっても平気だろうと考える」  この悪循環を断たなければならないのに、 いま、政府与党はすべてを労働組合のせいに して、国民の溜飲を下げさせ、それで逃げよ うとしている。
 「もちろん組合も批判されないといけない でしょうが、それ以上に歴代長官および厚生 省の官僚たちの責任を問わないといけない」  こんな明快な論断が、なぜ、マスメディア ではできないのだろうか。
年金問題の追及に及び腰の政府とメディア 求められる歴代社保庁長官と官僚の断罪

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