ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年7号
特集
もう派遣には頼れない そして誰もいなくなった

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

そして誰もいなくなった  製造派遣はまだマシだ。
給与、拘束時間、労働環境とも、 ワンランク上にある。
年収200万円以下のワーキングプアは 物流現場の問題だ。
人材難は既に限界を超えている。
この うえ労働力の最後の調達先だった派遣会社が使えなくなる ことで、いよいよ物流現場から人がいなくなる。
(大矢昌浩) 日雇い派遣禁止は秒読み段階  六月九日におきた秋葉原通り魔殺傷事件の加藤智 大容疑者は、大手人材派遣会社の日研総業からトヨ タグループの関東自動車工業に派遣され、塗装工程 に配属されていた。
時給は一三〇〇円、月収約二〇 万円だったという。
それ以前は、故郷青森の地場運 送会社で九カ月間、食料品を配送する二トン車のド ライバーとして働いていた。
 この事件を受けて派遣先の関東自動車工業は「人 材派遣会社に対しては、このような不祥事が二度と ないように、人材の確保、管理、監督について要請 していきたい」とコメントしている。
また加藤容疑 者の勤務態度には、特に変わった様子はなかったと しているが、実際には犯行四日前の六月五日から工 場を無断欠勤していた。
 五月下旬、関東自動車工業は派遣会社との〇八年 三月からの一年契約を中途解約するかたちで、六月 末をもって派遣社員二〇〇人を五〇人に減らすと通 告している。
加藤容疑者はリストラの対象から外れ ていたが、その後五日に工場に出勤したところ、自 分の作業着がなかったことから憤慨し、そのまま工 場を飛び出してしまったという。
 加藤容疑者の背景が分かってきたことで、派遣先 に労働者の使い捨てを許す現在の労働者派遣法を、今 回の事件と結びつけて非難する声は日増しに高まっ ている。
その一方で物流の現場からは、「それでも製 造派遣はまだマシだ。
年収二五〇万円にはなる。
時 給一三〇〇円ももらえる現場など、物流業界にはど こにもない」と、ため息が聞こえてくる。
 物流現場の人材派遣は現在、時給一〇〇〇円が相 場だ。
派遣先が派遣元に支払う時給単価が一三〇〇 〜一四〇〇円。
そこから派遣会社のマージンや交通 費等を引くと手取りの日当は八〇〇〇円を切る。
月 収一五万円。
年収二〇〇万円以下のワーキングプア は、実は物流派遣の問題なのだ。
 派遣会社のマージンは三〇%から時に四〇%に及 ぶため、物流派遣の手取りは時給八〇〇円を切る場 合も珍しくない。
「ピンハネというのは、日当の一割 をマージンとしてとるという意味。
昔の手配師のほう が、よほどまともだった。
物流現場で一日働けば最 低でも一万円以上はもらえた。
派遣業の規制緩和が 悪質なピンハネを解禁してしまった」と、派遣ユニオ ンの関根秀一郎書記長は訴える。
 世論の高まりを受けて行政も従来の規制緩和路線 から一転、規制強化と労働者保護に一気に傾いてい る。
六月十三日、舛添要一厚生労働大臣は、今秋の 臨時国会に日雇い派遣を原則禁止する法改正案を提 出することを表明した。
以前から日雇い派遣禁止の 方針を固めていた公明党や野党四党と足並みを揃え た格好だ。
 日雇い派遣の原則禁止は今や既定路線。
今後の政 策的な論点は、日雇いだけでなく登録型派遣自体に 踏み込んで規制するか、禁止されているグループ会社 など特定会社向けの「もっぱら派遣」の判定を派遣 人数の何割以上とするか、派遣先の使用者責任をど こまで強化するかなど、規制の匙加減に移る。
 これに先立ち今年四月一日から厚生労働省は「緊 急違法派遣一掃プラン」を全国の労働局に通達して いる。
各労働局では管内に登録している派遣事業者 の大規模な抜き打ち調査を実施中だ。
派遣元の契約 内容をチェックするだけでなく、その顧客リストを元 に主だった派遣先にまで調査の手を広げている。
 物流現場の実情に詳しい労務管理士は「どんな大 JULY 2008  16 第1 部 特集もう派遣には頼れない 手メーカーでも物流現場を叩けば必ず埃が出てくる。
さすがに工場ではコンプライアンスに配慮するように なっている。
しかし物流は別。
メーカーは現場の実態 を把握していないし、物流会社は法律自体を分かっ ていない。
偽装請負や多重派遣がいまだに当たり前。
派遣期間の抵触日など意識もしていない」という。
物流派遣の二〇〇七年問題  メーカーの多くは現在、派遣の?二〇〇九年問題? の対応に追われている。
現在の派遣法では派遣期間 は原則最大一年、労働者代表もしくは労働者の過半 数を占める組合の意見を聴取した場合で最大三年と 定められている。
派遣期間が限度に達する日を抵触 日という。
抵触日を迎えた場合には、派遣を直接雇 用に切り替えるか、あるいは三カ月プラス一日間、ラ インをストップしなければならない。
 製造派遣は〇四年に解禁され、偽装請負問題が発 覚した〇六年に急拡大した。
その契約が〇九年に一 斉に抵触日を迎える。
これに対応するためメーカーは 順次、派遣社員から直接雇用の期間工への切り替え を進めている。
なかには、いったん直用の期間工と して契約し、三カ月後に派遣会社に戻すという?い ってこい?を繰り返すことで、抵触日逃れを画策す るメーカーもあるという。
 抵触日規制は物流派遣にも同様に適用されている。
物流派遣は九九年に解禁され、〇四年三月の法改正 で派遣期間を最大三年と定められた。
つまり製造派 遣よりも早く〇七年には抵触日ラッシュを迎えてい る。
ところが、業界ではほとんど話題に上らない。
違 法行為が自覚されていないためだ。
 抵触日はいくら派遣会社を変えようとも延長でき ない。
そのため抵触日の管理は派遣先に責任が負わ されている。
派遣先には使用している派遣会社に対 して抵触日を通知する義務がある。
ところが通知し ない。
既に抵触日を過ぎているため通知したくても できない。
派遣会社は「違反を自分たちのせいにさ れないため、物流会社に対して抵触日の通知要請を 出した記録を確実に残しておくことで対応している」 のが実情だ。
 製造現場のコンプライアンス対策は既にヤマ場を越 えた観がある。
労働規制強化の矛先が今後、製造業 から物流現場に向かうのは必至だ。
そこで躓けば大 きな代償を支払うことになる。
低賃金で重労働、安 全衛生への配慮にも欠ける物流現場の仕事には直接 雇用であっても既に人が集まらなくなっている。
仕 方なく割高な派遣会社を使って、常用的な労働力の 穴を埋めている物流現場は少なくない。
しかし、労 働力の最後の供給源も労働規制の強化によって近く 断たれることになる。
現場から人が消える。
 本誌の調査によると、国内の物流センターで働くス タッフのうち、パート・アルバイト(三二・四%)と 派遣社員(一八・三%)の非正規雇用労働者は今や 過半数を占めている(本誌〇八年五月号特集参照)。
正社員中心の労働組合は組織力を失い、労使交渉は 容易になった。
それに代わって、非正規雇用労働者 の労務管理が新たな経営課題として浮上している。
 日本だけではない。
雇用の流動化を旗印に規制緩 和に動いた国は、どこも今、深刻な労働問題に直面 している。
主役は産業構造の最下層に置かれている 物流現場の非正規労働者や個人事業主のトラックド ライバーだ。
需給規制下の物流業界では正社員ドラ イバーと営業所長の管理が競争力のカギだった。
規制 が撤廃され自由化の進んだ市場で、物流業が再び労 務管理の季節を迎えている。
17  JULY 2008 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 (単位:万人) 00 年度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 非正規雇用者数の推移と構成07年度の正規雇用者と非正規雇用者の割合 その他 派遣社員 アルバイト パート 正規雇用者 総務省統計局「労働力調査特別調査」(2000〜01年)、「労働力調査詳細結果」(02〜07年)より本誌作成

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