*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
新しい物流人材ビジネス
単純労働力を供給するだけの物流人材ビジネスはもはや
成り立たない。 市場の変化に敏感な若き起業家たちは、全
く新しいビジネスモデルを物流市場に持ち込もうとしている。
そこでは労働力の調達から人材育成に、コア・コンピタン
スがシフトしている。 (大矢昌浩)
物流現場の乗っ取り屋
「これから物流企業は二つに一つの選択を迫られる。
非正規雇用労働力の調達機能と管理機能を社内に構
築するか、あるいは現場の労務管理を全て当社のよ
うなアウトソーサーに丸投げしてしまうかだ」。 セル・
ホールディングスの三浦弘人社長はそう断言する。
同社は業務請負のセル・プランニングや物流コンサ
ルティングのアルノを傘下に抱える持ち株会社。 二〇
〇四年十一月に三浦社長が創業した若い会社だが、三
期目となる昨年十一月期の売上高は約二五億円、今
期は三〇億円。 「今期末の十一月には月商が四億円規
模に達するので、来期は少なくとも五〇億円は見込
める」と三浦社長の鼻息は荒い。
その先の業績はセンター長クラスの人材をグループ
内に何人確保できるかにかかっていると判断してい
る。 そのため現在、研修機能の充実を急いでいる。 一
社単独で教育システムを整備するのは負担が大きいこ
とから、同業者を募り昨年一月に物流センター長の
育成を目的とする日本物流アウトソーサー実務教育協
会を設立、自ら専務理事に収まった。
三浦社長の前職は神奈川県海老名市に本社を置く
総合人材派遣会社、ウィズアップのナンバー2。 人材
派遣業のノウハウとうま味は十分承知しているが、自
らの起業にあたっては、物流業に照準を絞った。 グ
ッドウィルやフルキャストなど先に成功を収めていた
物流人材派遣ベンチャーのビジネスモデルを踏襲する
ことも避けた。
フリーターの組織化による単純労働力の供給事業
は長続きしないと考えたからだ。 若年層の労働力が
急速に減少していくことは日本の人口統計を見れば
明らかだ。 人が集まらなければ派遣業は続けられな
い。 さらには派遣業に労働力の調達を依存し、コス
ト構造の根幹を握られた現在の物流業も立ち行かな
くなる。
実際、派遣業の人材調達コストは年々増加してい
る。 登録者を一人獲得するのに、かつては二〇〇〇
円と言われた。 それが今では一万円だ。 労働力のパ
イは増えない。 池に泳いでいる魚の数は決まってい
る。 以前はそこに釣り糸を垂らせば餌を付けなくも
魚が釣れた。 ところが今は高い餌を付けないと釣れ
ない。 その餌代がどんどん高くなっている。 それだ
け派遣会社の収益性は圧迫されている。
結果として、派遣会社の上位集中が進んでいる。 中
小規模の派遣会社は労働力を調達できない。 同業他
社を買収することで釣り糸の数を減らし、魚を一網
打尽にしようとする大手も現れた。 IPOで巨富を
得たグッドウィルとフルキャストだ。 市場は急速に成
熟に向かっている。 独立系のベンチャー企業が新たに
参入する余地はない。
そこで新たなアプローチを考えた。 物流現場の乗っ
取りだ。 「顧客の現場に当社が入り込んで、協力会社
の既存のスタッフを当社が引き受けて、コンプライア
ンスを整え、物流人材教育を行い、現場に定着させ
て改善活動によって生産性を上げていく。 このやり
方だと理論上、当社の人材調達コストはゼロになる」
と三浦社長は説明する。
荷主は物流現場のコンプライアンスを懸念し始めて
いる。 実際、日本を代表するような一流メーカーで
も、物流現場は二重どころか三重派遣さえ珍しくな
い。 物流子会社や3PL案件を受託した元請けが労働
力を調達できずに、作業請負会社に再委託する。 そ
こでも人が足りない。 仕方なく派遣会社を使う。 そ
の結果が多重派遣だ。 物流業の多重構造がコンプラ
JULY 2008 26
第3 部
特集もう派遣には頼れない
イアンス違反の温床となっている。 そこにメスを入れ
ようという発想だ。
一般にコンプライアンスを徹底しようとすればコス
トは増加する。 協力物流会社を切り替えれば一時的
費用も発生する。 しかし多段階構造を解消すれば余
計な中間マージンが不要になる。 「当社は軽作業系人
材派遣会社のように波動に対応する動員力を売り物
にしているわけではない。 しかし派遣を多用してい
る現場ほど生産性は低い。 改善を進めていくことで
派遣の利用自体が不要になる。 物流産業のフラット
化こそ当社の役割だ」と三浦社長。 目指すは労務管
理機能をベースにした3PLだ。
運送業向け人事部代行業
一方、庫内作業員ではなくドライバーの労務管理に
焦点を絞って、新たなビジネスモデルの構築を進めて
いるのが、サポート
21
グループだ。 関西を地盤にドラ
イバー派遣業を展開している。 ただし登録制はとら
ず日雇い派遣の要請にも応じない。 具体的な依頼を
受けてから新たに人材を募集し、ドライバー教育を
施して顧客に派遣する。
採用が決まるまでの期間は同社の幹部社員が派遣
ドライバーとして現場に出向く。 そこで顧客の業務内
容と作業手順を把握する。 そのノウハウを幹部社員
が新規採用した派遣ドライバーに教え込む。 派遣先は
改めて仕事を引き継ぐ必要がないうえ、現場に穴を
空けず済む。
とはいえ、派遣ドライバーの新規採用は同社にとっ
ても容易ではない。 顧客がドライバーの派遣を依頼し
てくるのは自社では採用ができないからだ。 もとも
と給与水準が低いうえに、派遣を使えばマージンも発
生する。 採用方法に秘策があるわけでもない。
そのため顧客との最初の商談では「なぜ当社をお
呼びになられたのですか。 御社が自分で募集して人
が集まらないのなら当社でも集まりません」と素直
に相手にぶつけるようにしている。 その会社が自社
で採用できない、ドライバーの定着しない理由は何か。
長時間労働なのか、給料が安いのか、職場環境や上
司との人間関係に問題があるのか。 すべて最初には
っきりさせる。 そのうえで改善を要請する。
「これだったら大丈夫だと確信できるところまで改
善させて初めて採用をかける。 変な話だが当社のよ
うなドライバー派遣を必要としないレベルにまで持っ
ていく。 そうしないと苦労して集めた人材を結局そ
の会社で腐らせてしまうことになる。 採用面接も現
場の空気を感じてもらうために、勤務先になる顧客
の事務所を借りる。 そのせいか当社のことを自分の
会社の人事部のように考えている物流会社も少なく
ない」と、河本眞一社長は苦笑する。
サポート
21
の現在の社員数は六〇人。 仕事の依頼
は引きも切らないが、採用者を一人ひとり教育する
必要があるため、事業の拡大には時間と手間がかか
る。 しかも、河本社長は「三年ほど前から、どんな
に工夫して募集をかけてもなかなか人が集まらなく
なってきた。 応募してくる人材の質も明らかに低下
している。 物流業界で働きたいという人自体が減っ
ている。 素人にいきなりトラックを運転させるため、
交通事故も増えている」と危惧している。
現在、関西エリアで売りに出ている自動車教習所
を物色している。 そこでトラックの運転技術はもちろ
ん、物流の仕事に対するモチベーションや職業倫理を
植え付ける。 「ズブの素人を教育してプロに育て上げ
るのが夢」と河本社長。 教育機能が今後の派遣業の
コア・コンピタンスになると睨んでいる。
27 JULY 2008
セル・ホールディングスでは「物流道場」と名付けて
センター長をゴールとする実務教育を行っている
基本は人間性
フレッシュマン教育
現場責任者教育
センター運営
プロフェッショナル
キャリア向上の能力開発
(座学/現場実習による知識・スキル教育)
物流を通じて人間性を高める
モチベーション(動機付け)・モラル(倫理観)・モラール(士気)
現場管理者教育
セル・ホールディングス
の三浦弘人社長
サポート21グループの
河本眞一社長
|