ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年8号
keyperson
デイビッド・スミチレビ マサチューセッツ工科大学 教授アイログ社 チーフ・サイエンス・オフィサー

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2008  4  「HPはデルの真似をするのではな く、サプライチェーンのポートフォリ オにおいて強みを持つことで成功し ました。
勝ちパターンのモデルが変わ ったのです。
現在のHPは直販も行 っていますが、その他に四つのサプ ライチェーンを持っています。
異なる タイプの製品、異なるタイプの顧客 に対して、それぞれ効率の良いサプ ライチェーンを構築し、そのうち共通 する機能やインフラについては横串 を刺して有効活用するというかたち です」 ──そうした新しいタイプのサプライ チェーンは、何と呼べば良いのでし ょうか。
 「『ポートフォリオ・サプライチェー ン』です。
顧客や製品と同じように、 サプライチェーンにもポートフォリオ が必要になったのです」 ──パソコン業界だけではなく、例 えば家電業界や自動車業界でも同じ ようなSCMのパラダイムシフトが起 きているのでしょうか。
 「その通りです。
食品や日用雑貨 品などの一般消費材においても、そ れぞれの製品特性や顧客の特性に基 づいたサプライチェーン戦略が必要に なっています。
一般消費財であれば、 例えば需要の変動の大きさを横軸に、 販売量を縦軸にとって、それぞれの デル VS HP ──これまでSCMのお手本とされ てきたデルが変調を来しています。
そ の理由をどう考えますか。
 「確かにデルはサプライチェーンに おける成功企業でした。
ユーザーへの 直接販売(ダイレクトモデル)という、 同業他社とは異なるサプライチェーン を構築することで、パソコン市場を席 巻しました。
しかしその後に二つの ことがおきました」  「一つは、サプライチェーンが、製 品ポートフォリオと顧客ポートフォリ オを持つようになったことです。
ライ バルのヒューレット・パッカード(H P)は、製品と顧客の特性に基づい て、それぞれ効率の良いサプライチェ ーンを使い分けるようになっていま す。
実際、受注から生産、納品まで、 HP自身ではほとんど関与しない製 品がある一方、製品によってはHP 自らが深く関与するサプライチェーン も運用しています」  「二つ目は、小売業者への販売で す。
現在のデルは直販と小売店販売 という二種類の販売形態を持ってい ます。
しかし、ダイレクトモデルは小 売店への販売には適しているとは言 えません。
ユーザー直販において、デ ルは価格を競争力にできました。
そ れを支えるサプライチェーンを持って いたわけですが、小売店販売でもこ れまで通り価格を競争力にするのか、 それとも別のかたちの競争に移るの か、その場合のサプライチェーンはど うするのかといった問題に直面して います」  「デルのダイレクトモデルは、製品 やオプションのバラエティが非常に多 い。
それだけ、需要に関しては不確 実性が高いことになります。
そのた めデルは最終製品ではなく部品の状 態で在庫を持ち、発注がかかった段 階で部品を製品に組み立てて、顧客 に納品してきました。
需要の変動を 部品段階に集約することで在庫水準 を下げてきたわけです」  「ところが、新たに小売店でも販売 するとなると、部品段階では需要変 動を吸収できなくなります。
そのた め今のところは小売店向け製品のバ ラエティやオプションの幅を、直販に 比べて狭くすることで対応していま す。
現在のデルは小売店で販売する ためのサプライチェーンを学習する移 行期にあるのだと思います」 ──
硲个魎泙瓧丕奪瓠璽ーは一時 期こぞってデルモデルを後追いしまし たが結局、成功しませんでした。
デイビッド・スミチレビ マサチューセッツ工科大学 教授 アイログ社 チーフ・サイエンス・オフィサー 「SCMの勝ちパターンは変わった」  デルモデルは競争力を失った。
顧客特性と製品特性に合わ せ、複数のサプライチェーンを並行して運用する『ポートフォ リオ・サプライチェーン』が次のモデルだ。
サプライチェーン はますます複雑さを増していく。
その統合管理が新たな競争 条件となる。
            (聞き手・大矢昌浩) 5  AUGUST 2008 製品特性を整理したうえで、製品群 ごとに戦略を変えなければいけませ ん。
重要なのは製品特性とサプライ チェーン戦略をマッチングさせること なのです」 ──一つの企業が複数のサプライチ ェーンを並行して運用するとなれば、 管理が一気に複雑化します。
 「確かに難しい。
しかし、もはやそ れを避けては通れない状況にあるの です」 ── 複雑化したサプライチェーンの 統合は、どのような組織が担えば良 いでしょうか。
 「製品の設計段階からサプライチェ ーンの特性に配慮するなど、各プロ セスとサプライチェーン戦略の間で重 なり合う部分に対しての取り組みが 必要になってきます。
そのため製品 設計やロジスティクス、ファイナンス などの各プロセス部門から人材を募 ってクロス・ファンクショナル・チー ムを形成する必要があります」 ── 設計段階でサプライチェーンの コストを反映させるという取り組み は、日本企業ではまだほとんど見ら れません。
 「残念ながら私は日本企業の現状 についてコメントできるほど詳しくあ りません。
しかしHPやデル、ノキ アなどはこの点をよく理解し、製品 を組み合わせることによって、はじ めてなし得るものです」  「それでもサプライチェーンで成功 している企業を見ると、三つの要素 をうまく使っているということは指摘 できます。
一つはITをはじめとし たテクノロジー、これが数学的な部分 です。
二つがビジネスプロセス。
より 優れたビジネスプロセスに向けて、常 に改善しているということ」  「そして三つが組織の構造です。
先 ほどの中央集権と分散管理のバラン スも組織構造の問題です。
またサ プライチェーンの企画部門が組織を またがった活動をすることも重要で す。
そして規模の経済を活かすため に、異なる部門が共通のインフラを 使って一緒に協力していく。
それが 成功の秘訣と言えます」 の設計段階からフルフィルメントの 効率について配慮しています。
また 産業によっても、サプライチェーンの アプローチには違いがあります。
PC やレーザープリンター、ファッション あるいは携帯電話など、技術や製品 の変化が早い業界においては、設計 プロセスとサプライチェーン戦略の統 合が特に重要になります。
一方、オ ムツやビールなど単一機能の製品で は、また違ったところに焦点が当て られます」 成功の三つの条件 ──グローバル化と水平分業によっ てサプライチェーンは地理的にも分 散してきました。
これも統合を難し くする一因となっています。
 「複数のことが今同時に起こってい るのだと思います。
グローバル化が 進む一方で、原油価格の高騰をきっ かけとしてサプライチェーンを地理的 に集約するニーズも生まれてきてい ます。
現在の原油の高騰がバブルで あり、いずれは沈静化するとしても、 原油の値段が元の水準まで下がるこ とは期待できません。
そうなると輸 送費を考えれば集中生産よりも需要 に近いところで生産するほうが望ま しい、あるいは在庫を増やすという 判断も必要になってきます」  「例えば薄型テレビの場合、かつて は多くのメーカーがアジアで製造し て、それをアメリカ市場にもヨーロ ッパ市場にも送っていました。
しか し、輸送コストが非常に増加したこ と、また薄型テレビの販売価格が一 カ月に一〇%というペースで下落し てしまうことなどから、消費地に近 いところで製造するというように変 化しています」 ──サプライチェーンが複雑化してい くことで管理組織は今後、より中央 集権型になっていくのでしょうか、そ れとも分散していくのでしょうか。
 「その両方、いわゆるハイブリット 型になっていくでしょう。
エグゼク ティブレベルでは統合を進める。
戦略 も立てる。
各ローカルで具体的にそ れを実行していく」 ── どこまでローカルの判断に任せ るかという匙加減は?  「それこそが、その会社の戦略であ り、経営判断です」 ── その匙加減は数学的な解析によ って正解を出せるようなものではな いのでしょうか。
 「サプライチェーンの問題には、必 ず正解があるとは限りません。
サプ ライチェーンの意志決定は、数学的 な解析、コラボレーション、取引先と の関係性、リーダーシップなどの要素 デイビッド・スミチレビ(David Simchi-Levi)  マサチューセッツ工科大学教授(エンジニア リング・システム)。
著書に「Designing and Managing the Supply Chain」共著:1999 年、McGraw-Hill(邦題『サプライ・チェイン の設計と管理』朝倉書房)、「Managing the Supply Chain」共著:McGraw-Hill,2003 年(邦題『マネージング・ザ・サプライ・チェ イン』朝倉書房)などがある。
1995年にサプ ライチェーン設計ソフトのLogicTools社を設 立、同社を2007年にアイログ社が買収したの を機に、アイログ社チーフ・サイエンス・オフィ サーに就任。
現在に至る。

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