ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年8号
値段
上組

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2008  54 一貫物流で港運事業を拡大  上組の二〇〇八年三月期業績は売上高は会 社計画を達成したが、営業利益段階では前期 比六・五%増の二二五億円となり、計画の二 二七億円を二億円下回った(図1)。
メリル リンチ日本証券では営業利益が未達だった理 由の一つとして港湾運送での貨物取扱量の低 迷があると考えている。
営業費用の内訳をみ ると、人件費はほぼ前期並みの水準に抑制さ れており、外注費などの変動費も取扱量に応 じた増加にとどまっているためだ。
 港湾運送のうち、特に取扱量が低迷したの は青果物や飼料などとみられる。
ただ、青果 物の低迷の背景には中国の残留農薬問題に関 わる日本全体の輸入量減少が影響した可能性 があり、上組自体の要因によるものとはいえ ないだろう。
一方、穀物や食品、自動車な どの取扱量は引き続き増加基調だった。
港湾 別のコンテナ取り扱いをみると、東京、横浜、 名古屋の取扱量が依然として好調に伸び、阪 神港がやや伸び悩むといったここ数年の基調 に変化はなかった。
 運輸業界にとっては、〇八年三月期は軽油 費上昇や輸出入量の鈍化といった逆風があっ た。
そうした中、上組が営業費用を抑制する ことにより、営業利益率を前期比〇・一ポイ ント改善の一〇・三%の水準を維持したこと は評価したい。
 同社は〇九年三月期の営業利益の計画を 前期比五・七%増の二三八億円、営業利益 率は同〇・四ポイント改善の一〇・七%とす る。
これに対し、メリルリンチ日本証券では 営業利益は会社計画を五億円上回る二四三億 円、営業利益率は前期比〇・五ポイント改善 の一〇・八%と予想している。
短期的に青果 上 組 内部留保の再投資で収益率を向上 「スーパー中枢港湾」で利益成長加速  上組の強みは内部留保の再投資による継続 的な収益率の改善にある。
〇九年三月期は会 社想定以上に設備投資が収益に貢献し、営業 利益率は一〇・八%に向上すると考えられる。
政府による「スーパー中枢港湾構想」も追い 風に、今後も安定した利益成長が続きそうだ。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 第41回 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 207,015 218,000 218,405 223,000 21,160 22,700 22,526 23,800 22,460 24,100 23,792 25,100 13,030 13,600 13,619 14,700 07年3月期実績 08年3月期計画 08年3月期実績 09年3月期計画 売上高 営業利益 経常利益 純利益 図1 連結業績の推移(単位:百万円) 【売上高】 【営業利益/経常利益/純利益】 55  AUGUST 2008 物などの取扱量が回復することは考えにくい が、設備投資の効果が同社の想定以上に発揮 されると考えられる。
 上組の強みは内部留保の再投資による継続 的な収益率の改善にある。
〇八年三月期の設 備投資は一二二億円と従来に比べて少額だっ たが、〇九年三月期は過去平均的な水準で ある一五〇億円を計画しているようだ。
また、 四月からは一万平方メートルを超える大型物 流センターが稼働しており、通期で利益貢献 する見込みである。
 コア事業である港湾物流では低コストオペ レーションの仕組み作りが奏功し、現状では 最も高い収益性が見込める事業となった。
し かし、港湾での貨物取扱量は景気や社会情勢 により変化しやすく、単純な港湾物流事業だ けでは安定した利益成長は期待できない。
 このため、同社は3PLが盛んになる以前 から、港湾物流機能だけでなく倉庫内オペレ ーションやトラック輸送に至るまでの一貫物 流を手掛けてきた。
輸入貨物を港湾で荷揚げ し、消費者または工場まで輸送することによ り、顧客側では品質面での安心感、物流コス ト低減のメリットが得られ、結果として港湾 事業の取扱量が増加するという好循環を作り 出したといえよう。
 トラック業界では供給過剰による運賃値下 げ圧力が強いため、過度なトラック輸送業務 への参入は収益率が低下するリスクがあるが、 同社では港湾運送事業の取扱数量を拡大する ための施策と位置づけているとみられる。
近 年では輸入貨物の倉庫保管・加工、国内トラ ック輸送のアウトソーシングを受けたケースに おいて、顧客の物流コストが低減されるとい う実績も出てきたようだ。
年率八%の利益成長も可能  メリルリンチ日本証券では、上組は中期的 に年率八%程度の安定した利益成長が実現可 能とみている。
その背景にあるのが前述の内 部留保の再投資であり、もう一つが政府主導 の「スーパー中枢港湾構想」の推進だ。
AUGUST 2008  56  同構想は〇二年、国土交通大臣の諮問機 関である交通政策審議会において提案された。
主な内容は、港湾コストの三割削減やリード タイムの短縮(現状の三〜四日から一日程度 に)、これら施策を適用する港湾の選択と集 中などである。
日本港湾はターミナルが小規 模である上、ゲートやガントリークレーン等の 施設・機材が共有化されていないなどの問題 があり、同構想による効率化の余地は大きい。
 〇四年七月に指定特定重要港湾(スーパー 中枢港湾)に選定されたのは京浜港(東京港、 横浜港)、伊勢湾(名古屋港、四日市港)、阪 神港(神戸港、大阪港)である。
これら三大 港湾のもとに設立されたターミナルオペレータ ーは、「横浜港メガターミナル」、「飛島コンテ ナ埠頭」、「神戸メガコンテナターミナル」、「夢 洲コンテナターミナル」の四社。
上組は港運 業者の中では唯一、全てのオペレーターに出 資している。
メリルリンチ日本証券では、一 〇年前後に竣工する予定の次世代高規格ター ミナルでのコンテナ取扱量の増加により、同 社の利益成長が加速する可能性があるとみて いる。
 一方、株式市場では投資家が上場企業のト ップマネジメントに対して株主還元を求める 傾向が高まってきている。
〇九年三月期は軽 油価格の高騰や景気減速を想定し、営業利益 予想を前期比横ばい、または減益とする物流 企業もあるが、一定の配当額を維持するなど 安定配当を意識した経営陣の判断が窺える。
 フリーキャッシュフロー(純現金収支)が ポジティブに転換する見通しの物流企業では、 自社株買いを検討する傾向もみられる。
上組 は〇九年三月期の一株当たり当期純利益を前 期同様の八・五円としており、配当性向は一 五・八%(前期は一七・一%)になる見通し である。
これは同業他社並みといえるが、上 組の年率八%の利益成長と年間一五〇億円 程度の設備投資の推移から、フリーキャッシ ュフローは徐々に拡大し、将来的には前向き な株主還元を実施する余力が生まれてくるだ ろう。
具体的には、〇八年三月期の現金およ び現金同等物は約二〇〇億円だったが、三〜 五年後には四〇〇億円程度まで拡大すると考 えている。
 ただし、利益成長を妨げるリスク要因もあ る。
必要以上に港湾物流以外の分野に事業 を拡大すれば、価格競争に晒されることにな る。
また、景気減退に伴う港湾物流量の低 迷も考えられる。
スーパー中枢港湾構想につ いても、行政面のスケジュールの遅れの可能 性がある。
さらにいえば、同構想の効果が上 がらなければ、日本港湾の貨物取扱量の増 加が限定的にとどまる、というリスクが挙げ られるだろう。
上組の過去10年間の株価推移 つちや やすひと 一九九七 年三月神戸大学大学院卒、 九八年四月和光証券入社。
三菱証券などを経て、二〇〇 五年一〇月にメリルリンチ日 本証券に入社。
運輸セクタ ー担当アナリストとして活 躍している。
著者プロフィール (円) 《出来高》

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