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援のコンサルをしたのであるが、弟子たちは、当
時からこの課長の熱心さには敬意を抱いていた。
その熱心さが、その後の物流ABCをどのよう
に発展させたかという点に大いに興味を持って
いたのである。
「お久し振りですけど、物流ABCはその後活
用の幅が広がりましたか?」
突然の質問を予期していたかのように、課長
氏は待ってましたとばかりに身を乗り出す。
「はい、思わぬ展開になりました」
課長氏の言葉に今度は弟子たちが身を乗り出
す。 課長氏の隣に座っている大先生も興味を持
ったらしく、ちらっと課長氏の顔を見る。
三人の反応に気をよくしたように課長氏が語
りだす。
「あのコンサルのとき、主要アクティビティ︵作
業単位︶について、本来あってはならない動き
を取り除いた、通常この時間でできるはずだと
いう標準作業時間というのを設定しましたよね。
あれを作業者みんなに公開して、この時間でで
きるように工夫してくれって、やんわりと指示
したんですよ」
体力弟子が大きく頷き、先を促すように言葉
を挟む。
「みんな、その時間でできるようになったんで
すか?」
課長氏がもったいぶった顔で首を振る。 体力
弟子は、当てが外れ、がっかりしたような顔を
物流現場の作業内容は毎回違う。 作業時間を測って平均値
を計算しても何の役にも立たない。 作業が規格化された工場の
管理技術は、物流現場には使えない──「物流ABC(Activity
Based Costing:活動基準原価計算)」に対する誤解と偏見は
いまだに根強い。 その導入に向けて日々邁進する物流担当課長
が、大先生一同と久しぶりに一献傾けた。
湯浅和夫の
湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表
《第67回》
その後の「物流ABC」
大先生の日記帳編 第11 回
熱血課長が久しぶりに来訪
猛暑が続くある日の夕方、以前に大先生のコ
ンサルを受けた卸売業者の物流担当課長が訪ね
てきた。 久し振りに東京出張があるので、その
折にご挨拶に伺いたいという電話が入り、午後
に伺いたいというところを、大先生が「夜、暑
気払いでもやろう」と勝手に夜に変えてしまっ
たのである。
その結果、その日に帰る予定だった課長氏は
出張を一日延ばすことになってしまった。
「おかげでのんびりできます。 先生が夜しか空
いてないのでって部長に言ったら、『それじゃ仕
方ないな』ってすんなり認めてくれました。 あ
りがとうございます」
課長はご機嫌で大先生にお礼を言う。 そんな
ことは意に介さずに大先生が「出張って何だっ
たの?」と聞く。 課長が言い難そうに「はー」
と顔をしかめる。
「それは、あとで酒の勢いで聞くとして、あん
た、夏太りした?」
突然、大先生が話題を換える。 もともと小太
りな課長は、ここでも返事に窮した。
そうこうしているうちに、予約の時間が来た
というので、弟子たちも同行して、近くの蕎麦
屋に向かった。
ビールで乾杯の後、美人弟子が課長氏に早速
質問をする。 この会社には物流ABCの導入支
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して首を傾げる。 課長氏がその様子を見て、楽
しそうに話す。
「実は、あの標準作業時間ですが、あれを設
定したすべてのアクティビティで大幅に時間が短
縮されたんです」
「えっ、時間短縮ですか? それはすごい」
体力弟子の感嘆の声に美人弟子も驚いたよう
に大きく頷く。
「数字を見せられたら、みんなが無駄な動きを
排除するように工夫し始めたってこと?」
大先生の言葉に課長氏が頷き、説明する。
「そうなんです。 前は、ピッキングとか梱包な
どで、お恥ずかしいことですが、作業の途中で
本来の動き以外のことをいろいろやっていたん
です。 まあ、先生方、よくご存知のように、や
っていたというより、やらざるをえなかったと
いうのが正直なところです」
弟子たちが頷くのを見ながら、課長氏がグラ
スを手に取り、残ったビールを一気に飲み干す。
美人弟子が、空いたコップにビールを注ぐ。 そ
れを受けながら、課長氏が続ける。
標準作業時間が半減した
「それが、あの時間についての数字が出てから、
パートさんたちから不要な動きをやらないよう
にするにはこうした方がいい、ああした方がい
いという意見がいろいろ出されたんです。 それ
を受けて、システム担当も入れて、いろいろ改
善しました。 そしたら、私自身びっくりしたん
ですが、時間が半分で済むようになったアクテ
ィビティも出ました。 ほとんどのアクティビティ
が三割以上は時間が短くなりました」
「それはすごい。 よくやった。 それで、いま
はアクティビティの作業時間は安定的に推移して
いるの?」
大先生の褒め言葉に課長氏がびっくりしたよ
うな顔をするが、すぐに返事をする。
「はい、ほぼ安定してきました」
「それはいい。 そうなると、いろいろおもし
ろいことができるな」
大先生の言葉に、我が意を得たりという顔で
課長氏が大きく頷く。
「そうなんです。 受注状況に合わせて、作業時
間が計算できるようになったんです。 アクティ
ビティ別の一処理当りの作業時間が一定ですの
で、アクティビティ別の作業量を掛ければ、必要
作業時間や必要人数がわかります。 そこで、翌
週や翌日の作業量を予測して、人員計画を立て
ています。 また、日々、アクティビティ別の終
了時間がわかりますので、それに合わせて人員
の配置換えなどもやっています。 以前そのよう
なご指摘をいただいたことがありますが、正直、
そのときはピンと来ませんでした。 いまは実際
にやってみて、その効果を実感しています」
「へー、大したもんだ。 あんたの努力が実った
ってことだ」
大先生にまた褒められ、「いやいや」とか言
いながらも、課長氏は満更でもなさそうだ。 弟
子たちも課長氏の努力と熱意を称える。
「ところで、いまの話は、うちがコンサルに入
った西日本のセンターでの話だろ? 他のセンタ
ーへの展開はどうなってる?」
いままさに刺身を口に入れた課長氏は、大先
生の質問に、慌ててそれを飲み込んだ。 そして、
大先生に向き直り、「ご賢察」とひとこと言い、
説明を始めた。
「実は、今回の出張は、まさにそれなんです。
東日本のセンター長は、もともと物流ABC自
体に懐疑的なんです。 あっ、済みません」
「いえ、別に。 そういう方も少なくないですよ。
もっとも、ABCを正確に理解していない場合
が多いですけど‥‥」
体力弟子が微笑みながら答える。 課長氏が続
ける。
「そうなんです。 物流ABCを理解しようと
もしないで、頭から物流の現場ではそんな平均
値は役に立たねえだとか、計画的に生産できる
工場と違って物流の現場は顧客により毎日違っ
た注文が入るし、波動ってもんがあるから、杓
子定規な考えは当てはまらねえとか言うんです
よ」
課長氏の物真似風の物言いに弟子たちが楽し
そうに笑う。
「いまのはそのセンター長の話し方を真似たわ
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け?」
大先生の問い掛けに「はい、臨場感を出そう
と思いまして。 わかるでしょ、どんなやつか」
と課長氏が答える。 弟子たちが笑いながら頷く。
大先生が、興味深そうな顔で課長氏に聞く。
「それで、東日本に乗り込んで、どうなった?」
美人弟子が作った焼酎のロックをぐいと飲ん
で、課長氏が胸を張った。
「はい、論破して、西日本と同じことをやら
せるようにしました」
弟子たちが「へー」と驚いた顔をする。 その
顔を見て、課長氏が正直に打ち明ける。
「と言いましても、センター長は納得しませ
んでした。 わかったとは言いませんでしたから。
まあ、納得したくないんでしょうね。 途中から
黙りこくってしまいましたけど、最後にぼそっ
と、あんた中心でやってみてくれと隣にいた副
センター長に指示してました」
「そうですか。 それでどうやって説得したんで
すか?」
美人弟子が興味深そうに質問する。
物流センターは工場と何も変わらない
「先生方は覚えておいでですかね、コンサルの
初めの頃、実は同じようなことを私が言ったこ
とがあるんですが、そのときの先生方とのやり
とりが頭に残っていたんです。 今回、作業時間
が管理に使えるようになって、それを自信もっ
日々の作業者のやりくりもできません。 西日本
での実績をもとに、作業は常に同じテンポで行う
んだ、早く終わったら他の作業に回すんだ、場
合によっては早く帰ってもらうんだって説明す
ると、そんなことするとパートさんが集まらな
いだとか、まったく話の本質を外した反論が返
ってくるんです。 議論を噛み合わせるのが大変
でした」
「これまでの行き掛かり上、理解しても素直に
認め難いんだろうな。 その気持ちはわかる。 お
れもそういうところあるから」
大先生の妙なコメントに課長氏が「えっ」と
仰け反る。 美人弟子が「気になさらないでくだ
さい。 それで、工場との違いはどう論破された
んですか?」と先を促す。
「はい、工場と物流センターは同じだ、違いな
どないって言いました。 毎日、いろんなお客か
らバラの注文やケースの注文がいくつ来ようが何
の支障もない。 そのためにバラピッキングとかケ
ースピッキングというアクティビティが準備され
ているんだ。 波動だって、それに応じて人員を
事前に手配しておけばいいことだし、週間だろ
うが月間だろうが季節だろうが波動は事前に読
めるんだから対応可能だ、工場だってまったく
同じだろうって言ったんですが、なかなか理解
してもらえませんでした」
弟子たちがさもありなんと頷く。 課長氏が続
ける。
て言えるようになりました」
「平均値は役に立たねえってのはよく聞くな。
作業の繁閑によって作業時間は異なるなんて抜
かす輩もいる。 まさに絶句ものだ」
大先生のわざとらしい物言いに、課長氏が「そ
うなんです」と相槌を打ち、溜まったものを吐
き出すかのように一気に話す。
「忙しいときは作業が早くなり、暇なときは
のんびり作業するってこと自体おかしいってこ
とをまず説明しなければならないんですよ。 そ
んな作業のやり方をしていたのでは人員計画も
湯浅和夫の
Illustration©ELPH-Kanda Kadan
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「でも、やっぱり実績というのは強いですね。
西日本の人員手配の計画値と実績の表を見せた
ら、妙な反論は返ってきませんでした。 以前は、
数字がなかったので、そんなこと言うと、物流
の現場がわかってないなんてけんもほろろに追
い返されてたんですけどね」
課長氏の話を聞きながらちょっと不安そうな
顔をしていた体力弟子がそっと聞く。
「その、おまえがやれと言われた副センター長
さんは、どんな反応だったんですか?」
「はい、彼はどこかで物流ABCについて聞い
たことがあるようで、ABCには興味があるら
しく、途中で『うちもやってみましょうよ。 私
がやりますから』ってセンター長に申し出てい
ました。 彼のひとことがセンター長の救いにな
ったかもしれません。 たしかにセンター長は依
怙地なところがありますが、結果が出れば受け
入れる度量はありますから心配は要りません」
体力弟子が安心したように頷く。 代わって、美
人弟子が質問する。
現場はやっぱ義理と人情です
「ところで、その安定しているという作業時間
は作業者みんなが同じような時間で作業できる
ってことですか?」
美人弟子の質問に体力弟子が「それそれ」と
言って、課長氏の顔を見る。
「はい、これも不思議なんですが、最初に作
業時間調査をやったときは、同じ作業でも作業
者によって結構差があるもんだなって印象を持
っていたのですけど、無駄な動きを取り除いた
ら、自然と時間差はなくなってきたんです。 そ
れに、各人が他の人の動きを気にするようにな
って、こうした方が早いわよなんて助言するパ
ートさんも現れました」
弟子たちの感心した様子に水を指すかのよう
に大先生が言葉を挟む。
「そういう雰囲気作りをあんたとセンター長で
仕組んだんだろ?」
大先生の言葉に課長氏が「えっ」と言って、大
先生の顔をまじまじと見る。
「はー、別に仕組んだわけではありませんが、
実は、コンサルの後、作業が早く終わる日を選
んで、近くの居酒屋にパートさんたちを招待し
て、決起集会みたいなものを開きました。 酒も
入ったせいか、いろんな意見が出ました。 結構
盛り上がりまして、パートさんたちとの人間関
係が変わったような気がします。 これから定期
的に開こうと思ってます」
「やっぱり働いているのは人ですから、そうい
う打ち解けた場作りも重要なんですね」
「そういうことを強調する物流センターの責任
者って結構いますよね」
弟子たちの言葉に課長氏が「そうなんです。 や
っぱ決め手は義理と人情なんですよ」と大先生
の好きな言葉を持ち出して締め括った。
ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課
程修了。 同年、日通総合研究所入社。 同社常務を経
て、2004 年4 月に独立。 湯浅コンサルティングを
設立し社長に就任。 著書に『現代物流システム論(共
著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物
流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる
本』(以上PHP 研究所)ほか多数。 湯浅コンサルテ
ィング http://yuasa-c.co.jp
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