ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年8号
特集
脱デルモデル 国際ロジスティクスの進め方

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

振り子が逆に動きだした  事業の成長には大きく二つの方法がある。
販売エリ アを拡大し、その後で多角化するか、それとも商品 ラインを揃えたうえでエリアを拡大するかだ。
歴史を 振り返ると、先に販売エリアをグローバルに広げて規 模をとった会社が勝っている。
ところが日本企業の多 くは、これまで逆のアプローチをとってきた。
 「携帯電話がその典型だ。
日系メーカー同士が国内 で機能競争に奔走している間に、フィンランドのノキ アがグローバル市場を制覇してしまった。
ハイテクは 韓国のサムスンだ。
彼らは事業を始めた時からグロー バル市場で勝つことを目標に置いている。
ところが日 本は中途半端に国内市場があるため、グローバルにも のを考えない。
その結果、技術力では勝っていても 競争では負けてしまう」と、A.T.カーニーの山本 直樹パートナーは指摘する。
 それでも日本の上場企業は二〇〇八年三月期現在 で既に連結売上高の二九%、製造業に限れば四五% を海外に依存している。
自動車や電機などの輸出産 業では海外依存率が七割を超えるケースも珍しくない。
新興国需要の拡大によって、今後も日本企業の海外 売上高比率は上昇が必至だ。
 物流コストや在庫も大半が海外で発生することにな る。
本社ロジスティクス部門は、国内からグローバル に管理の軸足を移さざるを得ない。
その第一ステップ は「見える化」だ。
製品コードやオペレーション用語 を世界で統一して、情報システムを整備し、世界各地 の工場や販売会社の在庫を把握する。
 平行して協力物流会社の集約を進める。
拠点ごとに 協力会社を選択していたのを改め、国際入札で輸送ル ート別に協力会社を集約する。
ボリュームディスカウン トによって支払い物流費の大幅な削減が実現する。
た だし、その効果がはっきりと出るのは通常一回きり。
 むしろ本番はそこからだ。
統合がキーワードになる。
協力物流会社の集約と同様に、サプライチェーンのプ ラットフォームを世界的に共有することでスケールメ リットを出す。
同時に商品設計から生産、販売、アフ ターサービスに至るそれぞれのプロセスを、ロジステ ィクス・ネットワークの効率という観点から常に最適 化しておかなければならない。
 世界で最も労働力の安い地域で生産し、最も高く売 れる地域で販売するという、単純な適地生産・適地 販売の方程式は今では通用しなくなっている。
輸送 費の高騰と在庫の陳腐化リスクの増大は、水平分業に よる集中生産から現地生産への揺り戻しを引き起こし ている。
しかも販売エリアは欧米の先進国から世界各 地の新興国へと拡大している。
 販売物流はその地域の市場環境に従う。
先進国と 同じモデルが新興国にも適用できるとは限らない。
販 売チャネルの選択肢やアウトソーシングの利用可能性 は地域によって違う。
意志決定の権限を現地に委譲し て管理組織の現地化を進める必要がある。
その一方 でコスト競争力の確保には、やはりグローバルな集中 管理が求められる。
すなわち分散管理による多様性 と統合管理のもたらす効率性を両立する新たなサプラ イチェーンの確立が求められている。
 
咤達佑猟蠕个和腓く変化し始めた。
デルの迷走が、 その象徴だ。
受注生産方式で顧客仕様のパソコンを組 み立て、直接顧客に納品する。
調達にはVMIを導 入し仕掛かり在庫を一掃。
ITを駆使してリードタイ ムを極限まで短縮することで完成品在庫も絞り込む。
そのビジネスモデルは、SCMの手本として広く他産 業にも追随者を生んだ。
国際ロジスティクスの進め方 AUGUST 2008  14  日本企業の主戦場が国内から海外に本格的にシフトした。
ロジスティクス管理の軸足もグローバルに移る。
国内市場 とは異なる課題と直面することになる。
しかも、従来の手 法は壁に突き当たっている。
市場の変化とグローバル化が、 戦略の抜本的な修正を迫っている。
      (大矢昌浩) 解 説 特集脱デルモデル  しかし現在のデルはライバルのHPにシェアで逆転 され、大幅な人員削減を伴うリストラに追われている。
顧客層を法人もしくはヘビーユーザーに絞り、直販に 特化したサプライチェーンを構築。
研究開発費やアセ ットへの投資はパートナーに任せ、アウトソーシング を徹底するというそれまでの特化戦略が、市場環境 の変化によって全て裏目に出た。
 特化は変化への柔軟な対応を難しくする。
特定の 市場、特定の顧客層、特定のプロセスに対象を限定し た組織は、市場のニーズと合致した時には抜群の競争 力を発揮するが、市場の枠組みが変わればその価値 を失ってしまう。
コア・コンピタンスに経営資源を集 中する「選択と集中」は見直しが迫られている。
 マサチューセッツ工科大学のデイビッド・スミチレ ビ教授は「SCMのパラダイムは変化した。
製品特性 と顧客特性に応じて複数のサプライチェーンを構築し、 それを統合管理する『ポートフォリオ・サプライチェ ーン』が次のモデルだ」と主張する。
 ポートフォリオとは英語で「書類入れ」を意味する 金融用語だ。
複数の金融商品を組み合わせて資金を 分散しリスクを抑える投資戦略を指す。
これが「製品 ポートフォリオ」や「顧客ポートフォリオ」など、マ ーケティング戦略の手法にも転用されている。
同様に サプライチェーンにおいても、変化と多様化の進む市 場でリスクを回避し、安定的に成長するためにポート フォリオを組めという指摘だ。
 複数のサプライチェーンを並行して運用するには、そ れだけの規模が必要になる。
コア・コンピタンスとは みなされなくても、いったん手放してしまえば再び自 前で構築することが難しい機能はアウトソーシングもで きない。
振り子が逆に振れ始めた。
しかし、昔に戻る わけではない。
SCMは進化を始めているのだ。
15  AUGUST 2008  水平分業とは特定のプロセスに特化する戦略だ。
デル で言えば、R&Dの投資はしない。
一世代前のCPU、 メモリでも平気。
その代わり圧倒的なオペレーション・ エクセレンシーで勝負する。
頭脳ではなく身体能力に特 化した体育会系の企業と言えるだろう。
 製品力や技術力と比べると、オペレーションは真似を するのが難しい。
キャッチアップに時間がかかる。
それ だけ優位性が長く続く。
それでもいつかはコモディティ 化してしまう。
 デルも同じダイレクトモデルをとるプレーヤーが他に なく、世界で最も進んだオペレーションを持っていた時 代には圧倒的なコスト競争力があった。
しかし、他社が 皆直販に進出し、ギャップが少しずつ小さくなってきて 優位性が失われた。
市場競争のルールも変わった。
サー バー一台当たりのコストから、ブレードや仮想化などの 技術力にコンピュータ業界の競争条件は変化した。
 その結果、現在のデルは“ミニHP”化している。
小 売店販売を開始し、R&Dにも手を出すようになり、普 通のコンピュータメーカーになってしまった。
アイデン ティティを見失ってしまったようだ。
 これはデルだけではなく、オペレーションを強みとし てきた体育会系企業全般に共通する問題だ。
一時は隆盛 を極めたEMS(電子機器の受託生産) も現在は勢い を失っている。
生産だけに特化してきたEMSが徐々に R&Dにも手を拡 げ、頭脳系を取り 込んでいったこと で逆に完成品メー カーとの違いがな くなってしまった。
 一方で頭脳系の 企業も特化はでき なくなっている。
DRAM事業から撤退しCPU専業に 転換したことで成功したインテルは、CPUとメモリを 一つのチップに乗せる時代が訪れたことで再びメモリ事 業に参入している。
いったんは携帯事業から撤退したク アルコムも改めて携帯ディスプレイや携帯用ユーザーイ ンターフェースの会社を買収している。
 選択と集中によって特定のプロセスに特化する戦略 は、もはや通用しなくなっている。
水平分業の時代が終 焉し、再び総合化の時代を迎えたと言えるだろう。
これ に対応してワールドクラスの企業はどこも不得意領域を 買収などでカバーする動きに出ている。
ところが日本企 業の多くはいまだに水平分業への移行に四苦八苦してい る。
完全な周回遅れだ。
 もっとも日本企業は選択と集中に出遅れたことで、結 果として総合化には近い位置に立っているという見方も できる。
組織内に全ての要素がまだ残っている。
それを 上手く組み替えることができれば、いったん事業や機能 を切り捨てた後で改めて領域を拡大しようとするプレー ヤーよりもむしろ優位に立てるかも知れない。
 日本企業がまず為すべきは、自分たちが所属する産業 の水平分業がどのステージにあるのかを確認することだ。
水平分業の時代が終わったと言っても、半導体、コン ピュータ、通信機器、家電など、産業によって変化の進 展の度合いは違う。
それをマクロ的に判断する。
 市場を俯瞰的に見たとき、変化はどこに向いて進ん でいるのか。
付加価値の原単位はどこにあるのか。
そこ から次の勝ちパターンを見つけて、新しい事業の括り方 を決定しなければならない。
現在の日本企業の総合化は、 同じ会社の下に別々の事業が単にぶら下がっているだけ だ。
それを横にコラボレーションしていくことで何がで きるのかを真剣に考える。
そこから勝機を見出すことが できるはずだ。
                (談) 「日系メーカーの水平分業は周回遅れ」 A. T. カーニー 山本直樹 パートナー

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