ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年8号
特集
脱デルモデル タイトヨタにみるJITの国際化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2008  28 タイトヨタにみるJITの国際化 ティクスの方向性について探ってみた。
中継地混載方式とミルクラン  日系自動車メーカーはトヨタに代表されるように世 界戦略車の生産に力を入れているが、その中心的生産 拠点の一つがタイにある。
我が国では、完成車両の組 立工場を中心に協力企業の生産拠点が高密度に集積す るクラスターが形成されているが、海外では必ずしも このような状況にない。
 特に、ASEANでは部品の相互補完方式によって 部品生産の集約度を高めているものの、生産規模自体 が日本国内ほど大きくないこともあり、日本のような サプライヤー単位の高度なJIT物流を行うことは困 難な状況にある。
このような条件下で採用される部品 調達方式の代表的なものが、中継地混載方式かミルク ラン方式である。
 中継地混載方式とは、部品当たりの調達量が少なく、 サプライヤーから組立生産拠点までの距離が長い場合 に、サプライヤーの出荷拠点と組立生産拠点の間に中 継地点を設けてクロスドッキングし、ここから組立生産 拠点まではロットを分割し、混載・多回輸送してタク トタイム(生産スピード)に同期化させる方式である。
 一方、ミルクラン方式とは、買い手による巡回混載 集荷型の調達物流の総称である。
ユーザー(例えば自 動車メーカー)の手配したトラックが決められた時間 帯に、決められた順路で複数の部品メーカーを巡回し、 部品や製品等を集荷混載してユーザーの指定した工場 (倉庫)等に納入する。
海外ではこのミルクラン方式の 部品調達が普及している。
 なお、このほかにも出発地混載方式がある。
JIT部品調達の前提  ミルクランについて詳しく説明する前に、トヨタ生産 普遍性を試されるJIT  自動車産業に代表される我が国の「ものづくり」の 強さは、執拗なまでの現場主義とそこでの継続的な改 善に支えられていることは世界的にも広く認識されて いる。
一つの流れは、トヨタ自動車のJIT(ジャス ト・イン・タイム)が源流となっている。
それまでの 自動車生産の常識からみれば独創的ともいえる日本的 な生産方式は一九八〇年代から海外でも広く研究され、 徹底したムダの排除を志向した「リーン生産方式」と して一般化されるに至っている。
 もう一つの流れは、親企業と協力工場が特定の地域 に立地し、密接な取引関係を形成する「Keiretsu(系 列)」的企業間関係として紹介された。
これらがロジ スティクスやSCMの概念に少なからぬ影響を及ぼし たことは周知のとおりである。
 この「JIT」と「Keiretsu」は、セットで取り扱 われることも多い。
Keiretsu的な特殊な企業間関係を 前提としないとJITは成立しないのではないかとい う議論がなされることもある。
すなわち、「JITの 普遍性や如何?」というわけである。
 
複稗團灰鵐札廛箸良疂彑が問われたもう一つの事 例がある。
大地震で部品の供給が滞った自動車部品メ ーカーが災害に備えて部品倉庫を設置することに決め たというものである。
在庫を極力排除するJITが地 震という非常時に裏目に出て組み立てメーカーのライン をストップさせたことから、あえて在庫を保持する方 針に転換したものと受け止められた向きもある。
 このようにJITには、グローバル環境では通用し ないとか、災害に弱い、環境問題からも好ましくない といった意見もみられる。
本稿では、我が国の自動車 メーカーのASEANでの部品調達体制について検討 し、海外でのJIT体制の進化とグローバル・ロジス  日本国内のような企業城下町を持たない海外の自動車生産 工場では、ミルクラン方式による部品調達が広く普及している。
その効率化のためにトヨタのタイ工場では、電子かんばんと「プ ログレスレーン」と呼ばれる独自の仕組みを導入している。
国 際化によってJITの手法も進化している。
第4部SOLE日本支部フォーラムの報告《特別編》 橋本雅隆 横浜商科大学 教授 29  AUGUST 2008 特集脱デルモデル 方式の基本についてごく簡単に整理しておこう。
トヨ タのJIT生産方式の目的は、徹底した在庫の削減お よびあらゆるプロセスにおける無駄の排除にある。
小 ロット・混流・同期化生産による生産の平準化が、そ れを実現するための基本となっている。
 車種別の月間生産計画数量と月間稼働時間から産出 されるタクトタイムで工程全体が同期化される仕組み になっている。
タクトタイムで各工程が完了するよう に、車種別の投入順序と作業手順や要員計画が策定さ れる。
 組立工程のラインサイドには部品棚(これをストアと 呼ぶ)があり、当該工程に必要な部品在庫が置かれる。
ストアへの部品の補充はかんばんを介した指示情報に よって連結されている。
かんばんはモノと常に一体と なって工程を移動し、各工程がタクトタイム内に完了 して、ライン全体が同期化することを実現している。
 この仕組みは、サプライヤーとの間でも同様である。
部品が各工程に一定の平準化された速度でプル(引き 取り)されるように車種別の投入順序がコントロール されている。
各工程で必要な部品が、必要なタイミン グで、必要な数量のみ供給され、過剰な部品在庫の発 生や欠品を起こしてはならない。
かんばんの枚数を減 らして、組み立てラインの部品在庫がゼロになった瞬間 に前工程から補充される状態にすることが理想である。
 しかし、現実には様々な要因で部品在庫を持つこと になる。
日本国内のようにサプライヤーが組立拠点の近 傍にあり、サプライヤーごとの生産規模が十分に大きい 場合には、多頻度納品が可能になる。
しかし、サプラ イヤーが遠隔地にあって発注規模が十分な規模を持た ない場合には部品在庫量(かんばんの総枚数)は増大 する。
部品の生産ロットや輸送の積載効率を勘案する とサプライヤーからの直接多頻度納品も困難になる。
そ のため国内ではサプライヤーが定時・巡回混載納入を行 っているが、海外では、組み立 てメーカーの主体的な関与によ るミルクランが行われている。
ミルクラン方式の実際  このミルクラン方式による部 品の調達システムを極めて高精 度に行っているのがタイのト ヨタ自動車(TMT: Toyota Motor Thailand Co., Ltd.)で ある。
その代表的な生産拠点 であるサムロン工場ではI M V( Innovative International Multi-purpose Vehicle)のう ち、ミニバンのハイラックス、 IMV、(B─
達瓧癲法■稗 V?(C─
達瓧癲法■稗唯? (Double Cab)を生産している。
 また、同工場はタイ生産部品 の海外拠点への輸出梱包/出 荷拠点を兼ねている。
TMTで は、一二〇社のサプライヤーから部品を調達している。
これらのサプライヤーの出荷拠点はタイ国内に分散して いる。
これを一ルートが四時間圏内に収まるように五 つのゾーンに区分してミルクラン調達を行っている。
約 六〇〇台のトラックが使用され、物流専業者二社がそ の運用を請け負っている。
 バンコク市内は大型のトラックが入れないため、ミル クランの対象となっているのは全体の七〇%で、残り は部品メーカーが直接納品している。
サプライヤーから の納品は定時で実施されている。
 日本ではサプライヤーが荷捌きを行い、サプライヤー のエリアデポとの間をピストン輸送している。
この方式 には、トヨタ側では物流コストを把握できないという デメリットがある。
物流事業者との協働でミルクランを 実施することで、コスト管理やKPI(重要業績評価 指標)による改善を主体的に行うことができるように なり、調達物流のノウハウも蓄積できるという。
 現状では運行計画と管理もTMTと協力物流会社と の綿密な連携によって実施している。
工場は二直で稼 働し、部品はサプライヤーに対して一日を三六分割し て定時で「eかんばん(電子かんばん)」により発注 される。
 稼働計画、パーツ情報、毎日の納品情報から計算し た生産計画や運行計画はTMTより協力物流会社二社 海外におけるJIT 部品調達の例 生産ライン (部品ストア) 混流生産 平準化生産 販売・生産計画 部品調達物流 ?輸送( 積載) 効率の向上 ?JIT 供給の実現 海外での部品調達ネットワーク ?ミルクラン・Pレーン方式 ?中継地混載方式 等 サプライヤー ?分散立地 ?調達ボリュームの少なさ 通い箱の規格化 トラックサイズとスキット・箱 のサイズの関連付け eかんばんによる生産 組立順序を勘案した、 高精度の事前確定発注 Pレーンによるeかんば ん単位への分割と進捗 状況の把握・調整管理 GPSによるモニタリ ングとリリーフ体制 ICTを活用したオ ペレーション精度 の向上 現地現物管理によ るオペレーション精 度の向上と確実な 部品供給 生産を起点とした部品 供給もオペレーション プロセスの協働設計 配送スケジュールの計 算と現場の状況を勘案 した計画の調整 オペレーションの 実施と調整 3PL 事業者 集荷・納品オペレー ションシステム ドライバー・荷役作 業者の教育訓練と KPIによる物流品質 の向上 ミルクランによる納 品物流コストの把握 AUGUST 2008  30 に伝達される。
これに基づき、協力物流会社では実際 の道路状況・作業状況、積載状況を検討しながら集 荷・納品の具体的な詳細運行スケジュール(ダイヤグ ラム)を策定し、配車指示を行う。
 通い箱とスキットおよび車両の荷台のサイズは関連 付けて規格化されており、積載率を高めるように工夫 されている。
これは前述のTMT組み立てラインにお けるロットサイズと平準化のための車種別投入計画に 連動している。
運行状況はGPSによってリアルタイ ムにモニタリングされており、事故の発生に備えて二 四時間二直で各五人のチームがカバーしている。
 ミルクラン集荷された部品はトラックターミナルに搬 入される。
通い箱で納品される小型の部品は、積載効 率と運行スケジュールの関係から複数のeかんばんの オーダーがまとめて納品される。
これをオーダー別に 分割してラインに投入するためにP(プログレス)レ ーンを設けている。
 
丱譟璽鵑蓮▲蹈奪畔割機能と同期化のための進捗 調整の二つの機能を持っている。
一日の発注量を生産 計画に従って三六回に分割して、複数台分の部品をe かんばん一枚にまとめて発注している。
複数回分のe かんばん発注はまとめてトラックで納入されるので、こ れをPレーンでeかんばんの一回の単位に分割して生 産ラインに搬入する。
 このPレーンは在庫バッファーを是認したものではな く、部品の供給を生産ラインに直結するための極めて 精緻な仕組みである。
ミルクラン集荷によって複数回 のeかんばんをまとめて混載輸送し、積載効率を上げ る一方で、Pレーンはそれを元のeかんばんの発注単 位に分割して完全に混流生産のラインに同期化させて 直結する機能を持つ。
すなわち、JITコンセプトは Pレーンによって放棄されたのではなく、現地の生産 環境に適合的に進化したものと言える。
事例が示唆する方向性 ?シームレスなプロセス  
圍唯圓了例では、組み立てラインのタクトタイム に同期化するために、部品棚「ストア」を起点として、 社内・社外の調達プロセスがシームレスに設計され、連 動している。
中間にリスク在庫のダムを作って川下の 組立生産(販売)と川上の部品生産(商品生産)の取 り扱い単位を分離(ディカップリング)する発想はな い。
川上と川下をダイレクトに結ぶ直流のネットワーク が形成されている。
そのプロセスは、川下のストアを 起点に工程を逆展開することによって構築されている。
?川下と川上を混載物流で結合  
圍唯圓魯潺襯ランという集荷型の混載物流システ ムを構築していた。
部品ストアに供給する最少ロット サイズ(およびその倍数)でモノ(部品・個別商品) が取り扱われている。
部品ストアでの品揃え形成を極 力川上の拠点で行いつつも輸送効率を引き上げるべく 混載化が図られている。
?即時モニタリングによる同期的調整  
圍唯圓蓮▲潺襯ラン納品輸送の状況をGPSによ りリアルタイムで把握して、機敏に対応する仕組みを 構築している。
ICT(情報通信技術)をフルに活用 した現状のリアルタイム・モニタリングとサプライチェ ーンネットワーク・プロセス全体の同期的な調整がグロ ーバルSCMには不可欠になる。
?発注量の平準化と計画情報の事前共有  
圍唯圓蓮∩箸瀘てラインの作業のみならず、部品 の生産・調達プロセスのムダの排除までを目的とした 平準化を前提とした発注方式をとっている。
精度の高 い生産計画を事前にサプライヤーや協力物流会社に提 供し、これらの協力企業の効率的なオペレーションを 可能ならしめて、サプライチェーン・プロセスの効率化 と在庫リスクの削減の同時達成を目指している。
グロ ーバルSCMではその両方が悪化する傾向があり、こ れを回避するためには不可欠なアプローチといえよう。
?プロセスの可視化と協働学習メカニズム  部品納入プロセスは組み立てメーカーと物流協力企 業(3PL)との間で協働して精緻に設計・改善され、 現場オペレーターへの教育訓練によって作業の品質が 高められている。
 以上、?〜?の事項に整理したように、TMTのミ ルクランのオペレーションにはSCMのプロセスの透明 度が高く可視化されていて、それらの改善・改革に向 けてグローバル・サプライチェーンのパートナー間で協 働学習が可能な仕組みが仕掛けられている。
 
圍唯圓蓮▲潺襯ランのオペレーションの枠組みを自 ら設定した上でプロセスを可視化し、コスト構造を把 握し、KPI項目を決めている。
その上で協力物流会 社との間で密接な情報交換を行いながら継続的な改善 を実施する体制を構築している。
 グローバルSCMに関するこれらの戦略的な方向性 は相互に関連し合っている。
これは多様なニーズを求 められ、なおかつ不確実性の高い複雑なネットワーク 型のサプライチェーンにおいて、極力リスク在庫を持た ず、効率的で淀みのないスピーディーなSCMを実現 するための基本戦略を示すものである。
著者注:本調査は日本郵船株式会社の寄付による一橋大学のグ ローバル・ロジスティクス研究の一環として行われた。
調査は 二〇〇七年八月二六日〜九月二日までタイにおいて実施された (調査団長は根本敏則一橋大学大学院教授)。
ただし、本稿にお ける文章の責任は橋本にある。
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