ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年8号
特集
脱デルモデル SCM先進企業ベスト25社

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

直線型SCMから循環型モデルへ  サプライチェーンの源流をさかのぼると、ヘンリ ー・フォードが一〇〇年前に作り上げたフォード・シ ステムにたどり着きます。
T型フォードの大量生産の ためにデトロイトのリバー・ルージュ工場に導入され た生産手法です。
 フォードは工場の生産性を最重視して、生産する 車種をT型モデルだけに絞りました。
色も黒一色に 限定しました。
工場の荷受場には、車体やエンジン、 ガラスといった部材が積まれ、搬出口には真っ黒な T型フォードがずらりと並ぶ。
それが当時のリバー・ ルージュ工場の風景でした。
 二〇世紀のサプライチェーンの原形が、この工場に あります。
サプライヤーからモノの流れが始まって、 製造業者、卸売業者、小売業者を経て、最後に消費 者にたどり着くというかたちです。
情報はそれと逆 の方向に流れていきます(図1)。
これは工場中心の ?プッシュ型?と呼ばれる直線的なサプライチェーンモ デルです。
この二〇世紀型モデルに欠けていたのは、 消費者のニーズに合わせるという柔軟性であり、技 術革新という考え方でした。
 一九九〇年代に入りインターネットが普及するよ うになると、サプライチェーンの現場は様変わりしま した。
インターネットによって可視性が高まるにつれ、 世界中から調達して、世界中で生産することが容易 になりました。
インターネットがサプライチェーンに 新たな力学を与えたのです。
これはそれまでの経営 手法を覆す大きな変化でした。
 なかでも一番重要なことは、それまでの工場中心 の考え方を捨てることでした。
顧客の需要を起点にし てサプライチェーンを組み立てることができるように なったのです。
インターネットが普及する以前は、消 費動向が工場やサプライヤーに伝わるまでにかなりの 時間がかかりました。
それが現在は、POS(販売 時点情報管理システム)を使って消費動向が瞬時にサ プライチェーン全体で共有できるようになりました。
 われわれAMRリサーチでは、工場中心の二〇世紀 型モデルに代わる二一世紀型の新しいサプライチェー ンのモデルとして、循環型の「需要主導型サプライネ ットワーク=Demand Driven Supply Network(D DSN)」を提唱しています(図2)。
 
庁庁咤里箸蓮屮螢▲襯織ぅ爐亮要が発する信号を サプライネットワーク全体で感知して、反応できる情 報システムと業務プロセスをもったシステム」と定義 しています。
ここで大切なのはリアルタイムの需要を 軸に据えるという点と、情報システムと業務プロセス が車の両輪のように作動するという点です。
 
庁庁咤里蓮?需要マネジメント、?サプライマネ ジメント、?製品マネジメントの三つの要素から構成 されます。
 ?需要マネジメントは、「需要の喚起」→「販売」 →「アフターサービス」→「需要の喚起」→「販売」 という流れで循環します。
ここではマーケティング部 門やセールス部門が主体となって価格管理や需要予 測を行います。
 ?サプライマネジメントは、「製造計画」→「仕入 れ」→「製造」→「配達」→「製造計画」というよ うに循環します。
これまで?サプライチェーン・マネ ジメント(SCM)?と呼ばれてきた活動です。
ED I(電子データ交換)やVMI(ベンダー主導型在庫 管理)といったシステムを使います。
 そして?製品マネジメントとは、「新製品の定義」 →「デザイン」→「プロモーション」→「新製品の供 AUGUST 2008  36 SCM先進企業ベスト25社  米コンサルティング企業大手のAMRリサーチでは、2004年から毎年 「サプライチェーントップ25」と称して、SCMに秀でた企業の顕彰を 行っている。
その分析結果から導き出される21世紀型のサプライチェ ーンモデルを、同社の最高戦略責任者が解説する。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) ケビン・オマラ 米AMRリサーチ 最高戦略責任者 第6部欧州SCM会議 特集脱デルモデル 給」→「製品のサポート」→「新製品の定義」とい うように循環します。
 この三つの要素がバランスよく、しかも重なり合 っていることが利益を生み出すことにつながります。
それは三つの円にかかわる人々が、 お互いに何をや っているのかを知っていて、同じ業務評価指標を用 いて仕事に取り組んでいる環境を指しています。
具 体例を挙げれば、新製品を開発するエンジニアが、自 分の開発した技術が工場の現場にどのような影響を 与えるのかを十分に知っていることです。
 逆にダメな企業とは、 仕入れ部門が開発部門の意 向をまったく知らずに、価格だけで部材の仕入れを 決めてしまい不要な在庫を抱え込んでしまったり、マ ーケティング部門が製造部門に相談することなくプロ モーションを打とうとして在庫切れを起こしてしまっ たりする企業のことです。
 
庁庁咤里うまく機能しているかどうかを測る指標 に、「完納率(Perfect Orders)」と「在庫日数」があ ります。
当社では七五社の企業を調査して、それら を優良企業と平均以下の企業に分けました。
すると 優良企業の完納率は平均九〇%であるのに対し、平 均以下の企業は六八%と大きな差のあることが分か りました(図3)。
納期を守れないということは、何 かと高くつきます。
緊急輸送便を仕立てる必要が生 じたり、ペナルティとして値段を割り引くことを強い られたりするからです。
 次に在庫日数を見ると、優良企業の在庫日数が 五四日であったのに対し、平均以下は七二日で、三 〇%以上の差があることがわかりました。
これらの 違いはDDSNにかかるコストの違いとなって現れま す。
売上高に対するDDSNのコストの比率は、優良 企業で二一%、平均以下の企業では二六%です。
つ まり二つのグループの間では、利益率に五ポイントも の開きがあることがわかったのです。
利益率で五ポ イント違うということは、企業価値において大きな 差異となります。
 同じ調査で、もう一つのことがわかりました。
需 要予測の精度が高くなれば、完納率も高くなるとい うことです(図4)。
(ここでは三〇日先の需要予測 の数字を使う)これはサプライチェーンの現場にいる 人間にとっては当然のことかもしれませんが、われ われの調査によって、その具体的な相関関係が明ら かになったのです。
需要予測の精度が一ポイント上 がると、完納率は二ポイント高くなります。
つまり需 要予測一に対して、完納率が二の割合で改善される わけです。
デルとアップルの違い  
庁庁咤里悗亮茲蠢箸澆箍歛蠅蓮∋唆箸瓦箸貌団 があります。
 完納率とサプライチェーンにかかるコストという二 つの視点で、自動車製造業者と小売り業者を比べて みると、自動車製造業者は完納率には強いけれど、コ スト面を軽視する傾向があります。
反対に小売り業 者はコスト面では強いけれど、完納率となると弱く なる傾向がありました。
また後ほど紹介する「サプ ライチェーントップ二五社」に入る企業の特徴は、伝 統的に強い部分はそのまま維持しながら、弱点を克 服するという方法をとっていることでした。
 
庁庁咤里了阿弔陵彖任料箸濆腓錣擦砲茲辰董企 業を四つのグループに分けることができます(図5)。
一つはサプライマネジメントに強みを持つ企業で、図 でみると左上に位置します。
業務効率は高いけれど、 技術革新に乏しい企業といえます。
その典型が数年 37  AUGUST 2008 図1 20世紀のサプライチェーン・モデル 図2 需要主導型サプライチェーン・ ネットワークの概念図 図3 DDSNは利益を高める指標 サプライヤー製造業者卸小売り消費者 モノモノ 情報情報 需要 マネジメント 優良 平均以下 優良 平均以下 優良 平均以下 完納率 在庫日数 売上高に 占める DDSN コストの 比率 製品 マネジメント サプライ マネジメント 90% 68% 54日 72日 26% 40 50 60 70 80 90 100 21% 100 90 80 70 60 50 40 図4 需要主要型の効果 《完納率》 10% 20% 《需要予測》 前までのデルです。
 私が以前、デルのサプライチェーン部門の人たちと 話し合いを持ったときのことです。
私がDDSNの三 つの要素を説明すると、 会議を仕切っていた担当者が 私をさえぎってこう言いました。
「研究開発をやるの はデルではなく、われわれのサプライヤーです。
デル はサプライヤーの研究開発の成果を利用するのです」  研究開発の費用を自社で負担する必要がないとい うのは、一見好ましいことのようにも思えます。
しか し、デルの株価を見れば、市場はそういったデルのや り方を評価していなかったことがわかります。
デルの 株価は九〇年代後半までは上がり続けますが、デル がダイレクトモデルを確立した二〇〇〇年代に入ると 横ばいになってしまいます。
 デルは自ら研究開発に投資して、魅力ある新製品 を開拓していく姿勢に欠けていました。
しかし、こ こ数年でデルも研究開発に力を入れる方向に舵を切 り直しました。
 図5の右下にくるのは、製品マネジメントに優れた 企業です。
技術革新には強いけれど、業務効率では 劣るタイプの企業です。
数年前までのアップルがこの グループの典型例といえるでしょう。
研究開発に多 額の投資をして、新製品を続々市場に投入するけれ ど、完納率やサプライチェーン・コストという視点で 見れば、デルに遠く及ばないという状態でした。
 しかもアップルは「マッキントッシュ」や「iPo d」という大ヒット商品を生み出した反面、「ニュー トン(個人用携帯情報端末: PDA、九三年〜九八 年に販売された)」や「リサ(八三年に発売したオフ ィス向けパソコン)」といった?はずれ?の製品も多 く作ってきました。
野球でたとえるなら、ホームラン か三振かという荒っぽいバッターでした。
 そのためにアップルの株価は一定せず、上がった り下がったりを繰り返してきました。
しかしデルと 同様にアップルも、経営のバランスということに気づ き、いまでは業務効率を大幅に高めてきています。
GMは「すべてが悪い」  図の左下にある敗者の典型例としてはゼネラル・ モーターズ(GM) が挙げられます。
GMの株価を みると、五〇年代が三〇ドル台で、〇五年になって も三〇ドル台です。
五〇年間のインフレ率を勘案すれ ば、これ以上悲惨な株価のチャートは考えられませ ん。
GMの何が悪いのか。
そのすべてが悪いとしか いいようがありません。
GMでは各部門がそれぞれ の部門に閉じこもり、ほかの部門との連携などはほ とんどありません。
同じ指標でお互いの仕事を評価 するシステムもありません。
 では図の右上に位置する勝者の企業とはどんな企 業でしょう。
AMRリサーチでは〇四年から毎年「サ プライチェーントップ二五社」を選出してきました。
そ こで勝者となった企業名を紹介する前に、まずはそ の選出方法を説明したいと思います。
 対象はフォーチュン五〇〇の企業の中から、銀行や 保険会社などを除いた約二五〇社となります。
この 二五〇社を一〇〇点満点で評価します。
そのうち六 〇点については、年次報告書にある三つの数字を使 います。
一つは在庫回転率、もう一つはROA(純 資産利益率)、最後は過去十二カ月間の成長率です。
この三つの数字から、企業の効率性とキャッシュを 生み出す能力、技術開発力を測ります。
 残りの四〇点は、投票によって決めます。
約二〇 〇人いる当社の研究員の中から経験の豊富な三〇人 弱と、上記のフォーチュン五〇〇の企業から七八社を AUGUST 2008  38 サプライ 勝者はキャッシュフローや 利益を生み出し、 株価利益率も高い 図5 業務効率×技術革新=企業価値の上昇 優良 勝 者 敗 者 優良 平均以下 平均以下 《業務効率》(完納率、SCMコストなど) 《技術革新》(価値実現までの時間、研究開発の回収率など) サプライ デマンド 製品 製品 サプ ライデマンド デマンド 製品 製品 デマンド サプライ 特集脱デルモデル 選んで、一社一票を投じる仕組みです(投票する企 業は自社に投票することはできない)。
 このような評価のもとに〇七年度のサプライチェー ントップ二五社に選ばれたのが、図6に挙げた二五 社です。
図5で右上の「勝者」に当たるのが、〇七 年度はこの二五社だったということになります。
 一位となったのは、フィンランドのノキアです。
ノ キアという企業の強みを一言で表現するなら、相手 の話に謙虚に耳を傾け、そこから多くのことを吸収 して業務を改善する能力にあるといえます。
 サプライヤーにとってノキアは大口顧客です。
その 立場を利用すればノキアはサプライヤーに無理な料金 や納期を押し付けることもできるでしょう。
しかし ノキアには、相手がサプライヤーであろうと小売りで あろうと同業他社であろうと、対等に話し合い、そ こから得た知識を使って製品設計やサプライチェーン 設計、価格交渉や調達決定につなげるという企業文 化をもっています。
 このノキアの企業文化は、同業他社のモトローラと 比べるとよりはっきりしてきます。
私は今年に入っ てモトローラが主催するサプライヤー向けの大会に出 席しました。
サプライヤーとの相互理解を高めようと いう趣旨の大会でした。
 ところがサプライヤーから聞こえてくる本音は、「モ トローラはわれわれの話を聞いてくれず、自分たちの 要求ばかりを通そうとする」という批判でした。
こ うしたモトローラの態度は、結局、モトローラにマイ ナス要因として跳ね返ってきます。
 そうしたこともあり、〇七年版のランキングでモト ローラは十二位となっていますが、〇八年版では大 きく順位を下げています。
(編集部注:この講演の直 後に〇八年版(図7) の発表があり、モトローラは 四七位に順位を落としている)  七位のアンハイザー・ブッシュは、バドワイザーの ブランドで知られるビールメーカーです。
数年前まで アンハイザー・ブッシュは、自社の主力製品である 「バドワイザー」がどこで何本売れているのかをまっ たく把握できていませんでした。
米国のビール業界 は、卸売業者を介して小売りに流すという流通形態 をとっていたため、顧客の需要をほとんどつかめて いなかったのです。
 そこで同社は数年前に、「バドネット」というシス テムを構築し、すべてのデータを一元管理する体制 を作りました。
POSデータから在庫データ、出荷デ ータ、プロモーション・データまで、すべてのデータ を集約したのです。
その結果、どの製品が、どのチ ャンネルのどの店で、何本売れたかということが週次 で把握できるようになり、企業全体の業務効率が大 幅に高まりました。
 このトップ二五社の企業の株価の動きをみると興 味深いことがわかります。
トップ二五社を発表した 昨年年五月三一日から同年末までの半年間に、株価 は平均で五・三%アップしています。
同じ期間にダ ウ平均株価は一・九%アップ、S&P五〇〇種指数 平均は〇・二%ダウンですから、上位二五社の株価 の動きは非常にいいといえます。
 このようにDDSNの三つの要素を中心にした企 業の不断の努力は、業務効率や技術革新の能力を高 めるだけにとどまらず、企業価値を高めることにつ ながるのです。
39  AUGUST 2008 ※この記事は今年五月にドイツ・デュッセルドルフで開催され た「サプライチェーン&ロジスティクス・サミット」における 同氏の講演を、弊誌が許可を得てまとめたものです。
アップル ノキア デル プロクター・アンド・ギャンブル IBM ウォルマート トヨタ自動車 シスコシステムズ サムスン電子 アンハイザー・ブッシュ ペプシコーラ テスコ コカ・コーラ ベスト・バイ ナイキ ソニー・エリクソン ウォルト・ディズニー ヒューレット・パッカード ジョンソン・エンド・ジョンソン シュルンベルジェ テキサス・インスツルメンツ ロッキード・マーティン ジョンソンコントロールズ ロイヤル・アホールド パブリックス・スーパー・マーケッツ スリーエム シスコ インテル グラクソ・スミスクライン ロウズ LG 電子 パッカー マークス&スペンサー CVS ケアマーク キャタピラー ノースロップ・グラマン ノバルティス J. セインズベリー ターゲット ボーイング ウォルグリーン ダノン・グループ セブン&アイ・ホールディングス 本田技研工業 ダウ・ケミカル ステイプルズ モトローラ カーディナルヘルス イリノイ・ツール・ワークス メドコ・ヘルス・ソリューションズ 図6 サプライチェーンベスト25 社(07 年版) 図7 サプライチェーンベスト50 社(08 年版) ノキア(フィンランド 情報通信業) アップル(米 コンピュータ) プロクター・アンド・ギャンブル(米 日用雑貨製造) IBM(米 情報通信業) トヨタ自動車(日 自動車製造) ウォルマート(米 総合小売り) アンハイザー・ブッシュ(米 アルコール飲料製造) テスコ(英 総合小売り) ベスト・バイ(米 家電小売り) サムスン電子(韓国 家電・電子部品製造) シスコシステムズ(米 情報通信業) モトローラ(米 情報通信業) コカ・コーラ(米 飲料品製造) ジョンソン・エンド・ジョンソン(米 ヘルスケア商品製造) ペプシコーラ(米 飲料品製造) ジョンソンコントロールズ (米 自動車部品製造) テキサツ・インスツルメンツ(米 情報通信業) ナイキ(米 スポーツ用品製造) ロウズ(米 ホームセンター) グラクソ・スミスクライン(英 医薬品製造) ヒューレット・パッカード(米 情報通信業) ロッキード・マーティン(米 航空機製造) パブリックス・スーパー・マーケッツ(米 食品小売り) パッカー(米 トラック製造) アストラゼネカ(英 医薬品製造) ㉖㉗㉘㉙㉚㉛32333435363738394041424344454647484950

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