ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2008年9号
SOLE
保全作業管理から信頼性管理へ進化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics SEPTEMBER 2008  82 原子力発電所の保全業務モデル? 保全作業管理から信頼性管理へ進化  
咤錬味兎本支部の七月のフォ ーラムでは、RAMS(Reliability, Availability, Maintainability and Supportability)研究会の活動報告 を行った。
我が国では原子力発電 所の新検査制度の導入が予定されて いる。
これに伴い、原子力発電シ ステムの保全業務は「信頼性管理」 を基本とする「保全作業管理」の 原点に戻って再構築する必要がある。
こうした認識の下に、同研究会は 一年にわたって原子力発電所の保 全業務について研究してきた。
今 号は信頼性管理、次号は保全作業 管理と二回に分けて内容を紹介する。
(SOLE日本支部・菅伸介) 原子力保全で進む改革  一般に、原子力発電所のパフォ ーマンスは設備利用率によって計測 される。
設備利用率とは発電所の 定格出力で連続的に発電した場合 の発電量に対する実際の発電量の比 率だ。
米国の原子力発電所の設備 利用率は一九七〇年代から八〇年 代にかけては六〇%前後だったが、 八〇年代終わり頃から目覚ましい向 上をみせ、現在では九〇%に近づい ている。
一方、日本は八〇年代に は米国に対して優位にあったものの、 最近は災害や不祥事の影響もあり設 備利用率が低迷する傾向にある。
 米国でのパフォーマンス向上の背 景には、安全性の確保を前提とす る中でも極力合理性を志向する政 府規制の改革と、事業者側でのパ フォーマンス向上への不断の努力 がある。
そうした中で、標準原子 力パフォーマンスモデル(SNPM :Standard Nuclear Performance Model)と呼ばれる統合業務プロセ スモデルが開発された。
SNPMの 業務モデルに含まれる信頼性管理と 保全作業管理は、原子力のみなら ず他の分野においても、将来の保全 業務のあり方を考えるに当たって重 要な示唆を与えるものである。
 まず、保全業務には二つの異な る評価軸があることを認識しておか なければならない。
一つは有効性、 すなわち保全行為が設備の信頼性 向上にどのように役立っているかを みる評価基準である。
これは適切 な保全行為を選定する判断に関わる ものといえる。
もう一つは効率性、 すなわち定められた保全行為をいか に低コストで実施するかの尺度であ る。
設備保全においては、この両 者を混同することによって議論が混 乱することが少なくない。
 これは予防保全の有効性の確認 が簡単ではない、ということに起因 する。
故障発生後に実施される事 後保全の場合、故障が修復された かが評価基準になるため、有効性 の判断に迷いはない。
ところが故障 予防のために実施される予防保全の 場合は、実施によって本当に故障を 予防できたかを判断することが必ず しも容易ではない。
現状行われてい る予防保全の効果について問い直す ことなく、効率性向上のみを追求 することで事足れりとするような傾 向を生じがちである。
時間計画保全の限界  信頼性重視保全(RCM:Re liability Centered Maintenance) は有効な保全の方針を決定するため の手法であり、航空機の保全方法 の研究を通じて六〇年代に開発され た。
同手法の考え方のポイントは以 下の三点である。
?保全の目的は設備を新品同様に 保つことではない。
設備が目的 とする機能を維持することである。
従って、維持すべき機能を明確に することが保全方針決定の前提 となる ?同種、同型の機器であっても、 どのように使われているかによっ て故障の影響は異なる。
そのため、 個別の機器ごとに故障の影響とリ スクを評価しなければならない ?同種、同型の機器であっても、 故障発生の影響に応じて最適な保 全方針は異なり得る  故障の影響に応じて保全方針が異 なる身近な例を挙げる。
懐中電灯の 電池交換には、電池が消耗し点灯 しなくなってから新品に交換する事 後保全と、残量のあるうちに電池 を交換する予防保全の方針が考えら れる。
どちらが正しいかは懐中電灯 の使用目的による。
停電時の安全 を確保するための懐中電灯であれば、 必要時に点灯しないことは許容でき 83  SEPTEMBER 2008 つの領域で特徴付けられる。
TB Mを適切な頻度で行えば劣化による 故障を防ぐことができる。
しかしT BMは万能ではなく、初期故障や 偶発故障を予防し得ないことには留 意が必要である(図2)。
また過剰 なTBMは、図3のように初期故 障のリスクを増大させることにつな ない。
このため、予防保全が求め られる。
一方、もっぱら物置の中の 物探しに使う懐中電灯であれば、点 灯しなくなってから電池を交換する 事後保全も許容されるであろう。
 予防保全は時間計画保全(TB M:Time Based Maintenance)と 状態監視保全(CBM:Condition  
圍贈佑虜播頻度について、図 1のバスタブカーブで考えてみる。
バスタブカーブは信頼性工学の分野 でしばしば用いられる故障確率の経 時変化を示す曲線だ。
故障確率の 比較的高い初期故障期、故障確率 が低く安定する偶発故障期、故障 確率が再び上昇する劣化故障期の三 Based Maintenance)の二種類に分 類することができる。
TBMはあ らかじめ定められた頻度で定期作業 を行う方針に基づくものであり、C BMは設備の状態監視を継続的に 実施し、故障の予兆を見出した際に 故障予防のための作業を行うもので ある。
図1 バスタブカーブ。
故障確率の経時変化を表す 初期故障期 偶発故障期 劣化故障期 時 間 故障発生 確率 予防保全 故障発生 確率 図2 実施間隔を最適化し劣化故障は有効に予防しても、初期故障と偶発故障は予防はし得ない 予防保全時 間 図3 過剰な時間計画保全は初期故障のリスクを増大させる 故障発生 確率 時 間 元来の バスタブカーブ 過剰な時間計画保全によって もたらされた初期故障のリスク 予防保全予防保全予防保全 SEPTEMBER 2008  84 がる。
これは信頼性向上に寄与し ない、すなわち有効でない保全の一 例といえる。
 以上の議論はバスタブカーブで表 される故障確率モデルを前提として きた。
ところが、RCMの開発過 程でなされた航空機の保全データに 基づく研究により、バスタブカーブ は普遍的に適用できるモデルではな いことが明らかになった。
同研究に よれば、時間経過とともに故障確 率が増大する劣化故障が発生する アイテムは全体の十一%でしかなく、 残りの八九%では経年劣化がみられ なかった。
つまり、TBMの有効 性は極めて限定的ということである。
 このことからTBMには以下のよ うな限界があることが明らかになる。
?TBMは劣化故障には有効だが、 初期故障や偶発故障を予防する ものではない ?現実の機器、部品において最初 から決まった寿命があるものは例 外的存在である ?根拠のないTBMは、信頼性を 下げることになりかねない ?プラントメーカー、機器メーカー に正確な寿命の情報を期待するこ とは現実的とはいえない データを蓄積し改善に反映  
圍贈佑茲蝪達贈佑有利なケース は少なくないが、CBMが成立する ためには状態データから的確に故障 予兆が検知でき、検知した後に迅速 な故障予防措置を取れることが前提 である。
これらの条件は必ずしも満 たされるわけではなく、CBMも また、万能ではない。
 
圍贈佑硲達贈佑里い困譴發成立 しないということは、予防保全そ のものが成立しないということを意 味する。
この場合、保全方針とし て事後保全を考えることになる。
R CMにおいてリスク評価の裏付けを もって意図的に選択された事後保全 を、計画的事後保全あるいは英語 で?run-to-failure?と呼ぶ。
リスク 評価がなされていない状況で「火 消し」的に実施される事後保全と、 RCMで基礎付けられた計画的事 後保全は全く別の物であることに留 意願いたい。
 
劭達佑目指すのは、このよう な論理的、体系的な考え方に基づい て予防保全と事後保全、TBMと CBMを適切に使い分け、最適な保 全方針を確立することである。
具 体的にはRCM解析は以下の手順 で実施される。
る情報が必要である。
しかし、該 当する故障モードの発生実績がない、 あるいは発生していたとしても記録 が残されていない、というケースは 珍しくない。
そのため解析担当者 はデータ探しや欠けたデータを補う ための考察、検討に忙殺される上、 客観的データの不足は解析結果の信 頼性をゆるがすことにもつながり得 る。
 こうしたことは、R C M 解析 により保全データをどのように管 理すべきであるかが浮き彫りにな ると捉えることもできる。
RCM などのシステム信頼性解析によっ て情報管理の基盤が整えば、実績 データを蓄積することでPDCA (Plan,Do,Check,Act)ループを回し て信頼性を改善していくことができ る。
この実績フィードバックを通じ た継続的改善こそが信頼性管理の 本質である。
日本でも信頼性管理を規定  日本における原子力発電所保全 の基本方針を定める「原子力発電 所の保守管理規程(JEAC 
苅 09、二〇〇七年版)」には信頼性 管理の考え方が取り入れられている。
信頼性評価結果に基づいて保全方 針を策定し、保全の実施で得られた データによって保全の有効性評価を ?解析対象とする系の決定、境界 定義 ?系内の機器(コンポーネント)の 抽出 ?機器の機能および機能故障の同 定 ?故障モード(故障の要因となる物 理現象)ごとの影響評価 ?故障モードごとの保全方針の決定 (予防保全か事後保全か、予防保 全ならばTBMかCBMか)  ?から?の手順は系内の機器の数 に応じて繰り返され、さらに?から ?の手順は各機器の故障モードの数 に応じて繰り返されることになるの で、解析作業は大規模なものとなる。
 
劭達佑亙歔瓦陵効性を改善で きる強力な方法論であるが、現実に 実施するのは必ずしも容易ではない。
これは前述のように解析作業のボリ ュームの大きいことが一因だが、そ れ以上に問題になるのはデータ不足 である。
 
劭達猷鮴呂涼羶敢邏箸聾両礇 ードごとの影響解析や保全方針の検 討だ。
そのためには故障の影響、発 生頻度、有効な予防策などに関す 85  SEPTEMBER 2008 軸とした作業管理の業務モデルについ て紹介する。
  行い、方針、計画にフィードバック することとしている。
 原子力発電所保全の高度化にお いて先行する米国では、さらに具 体的な信頼性管理の指針として設 備信頼性プロセス「AP│913」 が定められている。
AP│913に は性能モニタリング、保全方針の見 直し、予防保全の実施に伴うデー タ取得、不適合発生時の是正措置、 設備健全性データに基づくライフサ イクル管理など様々なレベルでのフ ィードバックが規定されている。
 このようなフィードバックを有効 に行っていくためには、多岐にわた るデータを再利用可能な形で蓄積し なければならない。
そのためにはデ ータ管理のあり方やデータ品質の確 保に特に留意する必要があり、デー タ活用を支える組織的、人的基盤 の整備への取り組みも不可欠だ。
 これからの設備保全は、保全作 業管理中心から信頼性管理中心に 進化していくだろう。
変化の方向 は以下のようにまとめられる。
?TBM中心から各種保全方式の 最適な組み合わせへ ?作業カレンダー主導の保全方針か らシステム信頼性維持主導の保 全方針へ ?事前計画、予算執行型の業務遂 行から情報のフィードバックによ る適応的計画へ  日本における従来の原子力保全 の現場では、保全作業を安全確実 に実施することに重点が置かれ、設 備信頼性に関わるデータをシステマ ティックに取得、蓄積するための取 り組みが十分になされていなかった。
米国では作業の実施要求、実施決 定から完了後の記録管理までを一元 的に管理するワークオーダーを利用 した作業管理がなされ、効率的な データの蓄積と利用が可能になって いる。
次号ではワークオーダーを基 次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは9月16日( 火) 「SOLE2008 Conference 参加 報告」を予定している。
このフォーラ ムは年間計画に基づいて運営してい るが、単月のみの参加も可能。
1回の 参加費は6,000円。
ご希望の方は事 務局( sole-j-offi ce@cpost.plala. or.jp)までお問い合わせください。
 物流現場改善を専門とするコンサルティング会社、 日本ロジファクトリーが具体的な事例を披露。
手法の説 明だけでなく、クライアントとのやりとりやコンサルタント の心の動きまで、改善プロジェクトの経過をリアルに描 写。
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笑えます!泣けます!   本誌2003年4月号〜2004年11月号に掲載した 「やらまいか̶̶ハマキョウレックスの運送屋繁盛 記」を加筆修正。
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