*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
SEPTEMBER 2008 54
外販拡大
明治ロジテック
物流子会社統合を機に外販部隊設置
チルド物流を武器に収益拡大図る
ブロック供給への移行で物流再編
明治乳業は一九九〇年代後半から二〇〇
五年にかけて、生産拠点の統廃合を行ってき
た。 牛乳や乳製品には鮮度の問題があるため、
従来は各都道府県に生産拠点を設置してい
た。 しかし乳製品の鮮度が長時間保てるよう
になったことに加え、道路インフラの整備に
伴い輸送スピードも向上したことから、ブロ
ック単位の供給体制に改めた。
九八年に茨城県に「守谷工場」を設置した
のを皮切りに、二〇〇〇年には宮城県に「東
北工場」、〇二年には福岡県に「九州工場」
と、相次いで大型生産拠点を新設。 周辺県の
生産拠点の統廃合を進めた。
一連の再編は〇五年、大阪府貝塚市に「新
関西工場」を新設し、同八尾市の「旧関西工
場」と兵庫県加古川市の「兵庫工場」を閉鎖
したことで完了した。 これによって同社の生
産拠点数は三四から一八にほぼ半減した。
生産拠点の再編に次いで物流体制の見直し
に着手した。 〇六年度を初年度とする三カ年
計画で、チーズや流動食など成長事業への経
営資源集中と並び、物流体制を再構築してコ
スト削減を進め、グループ経営の最適化を図
る方針を掲げた。
明治乳業本体の物流部が中心となり、新た
な物流体制のグランドデザインを描いていっ
た。 そこで大きなテーマとなったのが物流子
会社の統合だった。 従来は東京と大阪にそれ
ぞれ東京牛乳運輸とカントラという二つの物
流子会社を置いて、全国を網羅してきた。
両子会社の設立は東京牛乳運輸が四一年、
カントラ(旧・関西牛乳運輸:七六年にカン
トラに社名変更)が五三年にさかのぼる。 一
〇〇%出資の子会社ながらも、当初は約二〇
〇にのぼる協力運送会社の一つという位置付
けだった(図1)。 その後四〇年以上この体
制を維持してきたが、九〇年代後半に大きく
メスを入れることになった。
それまで明治乳業では、各都道府県の生産
拠点ごとに独自に協力運送会社と契約を結ん
でいた。 それを改め、中部以北の東日本エリ
アの元請けを東京牛乳運輸、西日本エリアを
カントラに集約し、両社の下に全国の協力運
送会社を束ねるかたちに移行した。
これと並行して中間流通の統合も進めた。
〇三年四月に「フレッシュネットワークシステ
ムズ(FNS)」を設立。 同社を持ち株会社
として、東京牛乳運輸とカントラ、および東
北明販、東京明販、中部明販、金沢明販、近
畿明販、中国明販の販売子会社六社を傘下に
今年4月、明治乳業の物流子会社である東京牛
乳運輸とカントラが合併して、明治ロジテックが設
立グループの物流効率化を進めると同時に外
販を強化し、収益拡大による連結決算への貢献も
目指す。 外販専任部隊を新設し、チルド物流のノウ
ハウを武器に外販比率を4割まで高める。
明治ロジテックの山下憲一常
務取締役事業企画部部長
55 SEPTEMBER 2008
並べた。 その後、〇四年四月に北海道明販と
九州明販、〇六年四月に業務用食品専門の販
売会社である東京明治フーズが加わり、明治
乳業の全国の物流・販売機能をFNSに集約
した。
ただし、物流子会社は東西に分かれたま
まだった。 そのため人材や物流拠点、トラッ
クなど、資産の有効活用に制約があった。 ま
た、親会社自らが物流のオペレーションを運
営している拠点も残っていた。 そこで今年四
月、東京牛乳運輸とカントラの二社を合併し、
明治ロジテックを設立した。
明治乳業は牛乳やヨーグルトなどのチルド
帯と、アイスクリームなどの冷凍帯、常温帯
の三温度帯の商品を展開している。 東西子会
社はその全てに対応してきた。 合併で三温度
帯輸送の全国ネットワークができあがった。
明治ロジテックの山下憲一常務取締役事業
企画部部長は、「餅は餅屋ではないけど、物
流業務のオペレーションは当社が全て引き受け
た方が効率がいい。 グループ内の物流を当社
が統合・一元管理して物流コストを削減する。
同時に外販拡大を図っていく」と説明する。
この組織改革には、親会社を巡る経営環境
の変化も影響している。 明治乳業は〇八年三
月期決算で、五年連続増益から大幅減益に転
じてしまった。 原材料、包装資材の高騰によ
り大幅なコストアップとなったことで、経常
利益が前期比三一・四%減となる一六〇億円
に減少した。
今後、事業規模が大きく拡大することは期
待できそうにない。 少子高齢化の影響もあり、
牛乳やヨーグルトの国内消費は低迷している。
業界最大手の明治乳業は影響を避けられな
い。 さらに今年五月の価格改定では、バター
とチーズの販売価格が六・七%〜八・六%引
き上げられた。
「それも影響したのか、今期に入って明治乳
業からの物量は減少している。 子会社の合併
を検討し始めた二、三年前から、原材料の高
騰はある程度予想していたが、まさかここま
で高騰するとは思わなかった。 合併は軽油や
原材料の高騰分を吸収することが第一義的な
目的ではなかったが、仮にそうなった場合に
も競争力を確保するという狙いもあった。 合
併した方が体力もあるし、変化への対応も迅
速になる。 その意味でも今回の合併はグッド
タイミングだった」と山下常務はいう。
〇七年三月期決算の東京牛乳運輸とカント
ラの売上高を単純に合算すると、新設した明
治ロジテックの売上高は四二六億円になる(図
2)。 このうち、八割が明治乳業グループ向け
で、二割が外販だ。 この外販比率を四割まで
図1 明治乳業の物流子会社政策の変遷
明治乳業
東京牛乳運輸
カントラ
明治乳業
明治乳業
カントラ東京牛乳運輸
〜90 年代後半90 年代後半〜08 年3 月08年4月〜
明治ロジテック
東日本は東京牛乳運輸、
西日本はカントラが元請けとなり、
運送会社を束ねる
約200 社の協力運送会社の1つ東京牛乳運輸とカントラが合併し
て明治ロジテック設立。 運送会社
の一元管理を図る
明治ロジテックでは民間指定整備事業として培っ
た技術力をベースに、大型トラックから一般車両
までの車検、修理、ボディ開発・設計・施工な
らびに中古車販売、自動車関連部品販売、車両
リースも行っている
SEPTEMBER 2008 56
高めることを当面の目標に置いている。 ター
ゲットはチルド食品の物流だ。
既に関西地区では食品スーパー向けにチル
ド食品の共同物流を行っている。 大阪府八
尾市の「八尾食品物流センター」を利用して、
関西地区の食品スーパーにチルド食品を一括
して納品している。 東日本エリアでも、引き
合いがあれば行っていく方針だ。
チルド物流で外販比率を四割に
チルド食品とは、〇度〜一〇度の冷蔵状態
で製造、流通、販売する食品を指す。 チーズ
やヨーグルト、牛乳などの乳製品のほか、果
汁飲料、チルドビールなどの飲料や、お弁当
や惣菜などがその代表的な商品だ。 常温品と
比べて味が良く、最近では健康食品や医療食、
医薬品といった分野でもチルド化が進んでい
る。
その市場規模は、正確な統計数字がないた
め農林水産省が発表している食品統計から推
定するしかないが、現状で二兆円程度と見ら
れる。 うち牛乳やヨーグルトの市場規模は減
少しても、バターやチーズなどそれ以外のチ
ルド食品が増えることで、今後市場規模はさ
らに拡大していくことが予想されている。
ただし、チルド食品は温度が指定範囲を超
えると商品が直ちに劣化してしまうため、厳
しい衛生管理が要求される。 配送コストもか
さむ。 それだけ物流サービスの付加価値は高
い。 明治ロジテックがグループ向けで培った物
燃料費を従来使用しているトラックより二
〇〜三〇%改善できるだけでなく、CO2排
出量の削減も実現。 冷凍機を待機中に回さな
くて済むため、騒音も改善された。 またエコ・
ランクールは湿度を一定に保つことができる
ため、野菜などの生鮮品を非常にコンディシ
ョンの良い状態を保ったまま運ぶことが出来
るという。 すでに関西地区で一〇台程導入し
ている。
これら物流の新技術開発は明治ロジテック
の担当者が親会社とともに進めている。 今後
も温度帯管理、環境物流をキーワードに技術
開発を進めていくという。
外販向けの物流インフラの整備も検討して
流ノウハウと三温度帯の全国輸送ネットワー
クが活かせる。
まずは外販の本格展開に向け、営業組織を
再編した。 外販専任部隊として「営業管理
部」を新設した。 合併前までは東京牛乳運輸、
カントラともに明治乳業グループ内と外部の
仕事を同一の部署で行っていたが、グループ
向けの仕事を「事業企画部」に集約して組織
を分けた。 「営業=外販ということで、営業
の持つ役割をはっきりさせた」と山下常務。
その武器とすべく、独自の物流技術の開発
に積極的に取り組んでいる。 例えば従来、液
体類を輸送する際にはタンクローリーを使って
いた。 しかしタンクローリー輸送は、往路は
荷物があっても復路は空の状態という片荷運
行になってしまうという問題を抱えていた。
そこで冷蔵トラックに撥水性、耐久性、耐
熱性のある特殊樹脂織布を用いた「ソフトタ
ンク」という容器を用いることで、トラック
での液体輸送を可能にした。 ソフトタンクは
再利用可能で小さく折り畳むことができるの
で、復路も荷物を積載することができるよう
になった。
「エコ・ランクール」はダイナミックアイス
と呼ばれるシャーベット状の氷をトラックに注
入して、保冷する技術だ。 従来のトラックで
は冷凍機がエンジンと直結しており、店舗納
品作業時でもエンジンをストップすることが
できなかったが、エコ・ランクールを採用す
ることでそれが可能になった。
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
東京牛乳運輸
カントラ
明治ロジテック
合併
04年
3月期
05年
3月期
06年
3月期
07年
3月期
図2 東京牛乳運輸とカントラの売上高推移
162
426
(単位:億円)
246
180
239
174
213
227
159
57 SEPTEMBER 2008
いる。 明治ロジテックは埼玉県川口市にある
「東日本物流センター」と、前述の八尾食品
物流センターの二拠点を中心に、御殿場、習
志野、伊勢崎に中・小規模の物流センターを
構えている。 東京牛乳運輸とカントラが所有
していたものをそのまま新会社の資産として
引き継いだ格好だ。
現時点では物流拠点の統廃合や新設は考え
ていない。 しかし、賞味期限の短いチルド食
品や日配品がメーンであればスルー型の物流
拠点で対応できるが、冷凍食品を扱うとなれ
ば在庫型の拠点も必要になる。 その場合には
アセットを所有するのか、それとも賃貸で手
当するのかなどの検討を重ねているという。
自立はするが上場はしない
親会社やグループ会社以外の外部荷主を開
拓することで物流企業として自立し、最終的
には上場することで株式公開益を上げ、親会
社に貢献する──。 これまで多くの物流子会
社が掲げてきた経営方針だ。 そのために親会
社向け事業で利益を確保し、それを外部荷主
獲得のための値下げ原資にする物流子会社も
少なくなかった。
明治ロジテックも従来の物流子会社同様、
外販拡大によって物流企業として自立し、親
会社の連結決算に貢献する方針を打ち出して
いる。 しかし上場して独立することは考えて
いない。
「親会社に依存しないで経営できるといっ
た意味での自立はしたいと考えている。 現在
はグループ内売上が八割もあるので、物量減
少や生産体制の再編などの影響をダイレクト
に受けるなど、どうしても親会社の仕事に左
右されてしまう。 当社が食品系物流子会社の
トッププレイヤーになり企業評価が高まれば、
明治乳業の評価も上がるし、明治乳業の連結
決算にも貢献できる」と山下常務はいう。
明治ロジテックの設立初年度となる今年は、
合併前の二社の合計額から減収減益を見込ん
でいる。 「想定以上に経営環境は厳しく、と
ても厳しい船出になってしまったが、私はか
えって良かったと思っている。 中途半端に良
い成績だと、思い切った改革ができないから
だ。 経営体質を筋肉質に変えるために、物流
業務改革、拠点配置の検討、人員体制などの
強化を進めていく。 今後三、四年が勝負にな
るだろう」と山下常務は強調する。 待ったな
しの改革が進んでいる。 (柴山高宏)
八尾食品物流センター
■延べ床面積…4,443 坪
■保管能力…2万トン
■機械設備
・自動倉庫 2,670 棚
・垂直搬送機 3基
・移動ラック 1,500 棚
東日本物流センター
■延べ床面積…5,191 坪
■保管能力…2 万8700 トン
■機械設備
・自動倉庫 4,020 棚
・垂直搬送機 4 基
・移動ラック 6,000 棚
エコ・ランクール
車両に冷凍機の搭載が
不要になった
独自の物流技術でコスト削減と環境負荷低
減を両立
ソフトタンク
洗浄することで繰り返
し使用できる
|