ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年9号
現場改善
老舗食品卸Y社の輸送費削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2008  90 物流を切り口に老舗を改革  食品卸Y社は東海エリアに五つの事業所を 展開する創業百年の老舗企業である。
学校や 給食会社、飲食店などが主な得意先で、年商 は約一二〇億円である。
金融機関の紹介でY 社を訪問することになった。
 ところが、窓口として対応したY社の担当 者の話を聞いても、とりあえずコストダウン したいというばかりで、物流の何で困ってい るのか、はっきりとしない。
どのような背景 から何を狙っているのか、さっぱり理解でき ないまま帰路についたのであった。
 それから一カ月を過ぎた頃、改めてY社の 別の担当者から連絡が入った。
今度は、先方 が日本ロジファクトリー(NLF)の事務所 を訪問したいという。
担当者が変わったこと で、話が振り出しに戻ったようだ。
我々NL Fのような外部の専門家を入れて物流改善に 本格的に取り組みたいとのことであった。
 その担当者とアシスタントの二人をNLF の事務所で迎えた。
二人はいずれも入社五年 前後の中途入社組で、老舗企業にありがちな 幹部たちの凝り固まった考え方や、昔ながら のやり方にあぐらをかいているところを変え ていきたいという。
そのことは次期社長が約 束されている創業者一族のS専務も合意して いるとのことであった。
 ?会社を変える?最初のステップとして彼ら の選んだテーマが物流改善だった。
二人は「物 流は門外漢で全く分からない」という。
しか し公的機関のアンケート調査によると、Y社 と同業種のトータル物流コスト(対売上高物 流コスト比率)が平均で約七%となっている のに対し、Y社の場合は約一〇%に上ってい る。
そこが彼らの着眼点だった。
 こうして中途入社組のプロジェクト窓口二 名に、Y社の現場ベテラン幹部を加えた三人 による物流改善の取り組みが始まった。
まず はY社の五カ所の事業所の中で最も売り上げ の大きいH事業所から着手することにした。
そこで改善の成果(結果)を早期に実現し、 それをテコにして改善の重要性を社内に認識 させて、徐々に改善から改革へと歩を進めて いこうというシナリオであった。
 
隼業所では、二トン車の自家用トラック 三五台を納品に使用していた。
ドライバーは 納品作業に加え、ルート営業も行う。
このほ か早朝便の四台を協力運送会社に委託してい た。
プロジェクトメンバーと我々は早朝五時 半にH事業所に入り、しばらく積み込み作業 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第68 回  中途入社で老舗卸に入社した二人が、会社を変革するた めのプロジェクトメンバーに起用された。
その突破口として 物流改善に目を付けた。
二人とも物流については全くの素人。
それでもコンサルの助けを借りながら、古い体質を打破する ために真っ向から課題にぶつかっていった。
老舗食品卸Y社の輸送費削減 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 91  SEPTEMBER 2008 を見学していた。
 朝早くから多くの社員が出勤してくるが、 なかなか出発しない。
積み込み場は多くの人 でごった返している。
ドライバーのほか管理 職や事務職も作業に駆り出されているようだ。
それでも結局、ドライバーたちが出発したのは、 出勤してから約二時間後のことだった。
 後で知ったのだが、H事業所の納品先には、 昼食の商売を中心とする顧客が多く、午前中 納品が大半であった。
そのためY社の出荷作 業は基本的にはドライバー自らがピッキング を行って積み込むという自己完結型をとって いるのだが、H事業所では午前中の出荷作業 に総動員であたっていた。
 午後は納品トラックの同乗調査を行った。
トラックに横乗りしてドライバーにヒアリング を行うとともに、納品先とその倉庫や冷凍庫 の陳列作業を手伝い、ドライバーの負荷や納 品時間などを確認した。
 こうして、その日の夕方六時から第一回目 の会議が始まった。
会議には我々とプロジェ クトメンバーのほか、H事業所の管理職六人 全員が参加した。
いくつかの確認作業を行っ たうえで、我々NLF方から所感と改善の仮 説を以下のように提示した。
?商物分離による車両数の削減 ?現行の十三時間枠一杯の労働時間を「八 時間+残業」という勤務体制とする。
同 時に改善による残業時間の削減を図る ?仕分け担当者の設置。
事前の方面別仕分 けを徹底し、ドライバーの作業負担を軽減 し、車両の出発時間を前倒しする ?車両の多様化による積載率の向上(二トン 車のみではなく、軽や三トン車を導入) ?倉庫内ロケーションの見直し ?車両購入(リース)先の見直し、再交渉 ?給油先の見直し、再交渉 ?搬入台車の大型化 ?外部倉庫の集約  この日の協議は深夜にまで及んだ。
しかし、 何一つ決定できなかった。
それは右記の改善 策が多くの制約に触れてしまうためだった。
 例えば「?現行の十三時間枠一杯の労働時 間を『八時間+残業』という勤務体制とする」 という改善策について、そもそも現行の「十 三時間労働枠」は、従来あまりにも多かった 残業時間を削減するために先月に決定したば かりの制度であり、当面はこの条件の中で改 善方法を考えなければならないという。
走行距離(?) 87 108 120 75 95 110 96 89 780 燃料給油(ℓ) 22 25 28 20 25 26 24 23 193 燃費(? /ℓ) 4.0 4.3 4.3 3.8 3.8 4.2 4.0 3.9 4.0 オイル給油(ℓ) 1 2 2 5 高速代 0 配送重量(?) 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 1,800 14,400 運送売上(円) 13,000 13,000 13,000 13,000 13,000 13,000 13,000 13,000 104,000 配送件数 6 6 6 6 6 6 6 6 48 積載率(%) 90% 90% 90% 90% 90% 90% 90% 90% 90% 配送コスト(円/? )  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0 配送重量(?) 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200 9,600 運送売上(円) 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 80,000 配送件数 6 6 6 6 6 6 6 6 48 積載率(%) 60% 60% 60% 60% 60% 60% 60% 60% 60% 配送コスト(円/? ) 13.9 13.9 13.9 13.9 13.9 13.9 13.9  13.9 13.9 配送重量(?) 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 24,000 運送売上(円) 23,000 23,000 23,000 23,000 23,000 23,000 23,000 23,000 184,000 配送件数 12 12 12 12 12 12 12 12 96 積載率(%) 75% 75% 75% 75% 75% 75% 75% 75% 75% 配送コスト(円/? ) 10.2 10.2 10.2 10.2 10.2 10.2 10.2 10.2 10.2 配送便数(便) 2 2 2 2 2 2 2 2 16 軽油代金 2,640 3,000 3,360 2,400 3,000 3,120 2,880 2,760 23,160 オイル消耗費 300 0 600 0 0 600 0 0 1,500 修理修繕費 900 900 900 900 900 900 900 900 7,200 タイヤ消耗費 174 216 240 150 190 220 192 178 1,560 高速代 0 0 0 0 0 0 0 0 0 小計(円) 4,014 4,116 5,100 3,450 4,090 4,840 3,972 3,838 33,420 人件費 15,000 15,000 15,000 15,000 15,000 15,000 15,000 15,000 120,000 車両償却費 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 20,000 税・保険料 800 800 800 800 800 800 800 800 6,400 その他・運送費 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 3,000 24,000 小計(円) 21,300 21,300 21,300 21,300 21,300 21,300 21,300 21,300 170,400 車番 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 配送員 A B C D E F G H 日計 日報入力欄1 便2 便総 計変動費固定費 運送費合計 25,314 25,416 26,400 24,750 25,390 26,140 25,272 25,138 203,820 一般管理費 3,700 3,700 3,700 3,700 3,700 3,700 3,700 3,700 29,600 合計 29,014 29,116 30,100 28,450 29,090 29,840 28,972 28,838 233,420 損益 -6,014 -6,116 -7,100 -5,450 -6,090 -6,840 -5,972 -5,838 -49,420 ■日別配送実績表(例) SEPTEMBER 2008  92  また時間と投資のかかるテーマは今回の短 期決戦(即結果が出る方法)の主旨から除外 しなければならなかった。
さらにはY社には 古い体質が根深く残っていて、大きな変化を 伴う改善は、すぐには受け入れられないという。
要するに、コストダウン効果の大きさよりも 短期間で確実にコストの下がる施策が必要で あったのである。
 適切な改善策は百社百様である。
とりわけ 卸の場合、時間外受注や当日配送などの物流 上のムダが、会社の?強み?や差別化要因になっ ていることが珍しくない。
その場合には、あ るべき姿への矯正はタブーとなる。
我々NL Fとしても、ゴリ押しはできない。
 第一回会議から五日後、我々NLFは改善 実施事項を改めて提示した。
施策を二カ月以 内に成果の出せる短期決戦向けと、中・長期 的に実施するテーマの二つに分けた。
1 短期実施項目 ⑴午後からの配車、納品ルートの見直しによ る積載率の向上、日々管理による稼働車両 台数の削減 ⑵運行日報、営業日報フォームの見直しによ る新配送コースの作成 ⑶車両別原価計算の実施によるムダの排除 ⑷日別損益表作成によるムダの削除 ⑸⑴〜⑷による配車管理、運行管理の徹底 ⑹車両購入(リース)先の再交渉、見積り ⑺軽油購入先の再交渉、見積り ⑻外部倉庫の集約(B倉庫を坪単価の安価な A倉庫に集約) 2 中・長期実施項目 ⑴商物分離による車両の減車(?社内分離、 ?外注化) ⑵⑴と合わせた残業時間の削減、短縮 ⑶仕分け業務担当専任化による車両出発時間 の前倒し ⑷車両の多様化(軽、3トンなど)による積 載率の向上 ⑸倉庫内ロケーションの見直し(?誰もがわ かる保管棚、?仕分けスペースの確保) ⑹社内分離による配送スタッフの歩合給導入 3 協議、検討事項 ⑴搬入台車の大型化(購入コストとコストダ ウン見込額との比較) ⑵宵積みの禁止 ⑶傭車の内製化または削減 ⑷引き取りの推進  このように短期的には配車、運行管理に的 を絞り配車効率を向上を狙った。
また卸の物 流改善では本来、外注化による商物分離が正 攻法である。
しかしY社の場合はその反対の 内製化を取った。
外注化による商物分離は一 時的にはコストアップになるためである。
 「十三時間労働枠」のために、作業時間の 短縮によるコストダウンという伝家の宝刀も 導入できなかった。
一定時間内でどれだけ多 くの業務をこなせるかというかたちに、一般 的なアプローチを反転させる必要があった。
「素人  VS 玄人」のバトルが奏功  それでも改善は進んでいった。
プロジェク トの中心メンバーに、?物流の素人?を自認 する二名を選んだことが功を奏した。
「配車 とはどのような業務ですか、詳しく教えてく ださい」「?宵積み?の意味を教えてください」 と言った具合に、初歩的な質問を物流実務担 当者にどんどんぶつけてくる。
これに回答す るメールの応酬では時折感情的になり、バト ル状態になることもあった。
 このやり取りはプロジェクトメンバー全員 に転送されていた。
傍観者である他のベテラ ン社員たちも「あいつらは本気だ」と感じ ざるを得ない。
そこから「昔の感覚を変えな ければ」といった意識が社内に芽生えてきた。
頭の固いベテラン社員を動かすきっかけとなっ たのである。
 その後、追加策として得意先倉庫の鍵をY 社のドライバーが預かり、深夜に配送するな どの施策も実施し、勤務シフトの変更を行っ た。
その結果、H事務所は物流コストを五% 削減することができた。
当初目標の七%には 及ばなかったが、プロジェクト窓口の二名と 次期社長はひとまず「合格」と評価している。
我々NLFに対しても?会社を変えるきっか けになった?との嬉しいフィードバックがあっ た。
現在、Y社のプロジェクトはH事業所に 次ぐ規模のT事務所へと、その対象を移そう としている。

購読案内広告案内