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SEPTEMBER 2008 58
〇八年度利益予想を下方修正
郵船航空サービスが七月二五日に発表した
二〇〇八年度第1四半期連結決算は、予想
以上に厳しいものだった。 売上高は前年同期
に比べ七・四%増加したが、営業利益は四・
三%減だ。
地域別にみると、海外セグメントは三・三%
の増収、一九・三%の営業増益とほぼ想定
通りの好決算であった。 円高で目減りしてい
るため、実態としては見た目以上に好調だっ
たといえよう。 米州の不振(二・一%減収、
十二・六%営業減益)を南アジア・オセアニ
アの好調(十二・五%増収、二・二倍の営
業増益)で吸収した。 一方、日本セグメント
は燃料サーチャージの負担増と中期経営計画
で掲げている海上貨物・ロジスティクス事業
の強化に伴う先行投資の負担増から、十二・
一%の増収ながらも四〇・九%の営業減益
と、予想以上に低迷した。
決算発表と同時に〇八年度通期の業績見
通しも下方修正した。 売上高は従来予想の二
〇一〇億円(前年度比七・二%増)に据え
置いたが、営業利益予想は一〇一億円(同
一・一%減)から九四億円(同八・〇%減)
に引き下げた。 下方修正額七億円の主因は日
本セグメントにある。 海外セグメントは地域
別の強弱はあるものの、ほぼ想定通りといえ
る。
日本セグメントの不振の背景は、?原油価
格高騰に伴う燃料サーチャージの上昇で未収
受額が想定以上に増加する、?海上貨物・ロ
ジスティクス事業の強化に伴う先行投資負担
が見込み以上に増加する、?米国の景気減速
や原材料価格の高騰など、荷主企業の事業
環境の悪化により運賃値下げ圧力が予想以上
に強まる、などの想定である。 ?は郵船航空
サービスの独自要因だが、?、?は業界全体
に対するネガティブ要因である。
ただし、一般的には、燃料サーチャージの
コスト負担は八五〜九五%の顧客に転嫁可能
であり、収益へのインパクトは限定的といえ
よう。 例えば、燃料サーチャージが〇八年度
一年間平均で一キログラム当たり四六円上昇
すると、収受率(顧客への価格転嫁率)を
九五%と仮定した場合、年間の営業利益へ
の影響額は一〇億円程度と試算される。 ま
た、こうした議論は日本発航空貨物に関して
であり、欧米発は商習慣上、ほぼ一〇〇%
の収受率と推定される。
同業他社の第1四半期決算をみると、郵
船航空サービスと同様に、日本セグメントの
収益は予想以上に大きく悪化している。 モル
ガン・スタンレー証券では、日本発着航空貨
郵船航空サービス
グローバル3PL事業の成長に期待
航空依存脱却し総合物流も打ち出す
航空フォワーディング依存からの脱却、海
上貨物とロジスティクス事業の強化を進めて
いる。 業績の低迷や事業環境などから株価は
軟調だが、グローバルで成長可能な数少ない
日本の物流企業の一社だ。
尾坂拓也
モルガン・スタンレー証券
株式調査部
第42回
59 SEPTEMBER 2008
物の収益性の飛躍的な改善は今後も見込みづ
らいと考えている。 特に日本発航空貨物輸
出量に関しては、製造業の海外シフト、現地
調達比率の上昇、日本の空港の国際競争力
低下などを背景に“日本離れ”が際立ってこ
よう。 つまり海上コンテナ貨物と同様に、ア
ジア〜欧米間の航空貨物荷動きにおける日本
発着貨物のプレゼンスが大幅に低下し、構造
的な要因から日本発航空貨物需要も伸び悩む
ことが懸念される。 また、航空貨物に限らず
日本国内の物流市場は、経済の成熟化と製
造業の海外シフトなどから高い成長は期待で
きないであろう。
中期経営計画では強気の目標
そうした外部環境から、日本の物流会社
の成長戦略の鍵は「3PL」と「グローバル
化」に集約されるだろう。 今後の株式市場に
おける銘柄選別の条件としても重要な要素に
なると考えられる。 この点、郵船航空サービ
ス、日本通運、近鉄エクスプレスの“日本の
航空貨物御三家”は、既にグローバルベース
で3PL事業を具現化しており、日本企業
の中では先行している。
図1の通り郵船航空サービスは、営業利益
の約六〇%を海外セグメントから稼ぐという
収益構造になっている。 上場物流会社の中
で、所在地別の連結セグメント情報を開示し
ているのはそもそも図1の一〇社程度だ。 そ
の中でも、航空貨物御三家の海外依存度は
相対的に高い。 さらに、戦略面でも航空貨
物事業への依存体質から脱却した「総合物
流企業」を目指しており、海外市場で中長
期的に成長可能な企業としてモルガン・スタ
ンレー証券では注目している。
三月二八日、郵船航空サービスは〇八年度
を初年度とする三カ年の中期経営計画を発表
した。 基本コンセプトとしては「世界に確固
たる存在感のあるトータル・ロジスティクス・
プロバイダー」を目指す。
総合物流会社化を目指す経営戦略の方向
性に違和感はないものの、定量的な経営目標
には、アグレッシブな印象がある。 連結売上
高は増収基調を想定し、〇八年度が前年度
比七・二%増、〇九年度が同十二・九%増、
最終年度の一〇年度が同一四・五%増の二
六〇〇億円を目標に据えた。 連結営業利益
は〇八年度が同八・〇%減、〇九年度が同
二六・六%増、一〇年度が同一七・六%増
と予想し、一〇年度の連結営業利益は一四
〇億円の設定だ(図2)。
(十億円)
(%)
ヤマトHD
住友倉庫
日本梱包運輸倉庫
日新
バンテック・グループHD
アルプス物流
アイ・ロジスティクス
近鉄エクスプレス
郵船航空サービス
日本通運
海外セグメントの営業利益構成比(07年度)
0 10 20 30 40 50 60 70 80
海外セグメントの営業利益(
07
年度)
14
12
10
8
6
4
2
0
図1 所在地別セグメント情報を開示している大手物流企業10社の海外セグメントの営業
利益と連結営業利益に占める比率。 航空貨物大手3社はグローバル化で先行している
300,000
250,000
200,000
150,000
0
07年度
(実績)
08年度
(予想)
09年度
(目標)
10年度
(目標)
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
10,216
11,962
9,400
187,518
201,000
10,300
11,900
227,000
13,000
14,000
15,000
260,000
営業利益
売上高
経常利益
図2 郵船航空サービスの07年度業績と中期経営計画の目標数値。
売上高2,600億円、営業利益140億円を目指す(単位:百万円)
注:08年度の数値は下方修正後の数値を採用している
SEPTEMBER 2008 60
今回の中期経営計画のポイントは、航空貨
物事業への依存度を下げ、海上貨物・ロジ
スティクス事業を強化し、総合物流会社を目
指すことにある。 〇七年度の航空貨物事業
の売上比率七四・五%を一〇年度には六五・
〇%へ低下させる一方、海上貨物事業を〇
七年度の一八・〇%から一〇年度には二五・
〇%、ロジスティクス事業を〇七年度の七・
五%から一〇年度には一〇・〇%に引き上げ
る計画だ。 特に最も重要な経営戦略の一つと
して、日本発着ベースの海上貨物事業の強化
を挙げている。
中期経営計画の期間中の設備投資額は一
二〇億円を計画している。 内訳は、拠点・施
設展開に八〇億円、業務品質向上・人的資
源の強化に二〇億円、IT投資に二〇億円
である。 郵船航空サービスは年間約八〇億円
程度の営業キャッシュフローを稼ぐことが可
能なことから、年間平均で約四〇億円の投
資負担は営業キャッシュフロー内で十分賄え
るであろう。
資本政策や株主還元に課題
かねてより株式市場から指摘される経営課
題は、資本政策・株主還元策とガバナンスで
ある。 郵船航空サービスは〇七年度の年間配
当を一株当たり二円増配し二〇円とした。 〇
八年度も一株当たり二〇円の予定である。 〇
七年度の増配自体はポジティブだが、〇八年
度の会社予想連結EPS(一株当たり当期
利益)一四四・七円に対する配当性向は一
三・八%と依然として低い。 東証一部上場
企業の平均配当利回りが約三〇%程度であ
ること、フォワーディング事業という投資負
担の少ないノンアセット型のビジネスモデル
を展開していることから判断して、改善の余
地は大きいであろう。
また郵船航空サービスの場合、親会社の日
本郵船が筆頭株主で、〇七年度末の持ち株
比率は五九・五%に達している。 機関投資
家の声には、日本郵船グループが物流をコア
事業と位置付けている中、航空貨物事業を
主力とする郵船航空サービスとロジスティク
ス事業を主力とするNYKロジスティックス
との戦略上の棲み分けがわかりにくいとの指
摘が多い。
郵船航空サービスの株価は、世界景気減速
による短期業績悪化リスクを織り込むかたち
で、昨年十二月の二六〇〇円前後から、今
年三月中旬には〇六年度末のBPS(一株
当たり純資産)一二一三円を下回る一〇九
一円まで大幅に下落した。 その後、売られ過
ぎの反動から二一四〇円前後まで持ち直した
が、世界景気のさらなる減速リスクを織り込
み、一五〇〇円まで下落してきた(図3)。
当面の悪材料はある程度株価に織り込まれ
たといえる。 短期的な株価上昇のカタリスト
(材料)は、〇八年度下期からの増益転換を
確認できることになろう。 ただし、グローバ
ルで利益成長可能な数少ない日本の物流会社
としての高い評価は不変であり、長期的には
買いの好機と考える。
図3 郵船航空サービスの過去5年間の株価推移
(円)
《出来高》
おさか たくや 一九九三年
慶應義塾大学経済学部卒業、
野村證券入社。 入社以来、証券
アナリスト部隊に所属し、二
〇〇四年から運輸業界を担当。
〇七年一月にモルガン・スタン
レー証券に移籍。 運輸部門の
アナリストとして活躍中。
著者プロフィール
おさか たくや 一九九三
年慶應義塾大学経済学部卒
業、野村證券入社。 入社以
来、証券アナリスト部隊に
所属し、二〇〇四年から運
輸業界を担当。 〇七年一月
にモルガン・スタンレー証券
に移籍。 運輸部門のアナリ
ストとして活躍中。
著者プロフィール
おさか たくや 1993年
慶應義塾大学経済学部卒業、
野村證券入社。 入社以来、
証券アナリスト部隊に所属
し、2004年から運輸業界
を担当。 07年1月にモルガ
ン・スタンレー証券に移籍。
運輸部門のアナリストとし
て活躍中。
著者プロフィール
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