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SEPTEMBER 2008 86
物流不動産市場レポート
料によると、圏央道は今後五年程度で全線開
通する。 周辺エリアの物流拠点としてのポテン
シャルの向上が期待される。
近年の建築着工量は一九九一年以降下落傾
向が続いており、九五年頃から若干持ち直し
たものの、以降低水準が続いた(図1)。 しか
し、不動産投資家等による大型施設の着工も
あり、〇四年以降は再度回復傾向をみせてい
る。 昨年は千葉県湾岸部の市川、習志野周辺
での着工が進み、全体の着工量を押し上げる結
果となっている。
今期の首都圏の中・大型施設の募集賃料水
準は、埼玉県で前年同期比四・六%増、神奈
川県で二・〇%増、東京都で〇・九%増、千
葉県で〇・五%減となった(図2)。 千葉県で
わずかではあるが下落したものの、他県では上
昇している。 ここ数年の賃料動向をみる限り
では、底堅く安定的に推移しているといえる。
しかし、企業の物流コスト削減意識や、不動産
投資家等による大量供給予定を考えると、今
後は大きな上昇は期待できないと思われる。 ま
た、局地的には供給過剰に対する懸念もでて
きており、今後局地的に賃料水準が弱含む可
能性も十分考えられる。
空室率は、〇八年三月期は十六・四%、六月
期は一六・七%と前期から大きく上昇した(図
3)。 これは〇八年三月期に五棟、六月期に四
棟ものマルチテナント型施設が竣工したが、竣
工時にテナントが決定していない施設があった
ことと、既存の施設でも空室の消化が進んで
いないことが大きく影響している。 湾岸部な
特別編
三大都市圏
物流施設賃貸市況分析
生駒データサービスシステム 鈴木公二
二〇〇八年上半期
シービー・リチャードエリスと生駒データサービスシステムは、共同で「倉庫・
配送センター市況レポート」を年に二回発表している。 国内主要都市の倉庫
等物流施設の市況動向を調査・分析したものだ。 調査対象は主用途が倉庫で
あり、かつ一般募集された施設三七九一棟。 首都圏、中部圏、関西圏の三大
都市圏の賃貸市況動向を中心に、物流不動産市場のトレンドを解説する。
国内全般 大型施設の竣工で供給過剰感
不動産投資家や開発会社等を中心とした大
型物流施設の供給は依然活発だが、一部の竣
工物件では空室が出てくるなど供給過剰感が
みられるようになった。 首都圏では、今年に
入って大型施設の竣工が相次いだこともあり、
今期(二〇〇八年一〜六月)は空室率が大き
く上昇している。 関西圏も〇六年、〇七年と
大量供給が行われたため、昨年から空室率が
上昇し、今年も高水準で推移している。 また、
既存物件の空室の消化スピードも鈍化する傾向
にあり、今後の需給動向には不透明感が表れ
始めている。
物流業界の動向は、大都市圏を中心に企業
の効率化を求めた物流業務のアウトソーシング
が続いており、拠点の統廃合や増床の動きがみ
られる一方、以前に比べ物流会社等の動きは
減少傾向にある。
首都圏 空室率が大幅に上昇
千葉、東京、川崎、横浜の湾岸部、国道一
六号線、埼玉県南部を中心とする内陸部、常
磐、東北、関越、中央、東名自動車道に代表
される高速道路インターチェンジ周辺に物流施
設が集積している。
圏央道あきる野IC〜八王子JCT間が開
通したことで中央道、関越道が連結した。 圏
央道は川島ICまで延伸し、周辺エリアにおい
て企業進出の動きがみられる。 行政の公表資
87 SEPTEMBER 2008
どの一部のエリアにおいては、空室を抱える施
設が目立ち始めており、現状の需給バランスを
みる限り供給過剰感がみられる。
不動産投資家等の動向は、依然湾岸、内陸
を問わず大型用地を物色する動きが続いてい
る。 しかし、湾岸部で大型用地が少ないこと
や、内陸部で圏央道などのインフラの整備が進
んでいることもあり、関越道や中央道のインタ
ーチェンジ周辺で物色する動きもみられる。 そ
の一方、大量供給により湾岸部を中心に供給
過剰感があることから、不動産投資家等によ
っては事業化に慎重な姿勢をみせるケースもみ
られる。
中部圏 セントレアや小牧周辺で供給進む
内陸部の交通の要衝である愛知県小牧周辺
や名古屋港周辺に物流施設が集積している。 〇
五年三月の愛知万博開催に伴い、東海環状道
の豊田東JCT〜美濃関JCT区間が開通し、
地域の利便性が向上したことで、沿線エリアで
工業系施設や商業施設などの進出がみられる。
しかし、市街化調整区域が多いという地域
特性から、物流施設開発用地が供給されにく
い面もある。 また、自動車をはじめとする製
造業の工場閉鎖などによる大型用地の供給に
ついても限定的だ。
物流業界の動向は、自動車産業に関連した
荷動きが好調を維持している。
建築着工量は九一年以降減少を続けていた
が、〇四年以降は上昇している(図4)。 昨年
は改正建築基準法の影響もあり、減少した。
愛知県の中・大型施設の賃料動向は、旺盛
図1 首都圏の新規着工動向
図2 首都圏の中・大型賃料水準(倉庫・配送センター) ※中・大型施設:募集面積1000 坪以上を対象とする
図3 首都圏のマルチテナント型施設の空室率
出典)建築統計年報(財団法人建築物価調査会)よりCBRE / IDSS 作成
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
6,000
4,000
2,000
0
10.0
5.0
0.0
-5.0
-10.0
-15.0
(円/坪) (%)
6,000
4,000
2,000
0
20.0
10.0
0.0
-10.0
-200
-3.0
(円/坪) (%)
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
-6.0
-8.0
(円/坪) (%)
6,000
4,000
2,000
0
15.0
10.0
5.0
0.0
-5.0
-10.0
(円/坪) (%)
平均募集賃料変動率
埼玉県千葉県東京都神奈川県
(千?)
11.3
-2.8
4,140
5.570 5,700 5,680 5,770 5,630 5,370 5,420
3,880 3,800 3,770 4,000 3,920 4,100 3,830
4,300
4,230 4,410 4,570 4,520 4,490 4,580
3,750 3,880 3,630 3,730 4,170 4,150
-6.3
-2.1 -0.8 -2.0
4.6
6.1
10.1
10.4
5.0
4.6
3.1
11.7
9.5
9.1
7.5
8.6 8.1
5.1
8.4 8.9
7.7
5.3
16.4
18.0
20.0
18.0
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0
(%)
03
年1
2月
04
年3月
04
年6月
04
年9月
04
年1
2月
05
年3月
05
年6月
05
年9月
05
年1
2月
06
年3月
06
年6月
06
年9月
06
年1
2月
07
年3月
07
年6月
08
年3月
08
年6月
07
年9月
07
年1
2月
1.3
-2.0
3.5
-6.4
11.8
-0.5
2.8
埼玉県千葉県
-3.5
2.3
-0.4
1.6
-4.6
0.9
-2.4
-7.9
-1.6
4.3
3.6 -0.7
2.0
-1.1
東京都神奈川県
89年
90
年
91
年
92
年
93
年
94
年
95
年
96
年
97
年
98
年
99年
00
年
01
年
02
年
03
年
04
年
05
年
06
年
07
年
02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年
上半期
02 年03 年04 年05 年06 年07 年08年
上半期
02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年
上半期
02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年
上半期
物流不動産市場レポート
SEPTEMBER 2008 88
なニーズに支えられながらも三〇〇〇円/坪前
後で安定的に推移している(図5)。 新規供給
物件はニーズが底堅く賃料水準も安定している
が、一方中・小型の市場競争力に劣る物件は下
落傾向にあり、物件の二極化が進んでいる。
不動産投資家等の動向は、〇六年までは大型
施設の供給が少なかったが、昨年セントレアや
小牧周辺でマルチテント型施設の供給が顕在化
した。 今年以降も大型施設の供給が予定されて
おり、今後の賃貸マーケットの動きが注目され
る。
関西圏 大阪、兵庫で着工量減少
首都圏に次ぐ消費規模を擁しており、物流
施設に対する潜在的なニーズは高い。 南港、北
港等を中心とする湾岸エリアや、内陸の茨木市、
摂津市、高槻市等の北摂エリア、東大阪市、大
東市、門真市等の東大阪エリアに施設が集積し
ている。
物流業界の動向は、中国・東南アジアからの
輸入貨物が増加基調にあり、港湾会社の業績は
比較的好調といえる。
建築着工量は〇三年以降大阪府、兵庫県を
中心に着工が進んだこともあり、増加を続けた
(図6)。 しかし昨年は両県で着工量が大きく落
ち込んだため、全体の着工量は減少した。
空室率は、〇八年三月期は三〇・六%、六
月期は二五・七%となった(図7)。 〇六、〇
七年の湾岸部を中心とした大量供給により需給
バランスは緩和傾向にあり、〇七年九月期以降
高水準で推移している。 今年に入り既存施設の
4,000
3,000
2,000
1,000
0
15.0
10.0
5.0
0.0
-5.0
-10.0
(円/坪) (%)
3,220 3,030 2,940 2,900 3,270 -8.9 3,130
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
15.0
10.0
5.0
0.0
-5.0
-10.0
-15.0
(円/坪) (%)
3,990 4,060 3,790 3,870 3,910 4,040
図4 中部圏の新規着工動向図5 愛知県の中・大型施設の賃料水準
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
岐阜県静岡県愛知県三重県
(千?)
図6 関西圏の新規着工動向
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
(千?)
3.2
-5.9
-3.0
-1.4
2,980
5.0
12.8
図8 大阪府の中・大型施設の賃料水準
-5.0
1.8
-6.7
2.1
3,640
11.0
1.0
-6.9
89年
90
年
91
年
92
年
93
年
94
年
95
年
96
年
97
年
98
年
99年
00
年
01
年
02
年
03
年
04
年
05
年
06
年
07
年
89年
90
年
91
年
92
年
93
年
94
年
95
年
96
年
97
年
98
年
99年
00
年
01
年
02
年
03
年
04
年
05
年
06
年
07
年
02 年03 年04年05 年06 年07 年08 年
上半期
02 年03 年04 年05 年06 年07 年08 年
上半期
滋賀県京都府大阪府
兵庫県奈良県和歌山県
図7 関西圏の空室率
6.4
16.6
15.4
9.4
25.5
26.1
30.6
25.7
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
(%)
06
年9月
06
年1
2月
07
年3月
07
年6月
08
年3月
08
年6月
07
年9月
07 年
1
2月
89 SEPTEMBER 2008
空室の消化は比較的順調に進んでいるが、今
期も大型マルチテナント施設が二棟竣工したこ
ともあり、空室率は高い水準となっている。
大阪府の賃料動向は、〇八年上期は十一・
〇増と上昇している(図8)。 ただし実勢の賃
料水準は、供給過多の状況からテナント獲得競
争が続いていることもあり、募集賃料を調整
されるケースもみられ、全般的には弱含みで推
移している。
不動産投資家等の動向は、今年以降も湾岸
部を中心に供給が予定されており、現状の需
給バランスを考慮すると供給過剰感がある。 一
方内陸部は空室情報が少なく、大型施設に対
する品薄感がみられる。 不動産投資家等によ
る新規供給も少ない状況だ。
2008年上半期全国最新市況
平均賃料平均預託金
3,680円3.1カ月
3,390円3.3カ月
北海道
平均賃料平均預託金
3,230円4.3カ月
3,950円4.6カ月
宮城県
平均賃料平均預託金
4,040円3.3カ月
4,720円3.4カ月
埼玉県
平均賃料平均預託金
4,370円3.6カ月
4,400円4.1カ月
千葉県
平均賃料平均預託金
6,620円4.2カ月
7,340円4.7カ月
東京都
平均賃料平均預託金
5,280円3.6カ月
5,680円5.0カ月
神奈川県
平均賃料平均預託金
3,220円4.6カ月
4,360円5.2カ月
愛知県
平均賃料平均預託金
3,480円5.1カ月
4,260円5.2カ月
石川県
平均賃料平均預託金
2,610円6.0カ月
─ ─
滋賀県
平均賃料平均預託金
4,670円6.2カ月
5,000円6.2カ月
京都府
平均賃料平均預託金
4,810円7.1カ月
5,420円7.6カ月
大阪府
平均賃料平均預託金
4,380円7.2カ月
5,110円7.2カ月
兵庫県
平均賃料平均預託金
2,610円5.4カ月
3,980円6.2カ月
香川県
平均賃料平均預託金
2,820円6.5カ月
4,350円6.5カ月
岡山県
平均賃料平均預託金
2,500円6.0カ月
高知県
平均賃料平均預託金
3,610円6.2カ月
3,970円7.2カ月
広島県
平均賃料平均預託金
2,910円5.3カ月
4,680円7.5カ月
福岡県
平均賃料平均預託金
2,630円5.0カ月
3,330円6.8カ月
鹿児島県
─ ─
※上段は倉庫・配送センター、下段は事務所兼倉庫
●対象 主な用途が倉庫・配送センター、事務所
兼倉庫であり、一般募集された施設
●賃料 2008年1月〜6月までの期間の新規募集
賃料(円/坪)を棟数平均して算出
●預託金 2008年1月〜6月までの期間の預託金を
棟数平均して算出。 また算出された預託
金を平均賃料(円/坪)で割り、平均預
託金を算出
|