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急増する中小運送業者の倒産
中小・零細運送業者の倒産が増加している。 運賃は上昇傾
向にあるとはいえ、原油高騰に伴うコスト増には、到底追い
ついていない。 銀行の融資引き締め、軽油の売り渋り、荷主
の支払いサイトの長期化などが追い打ちをかける。 運送業者
を取り巻く環境はいっそう厳しさを増している。 ( 石鍋 圭)
倒産件数四〇〇件を突破か
帝国データバンクの調べによると、今年上半期(一
─六月)の運送業者の倒産件数は二〇九件に上って
いる。 今年に入ってから一カ月平均三四・八件のペー
スで倒産が発生している。 このまま推移すれば、昨
年の三五九件を大きく上回り、年間の倒産件数は四
〇〇件を突破する。
「倒産しているのは負債規模一〇億円未満の中小・
零細業者が大半。 市況の悪化、設備投資の失敗、労
使間の諸問題などにより業績が悪化したところに原
油高騰によるコスト増が直撃し、事業継続を断念する
ケースがほとんど。 いわゆる『原油高倒産』だ。 倒
産のペースは今後さらに加速すると見ている。 運送
業界は今、原油高・輸送量の減少・人材不足の三重
苦に喘いでおり、歯止めがかかる要素が全く見当た
らない」(帝国データバンク情報部・早川輝之氏)
東京商工リサーチの調査結果も同様だ。 今年上半
期の運送業者の倒産は二二二件と帝国データバンクの
調査結果より若干多い。 しかし、注目すべき数字は
ほかにある。 原油高が直接要因で倒産した企業は二
二二社中、六二社で三割にも満たない点だ。 現在の
原油高騰を考えれば意外と言える。
同社情報部の友田信男統括部長は「荷主や元請け
運送業者が自分の利益のみを追求し始めたら倒産件
数はこんな数字では収まっていないはず。 運送業界
は建設業界などの他の業界に比べ相互補助の意識が
高いという印象を受ける。 しかし、荷主や元請けの
懐具合も相当厳しくなっている。 倒産ラッシュはむ
しろ、これから本格化する」と見ている。
八月八日、福島県伊達市の福島合同運輸が破産処
理に入った。 二〇〇二年に主要荷主が倒産したのを
皮切りに、これまでに取引先五社が倒産。 売上不振
に陥ったところを原油高が直撃し、資金繰りが限界に
達した。 同社の清算手続きを任された平井和夫弁護
士は「今回のように銀行から融資が受けられず、資
金繰りに窮して倒産に追い込まれる案件は増えてい
る」と言う。
銀行の融資引き締めは以前から取り沙汰されてい
るが、今年度の第1四半期(四─六月)の不良債権
処理損失が前年同期比七〇%増となっていることが
明らかになり、その流れはさらに加速するとの見方
が強い。 原油高のうえに融資引き締めが加速すれば、
体力のない運送業者はひとたまりもない。
総事業者数も減少へ
倒産件数の増加は、「物流二法」の規制緩和以来、
膨張を続けてきた運送業界に大きな変化をもたらそ
うとしている。 本誌が全国の地方運輸局にトラック事
業者の増減をヒアリングしたところ、昨年度から複数
の地域で横ばい、あるいは純減に転じていることが
明らかになった。 都市部の参入業者数が多いため総
数は増加しているが、それも頭打ちの感が強い。 「早
ければ二年後には全体の総数が純減に転じる」との
声も上がっている。 退出企業の増加が著しい東北地
方の中堅運送会社幹部は「市況の悪化は我々の地元
のような経済基盤が弱い地域から影響が出る。 実際、
周りの同業が次々に倒産している。 うちも対岸の火
事ではない」と声を震わせる。
燃料供給元による軽油の売り渋りも影を落として
いる。 運送業者の軽油購入方法は大きく三つに分け
られる。 一つは自社にタンクを持ち、そこに購入し
た軽油を貯蔵しておく方法。 「ローリー買い」と呼ば
れる方法だ。 二つめがガソリンスタンドと契約を結び、
SEPTEMBER 2008 22
緊急調査
第3 部
一定量の軽油を確保する方法。 三つめがタンクを持
つ協同組合に出資金を支払って加盟する方法だ。
いずれの方法も、二カ月程度の支払いサイトが発
生する。 供給元がこれを嫌い、売り渋りや供給条件
の改定を行っている。 業界関係者は「供給元として
は原油高で疲弊した国内市場に供給し、代金回収に
汲々とするより、健全な海外市場で供給する方が効
率は良い。 そのため需要量の三分の二、ないし、半
分程度しか供給せず、一〇〇%供給なら支払いサイ
トの短縮などを求めるケースがある」という。
実際、燃料を確保できないという理由で倒産に追
い込まれるケースまで出ている。 東京都品川区の東辰
自動車運送は、昨年度まで約七億円の年商があった
が、運賃の低下で採算性が悪化し資金繰りが厳しく
なったところに、燃料供給元から保証金の差入を突
き付けられた。 結局それに応じることができず、今
年五月十三日に事業停止を余儀なくされた。
燃料の問題以外にも、原油高騰は様々な角度から
中小・零細運送業者を圧迫している。 支払い条件の
悪化もその一つだ。 原油高の影響を受け、厳しい状
況に置かれているのは下請けも元請けも、そして荷
主も同じ。 最終的なしわよせは下請けにくる。
既に市場では支払いサイトの延長や現金払いから手
形への切り替えなどの措置が横行している。 支払い
条件が悪化すれば当然、運送会社の資金繰りは厳し
くなる。 それでも「料金を引き下げられないだけま
だまし。 サーチャージ導入や運賃アップなど論外」と
黙って受け入れる運送会社が少なくない。 下請法適
用が強化されているとはいえ、実際の取引現場では
ほとんど実効性を発揮できていないのが実情だ。
設備投資の面でも苦境に立たされている。 燃費効
率の良い新型車両の購入や、エコドライブ管理システ
ムの導入は、原油高対策の王道だ。 しかし、銀行の
貸し渋りに加え、リース会社も運送会社に対する与
信枠を急速に絞っている。 従来から中小運送会社の
多くは車両の購入をリースに頼ってきた。 その影響は
深刻だ。
軽油や車両の確保も困難に
大手リース会社の広報部員は言う。 「世間では不動
産業界の大型倒産が話題になっているが、我々リース
会社にとっては運送業界の倒産のほうがはるかに怖
い。 不動産業と運送業ではリースに出している商品の
原価に大きな開きがあるからだ。 不動産会社にリー
スしているのはコピー機がメーンで原価は一〇〇万円
から一五〇万程度。 それに対して運送業者にリース
しているトラックは原価が約一〇〇〇万円と非常に高
い。 リース先が倒産すれば、その売掛金が飛んでし
まう。 例えトラックが戻ってきても当然価値は下がっ
ているし、最悪、持ち逃げされてしまうケースもあ
る。 原油高騰の直撃を受けている業界ということも
あり、運送業界の、特に中小・零細業者に対しては
与信を絞らざるを得ない状況だ」
リース会社から突き放された運送業者は悲惨だ。
リース料の支払い条件が悪化することはもちろん、取
引停止となれば荷物はあっても輸送手段が無いとい
う、最悪の事態も起こりえる。
運賃は反騰したとはいえ、原油高騰に伴うコストの
増加率を鑑みれば焼け石に水。 ドライバーの求人難も
深刻化している。 既に中小・零細の運送業者は疲弊
しきっている。 加えて銀行の融資引き締め、軽油売
り渋り、支払い条件や設備投資環境の悪化︰︰。 こ
のレポートは「倒産急増」と題したが、今はまだ無
間地獄の入り口に過ぎないのかもしれない。
23 SEPTEMBER 2008
07年度備考
参入
07年度
退出
06年度
参入
06年度
退出
北海道 91 101 121 67
東北 108 128 125 69
関東 624 323 645 265
北陸信越 59 59 87 53
中部 253 150 243 152
近畿 318 215 334 157
中国 116 99 116 71
四国 64 46 73 46
九州 205 116 209 57
07年度から純減に。 潮目が変わった
退出件数が激増し純減に。 トレンドが大きく変化
新規参入が頭打ち、退出件数は大幅に増加
参入・退出件数ともほぼ横ばい。 増加基調
関東同様、退出件数が増加
新規参入が横ばい。 退出件数が増加
新規参入がやや鈍化
退出件数は例年並みだが新規参入が減少。
08年度は減少必至か
新規参入は横ばいだが、退出件数が2倍に
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
トラック事業者の新規参入・退出件数(件) 倒産件数と軽油卸価格(円)
出典:帝国データバンク
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
07
年1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
08
年1月
2月
3月
4月
5月
6月
9月
10
月
11
月
12
月
軽油卸価格
倒産件数
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