2008年10月号
道場

3PL ルネッサンス

OCTOBER 2008  38  大先生が何も言わないので、体力弟子が続け る。
 「その方は、何年か前に師匠の講演で3PLの 話を聞いたことがあるそうです。
それが、ここ 二年くらい、師匠のお話のとおりになってきた って実感してるって言ってました」  「3PLの話? 何言ったかな‥‥あちこちで 好き勝手なこと話してるからわからんけど、3 PLは、物流をやらないシステムを提案する業 態だって話か?」  大先生の問い掛けに、体力弟子が「うーん」 と言いながら、「どちらかというと役割分担の話 のようです」と言う。
 「役割分担? あー、これまで日本の物流は 1PLで来たけど、それが物流をだめにしてる。
本来3PLで行くべきで、ようやっとそういう 時代が来たって話か?」  「そうです。
荷主の物流部がシステムを作り、 物流業者は荷主の指示で物流実務をやらされる だけというのが1PLですよね」  体力弟子の確認に大先生が頷き、ぼそっと言 う。
 「そうそう、その話をすると、むっとした顔を する荷主の物流担当がいる。
なぜかわからんけ ど‥‥」  大先生の言葉を聞き、体力弟子が、「さもあ りなん」という顔で話を続ける。
 「その方はこんな言い方をしてました。
『素人  荷主に代わってプロが物流を組み立てる時代がやっ てきた。
これまでの常識や慣習を否定し、物流のある べき姿を追い求めるプロフェッショナルたちの手によっ て、トラックの使い方から拠点の配置まで、ロジスティ クスの仕組みが一変しようとしている。
“3PL ルネッ サンス”が始まっている。
湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 3PL ルネッサンス 大先生の日記帳編 第13 回   1PLで始まったのは必然だった  「3PLルネッサンスだそうです!」  大先生が、いつもどおり昼前に事務所に顔を 出すと、これまたいつもどおり体力弟子が飛び 出してきて、勢い込んだ様子で昨日行ったヒア リング調査の報告を始めた。
 体力弟子は、ある団体から依頼された調査の 仕事で大阪の中堅トラック運送業者にヒアリング に出かけたのであった。
そこで本来の用件とは 別に、大先生がらみのおもしろい話を聞いてき たそうだ。
 「昨日行った会社の専務さんが、ついに師匠が 言っていた3PLルネッサンスが始まったって言 ってました」  突然、聞き慣れない言葉を聞かされて、大先 生は戸惑った顔をした。
体力弟子の顔をまじま じと見て、聞き返す。
 「3PLルネッサンス? なんだ、それ? お れは、そんな言葉使ったことないぞ」  「そうでしょうね。
私も初めて聞いた言葉です から。
その方がご自分で作った言葉かもしれま せん。
でも、お話を伺うと、結構言い得て妙と いうところがあります」  体力弟子が、核心をぼかして意味ありげに話 す。
大先生の戸惑いを楽しんでいるようだ。
大 先生は「何のこっちゃ」という顔で、たばこを吹 かしている。
78 39  OCTOBER 2008 の物流担当がシステムを作るから、おかしくな ってしまうんだ。
本来物流のプロである物流業 者がシステムを作れば、もっとましになる。
そ れが3PLだ』って師匠がおっしゃってたって」  「へー、素人の物流担当なんて言ってたか?  プロの物流業者と対語で使ったんだな。
まあ、お れは物流事始の昭和四〇年代半ばから企業の物 流を見てきたけど、もともとの責任は物流業者 にあった。
企業に物流部なるものができて物流 管理をやろうとしたとき、物流業者は運ぶ、保 管するしかできなかった。
物流システムや管理 ということで物流業者が荷主の物流担当の相談 に乗ることさえできなかった。
だから、物流担 当は自力で物流に取り組まざるを得なかったん だ。
必然的に1PLだ。
それが実態。
荷主が悪 いんじゃない」  大先生の思い出話に興味を持ったのか、奥か ら美人弟子が顔を出した。
体力弟子の隣に座る と、すぐに質問した。
 「そうすると、物流システム作りや運営、管理 すべてを物流事業者に任せるという3PLが関 心を呼んでいるのは、荷主の物流担当者の限界 感もあるでしょうけど、物流事業者側のシステ ムや管理についての能力向上があるということ が大きいのでしょうか?」  「そうだな、昔の物流担当は、無から始めた ので、物流部長を始めみんなが輸送や保管や作 業という物流現場に入り込んで勉強してたけど、 いまはある程度システムが出来上がってしまっ てて、それ以上何とかしようとかいう思いが希 薄な面がある。
その意味では、限界感を持って いることはたしかだ。
そこで、物流業者が、能 力向上というよりも、ようやっとプロ根性を発 揮し始めたってことかな。
いずれにしろ、いい ことだ」  弟子たちが頷くのを見ながら、大先生が思い 出したように体力弟子に聞く。
 「それで、その専務は、最近3PLの何を実 感してるって?」  「はい、その会社は、3PLをやってるわけで はなくて、何社かの大手メーカーの元請業者の アンダーでトラックを出してるんですが、トラッ クの使い方で明らかに3PLが浸透してきたっ て実感してるそうです」   物流のプロが仕組んだ輸送システム  「へー、どんな風に実感してるんですか?」  美人弟子の質問に体力弟子がノート開いて答 える。
 「一言で言うと、トラックを徹底的に有効活用 しようという強い意思が端的にあらわれてると いうことのようです。
物流のプロが仕組んだ輸 送システムに明らかに変わってきたって言ってま した」  「物流のプロが仕組んだ輸送システムか‥‥ かっこいいな。
具体的にはどう変わってきたっ て?」  大先生が楽しそうに先を促す。
体力弟子が頷 き、続ける。
 「ある食品関係のメーカーさんで、新たな3P L業者に物流を一括委託したそうです。
そした ら、これまで問屋さんに同時刻の時間指定配送 を当たり前のようにずっとやっていたんだそう ですが、3PL業者に代わって間もなく、これ がなくなって、問屋さんごとに時間をずらした 配送に変わったそうです。
訪問した運送業者さ んは利用運送もやっていて、おかげで手配する トラックが減ってしまったなんて言ってました が、同時刻の時間指定なんてばかなことがなく なったのはいいことだって喜んでました」  「ふーん、そのメーカーはまだそんなことやっ てたのか? ゲームや新曲の全国一斉発売とは 違うんだから、そもそも問屋に対して同時刻の 時間指定なんて意味がない。
こんな燃料費の高 い時代に‥‥」  大先生が呆れた顔で、ぶつぶつ言う。
それを 横目に美人弟子が「その3PL業者さんは、ど うやって変えたんですか?」と聞く。
 「その方も具体的にどうしたかはわからないら しいんですが、その3PL業者さんは、荷主の 無駄に聖域を設けずに、ずけずけと意見を出し ていくという頼もしいタイプらしいんです」  美人弟子が「へー」と頷いて、「プロが仕組ん だって、他にどんなことが起こったんですか?」 OCTOBER 2008  40 とさらに聞く。
ノートを見ながら体力弟子が答 える。
 「それから、そうそう、これまで宵積みとか いうのがあったじゃないですか?」  「あー、翌日の配送のために前の晩に事前に荷 物を積み込んでおくというやり方ですね」  「そう、これも、これまで当たり前だったらし いんですけど、これをすぐに全廃してしまった そうです」  「明日配達する荷物を積んでしまったら、その トラックは夜使えない。
これも無駄の極み」  大先生が体力弟子の顔を見ながら、独り言の ようにつぶやく。
 「そうなんです。
トラックは二四時間動かす、 トラックを拘束するようなことは一切認めない という考えのようです。
運ぶ荷物は直前に物流 センターから出荷し、そのままトラックの荷台に 積み込む。
仮置きなんかもしない。
トラックの 出発に合わせて物流センターを動かすというや り方に変えたようです。
出荷の時間帯別にセン ターの作業に必要な人員手配もその3PL業者 さんがやっているようです」  3PL成功の条件とは  「へー、頑張ってるな。
それでこそプロだ。
3 PLの面目躍如!」  大先生が大袈裟に褒める。
体力弟子が「荷主 さんも『さすがプロ』って喜んでいるようです。
者さんを替えたら、輸送ネットワークががらっと 変わってしまったそうです。
その結果、輸送コ ストが一気に三割も減ったということのようで す。
『やっぱり、物流はプロに任せるべきだ。
3 PLの時代です』ってしきりに強調してました」  「そういう3PL業者さんって特別な能力を持 ってるってことなんですかね?」  美人弟子が大先生に問い掛ける。
大先生が「う ーん」と言いながら、たばこに火をつける。
 「輸送についてはもともと持っていた能力のは ずだ。
どうすれば効率のよい輸送ができるかは 経験でわかっている。
ただ、それを荷主にどう 提案していくかってことだな。
それを提案する ことで自分たちの収入が減ってしまうなどと躊 躇するところがあると、3PLはできない。
新 たに入った業者はそういう躊躇がないから思い 切った提案ができるってこともある」  「そうすると、いま物流を受託している業者さ んも、その荷主さんに対して3PL的な動きを していかないと、仕事を失う恐れがあるという ことですね。
たしかに、そういう意味では、こ れまでと価値観が変わってきたという点でルネ ッサンスかもしれません。
うん、言い得て妙で すね」  美人弟子の言葉に体力弟子が「でしょ?」と 言って、大きく頷く。
 「そう、3PLというのは、荷主の代わりに、 荷主の立場に立ってプロが物流を考えるってこ かなりなコストダウンを実現したらしいです。
そ ういう3PLという物流の原点に戻って大きな 効果を挙げているという現実を3PLルネッサ ンスとその方は言ってるのだと思います」  「3PLルネッサンスねー‥‥まあ、高揚する 気持ちは伝わってくる」  大先生が苦笑しながら認める。
大先生の言葉 に弟子たちが頷く。
体力弟子が何か思い出した ように付け加える。
 「そうそう、その方がおっしゃるには、これは 別のメーカーさんの話らしいんですが、元請業 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 41  OCTOBER 2008 とだからな。
荷主の立場に立つってことは、当 然、物流は必要最小限に絞り込むって考えるこ とだ。
物流事業者がこの立場に本気で立てるか どうかが3PLの成否を左右する。
これまでの 常識を否定する変化には違いない。
うん、価値 観が変わるか? たしかに、そうも言える」  大先生の言葉に美人弟子が何か思い出したよ うに顔を上げる。
 SCMを提案したトラック業者  「そう言えば、この前、こんな話を聞きました。
ある中堅のトラック業者さんが、トラックを使わ ない仕組みを提案して受け入れられたというお 話です。
その方は、SCMを提案したとおっし ゃってましたが、要するに、あるメーカーさん とそこと取引のある問屋さんというサプライチェ ーン上の二社の物流を一気に受託してしまった んです」  体力弟子が興味深そうに「トラックを使わな いってことを切り札にしたの?」と聞く。
美人 弟子が頷いて続ける。
 「その二社の在庫を一つの倉庫に入れたんだそ うです。
二階がメーカーさん、一階が問屋さん という具合です」 「なるほど、階を一階降ろすだけで、輸送が終わ ってしまうということですね。
たしかにSCM に違いない。
すごーい」  体力弟子が感心したような声を出す。
 「それもプロの面目躍如だな。
要は、これまで 当たり前だと思っていたことをすべて否定して、 また、これまでのやり方を当たり前だと縛って いたしがらみなども捨て去って、新たなやり方 を探究すれば、いろいろおもしろい仕組みが出 てくるということだ」  「そういう風に考えると、3PL時代という のはおもしろい時代ですね。
たしかに、ルネッ サンスかも」  体力弟子が、まだルネッサンスにこだわって いる。
 「まあ、そのルネッサンスはいいとして、本来、 3PLっていうのは新しいやり方だからこれま でにない取り組みが出て当然だ。
なんたって、プ ロがやるんだから。
プロは、既存の常識などに こだわらず、あるべき姿を求め続ける存在だし ‥‥。
ただ、問題は、それを荷主側が受け入れ ることができるかどうかだ。
だけど、そういう 動きを実感してるって人が出てきてるんだから、 現実に動き始めてるってことだ。
大いに期待で きるな」  大先生の言葉に弟子たちが大きく頷く。
思い 出したように、大先生が時計を見る。
「あれ、も うこんな時間か。
それでは、お昼に行くか」と いう大先生の言葉に衝立の向こうにいた女史が 「はい」と勢いよく返事をした。
ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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