2008年10月号
特集

共同物流入門 同業種メーカー共配の限界

OCTOBER 2008  16 キリン・サッポロ提携の舞台裏  今年に入り、ライバルメーカー同士の共同配送が活 発化している。
中でも注目を浴びたのが、四月に発 表されたキリンビールとサッポロビールの提携だ。
寡 占化の進んだビール市場では従来から大手四社が熾烈 なシェア争いを繰り広げている。
同じトラックに競合 相手の製品を混載する協調に踏み切ったのは異例とい える。
 業界初の物流提携に、新聞やテレビをはじめとした 各メディアも高い関心を示し、こぞってこのニュース を大きく取り上げた。
「今回の提携にサントリーも合 流し、業界再編への呼び水になるのでは」との報道 まで出たほどだ。
 しかし注目度の高さとは裏腹に、実施された共同 配送の規模は限定的だ。
今回の取り組みではCO2を 前年比で二〇%削減、配送車数を年間三七五台分削 減できる見込みだが、物流コスト削減額としては数百 万円程度に留まるという見方が強い。
年間数百億円 規模の物流コストが発生する大手メーカーにとっては 端数でしかないともいえる。
 両社の共同配送の詳細を振り返っておこう。
水面下 で協議が始まったのは昨年末から。
キリンビールSC M本部SCM推進部SCM推進担当の平井努主務は 「商流においてはライバル関係にあるが、物流では競 い合うべきではないというお互いの意見が一致した」 と語る。
先記の通り四月にプレス発表され、五月下旬 から実際に共同配送がスタートした。
 対象地域は北海道の一部。
両社共通の特約店であ る北海道酒類販売(北酒販)の紋別支店、岩見沢支 店、倶知安支店、室蘭支店に対し、それぞれの工場 から出荷していた納品配送を共同化した。
両社の工 場はわずか二キロの距離に位置している。
共同配送を 実施する前は互いに一〇トン車で五〇%程度の積載率 しかなかったが、両社合わせれば一〇〇%になると いう計算だ。
 サッポロビールの工場で集荷した後、キリンビール の工場に回る。
サッポロビールの既存ルートにキリン ビールが相乗りする。
実際のオペレーションもサッポ ロビールの元請けのサッポロ流通システムが担当する。
キリンビールの元請けであるキリン物流はサッポロ流 通システムに業務を委託するという形になる。
これは、 北海道においては既にサッポロビールが宝酒造、三和 酒類と共に共配を実施している実績があったためだ。
 一般に競合メーカー同士の共同配送には障害が多 い。
商流に関わる情報漏洩の危惧や利益配分、社内 外の調整など枚挙に暇がない。
しかし、二社間の取 り組みにおいて、これらはほとんど問題にならなかっ た。
「両社間で取り組みやすい共同配送を選定した」 (平井主務)ためだ。
 今回のケースでは互いの荷物が合わせて一〇〇%に なり、北酒販という共通の納品先があった。
出荷す る工場同士が近距離というのも幸いした。
納品条件 や注文の締め時間など、営業部門の手を煩わせて北 酒販との取引条件を変更する必要もなかった。
ほと んど制約のない施策だったといえる。
 それでも実績はできた。
これを突破口として両社は 「今後も互いに効果のある共同配送を模索し、拡大を 検討していく」と、サッポロビールSCM本部サプラ イチェーンマネジメント部の母袋信人部長兼ロジステ ィクスグループリーダーは説明する。
しかし、具体的 な対象地域などは現在のところ白紙の状態だ。
北海 道の事例のように互いの条件がうまく合致するケース はそれほど多くはない。
同業種メーカー共配の限界  メーカー主導型の同業種共配が活発化している。
環 境問題の高まりと燃料費の高騰が取り組みを後押しし ている。
しかし、熾烈なシェア争いを繰り広げるライバ ルメーカー同士が有効な協力関係を築くことは容易で はない。
過去を振り返っても、その成功率は低い。
(石鍋 圭) 第1部 17  OCTOBER 2008 共同物流入門特集  顧客との取引条件や業務プロセス改革まで踏み込ん で、本格的にライバルと物流を共同化すれば、飛躍的 な成果が期待できる。
ただし、実現の難易度も格段 にアップしてしまう。
そこにライバルメーカー同士の 共同配送の難しさがある。
もちろんこれはビール業界 に限った話ではない。
 ミサワホームの田中克明生産・建設本部資材物流部 物流グループマネージャーは、メーカー同士の物流共 同化の難しさを次のように語る。
「我々ハウスメーカー にとって物流は競争の源泉。
誰にも自分のところの効 率を他社より良くしたいという思いがある。
全ての垣 根を乗り越えるには、ライバルと共同出資で物流会社 を作るといった、ダイナミックな展開まで覚悟しない となかなか前に進めないのではないか」  住宅市場では、二〇〇二年頃から各ハウスメーカー が自社の調達物流網を整備し始めたことで、共同配送 の機運が徐々に高まってきた。
資材のコスト高や住宅 市場の伸び悩みも、共配への期待感を助長した。
ミサ ワホームでも他のハウスメーカーと住宅資材の共同化 に取り組み始めた。
しかし、トヨタホームとの共同化 以外、ほとんどの案件がまだトライアルの段階で、進 展はしていないという。
緩やかな連携で活動を継続  化粧品業界には「コスメ物流フォーラム 21 」(以下、 フォーラム)という共同配送の推進団体が組織されて いる。
参加企業は資生堂、花王、カネボウ、コーセー、 マックスファクター、アルビオンの六社。
業界の主要 メーカーが名を連ねるこのフォーラムは、既に一〇年 以上にわたり活動を継続している。
その要因を資生 堂ロジスティクス部の田代淳参事は次のように語る。
 「参加企業が平等で、強制力の無い会議体だったか らこそ続けてくることができた。
会議で話し合われた 共配案件を担当者が各社に持ち帰り、社内で協議し た結果、可能であればその案件に乗る。
不可能であ れば参加しない。
共配への参加・不参加を巡って各 社間で調整するということもしない。
各社の決定を 尊重するスタイルを貫いてきた」  フォーラムでの決定に強制力を持たせれば、必ず各 社の戦略的なエゴがぶつかり合う。
企業は基本的に利 益を追求する組織なのだから当然だ。
そうであるな ら、緩やかに連携し、それぞれの事情を尊重する形 で活動しようという方針を固めた。
見方を変えれば、 そのラインが競合するメーカー同士の共同配送の限界 だと当初から判断していたとも理解できる。
 共同配送を請け負う物流業者との契約運賃も各社 が個別に折衝する。
当然、単価は各社で異なる。
田 代参事は「試行錯誤の段階だが、運賃は全社で均一 化しないのがむしろ公平だと考えている」と言う。
 フォーラムが発足したのは一九九七年。
全国の化粧 品小売店の集合体である全国化粧品小売協同組合連 合会から要請されたことに端を発する。
目的は環境 負荷の低減、物流コストの削減、荷受け側の負担軽減 の三点だ。
 その組織構造は、各社の担当役員が集まる「コス メ物流フォーラム 21 」を最高意志決定機関として、そ の下に各部門長を中心に編成される「全体会議」と、 事務局の役割を果たす「共同化推進室」を並列に置 いている。
さらに全体会議の下に各種課題の具体的 検討をする「分科会」を設置している。
 いずれも参加メンバーは各社の物流部門、システム 部門の担当者が中心だ。
活動としては全体会議が二 カ月に一回、共同配送分科会が少なくとも月に一回 開催される。
共同化推進室の事務局長のポストは一年 札幌 キリン千歳工場 サッポロ北海道工場(恵庭) 岩見沢 倶知安 室蘭 紋別 ※サッポロ北海道工場とキリン千歳工場の距離は約2km 図1 キリンビール、サッポロビールの共同配送 サッポロビールSCM本部サプ ライチェーンマネジメント部の 母袋信人部長兼ロジスティク スグループリーダー キリンビールSCM本 部SCM推進部SCM推 進担当の平井努主務 交替で各社持ち回りだ。
 フォーラムを発足するに当たっていくつかの約束事 を決めた。
先にも触れた、共同配送案件への参加・ 不参加は各社の自由という項目の他に、フォーラム自 体への参加・脱退も原則として自由、交換する情報 は物流関連情報のみで各社間の競争を阻害する情報 は交換しない、フォーラムで得た情報は自社内の物流 担当者以外に開示しない、など多岐にわたる。
 最初の共同配送が実現したのは発足初年度でもあ る九七年。
対象地域は北海道で、参加企業は資生堂、 コーセー、アルビオンの三社。
担当物流業者は札幌通 運に決まった。
三社の荷物を北海道北広島にある札 幌通運の拠点に集荷し、そこから北海道内の納品先 に共同配送する。
コーセーはそれまで別の物流業者に 委託していたが、共同配送に参加することによりコ スト削減以外の利益も享受したという。
 「配送品質が飛躍的に向上した。
現在では当該地域 の配送がコーセーの中では最も高い配送品質を誇って いる。
共配を担当する物流業者側からすれば荷物が まとまることで経営的にも潤う。
意欲が上がり、より 高いレベルのサービスが可能になるという側面がある のではないか。
化粧品はデリケートな商品なので、配 送品質の高さは非常に重要なファクターと捉えている。
この一点だけでも共同配送に参加する価値は十分あっ た」(コーセーロジスティクス部狭山流通センター流通 一課の浅見浩幸課長)  次に実現したのが九九年の沖縄における共同配送 だ。
参加企業は資生堂、花王、カネボウ、コーセー、 マックスファクターの五社で、物流業者は西濃運輸。
資生堂以外の四社の荷物を福岡や滋賀などの拠点か ら西濃運輸の那覇拠点に共同で空輸する。
資生堂は 那覇に拠点があるため直接西濃運輸の那覇拠点に集 荷し、そこから各地へと共同配送する。
 〇六年にスタートした四国の共同配送には六社全て が参加している。
配送はカトーレックに委託した。
資 生堂、カネボウ、コーセーの三社の荷物は各社中国地 方の拠点からカトーレックの岡山物流拠点に集荷され る。
そこから瀬戸大橋を通り、四国各地へと共同配 送される。
 花王、マックスファクター、アルビオンの三社の荷 物は各社関西の拠点から大阪のカトーレックの物流拠 点に集荷される。
淡路島を通り、四国各地に共同配 送されるというスキームだ。
全社が参加していて、な おかつ橋を渡るという荷物の「束ね効果」が顕著に 出る事例のため、フォーラムの取り組みのモデルケー スとして位置付けられている。
 「花王に関して言えば、以前は北九州拠点から四国 の西半分へ、大阪拠点から四国の東半分へ配送する という状態だった。
共同配送ルートができたことで大 阪出荷に一本化することができた」とフォーラムの共 同化推進室の事務局長を務める花王ロジスティクス部 門の及川徹氏は語る。
 今年の一〇月からは九州全域でも共同配送がスター トする。
参加するのは資生堂、カネボウ、コーセーの 三社で、物流業者は九州産交運輸だ。
検討に一年半 をかけて、ようやく実現に至った。
資生堂ロジスティ クス部の田代参事は「これで終了ではない。
今後も共 同配送できる地域を協議し合っていく」としている。
 フォーラムは一定の成果を挙げている。
ただし、そ の対象エリアは比較的物量の少ない地域に限られてい る。
二〇〇〇年には東京での共同配送も検討したが、 実現には至らなかった。
都市部の物流施設は各社と も重装備だ。
物流を共同化するには、その統廃合が 必要になる。
担当者の話し合いでは決着はつかない。
OCTOBER 2008  18 資生堂ロジスティクス 部の田代淳参事 コーセーロジスティクス 部狭山流通センター流通 一課の浅見浩幸課長 花王ロジスティクス部門の及 川徹氏(コスメ物流フォーラム 21共同化推進室事務局長) 図2 化粧品業界 四国共同配送のイメージ図 陸 送 カトーレック 岡山 カトーレック 大阪 カネボウ (岡山県都窪郡) コーセー (岡山県笠岡市) 資生堂 (広島県三原市) アルビオン (滋賀県湖南市) 花王 (兵庫県神戸市) マックスファクター (滋賀県野洲市) 共同集荷 共同集荷 共同輸送 共 同 配 送 共同輸送 カトーレック(各地デポ) 得 意 先 共同物流入門特集 流通構造の変化に直面  ライバル同士の調整には時間もかかる。
その間に共 配の前提となる流通構造自体が大きく変化してしまう こともある。
コスメ物流フォーラム 21 と同様に一〇年 前からカメラ業界の共同配送を先鋭的に進めてきたカ メラ映像共同物流協議会(以下、協議会)は今、発 足以来の大きな壁に直面している。
 ニコンイメージングジャパン営業推進部営業サポー ト課流通センターのセンター長で、協議会の代表幹事 でもある瀬尚二氏は「五、六年前からカメラの販売 チャネルが、カメラ専門店から大型量販店へと劇的に 変化した。
このパラダイムシフトがカメラ業界の共配 のメリットを大きく低下させてしまった」と語る。
 まず、協議会のこれまでの歩みを見ていこう。
 協議会の前身となるカメラ共同物流協議会が発足し たのは九七年六月。
当初の参加企業はニコン、キヤノ ン、ペンタックス、オリンパス、京セラ、ミノルタの 六社だ。
その後、京セラとミノルタはカメラ事業から の撤退などの理由で退会し、昨年十二月にボーゲンイ メージングが新規参加した。
化粧品業界の共同配送と 同様、カメラの主要メーカーが名を連ねている。
 発足の目的や決まり事などはコスメ物流フォーラム 21 と重なる点が多いが、各社のコスト負担額をより明 確にするために算出方法が定められている点は大きな 特徴といえる。
参加メンバーは主として各メーカーや メーカー販社の流通担当責任者。
月に一回定例会を開 き、特別の懸案があるときはその都度参集する。
 共同配送の対象地域となったのは都内を中心とす る関東圏だ。
他の共配が主として対象地域とする地 方はあまり視野に入っていなかった。
発足当時は都市 部にカメラ専門店が林立し、各社が二割から三割程度 という低積載率で多頻度に出荷するという背景があ ったためだ。
これを是正しようという狙いだった。
 物流業者はプレゼンの結果、トナミ運輸に決定した。
各社の物流拠点から東京・江東区にあるトナミ運輸の ハブセンターに荷物を集荷し、そこから各カメラ専門 店に共同配送するというスキームが構築された。
 最大消費地を対象としただけに共配の効果は大きか った。
対象エリアの共同配送率は七〇%を超え、各社 合計の車両台数は六割以上削減された。
配送車両一 台当たりの積載率は以前の倍に当たる六割を超えた。
 件のパラダイムシフトが起き始めたのは〇二年頃か らだ。
主要販売チャネルがそれまでのカメラ専門店か ら大型量販店に急速に移行していった。
それまで林立 していたカメラ専門店は次第に姿を消し、納品先は大 型量販店の物流拠点へと集約されていった。
各社ご とに荷物をまとめられるようになり、結果、共同配 送の荷物量は次第に減っていった。
現在、共同配送 の荷物量はピーク時の半分近くまで減少している。
 発足から一〇年を満了した今年三月の定例会では、 共同配送の抜本的な見直しが協議された。
共同配送 の手法以前に、その存在意義から問われることにな った。
それでも協議の結果、共同配送は存続させる ことに決定した。
瀬代表幹事は「ピーク時に比べれ ば共同配送の荷物量は減っているとはいえ、各社の コストメリットは十分に出ている。
今後は、より効率 的な取り組みを模索していく」と説明する。
 同業種メーカーの共同配送は、全てが重複している ため大きな効果が期待できる。
ただし、ライバル同士 だけに拒否反応も強い。
実現までの道のりは険しく、 失敗する可能性も高い。
対象範囲を絞れば、実現は 容易になるが、効果も限定されてしまう。
解は未だ に見つかっていない。
19  OCTOBER 2008 ニコンイメージングジャパン営業推 進部営業サポート課流通センター の瀬尚二センター長(カメラ映像 共同物流協議会代表幹事 図3 カメラ共同配送の仕組み 物流拠点 ニコン キヤノン ペンタックス オリンパス ボーゲンイメージング トナミハブセンター (江東区辰巳) 納品先 集荷・返送 6 ルート 修理品 商品 返品

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