*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
物流子会社共配の進め方
24 OCTOBER 2008 OCTOBER 2008 24
食品に特化して外販拡大
キユーソー流通システムは一九六六年に親会社・
キユーピーの倉庫部門を分離、独立するかたちで設
立された。 八二年にチルド・冷凍食品の共同配送事
業を開始して以来、事業規模と外販比率を順調に
拡大させた。 九五年には東証二部に上場、二〇〇
四年に東証一部に指定替えとなるなど、数少ない
?勝ち組物流子会社?のひとつだ。
親会社の物流インフラを活用して、ライバル会社の
荷物を取り込むことで外部荷主を獲得する。 そして
事業収入を得ると同時に、インフラ稼働率を向上させ
ることで、物流コストを削減する。 このようなアプロ
ーチで多くの物流子会社が共同配送の事業化を図って
きたが、成功したケースはごく一部だ。
キユーソーの佐々木健二常務取締役事業本部長は、
同社がそれを成し遂げた理由の一つに「食品メーカー
の共同配送に特化してきたこと」を挙げる。 定温輸送
のなかでもそのターゲットを加工食品、菓子、酒、ビ
ールなどのメーカーが出荷するB
to
B物流に絞ってき
た。 末端の川下の集配や、温度帯管理が難しく、他
の商品に臭いが移る恐れのある肉、魚、野菜の生鮮
三品は扱っていない。
ドメインを明確にした上で全国ネットワークの構築
と、求貨求車システムの開発に長期間かけて取り組ん
だ。 八九年に共同配送用の全国ネットワーク「キユー
ソー会」を組織し、協力運送会社を同会の下に束ね
た。 キユーソー会は法人格こそ会員会社に分散してい
るものの、事実上一つの路線業者として機能してい
る。 通常の路線便と違い、常温、チルド、冷凍の三
温度帯をカバーしていることが特徴だ。
九七年には求貨求車システム「QTIS」を本格稼
働させた。 同社の求貨求車システム運営部門が独立し
たキユーソーティスが運営している。 キユーソー会の
会員企業は空車日時、車種などの情報を、荷主企業
は商品の種類や物量、積地・降地などの情報を、Q
TISに登録。 システムが自動的に配車した後に配車
マンが調整を行い、確定した情報を会員企業と荷主
企業の双方に流す仕組みだ。 情報入力後の車と荷物
の成約率は九八%以上と非常に高いことが特徴だ。
こうしたインフラ整備が着実に事業拡大に結びつ
いた。 〇七年十一月期の売上高は一四〇二億六六〇
〇万円で、一〇期連続で増収を記録している(図1)。
グループ向け売上高は九九年以降、二〇〇億円台前半
で推移しているのに対し、外販売上高は九九年の五
五七億一三〇〇万円から、現在は一一七三億五二〇
〇万円と倍増している。 その結果、外販比率は〇三
年に八〇%を超え、現在は八四%に達している。 う
ち共同配送の売上高は九五四億円で、外販比率に比
例して増加を続けている。
積載率悪化で収益性が低迷
ただし、ここ数年、収益性は低下する傾向にある。
〇五年十一月期以降、三期連続の減益に陥っている。
営業利益は〇四年の三七億三二〇〇万円から〇七年
には一四億一七〇〇万円に減少した。
運賃単価自体は燃料費高騰の影響もあり、落ち込
んではいないという。 しかし、食品業界全体のトレ
ンドとして、原材料費の高騰を吸収しきれなくなった
メーカーが、コスト上昇分を商品価格に転嫁したこと
で消費が低迷。 物流の小口化も進んだことでトラック
一台当たりの積載率が悪化している。 無理に積載率
を上げようとすれば今度は納品件数が多くなり、ド
ライバーの残業時間が増えてしまう。 その結果、やは
親会社の物流インフラをベースに、同業他社の荷物を取り込んで外販
を拡大し、事業収入を得て親会社の連結決算に貢献する。 インフラ稼働
率を上げることで物流コストを削減し、親会社、外部荷主、物流子会社
ともにWIN-WINの関係を築く。 そんな青写真を描く物流子会社は多いが、
うまくいっているケースは稀だ。 物流子会社が主導する共同配送成功の
カギをキユーソー流通システムに学ぶ。 (柴山高宏)
第3部
共同物流入門特集
25 OCTOBER 2008
りコストアップを招いてしまう。
品質改善に向けた設備投資も、現状では収益の足
を引っ張っている。 ここ数年、ピッキングミスの防止
など作業品質の向上を目的に、物流拠点に関連した
設備投資を積極的に進めてきた。 これまで固定で組
んでいた棚は移動式のものに切り換えた。
「倉庫作業支援システム」というオリジナルのシステ
ムを開発し、紙ベースの庫内作業はハンディ端末に置
き換えた。 これによって庫内作業の負担が減り、管
理精度が向上した。 しかし、「物量が減少し倉庫の回
転率が悪化しているため、設備投資をしても固定費
の増加分の吸収が難しくなっている」と、佐々木常務
は説明する。
小口化にも先手を打っている。 定温商品を対象と
した中ロットの路線便に加え、宅配便同様の小ロット
の荷物を対象とした「キユーソースルー便」を二〇〇
〇年に開発。 当初約十一億円だった売り上げが、現
在は一二七億円まで拡大している。
スルー便の営業はキユーソー本体の営業と、キユー
ソー会の会員企業双方で行っている。 キユーソーは全
県に営業所を持っているわけではない。 キユーソーの
営業所がない県に営業担当者が出張し、顧客の開拓
やサポートをするよりも、その県にある会員企業が営
業を行った方がスピーディーだ。 客とのコミュニケー
ションも密にとれる。 緊急対応もしやすいという判断
だ。
佐々木常務は「当社と会員企業が単なるパートナー
シップの関係ではおもしろくない。 地場の共同配送の
顧客開拓は当社単独では出来ないので、会員企業と
二人三脚になってスルー便のパイを拡大していく。 会
員企業の事業拡大にもつながる」と説明する。
幹線輸送のネットワークだけでなく、エリア共配の
ネットワーク作りにも注力している。 〇六年より、キ
ユーソー会の組織体制を、「配送部会」と「輸送部会」
に分けた。 配送部会には各地の集配を担う会社を、輸
送部会には幹線輸送を担う会社を集約した。 集配と
幹線輸送、それぞれの機能を強化していく方針だ。
昨年からキユーソー会に準会員制度を設けた。 正会
員候補となる運送会社を準会員として選定し、一年間
正会員と同じ業務を行う。 準会員企業は北海道、東
北、関東など全国一〇に分かれた支部の支部長の推
薦によって正会員へと格上げされる。 現在、準会員
を含めた会員数は一二九となっている。
運送業者は九〇年に施行された物流二法による規
制緩和の影響で増え続けてきたが、燃費高騰の影響も
あり、倒産や事業を縮小する企業が増えている。 「物
流は配送が命。 地場の有力運送業者を確保して配送
網を強化しつつ、経営環境の悪化に対抗できる組織
作りを目指す」と佐々木常務はいう。
共同配送に付加価値を付けるため、今年から輸入
貨物の通関、保税業務にも取り組んでいる。 川崎に
「川崎定温物流センター」を設置して、輸入食品の通
関業務を行い、幹線輸送から地域配送までを一気通
貫に行える仕組みを整えた。
環境変化に適応して、あらゆる手を打っている。 そ
れでも減益傾向には歯止めがかからない。 〇八年度
十一月期の中間期の決算でも、営業利益は一億七四
〇〇万円と前年同期比七〇・二%と大幅減。 通期の
見込みも十二億円と、前年同期比一五・四%の減少
を見込んでいる。
食品共配を新たなステージへ
共同配送で間違いなく車両台数が減ります。 荷受
けもスピーディーになります──。 同社が食品の共配
OCTOBER 2008 25
キユーソー流通システム
の佐々木健二常務取締
役事業本部長
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
99年
1
1月期
20
年1
1月期
01
年1
1月期
02
年1
1月期
03
年1
1月期
04
年1
1月期
05
年1
1月期
06
年1
1月期
07
年1
1月期
図1 キユーソー流通システムの売上高推移
23358 23374 24082 23712 23083 22729 23060 23027 22914
117352
112478
107098
95369 98559
74447 78923
68162
55713
(単位:百万円)
外販売上
グループ向け売上高
� 裡圍團蹈献好海錬裡圍圓�豢絛綮庸�吠�
流部を分社化するかたちで設立した物流子会
社だ。 設立当初の主な荷物はグループ向けの
電話機やケーブルといった通信資材や電話帳
だった。 元国営企業ということもあってその
運賃水準は割高だった。
コスト競争力を強化して親会社への依存体
質を脱却するため、外販の拡大に取り組んだ。
日本に紹介されたばかりの3PL事業に着目
し、専門部隊を組織してターゲットとなる産業
を分析。 住宅用建材、医療機器等に的を絞り
提案を重ねていった。
また、オフィスに専用のボックスを設置し、
機密書類を回収。 リサイクル工場に搬入し、特
殊な破砕機で完全に機密性をなくした上で再
生するという「機密書類リサイクルシステム」
など、静脈分野で独自のサービス商品も開発し
た。 その結果、設立当初にはほとんどなかっ
た外販比率が現在は五〇%近くにまで達して
いる。
共同物流にも着手している。 複数の通信資
材メーカーからケーブルを集荷して、NTTロ
ジスコの物流センターで保管、工事現場へ一
括して納品している。 もっとも、この共同物
流の売り上げは年間約十二億円と総売上の約
三%に過ぎない。 今後も大幅に拡大させるの
は難しい。
磯野勉業務部輸配送企画担当課長は「ケー
ブルの共配は課題も多く、苦戦している」と
いう。 まずは積載方法だ。 ケーブルはドラムに
巻かれていて、大きさも様々。 全てのものが
パレットで運べるわけではなく、積載効率を上
げるためにバラ積みにすることも多い。 複数社
の荷物を混載するために、効率の良い積載方
法を考える必要がある。
「共配だからといってサービスレベルを落と
すわけにはいかない。 顧客によっては時間指
定の要望もあり、共同配送との整合をどう図
るか」と磯野課長は頭を悩ませている。
OCTOBER 2008 26
に取り組んだ当初のうたい文句はこうだった。 だが、
「当時と今では共配事業に対する我々の考え方は変わ
ってきている。 単に荷主の数を増やすだけでは効率化
にはつながらない。 共同物流の機能を改めて整備し
直す必要がある」と佐々木常務は考えている。
例えば、配送頻度はこれまでは毎日配送すること
が理想とされてきた。 しかし、食品を二ケースずつ、
毎日届ける必要は本当にあるのか。 毎日届ける必要
があるエリアと、週三日でいいエリアといった切り口
で整理することはできないか。 競合メーカー同士の共
同配送も視野に入れる必要がある。 物流を切り口に
業界の商慣習を変革していく役割を物流企業が担う
時代が訪れている。
インフラの設計にも修正を迫られている。 メーカー
は家庭用、業務用と商品カテゴリー別に生産拠点を分
けている。 卸もメーカーに準じてセンターを分けるケ
ースが増えてきた。 それに対してキユーソーは業務用、
家庭用の双方を一つのセンターで扱っている。 これを
カテゴリー別に再編すれば配送効率を改善できる。
消費者の食に対する安心・安全志向の高まりを受
け、今後は物流業者もトレーサビリティーの対応を迫
られるのは必至だ。 特に「原料を調達して、生産す
るまでのトレーサビリティーはきちっとできているメ
ーカーが多いが、問題はその先の物流、販売のレイヤ
ーにある」と佐々木常務はみる。
� 稗奪織阿鯑各�垢譴丱僖譽奪斑碓未粘浜��任①�
ゲートをくぐるだけで流通履歴を読むことができるな
ど、効果も大きい。 ただし、単価が一〇〇円近くす
るICタグを食品に貼付しても採算が合わない。 タグ
を読み込むゲートを発地と着地の双方に設置しなけれ
ばならず、ハードにも相当な投資が必要になる。 突破
口はいまだ見えていない。
「食品における共同配送にはまだまだ開拓の余地が
ある。 成熟はしていない。 メーカーの物流コンペも以
前に増して頻繁になっている。 メーカーの自助努力で
物流コストを削減するには限界がきているという証だ
ろう」と佐々木常務は食品共配をもう一段高いレベル
に進化させる方策を練っている。
26 OCTOBER 2008
3PL部隊新設し外販比率五〇%を達成
──� 裡圍團蹈献好�
NTTロジスコの磯野勉業務部
輸配送企画担当課長
|