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OCTOBER 2008 30
荷主主導型では失敗する
共同配送の取り組みは、その多くが失敗している。
とりわけメーカーや卸など荷主が主導する共配システ
ムは、ほぼ全滅と言っていい。 共配は理屈としては
分かりやすいのであるが、いざ具体化の段階になる
と、その制約条件の多さにトライアルまでも行きつか
ないことが珍しくない。
その理由としては、共配に参加する各社でセンター
の最適立地が違う、各社の納品時間指定が重なって
しまうため時間厳守が物理的に困難である、営業情
報・製品情報・販促情報が競合他社に漏れてしまう
恐れがある、などがあげられる。 共配が往々にして
「総論賛成、各論反対」に陥る所以である。
現在、自動車メーカーや大手卸、スーパーなどは、
調達物流の内製化の一環として、納品車両の帰り便を
利用して、仕入先から商品を引き取ってくるという取
り組みを積極化させている。 これも共配の一種と言っ
ていいだろう。 しかし、帰り便による集荷は、仕入先
が納品先の一〇〇キロメートル圏内に集中して立地し
ていないと、まずメリットは得られない。 むしろ空車
のままいったんセンターに戻り、もう一回転、別の納
品を行った方が効率的な場合が実際には多いのである。
私の知る限り成功している、もしくは軌道に乗っ
ている共配は、ほぼ全てが物流会社の主導によるも
のだ。 物流会社が旗振りを行い、中立的な立場から、
各社の納品時間、センター立地、情報システムを調整
し、決定した仕組みで運営している。 つまり物流会
社のロジックに基づいて配送インフラと運営ルールを
取りまとめている。
荷主各社の言い分を一つの仕組みに全て取り込もう
とすれば、当然ながら無理が生じる。 制約条件の多
い共配はコストダウンにはつながらず、コストアップ
となってしまうことさえある。 従って共配を運営する
物流会社は、各荷主にとってのベストな仕組みではな
く、ベターであることに目標を置く。
このような共同配送の限界やデメリットを良く理解
し、自社配送網と共同配送網の使い分けを行ってい
る荷主も、最近では現れてきた。 しかし、そうした
荷主は物流に対する意識の高い一部の大手に限られて
いおり、その他の普通の荷主は共配に関する一般的
知識はもちろん、どの物流会社に委託すれば共配の
メリットが享受できるのかという情報さえ、ほとんど
持ち合わせていないのが実情である。
一般に物流会社主導の共配は、その運営形態から
大きく四つに分類できる。 その最大手は宅配会社を
含めた特積会社(路線会社)だ。 他にキユーソー流通
システムやアルプス物流など、積み荷・業界を特化し
た共配会社がある。 「専門特化型広域運送会社」と呼
ぶことにする。 この二つが全国区の大手だ。
これに対して中堅以下の運送会社も、エリア限定で
広義の共配を提供している。 これもまた二つに分け
て整理する必要がある。 北海道、四国、九州といっ
た地域ブロックをカバーしている「地域運送会社型」
と、福井、長崎、奈良、和歌山、鹿児島、千葉の房
総エリア、静岡の伊豆エリアなど、物流面での?陸の
孤島?をカバーする「地場運送会社型」である。
地域運送会社型がカバーするエリアは、荷主にとっ
て「得意先はあるが取引金額が少ない、しかも物流
コストが高くつくので得意先別損益では赤字になって
いる恐れがある」という市場である。 そこでは会社
のメンツよりコストが優先されるため、同業他社との
共配であっても抵抗が少ない。 とくに書籍、家電、菓
子など商品単価や粗利率の低い業界、商品での成功
中小運送会社の共配事業戦略
年商10億円以下の地方の零細運送会社の命運は、共
配にかかっている。 大手荷主や大手運送会社が車両を
満載にできない小さな商圏でも、地域に密着した地場
運送会社であればカバーできる。 そこでは自然発生的
な共配が機能している。
第5部事例で学ぶ現場改善 第69回
日本ロジファクトリー 青木正一 代表
31 OCTOBER 2008
率が高くなる。 従って、これらの業界の大手メーカー
同士のエリア共配が地域運送会社の主なターゲットに
なる。
このほか、当該エリアを地盤とする卸売業、ドミナ
ント型の食品スーパーやホームセンター、外食などの
リージョナルチェーンが主な荷主候補だ。 ただし、こ
のうち卸売業同士の共配の場合には細かな配慮が必要
だ。 取り扱い品目が?似すぎても違いすぎても?メリ
ットが出ない。 似すぎると競合同士のバッティングが、
メーカー同士のとき以上に大きく影響してしまう。 し
かし、違いすぎれば、納品先の重複がなくなり、共
同化の効果が得られない。 組み合わせが大事だ。
一方、地場運送会社は都道府県レベルのエリアに特
化して、大手運送会社や地域運送会社のアンダーとし
て機能している。 ?ドミナント型?とでも呼びたいと
ころだが、実態としては戦略的にドミナント展開を採
っているというより、結果的にドミナントにとどまっ
ている会社がほとんどである。
それでも中堅以上の運送会社では採算のとれないニ
ッチなエリアを担っているため、元請けの運送会社は
その地域の配送を頼らざるを得ない。 ?よろず屋?と
して、あらゆる種類の品目を使うことになるため、必
然的に共同配送のかたちになる。
地場運送会社の共配戦略としては、下請けに徹し、
先行投資や大型投資を避け、?よろずや型小口共配?
とも呼ぶべき仕事を、少しずつ積み上げていくのが
望ましい。 拠点は借庫をベースとして五坪〜一〇坪の
保管業務にも積極的に対応し、冷凍車やユニック車な
どの特殊車両の所有はベースカーゴがある分に抑える。
オーバーフロー分は地域同業者の協力傭車で対応する。
運営面では?時間指定?への対策が重要である。 荷
主や元請けの要求をそのまま受け入れてしまうと、午
前中に配送が集中して、投下車両が増加してしまう。
それが午後からは空車になり、経営効率が悪化する。
荷主や元請け、納品先と十分なコミュニケーションを
とって、鍵預かりによる無人・夜間納品、納品時間
のアローアンス交渉、引き取り(着荷主が商品を取り
にくる)対応などの協力を得る必要がある。
自然発生型は強い
このように年商一〇億円以下の中小零細運送会社
では、荷主がそれを共配と認識しているかどうかは
別にして、採算確保のために何らかのかたちで広義
の共配を行っている。 そうしないと生きていけない環
境にある。 運送会社は常に積み合せを考えており、同
じ方面で納品時間の調整がつけば、ベースカーゴにサ
ブカーゴを載せるかたちで車両を仕立て、一運行当た
りの売り上げアップを狙う。
帰り荷の確保にも当然の業務として組み込んでいる。
最近大手荷主が取り組んでいる配達後に集荷という
スキームも、路線会社にとっては従来から常識となっ
ている。 (ただし、走行ルートがほぼ固定されている
ため、突発的もしくは緊急の集荷依頼があった場合
の?追っかけ車両?など、バックアップ体制を準備し
ておかないと依頼を断らなければならなくなる)。
あるいは時間帯別に違う荷主の商品を乗せる「時
間共配」。 午前中にA社、午後からはA社と近い距離
にあるB社、さらに深夜にはドライバーを交替させて、
別のC社の商品を運ぶといったように、車両を一日に
何度も回転させることで稼働率を高める。
こうした運送会社による共配は、荷主同士の共配
を理論先行の大義名分型だとすれば、生き残りをか
けた自然発生型だ。 必然性が高いだけに、成功する
確率も大きいのである。
共同配送マトリックス
地域運送会社
(北海道、四国、九州など
エリア特化型の運送会社)
特積会社
(路線会社)
専門特化型広域運送会社
(キユーソー流通システム、
名糖運輸、アルプス物流など)
地場運送会社
(年商10 億未満の中小・零細)
共配品目数
《多》
《小》《大》
《少》
配送エリア幅
あおき・しょういち
1964年生まれ。 京都産業大学経
済学部卒業。 大手運送業者のセールス
ドライバーを経て、89年に船井総合
研究所入社。 物流開発チーム・トラッ
クチームチーフを務める。 96年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に
就任。 現在に至る。 HP:http://www.
nlf.co.jp/e-mail:info@nlf.co.jp
PROFILE
特集共同物流入門
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