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SEPTEMBER 2005 16
携帯電話のストレス
八〇年代後半から本格的な普及が始まった携帯電
話。 電気通信事業者協会によると、今年七月末現在
の携帯電話契約数は八八五三万六〇〇〇件に達した。
実に日本国民の約七割が携帯電話を使用している計
算だ。 最近では電子メール、インターネット、カメ
ラ・ビデオ、テレビなど、さまざまな機能を持った機
種が相次いで登場しており、携帯電話は単なる電話と
してではなく、手軽に持ち運びのできるマルチメディ
ア端末として利用されている。
携帯電話はもはや日常生活を送るうえで欠かせない
アイテムの一つとなった。 それだけに故障などが原因
で使用できない状況が長期間続くことに対して、ユー
ザーは大きなストレスを感じている。 そこで現在、携
帯電話を市場に供給しているソニーやNECといった
大手電機メーカー各社は、ユーザーの囲い込み策とし
て、機能の充実とともに、故障品を回収・修理して
再びユーザーに戻すまでのリードタイムをいかに短く
できるかを競い合っている。
一般に携帯電話の回収・修理から配送までは次の
ような流れになっていた。 ?ユーザーがメーカーの問
い合わせセンターに故障品の回収・修理を依頼する。
これを受けて?問い合わせセンターが専用の梱包材を
ユーザーに送付する。 ?ユーザーは受け取った梱包材
を使って故障品を梱包し、宅配便などを利用してメー
カーの修理センターに送る。 そして最後に?修理セン
ターが修理済みの携帯電話を宅配便などを使ってユー
ザーに届ける(
図1)。
ただし、この仕組みには課題も少なくなかった。 ま
ずメーカー側には専用の梱包材をユーザーに送付する
ための輸送コストが発生する。 一方、ユーザーは故障
した携帯電話を梱包したり、物流会社に集荷を依頼
しなければならない。 そして何よりも問題なのは、携
帯電話を回収・修理してからユーザーに戻すまでに一
週間から一〇日程度掛かっていたことだった。
「現在、人気が高い最新機種の携帯電話の本体価格
は一〜五万円程度に設定されている。 徐々に低下し
てきているとはいえ、まだまだ高額な商品であるため、
故障したからといって、次から次へと買い替えていく
わけにはいかない。 日常生活に支障が生じないように、
修理が済むまでの日数をできるだけ短縮してもらいた
いという声がユーザーから数多く寄せられていた」(メ
ーカーのアフターサービス部門担当者)という。
こうしたメーカーの悩みを解消しようと、日本通運
は二〇〇三年九月に新たなサービスを開始した。 メー
カーからの指示に従って、ユーザーから故障した携帯
電話やデジタルカメラなどを専用の通い箱を使って回
収し、修理センターに配送。 修理終了後に再びユーザ
ーに商品を戻すまでの物流を、日通が一括で請け負うというサービスだ。 同社の東京航空支店が従来から取
引のあった電機メーカーの要請を受けて商品化に踏み
切った。
サービスの流れは、?ユーザーがメーカーの問い合
わせセンターに故障品の回収・修理を依頼するところ
までは従来と変わらない。 しかし、その先は?問い合
わせセンターから指示を受けた日通は専用の通い箱を
持参してユーザー宅を訪問し、故障品をそのまま回収。
?集荷した日通は翌日に故障品を修理センターに配
送する。 ?修理終了後、修理センターは「ペリカン
便」を使ってユーザーに翌日配達する、という仕組み
になっている(図1)。
このサービスを利用することで、メーカーは故障品
を梱包するための資材を用意しなくて済む。 ユーザー
日本通運―新型通い箱を開発
専用の通い箱を活用して、携帯電話やデジタルカメラと
いった小型精密機器の故障品を回収・修理し、ユーザーに
配送するサービスを開始した。 それによって梱包資材に掛
かる費用や輸送コストの削減に成功。 回収〜配送までのリ
ードタイム短縮も実現した。 (刈屋大輔)
第3部事例研究・強い現場の作り方
17 SEPTEMBER 2005
に資材を提供するための輸送コストの負担もなくなっ
た。 さらにユーザーから修理の依頼があった翌日には
故障品が修理センターに納入されるため、回収・修理
してからユーザーに戻すまでのリードタイムを短縮で
きる。 早ければ修理の依頼を受けてから最短三日でユ
ーザーに携帯電話やデジタルカメラを返却することが
可能になった。
営業用の粗品がヒントに
日通がサービスを開始するにあたって、多くの時間
を割いたのは専用通い箱「M2
―Box(マルチモバイル
ボックス、通称エム・ツーボックス)」の開発だった。
「メーカーからは『とにかく輸送や荷扱い時に発生す
る衝撃が製品に加わらないようにしてほしい』という
要請があった。 これに応えようとボックスの開発では
試行錯誤を繰り返した」(東京航空支店国内貨物部営
業企画課の野上誠一係長)という。
もっとも骨を折ったのは通い箱内での製品の固定方
法を確立することだった。 物流業界ではケース内で製
品が上下左右に動いてしまうのを防ぐためにエアキャ
ップなどの緩衝材を活用することが一般的だが、「M2
―
Box」では敢えて緩衝材を使わない仕組みを検討する
ことにした。 緩衝材は購入費負担が発生するうえに、
修理センターに製品を納入した後にはゴミと化してし
まうからだ。
緩衝材の代わりとして日通が着目したのはアクリル
スポンジ製のシートだった(写真?)。 このシートは
吸着盤加工が施されており、ミクロの気泡によってシ
ート上に置かれたモノをしっかりと固定する構造にな
っている。 急ハンドル時に小銭やチケットなどが車内
に散乱するのを防ぐ目的で、自動車のダッシュボード
などに敷かれている、このシートを活用してみること
にした。
「実はもともと当社ではアクリルスポンジ製シート
を営業マンが粗品としてお客さんに配布していた。 実
際に使用してみるとよく分かるが、このシートの吸着
性は驚異的で、シートを九〇度に立ててもモノが落ち
ない。 以前から物流にも役に立つことがあるのでない
かと注目していた」と東京航空支店国内貨物部の小
山繁夫営業企画課長。 最終的には、このシートを使
って携帯電話を固定し、さらに箱の上下にはウレタン
素材のスポンジを貼り付け、そのスポンジで携帯電話
を包み込む構造にすることで、緩衝材なしでも外から
の衝撃を避けられる通い箱を完成させた。
このほかにも「M2
―Box」にはさまざまな工夫を凝
らした。 例えば、外箱の素材には静電気除去や帯電
防止効果に優れた「発泡ポリプロピレンシート」を採
用した(写真?)。 これは精密機器である携帯電話や
デジタルカメラが静電気の悪影響を受けないようにす
るための配慮だという。 現在、携帯電話やデジタルカメラを扱う電機メーカ
ー一〇社が「M2
―Box」を活用した修理品の回収・配
送サービスを利用している。 二〇〇四年度の取り扱い
実績は約十一万件に達した。 昨年から新たにノート型
パソコンを対象にした通い箱も導入しており、取り扱
い件数の拡大に貢献している。
「M2
―Box」は社外からも高い評価を受けている。 今
年四月に日本ロジスティクスシステム協会(JIL
S)が開催した「全日本物流改善事例大会2005」
では、「M2
―Box」の開発と新サービスの提供に漕ぎ着
けるまでの一連の取り組みが「物流合理化努力賞」に
選ばれた。 緩衝材を使用しない輸送システムを構築す
ることで、環境負荷の低減とコスト削減を同時に達成
している点が受賞の決め手となった。
緩衝材が要らない通い箱「M2-Box」
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