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NOVEMBER 2008 20
物流不動産ファンドの活動に急ブレーキがかかって
いる。 大型施設の新設ラッシュは完全に峠を越した。
ファンドの優勝劣敗が進み、今後、市場は物流施設
の開発から維持管理に軸足を移していく。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋 圭)
プロロジス 山田御酒 プレジデント兼日本共同CEO
「リーマン破綻で市場は一変した」
国内一兆円投資計画の修正も
──世界中に金融不安が広がっています。
「リーマン・ブラザースの破綻を機に市場環境は一
変しました。 昨春にサブプライム問題が表面化した
時点で、我々は潮目が変わったとは判断していました。
当時、業界にはまだ強気のところが多かったけれども、
我々は無理な値段で入札を取りにいくのはよそうと
いう方針を立てました」
「しかし今考えれば、それでも楽観的でした。 当
時は金融機関や投資家による融資先の選別が始まる
ので、我々にとってはむしろチャンスだというくら
いにとらえていた。 今やそんな悠長なことは言って
いられなくなりました。 当社の株価もピーク時と比
べて二分の一以下に下がっている。 それだけ利回り
は上がっていて売られ過ぎは明らかなのに、どこで
下げ止まるのかまるで見えない状況にあります」
──不動産相場への影響も避けられません。
「ここ数年の世界的な不動産相場の高騰はまさに
異常でした。 中国ばかりがクローズアップされてき
ましたが、米国や英国を中心とする西欧の不動産価
格の値上がりも日本のバブル期を超えていた。 それ
がリーマンの破綻を機に急落している。 宴は終わり
ました。 今後欧米先進国は日本がバブル崩壊から一
〇年かけてたどった道を、早回しで経験することに
なる」
──証券化ビジネスにも見直しの声が上がっています。
「実体のない金融商品を証券化し、それにトリプ
ルAなどと格付けして、さらに証券化を重ねていく。
投資家は自分がいったい何を買っているのか分から
ない。 そんな証券化は虚業であって、ほとんど詐欺
的な行為ですよ。 我々のビジネスは全く違う。 収益
不動産という実物の資産が存在し、その取引を円滑
にするために証券化しているだけのこと。 一緒くた
にされるのは迷惑です」
──物流ファンドを商業施設や住宅系の不動産ファ
ンドと比較すると?
「物流不動産は波動が小さい。 そのため景気が上
向いている時には、一般の商業系不動産などと比べ
て見劣りするけれど、現在のような下降局面におい
ては相対的に値下がり幅が抑制される。 そのために
プロの投資家は好況時でも常にポートフォリオの一
定部分を物流不動産ファンドに割いてきました。 今
後も物流不動産の基本的な性格は変わりません」
──不動産ファンドに対する金融機関の姿勢も変わ
ってくるはずです。 施設ごとに特別目的会社(SP
C)を設立し、銀行からノンリコースローンを引き
出してレバレッジを効かせるというスキームは限界
に来ているのでは。
「たとえ手法は変わっても不動産は金融機関の主
要な貸付先であり続けるでしょう。 実際、サブプラ
イム以降、金利は若干高騰しましたが、少なくとも
当社に対して融資引き締めが起きているということ
はありません。 またご存知の通り、当社には全世
界で約四〇〇〇億円のコミットメントラインがある。
開発資金については何の問題もありません」
「それに当社は利益を極大化するためにレバレッジ
を用いてきたわけではありません。 レバレッジの比
率も五〇%から六〇%と相対的に低い。 事業の安全
性と成長性のバランスを取っているだけです。 極端
な話、成長のスピードを落とすのなら、エクイティ
一〇〇%でもかまわない」
──日本市場において、二〇一〇年までに投資総額
一兆円という計画は、そのまま据え置きますか。
21 NOVEMBER 2008
特 集
「現在のところ変更はありません。 良いものは買
っていく。 ただ、この目標が設定された当時、経済
状況がこれだけ悪化するとは誰も想像できなかった。
市況に合わない目標を闇雲に追いかけても仕方があ
りません。 いずれ本国から変更の指示が来るかも知
れない。 それでも、極端な計画の修正はあり得ません」
新規開発から施設管理にシフト
──物流施設のテナントのニーズはどう変化するで
しょうか。 国内の賃貸物流不動産の空室率が上昇し
ているというレポートも出ていますが。
「我々が手がけているような大型物流施設に対す
る需要は全く衰えていません。 実際、引き合いも減
っていない。 市場全体の空室率が上がっているとい
っても、それはマーケットに大型施設が短期間で大
量に供給されたためで、時間が経てば埋まってくる
と考えています」
──リストラのために物流アセットの売却、オフバラ
ンス化に動く企業も増えてくるのでは。
「固有名称は申し上げられませんが、既にお話は
いただいています。 従来のように、荷主企業が自
分で何十億円も投資して大型施設を保有するという
流れはなくなりました。 物流企業や3PLにしても、
不動産業は本業ではないのですから、そこで利益を
上げようという意識は、もうさすがにないのではな
いでしょうか」
──不況も悪いばかりではない?
「取得する物件価格は下がってくるし、オフバラン
ス化のような引き合いも多くなるという意味では追
い風ともいえます。 今や物流用地の入札は、買い手
がいないために成り立たなくなっています。 我々が
日本で活動を開始した〇一年頃の状況に戻りました。
当時は落札するための競争者が誰もいなかった。 我々
が土地の取得を申し出ると、『本当にこんな土地を
買ってくれるのなら、値段はいくらでもいい』と言
われたものです」
「今後は買いやすくはなります。 ただし、我々の
付加価値は施設を買うことにあるのでありません。
これまで我々が手がけたパナソニックや資生堂、三
洋電機の案件では、オフバランス化した施設の多く
を元の会社にリースバックしています。 しかし、な
かには使わない施設もある。 それを我々が他の企業
が使えるように手直しをする、あるいは売却する。
そういうソリューションを提供できるからこそ、我々
に任せていただく価値があるわけです」
──物流不動産ファンド市場は今後どのような変遷
をたどるとお考えですか。
「優勝劣敗が進みます。 既に水面下では提携の話
も動いています。 中期的には、ある程度の淘汰は避
けられない。 その後で本来の姿に戻っていくと考え
ています。 これまで市場では金融畑出身の方たちが
目立っていましたが、本来の物流不動産事業という
のは、そんなに派手な商売じゃない。 物流施設を提
供し、プロパティ・マネジメント(PM)に注力して、
顧客をメインテインしていく」
「PMと言うと格好よく聞こえるかもしれませんが、
実際には日頃から顧客とコミュニケーションを取り、
物件に何かあったらすぐに現場に駆けつけ、顧客に
生じたトラブルを解消する。 金融よりもずっと物流
に近い、泥臭い仕事だと我々は認識しています。 で
すが、この地味で泥臭い仕事こそが我々のビジネス
において最も重要なことでもあるのです。 PMのノ
ウハウは一朝一夕で蓄積できるものではありません。
これが弊社の強みでもあるのです」
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
(単位:億円) (単位:億円)
※1 米ドル=105 円換算
●日本における所有・運営資産額
‘01
77 421
874
1,746
2,680
3,882
5,629
6,836 億円
1 兆円
‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 (年) (年)
6 月末
‘10
(目標)
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
●プロロジスプロパティ・ファンドで運営する総資産額
5,985
9,870
10,395
12,915
19,950
2 兆3,620億円
‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08
6 月末
|