ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年9号
特集
現場を強くしよう IEを活用した現場改善のススメ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2005 20 IEを活用した現場改善のススメ 物流改善に成功している企業の共通点はIEを重視し ていることだ。
IEをベースにした改善活動は時間と手間 が掛かるため敬遠されがちだが、最近では便利なツール も登場している。
物流マンはもう一度、IEに挑戦してみ るべきだ。
鈴木準サン物流開発代表 IEの基礎知識 物流コストの削減を目指し、物流現場の改善に取 り組む企業が増えている。
改善手法にはIE (Industrial Engineering)、QC(Quality Control )、 TQC(Total Quality Control )、小集団活動などが あり、いずれも年を追うごとに進化を遂げている。
私 はこの中でもとくに重視すべきなのはIEだと確信し ている。
IEとは「人、モノ、設備および情報を統合 し、もっとも経済的な仕事のシステムを設計、改善、 確立すること」を意味する。
IEの歴史について簡単に触れておこう。
IEの基 礎をつくったのは米国のテーラー(F.W.Taylor,1856 〜1915)とギルブレス(F.B.Gilbreth,1868〜1924)で ある。
テーラーは一日当たりの作業量(標準作業時 間)を求めるために作業方法の改善と標準化に取り 組み、一方のギルブレスは動作を研究し、ワンベスト ウエイの作業方法を追求した。
一九世紀の米国の労務管理は能率給を主体とした ものである。
労使が納得できる賃金を決定する「公正 な一日の作業量」を科学的に算出する方法が考案さ れた。
それが「科学的管理法」であり、すなわちIE なのである。
科学的管理法の概要は以下の通りである。
■作業研究 公正な一人一時間の作業量を設定するため、ストッ プウォッチを使って、一つの作業時間を測定し、そこ から無駄な作業を取り除き、段取りや生理的要求など の余裕時間を加えて標準時間を設定した。
この研究分 野ではギルブレスが成果を上げている。
■標準時間の設定 現状の作業をストップウォッチで測定し、普通の人 が普通にできる作業量を算出する(Time Study)。
人間 の作業動作を分析したうえで、記号と距離、重量で表 現し、机上において標準時間を算出する(Work Factor, Motion Time Method, MODAPTS)。
■工程分析 モノや人の作業の流れを記号計量単位で分析し、工 程の重複など無駄を排除する。
■ワークサンプリング(稼働率分析) 人は作業のみに集中することはできない。
また仕事 をしたくても仕事のない時や機械が故障して仕事がで きない場合もある。
ランダムに現場の状況を記録し、 統計学的に分析して労働時間内における作業時間や 付帯作業時間、不稼働時間を算出する。
■動線分析 人の動きを分析し、生産を伴わない行動を排除して 生産性を上げる。
■動作研究作業員の動きを分析し、無駄な作業を排除して生産 性を上げる。
■課業管理 標準作業時間と標準作業内容を内包したものを標 準作業量という。
これを土台にして生産全体を計画 的・能率的に遂行するシステムを課業管理と呼ぶ。
IEの祖である科学的管理法が世に出されると、そ の情報はすぐに日本にも伝わった。
テーラーの研究論 文は一九一一年に池田藤四郎氏によって「魁新聞」に 紹介された。
その後、テーラーの研究論文は「無益な 仕事をしない方法」というタイトルで出版され、その 書籍は一五〇万部売れたという。
一九一三年には星 野行則氏がテーラーの科学的管理法を「学理的事業 第4部 21 SEPTEMBER 2005 管理法」という本にまとめた。
当時、日本ではテーラ ーの科学的管理法は「能率学」と呼ばれていた。
日本のIEの第一人者は産業能率大学の創始者で ある上野陽一氏である。
同氏は一九二〇年にライオン 歯磨の製造工場でIEを用いた作業改善に着手した。
歯磨き粉の袋詰め作業の時間を測定。
そのデータを基 に工場の現場改善を進めた。
作業台の配置を見直す などの改善を行った結果、作業場スペースの三割削減、 生産性の二割アップに成功したという。
ちなみに同氏 が展開した一連の改善活動は、「流れ作業」の原型に なったと言われている。
その後、日本の産業界ではIEを導入する企業が 相次いだ。
例えば、足袋を扱う「福助」はIEの発想 を基に工程別横割り生産方式を製品別縦割り方式に 改め、生産性を向上し、半製品、仕掛り品を大幅に 削減することに成功したという。
通信や交通のインフ ラが整備されない百年も前からIEに目を向け、実践 していた企業が存在していた。
日本のIEの先駆者の 先見性と努力に驚嘆させられるばかりである。
QCサークルの限界 「IEなんてもう古い」という物流の識者たちの声 をよく耳にする。
しかし、IEを軽視している企業ほ ど物流改善がうまくいっていないことが多い。
最近、 トヨタグループから指導を受けて、物流改善で成果を 上げている企業が増えているが、そのトヨタが用いて いる技法はIEそのものである。
IEは決して古くな い。
IEという言葉に古めかしさを感じるのであれば、 IEによる物流改善をLE(Logistics Engineering) と呼ぶようにすればいい。
ダイエーの物流子会社から3PLに転身したロジワ ンは、九九年からトヨタ自動車の指導を受けて物流改 善に取り組み、大きな成果を上げている。
日本ロジス ティクスシステム協会(JILS)が毎年開いている 改善事例大会に五年連続で出場を果たし、表彰も受 けている。
そのロジワンが改善活動を展開していくう えでベースにしているのも実はIEなのである。
日本においてIEが普及しない理由はいくつかある。
まず製造業では生産の機械化・自動化が進んでいっ た結果、作業員の生産性というものに焦点を当てる必 然性が薄れていったということが挙げられる。
また、 欧米では作業員の能力に応じた奨励給が定着してい るのに対し、日本では日給や時給といった固定給が一 般的である。
そして職場では作業員一人ひとりを個別 に管理するのではなく、チームなど集団を管理する手 法が採用されてきた。
IEは労働強化の手段であると して、かつて労働組合から攻撃の標的とされたことも、 IEの普及を阻害する要因の一つとなっていた。
典型的な「村社会」である日本では、IEよりもQ Cサークル(小集団活動)のほうがむしろ好まれ、すんなりと受け入れられた。
現場作業員の意識改革や現 場の活性化につながる活動として、QCサークルは日 本の産業界に急速に広まり、現場の改善による成果 も主にQCサークルからもたらされるようになった。
日本は生産はもとより、流通、物流の分野において 世界で最もQCサークルが盛んに行われている国であ る。
草の根運動であるQCサークルは、仕事に対して 愛情を持った社員たちを育て、その社員が心のこもっ た仕事を行うことで、サービスや商品の品質を維持・ 向上させることを狙った、一種の労務管理と言える。
しかし、最近ではそのQCサークルも活動の形骸化 が指摘されるようになった。
QCサークルは発表会あ りきの活動と化している。
つまり、活動を通じて成果 を上げることが目的ではなく、発表会に参加するため IEで物流改善に成功している事 例は少なくない(写真はロジ ワンの改善事例発表会の様子) SEPTEMBER 2005 22 に活動が展開されるようになってきているのである。
QCサークルには、現場における課題の抽出から改 善の実行までに時間が掛かりすぎるという問題点があ る。
QCサークルに現場改善をすべて委ねてしまうの は間違いだ。
私は、IEのスペシャリストもしくは改 善を推進する専門部隊(部署)を用意し、彼らがトッ プダウン方式で改善のPDCA(Plan-Do-Check- Action)を継続的に行っていくべきだと考えている。
現在のように変化の激しい時代には、問題箇所を見つ けたら、すぐに改善を実行に移すといったスピーディ ーな対応が求められているからだ。
QCサークルは小集団による活動であるため、必要 経費も少なくて済む。
ただし、規模が小さいだけに改 善によってもたらされる成果も小さい。
もちろん、現 場レベルでの細かな改善を積み上げていくことは大切 なことである。
しかし、QCサークルによる改善を積 み上げるだけでは、現在、日本で叫ばれているような 「サプライチェーンの全体最適」は実現できない。
時間測定が楽になるツール IEを活用した物流現場の改善活動で最初に取り 組まなければならないのは「現状分析」である。
「現 状分析」とはどの作業にどのくらいの時間が掛かって いるのか、これを一つひとつ丹念に調べていくことで ある。
改善活動の主導者はストップウォッチやビデオ カメラを片手に、一日中現場に張りついて、作業員た ちの動きを観察する必要がある。
この作業には膨大な時間と手間が掛かる。
そのため、 「現状分析」の段階で挫折してしまい、改善が前に進 まなくなってしまうケースも少なくない。
しかし最近 では調査の手間を省くためのツールが相次いで開発さ れており、それらをうまく活用すれば、誰でも簡単に 「現状分析」に取り組めるようになった。
例えば、「シスコム」という会社が開発したワーク サンプリングシステム「作業測る君」、「仕事測る君」、 「動作測る君」の三シリーズはとても便利なツールで ある。
PDAを操作するだけで作業データを収集でき る。
従来、作業時間の測定には、作業員一人につき、 測定者一人を用意しなければならなかったが、同社の システムではPDAを持った測定者一人で作業員三 〇人の測定が可能になるという。
三シリーズの基本的 な使用方法については 図1を参照されたい。
「現状分析」にPDAを活用することのメリットは、 収集したデータを迅速に処理・分析できる点にある。
どの作業員がどの作業にどれだけの時間を割いている のか。
作業員ごとの生産性、工程ごとの人件費といっ た分析データはエクセルを使って短時間で算出できる ようになる。
導入事例を一つ紹介しておこう。
N社では食肉加 工場で次のような作業を行っていた。
?食肉を加工し、パッキングした商品をコンテナに詰 める作業を行う際に、作業員は作業を開始する前 に空コンテナを加工場に運び込んでいるが、動線が 錯綜しているため、コンテナを運ぶのに時間と手間 が掛かっていた ?品目別の加工が済むごとに、作業員は盛りつけられ た製品が入ったコンテナをカートで包装グループへ の引き渡し場所である仕掛品庫へ搬送する ?包装作業員は自分が必要とする製品を仕掛品庫へ 取りにいき、包装作業が終わると、空になったコン テナを包装作業上にある空コンテナ置き場に置く ?包装作業が一段落したところで、溜まった空コンテ ナをコンテナ置き場に片付ける 「仕事測る君」のPDA 23 SEPTEMBER 2005 作業員たちの動きには明らかに無駄があった。
そこ で「仕事測る君」を使って作業測定を実施した。
その 結果、作業員が手ぶらの状態で移動している時間が 全体の三〇%を占めていることが分かった。
そこで以 下のような改善策を実行した。
?空コンテナの置き場を仕掛品庫に移す ?加工作業員が作業準備の段階で持ち出す空容器は 一日当たりの使用量の一時間分程度とする ?加工作業員が仕掛品庫に製品を載せたカートを搬 送した帰りに空コンテナを積んだカートを持ち帰る ?包装作業員は空コンテナを積んだカートを持って仕 掛品庫に行き、帰りに製品が載ったカートを持ち帰 る空 コ ン テ ナ の 置 き 場 を 仕 掛 品 庫 に 改 め る だ け で 、 作 業員の動きは行き帰りともに「実運搬」となった。
そ の結果、作業員の生産性を一〇%改善できたという。
よい物流現場の条件 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の調 査によると、二〇〇二年度の日本の物流コストは対 売上高比で五・〇一%、対GDP比で八・三四%、金 額に直すと、約四一兆五〇〇〇億円である。
物流コ ストの内訳は運賃が六〇%、運賃以外が四〇%。
運 賃の五〇〜六〇%を占めているのは人件費である。
売 上高の一%、GDPの約一・五%、金額ベースでは 約八兆円が物流の人件費とされている。
「物流コストは第三の利益源である」と言われるよ うになってから、すでに四半世紀余りが経過した。
第 三の利益源という言葉が意味するところは、まだまだ 物流にはコスト削減の余地が残されているということ である。
では具体的にどの部分に余地があるのか。
物 流費全体の大部分を占めている人件費である。
作業 員一人当たりの生産性を高めることで、物流現場に 配置する作業員の数をできる限り減らす。
それによっ て物流コストは大幅に削減できるのである。
作業員一人当たりの生産性を高めるためには、作 業員に無駄な動きをさせないことに尽きる。
現場にお ける無駄な動きをなくすために欠かせないのはIEの 発想である。
ローコストオペレーションを実行してい る「よい物流現場」では次の七つの「ない」を実現し ている。
●待たせない‥‥‥‥‥‥ 工程管理 ● 持たせない‥‥‥‥‥‥ 運搬管理 ● 歩かせない‥‥‥‥‥‥ 動線の短縮 ● 考えさせない‥‥‥‥ 熟練の追放 ●探させない‥‥‥‥‥‥ 整理整頓●書かせない‥‥‥‥‥‥ ペーパーレス ●検品しない‥‥‥‥‥‥ 検品レス 物流は労働集約型産業の代表格である。
現在、物 流センターなど現場で働く作業員の八割以上を女性 のパートタイマーが占めている。
3PLが、安くて、 早く、正確なサービスを顧客に提供していくうえで欠 かせない要素の一つは作業員のモラール(士気)アッ プである。
生産性の向上を強要しすぎると、現場の作業員た ちのモラールが低下してしまう恐れがある。
作業員た ちが自発的に作業改善などに取り組み、その結果、生 産性が高めるような環境を作り上げることが理想的で ある。

購読案内広告案内