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51 DECEMBER 2008
社会の変化を理解する研究と、ダ
ーウィン流の進化論には多くの接点
がある。 当のダーウィンが一七〇年
前にマルサスの『人口論』を読んで、
自然淘汰や生存競争のアイデアをひ
らめいたエピソードはよく知られてい
る。 進化論が広く認知されて以後は、
今度はこちらが社会科学に影響を及
ぼすようになった。
一般に社会科学者は、過去を詳細
に検討することで、いま起きている
現象を説明する理論を構築しようと
する。 このため小売業態の研究でも、
たとえばコンビニという業態が隆盛を
極めるに至ったプロセスを解明する試
みは多い。 しかし、コンビニという
業態がなぜ誕生したのかという説得
的な説明はなされていない。
著者いわく、新しい業態を天才的
な一人の起業家が作り出したのであれ
ば、その起業家の人物論と、現実に
成功している業態を分析すれば事足
りるという。 だが実際には、新しい
神奈川大学の中田信哉教授が新刊を上梓
小売業態を進化論の視点で考える野心作
業態を作ろうとする明確な意志など
なかった。 試みられた無数の工夫の
中から、たまたま環境に適合してい
た業態が生き残ったにすぎない。 こ
れはまさに自然選択によるダーウィン
流の生物の進化と同じだ、と著者は
考えている。
もし新業態の誕生を説明する理論
を発見できれば、金儲けに直結する。
その理論を適用すれば将来の成功業
態を見極められることになり、いち
早くビジネスを展開できるからだ。 む
ろん、そんな夢のような理論が本書
に記されているわけではないが、実
務家に発想のヒントを与えてくれるこ
とは間違いない。 その意味で本書は
専門書というより新書に近い。
日本物流学会の副会長も務める著
者が研究者の道に入ったきっかけは、
小売り業態について書かれた本との出
合いだったという。 その一方で、氏
は流通・マーケティングの本より多く
動物関係の本を読んでいるというほ
どの動物好きでもある。
長らく興味を抱いてきた事柄につ
いて書かれた本だけに、個々の内容
はかなり専門的だ。 にもかかわらず、
思わずニヤッとさせられる箇所も少な
くない。 いつもとは異なる視点で流
通や物流について考えるうえで、ま
たとない一冊といえる。
『小売業態の誕生と革新
その進化を考える』(白桃
書房、税別価格2,381円)
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