ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年1号
ケース
需要予測 デリカフーズ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2009  50 需要予測 デリカフーズ バーコードで野菜の入出荷を管理 発注の精度高め廃棄ロスを減らす カット野菜の専用物流網構築  野菜を丸ごとではなく事前にカットして外 食店に届けるという事業を、日本で最初に始 めたのがデリカフーズだ。
今からちょうど三 〇年前の一九七九年。
七〇年代に生まれたフ ァミリーレストランが隆盛期を迎えようとして いた時期に、同社はカット野菜を外食チェー ンに納める中間流通業者として創業した。
 当時すでに米国ではファーストフード店向 けにカット野菜の流通が始まっていた。
日本 でも外食産業の成長とともにカット野菜の市 場が生まれると見て、創業者の舘本勲武社長 が事業化に乗り出した。
狙いは当たり、事業 は順調に成長、二〇〇五年には東証二部上場 を果たしている。
 レストランなどで使われる食材のなかで野 菜は不可食部分が最も多い。
厨房で下処理を する際に、葉野菜であれば「鬼葉」と呼ばれ る外側の葉や芯の部分が残渣となって廃棄さ れる。
こうした不要な部分があらかじめカッ トされていれば、店側では下処理の手間が省 けゴミを出さずにすむ。
しかもカットした分 だけ輸送量が減り物流コストも安くなる。
 ただし、カット野菜は切り口が変色するな ど劣化しやすく、鮮度の保持が難しい。
そこ で同社はまず、カットした状態でも鮮度が保 てる包装技術を開発し、さらに野菜の鮮度保 持に最も適した温度帯で納品するための独自 の輸送網を構築した。
カット野菜工場に冷蔵 庫を併設して保管時の温度を摂氏五度に保ち、 配送も同じ温度帯の冷蔵車で行うというもの。
 それまでは多店舗展開しているレストラン チェーンでも野菜類は各店舗が個別に近くの 八百屋から仕入れていた。
店舗には毎日早朝 にホール(丸ごと)野菜が届き、これを下処 理して調理する。
これに対して同社は、仕入 れ窓口をチェーン本部に集約し、デリカフーズ が本部の指定する規格に野菜をカットして各 店舗に配送する方法を提案した。
 これによってレストランチェーンにはいくつ かのメリットが生じる。
まず本部の一括仕入 れによって調達コストを抑制できる。
さらに 品質も安定する。
それまでは食材をどんな厚 さでカットするかは各店の調理人の裁量に任 されていた。
同じメニューでも店によってサ イズがまちまちだった。
工場で一括処理する ことで規格を統一できる。
原価計算も容易に なる。
 一方、店舗ではメニューに合わせてカット された野菜を調理するだけなので、客の注文 を受けてから料理を出すまでの時間が短縮で きる。
店の回転率が上がる。
さらには店側の 要望もあって、カット野菜だけでなくホール 野菜もいっしょにデリカフーズが配送するこ とにした。
 同社はこの事業を名古屋地区でスタートし、 ファミリーレストラン、ファーストフード、居 酒屋チェーンなどの外食産業の顧客を相次ぎ 獲得していった。
顧客層は後に弁当・総菜メ 青果物の廃棄ロスを減らすために、販売実績や在 庫数、天候などから最適な発注数量を算出する需要 予測システムの構築をめざしている。
2009年中にバ ーコードを導入してリアルタイムの在庫管理を実現 し発注業務の効率化と精度の向上を図る。
顧客 である外食産業などに対しても、適正な発注数量 の提案を行っていく考えだ。
51  JANUARY 2009 ーカーなどの中食産業にも広がり、営業エリ アも東京・大阪地区へと順次拡大した。
 現在は持株会社であるデリカフーズの傘下 に東京・名古屋・大阪デリカフーズの三社を 組織し、それぞれカット野菜工場と物流セン ターを運営し、独自に商品開発や仕入れ・営 業活動を行っている。
物流センターは三地区 に六カ所あり、常時五〇〇〜六〇〇コースの 配送をこなしている。
 こうして同社はそれまでの青果物流通には なかった機能を提供するビジネスモデルを作り 上げた。
これが成功したのは、カット野菜工 場とチルド帯の定温輸送網を組み合わせた独 自のインフラに加え、同社が野菜の生産者と ユーザーを結ぶコーディネーターとしての地位 を確立できたことが大きい。
 事業を開始した当初は卸売市場の仲卸から 全量を仕入れていた。
しかし、取扱量が増え るとともに、顧客が求めるより安く品質のい いものを安定的に確保するため、産地を回り 生産者と数量や価格について直接交渉して仕 入れるルートを開拓していった。
 通常、卸売市場では品目ごとにサイズの規 格が設けられており、規格を大きく外れた野 菜は取引されない。
このため産地では規格外 の野菜を収穫せずに廃棄している。
同社は そうした野菜も産地から仕入れることにした。
加工用の野菜であれば、かたちや大きさにそ れほど神経質になる必要はないからだ。
 例えばキャベツは一ケースに八個入る「八 玉サイズ」が市場では標準規格となっている が、同社は六〜一〇玉サイズまで許容範囲を 広げ、規格外のものも安値で仕入れている。
これによってトータルの仕入れ値が下がる。
産 地にとっても廃棄ロスがなくなるため収益を 改善できる。
 このように双方にメリットが出るケースに ついては、生産者との直接交渉によってシー ズンごとに数量と価格を決め、産地から直接 デリカフーズの工場や物流センターに納品させ ている。
うち加工用の野菜などには、段ボー ルの代わりに通い箱を使って循環利用してい る。
産地の手間やコストが省ける。
 こうして産地と密接な関係を築くことによ り、産地と外食チェーンとの間で情報の橋渡 しができるようになった。
外食チェーンは他 店とメニューを差別化するため常に新しい食 材の情報を必要としている。
一方、産地では 顧客がどんな食材を求めているのかを知りた がっている。
両者を結びつけることが新しい ビジネスを生み出すきっかけになる。
 例えば、ある産地で「緑塔紹菜」という煮 崩れしにくい白菜を開発した。
デリカフーズ ではこれを鍋料理用の食材として外食チェー ンに提案し、店のメニューに加えてもらうこ とに成功した。
 一方、産地に対してデリカフーズは、サイズ にバラツキのあるシシトウを五〜六センチのサ イズに統一して四〇本入りのパックで天丼チ ェーンに納めてもらうように持ちかけた。
こ れによってチェーンでは天ぷらを揚げる際に シシトウを重量ではなく本数で管理できるよ うになり、原価計算が容易になった。
 こうして同社が間に入ることで、新しい食 材やメニューの開発につながったケースは少な くない。
このほか二カ月に一度「野菜塾」と いう勉強会を開き、新しい野菜の紹介やメニ ューの提案など、生産者と顧客企業の間の情 報交流に一役買っている。
仕入れの工夫で変動を吸収  ただし、産地からの直接仕入れですべての 野菜が調達できるわけではない。
野菜は品目 数が多い。
とりわけレストランが使う食材に は特殊な野菜が多く、扱う品目数は数百にも 事業モデル デリカフーズグループ デリカフーズ 経営指導 業務支援 仕入先 (契約農家) (荷受) (仲卸) ホール野菜部門 カット野菜部門 その他部門 東京デリカフーズ 名古屋デリカフーズ 大阪デリカフーズ メディカル青果物研究所 発注 納品 その他部門 デザイナーフーズ 研究機関 (大学等) 業務提携 共同開発 業務支援 サービス (成分分析他) 発注 発注 納品 納品 顧客 (ファミリーレストラン)(ファーストフード) (CVSベンダー)(居酒屋)(焼肉チェーン)他 委託先 JANUARY 2009  52 上る。
そのすべてを産地との契約によって確 保するのは難しい。
 もともと野菜は天候次第で収穫量や価格が 大幅に変動し、販売量も日々の増減が大きい。
デリカフーズの場合、同じ週でも曜日によっ て三倍もの開きがある。
メニュー変更に加え、 催事や年中行事なども変動の要因になる。
こ うしたさまざまな要因による変動を産地との 取引だけではとても吸収しきれない。
 このため、全体の六割を契約産地、残り四 割を市場から仕入れることでバランスをとっ ている。
加工用や販売数量の多いものは産地 との直接契約により比較的安定した価格でま とまった数量を仕入れる。
一方、少量品の仕 入れや数量が変動した分の仕入れは市場との 取引によって補う。
 産地と直接契約するケースでも、決済はほ とんど市場経由で行っている。
農業生産者は 代金回収のサイクルが短く、同社とは決済時 期が合わない。
市場の決済機能を活用するこ とで取引がスムーズになる。
 仕入れ方法にも工夫を凝らしている。
野菜 の相場は常に変動する。
発注のタイミングを 分散させることで平均仕入れ価格を安定させ ている。
まずシーズンごとに産地と契約して 最小限の仕入れ数を確保する。
そのうえで変 動分については、販売動向や過去の実績を見 ながら一カ月前、一〇日前、一週間前、一日 前という具合にタイミングを変えて予測を行 い、産地や市場に発注している。
期間が短く  その一方で受注時間はどんどん遅くなって いる。
顧客からの注文は午前中に受けるのが 原則だが、昨今では夕方から深夜に及ぶこと も珍しくない。
店も廃棄損をなくすため閉店 後に翌日分を発注する傾向にある。
 このように実在庫数も翌日の出荷数も確定 していない段階で発注を行わなければならず、 現状では担当者の経験と勘だけが頼りだ。
そ のことが発注ミスの原因にもなっている。
と りわけカット野菜などは、深夜に注文を受け てから加工作業を開始すると翌朝の出荷に間 に合わないため、ある程度の数量を見込み生 産しておく必要があり、勘が外れることによ るリスクはより大きくなる。
 これを改善するために同社は、バーコードを なるにつれ発注の精度を上げ、一日前の発注 で最終的な調整を行う。
リアルタイムで在庫更新へ  だが実際には、一日前であっても予測には ブレが生じる。
野菜は基本的に在庫保管が利 かない。
前日に入荷したものを当日の朝に出 荷するのが原則だ。
ただし産地や市場によっ ては入荷時間が遅いところもある。
販売量の 変動なども考慮してデリカフーズでは翌日出 荷する分に半日分を上乗せした在庫数を目安 にして発注を行っている。
 予測が狂って在庫が余ってしまった場合、冷 蔵庫で保存しても出荷が可能なのはせいぜい 一日先まで。
それを過ぎたものは鮮度が落ち るため廃棄するしかない。
同社の場合、こう した発注ミスによって年間に数千万円もの廃 棄損が発生している。
 発注ミスが起こるのは予測の難しさだけで なく、在庫管理の業務内容にも問題がある。
工場や物流センターでは朝の一〇時頃までに 出荷が終わり、その時点でいったん冷蔵庫の 中を整理して商品の在庫数をチェックする。
 ただし棚卸しの合間にも全国の産地や市場 から随時入荷がある。
入荷担当者は棚卸しと 入荷検品を並行して処理しなければならない。
いずれも手作業であるため、在庫数の更新に は時間がかかる。
翌日の発注数量を決めなけ ればならない締め時間までに正確な在庫数を 掌握しきれないのが実状だ。
契約産地から専用コンテナで直接調達 ニラ 白菜 通い箱(専用コンテナ) 加工しやすい形態製 品 通い箱(専用コンテナ) 根元の非可食部分除去 変色部分の除去 製 品 53  JANUARY 2009 ロスが減り、いずれ価格や利益率にも反映さ れる。
青果物の業界にとっても消費者にとっ てもメリットは大きい」と強調する。
トレーサビリティも強化  デリカフーズでは、開発中のシステムをトレ ーサビリティ管理の強化に活用することも検 討している。
現在は栽培計画書や栽培履歴書 を産地から紙ベースで入手している。
バーコ ードシステム導入後はデータで情報をもらい、 同社の物流センターで仕分けする際にバーコ ードを読んで情報を紐付けし、出荷先まで一 元管理する。
 近年、青果物の流通は著しく多様化が進ん でいる。
卸売市場を経由せずに産地から直接 仕入れる市場外流通が拡大。
その一方で卸 売市場法が改正されて市場の規制が緩和され、 卸売業者が市場外で販売することや、委託だ けでなく産地で買い付け集荷を行うこともで きるようになった。
 デリカフーズのようにカット野菜工場を持 つ中間流通業者の数も増えた。
規制緩和を背 景に商社や仲卸業者もこの領域でのビジネス チャンスをうかがっている。
それでも澤田取 締役は「部分的に競合するケースはいろいろ 出てくると思うが、当社にはカット野菜工場 と各店舗への配送網があり、産地や顧客に対 する提案力もある。
総合力で他社に遅れをと ることはない」と自信を見せる。
 さらに競争力を高めるために同社は今後、 市場との連携を強化していく考えだ。
産地と つながりの強い卸売業者と、顧客への配送網 や提案力を持つ同社が相互に機能を補完しあ う体制を目指す。
既に一部の卸売業者とは具 体的な取り組みが進んでいるという。
 現在、同社は野菜を新しい評価基準のもと で流通させる仕組みの研究に力を注いでいる。
色や形などの外観だけではなく栄養価によっ て野菜を評価する。
野菜に含まれる栄養成分 を抗酸化力・免疫力・解毒力などに分類して 数値化し、これらの数値を野菜に表示して販 売する。
 米国では既に数値を表示した野菜の流通が 始まっているという。
日本でも食品の抗酸化 力に対する統一した指標の作成を目的として AOU研究会が発足し、具体的な表示方法の 検討が始まっている。
健康志向とともに野菜 の栄養価が注目され、中身で評価する素地は できつつある。
 既にデリカフーズのグループでは一万検体 の野菜の抗酸化力データを独自に蓄積してい る。
野菜の抗酸化力を瞬時に測定する装置も 開発中だ。
「我々の持つデータや技術を使って 中身を評価し、見た目が悪くても抗酸化力の 高い野菜には高い値段をつけて販売できるよ うにしたい」と澤田取締役は話す。
 商品の評価方法が変われば当然、流通も変 わる。
同社が今後どんな仕組みによって野菜 流通の変革に挑むのか大いに注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 使って在庫を管理し、在庫数と過去の販売実 績などから最適な発注数量を算出する在庫・ 発注管理システムの構築に乗り出した。
発注 書などにバーコードを印字し、入出荷時にバ ーコードをスキャンしてリアルタイムで在庫を 更新できるようにする。
 さらに在庫数や過去の販売実績のほか、天 候、店の催事、メニュー変更などさまざまな情 報をもとに、システムで需要予測を行い、最 適な発注数を割り出す。
発注担当者はこの数 値を参考に最終的な発注数を決める。
在庫管 理業務を効率化して発注の精度を高めるのが 狙いだ。
 〇九年中にシステム開発を終え、まずは東 京デリカフーズの事業所に導入する計画だ。
そ の後、ほかのグループ会社にも順次導入して いく。
将来は顧客の外食産業に対しても同様 のシステム開発を提案していく考えだ。
 デリカフーズの澤田清春取締役は「野菜は 産地で収穫してから消費されるまでに不可食 部分も含め五割ものロスが発生している。
発 注の精度が上がれば廃棄ロスや店の販売機会 デリカフーズの澤田清春 取締役

購読案内広告案内