ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年1号
道場
ロジスティクスを利潤源に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2009  68  「ふーん、でも、この前の続きっていったって、 この前どんな話をしたか覚えてないんだから、続 けようがない」  そう言って、大先生がたばこに手を伸ばす。
記 者氏が慌てて言い直す。
 「あっ、続きというよりも、日本のロジスティ クスの話についてということで‥‥」  「日本のロジスティクス? そんな実体のない もの、余計話しようがない」  記者氏が困り顔で何か言おうとしたとき、女 史が「どうぞ」と言って、コーヒーを持ってき た。
ほっとしたように、記者氏が女史にお礼を 言う。
 「それで、なんで、そんなにロジスティクスに 興味があるわけ?」  コーヒーを片手に大先生が興味深そうに聞く。
記者氏が頷き、背筋を伸ばして話し出す。
 「私は荷主を担当してまして、取材などでいろ んな企業を回っています。
それで、最近感じる んですが、なんか多くの物流部門が閉塞感に陥 ってしまっているような気がしてます。
どこに 行っても、やってることは同じで、これはおも しろいっていうような取り組みはほとんどあり ません。
物流が行き詰まってるように思えます」  ここまで話して、記者氏はコーヒーを手に取 って口に含んだ。
それを戻しながら、大先生の 顔を見る。
大先生が感想を述べる。
 「行き詰まってると言えば行き詰まってるけど、  ロジスティクスは企業にとって利益の源泉だ。
ところ が、物流部門の多くは本来の役割を果たせずに、現場の 運営管理に終始している。
立派な物流センターを持つよ うになったことが、不幸にも本質を見失わせてしまった。
社内の意識改革を促して本来の姿を取り戻せ。
湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 ロジスティクスを利潤源に 大先生の日記帳編 第16 回  四〇年前まで遡ると物流がわかる  年の瀬も押し詰まり、何となく慌しさを感じ る頃、ある業界紙の記者から「差し支えなけれ ばいまからお伺いしたいのですが」という電話 が入った。
電話を受けた女史が「差し支えない ですか?」と大先生に聞く。
 自席で居眠りをしていた大先生が、突然聞か れて、わけもわからず「差し支えない」と答え る。
こうして、記者氏の来訪が決まった。
 それから三〇分もしないうちに記者氏が現れ、 大先生に「先日はどうも!」と元気に挨拶する。
大先生が怪訝な顔で聞く。
 「先日って何だっけ?」  「えっ? あれです、ロジスティクス大会の会 場でお会いして、休憩時間ですけど、ロジステ ィクスのお話を伺わせてもらいました」  「ロジスティクス大会の会場で、休憩時間にロ ジスティクスの話をするってのも何か出来すぎだ けど、そんな話したっけ?」  「はい、あまり時間がなくて、慌しくいろい ろ質問させてもらいました。
失礼しました」  「それで、今日は何?」  大先生に改めて聞かれて、記者氏が居住まい を正した。
 「貴重なお時間を拝借して申し訳ないのですが、 この前のお話の続きをさせいただきたいと思い まして‥‥」 81 69  JANUARY 2009 まあ、形のある物流が相手なんだから、やって ることが同じなのは仕方ないな」  記者氏が頷き、勢い込んで話し出す。
 「それで、この前、先生とロジスティクスのお 話をさせていただいて、ちょっと気になったこ とがあったんですが、お伺いしてよろしいでし ょうか?」  そう言って、記者氏が大先生を見る。
大先生が 頷くのを見て、記者氏が取材ノートを繰る。
「あ ー、これです、これ」と言いながら、取材メモ を読む。
 「えーと、先生は、この前、こうおっしゃった んです。
『在庫を調達し、その適正配置と補充を コントロールし、顧客に届けるというところがロ ジスティクスの守備範囲、つまり在庫と顧客納 品のすべてに責任を持つのがロジスティクス部門 だ』って‥‥」  大先生が頷き、「それで?」と先を促す。
 「でも、それって物流の守備範囲じゃないんで すか。
物流がやってもいいんですよね?」  大先生が意味深に笑い、答える。
 「もちろん、物流がやってもいいさ。
誰もやっ てはいけないなんて言ってない。
でも、現実に は、物流の守備範囲にはなっていないと思うけ ど、どう?」  記者氏が納得顔で頷き、顔をしかめて話す。
 「たしかにそうです。
どこでも、在庫と、それ に物流サービスに痛めつけられているというのが 実際のところです。
一体、なぜなんですかね?」  「昔からそうだからさ」  大先生が事も無げに言う。
 「昔からですか?」  記者氏が怪訝そうな顔をする。
 「話は、いまから四〇年前まで遡る」  「えっ、そんな前まで遡ることなんですか?」  「そうだよ。
聞きたい?」  大先生の言葉に記者氏が目を輝かせて、勢い 込んで言う。
 「はい、是非、聞きたいです」  物流センター管理が物流の仕事?  大先生がたばこに火をつけて、話し出す。
 「まだ企業に物流管理部門なんかなかった時 代、在庫の保管と顧客への配送は営業の拠点で ある支店ごとに倉庫を持って行われていた。
『倉 庫に置く在庫はわれわれ営業が手配するから、顧 客から注文がきたら商品を取り出して届けるの は、そっちでやってくれ』という役割分担だっ た。
ここが物流の原点」  記者氏が頷き、思い出したように、言葉を挟 む。
 「そう言えば、問屋さんなんかでいまでもそん な感じのところがあります」  「それじゃ、四〇年も遡ることはないか。
まあ、 あんたの言う、いま行き詰まってる物流部門の 四〇年前の姿ということで話を進めよう」  「はい、たしかに、いまは立派な物流部門と なってるとこでも、四〇年前は、そんな状態だ ったんですね。
先生はその頃をご存知なんです ね?」  記者氏の質問を無視して、大先生が話しを続 ける。
 「さっき役割分担って言ったけど、営業の連中 からすれば、役割を分担しているなんて意識は なくて、倉庫とか配送なんて『簡単で誰にでも できる仕事』という認識だった。
さっきの問屋 さんも同じだろ?」  記者氏が大きく頷く。
大先生が続ける。
 「そうこうしているうちに、その頃、一九六〇 年台中頃かな、米国から物流という概念が入っ てきた。
つまり、物流を管理することで大幅な コスト削減の可能性があるという話が広まって、 物流を管理する部門が作られ始めた。
それらの 物流部門はいろいろやった。
少数だけど、非常 に興味深い取り組みをやったところもある。
ま あ、それはいいとして、多くの企業が取り組ん だのが、拠点集約という取り組みだった」  大先生が一息つくのを見て、記者氏が相槌を 打つ。
 「その頃は、倉庫が何十カ所もあったんでしょ うね。
それを集約していったんですね」  「そう、営業担当者の数だけ倉庫があるなん て言われたりもした。
それらの倉庫が集約され、 いわゆる物流センターなるものが作られ始めた」 JANUARY 2009  70  「それ以前の倉庫と比べて物流センターは格好 よかったでしょうね?」  「格好よかったかどうかは別として、物流部門 が物流センターを手に入れたことで、物流の守 備範囲が決まってしまった」  そう言って、大先生はたばこを取り上げた。
記 者氏が何か思い当たったかのような顔で、大先 生に確認する。
 「いまの最後のお話はちょっと残念そうな言い 方に聞こえたんですが、そのときにいまの物流 の守備範囲が決まってしまったということでし ょうか?」  たばこに火をつけて、大先生が頷く。
 「これまで存在しなかった規模の大きい物流セ ンターが物流の範疇に入ったら、物流部門は何 をする?」  「物流センターを管理するというのが重要な仕 事になりますね。
いま多くの物流部門がやって ることがそれです。
物流センターの設計から始 まってレイアウトや荷役機器の選定、作業システ ムの検討、それから物流業者の管理とか、あっ、 それにアウトソーシングの検討なんかも重要な仕 事ですね」  「そうだろう? 物流センターが手に入って、 新しい仕事ができた。
何か立派な仕事に見えて しまった。
もちろん、必要な仕事には違いない けど、それが物流部門の主要な仕事になってし まった感は否めない」 はずだった‥‥」  大先生の話しを遮るように、記者氏が口を挟む。
 「なるほど、それが在庫のコントロールですね。
いつも先生がおっしゃってる必要最小限の在庫 しか動かすなということを実践することですね。
市場が必要としないものまで動かして、輸送効 率も保管効率も作業効率もへったくれもないだ ろうって本や講演などで強調されていますね」  ロジスティクスは新たな利潤源  「へー、おれの本読んだり、講演聞いたりして るんだ?」  大先生が感心すると、記者氏は「もちろんで す」と口を尖がらす。
それにはかまわず、大先 生がまた聞く。
 「それでは、なぜ本来の物流管理をやらないん だ、物流部門は?」  「うーん、私もやればいいと思うんですが、結 局できないんですかね‥‥」  「そう、なぜできない? その答が四〇年前 にある」  大先生の言葉に記者氏が「そうかー、あっ、ち ょっと待ってください」などと言いながら、ノ ートを見返し、独り言のように呟く。
 「あっ、これです。
えーと、『在庫はおれたち 営業が手配するから、顧客から注文が来たらあ とは物流でやれ』という役割分担。
そうか、な るほど、これがいまでも続いているってことな  大先生の言いたいことがわかったのか、記者 氏が「なるほど」と頷き、「それだけが物流の仕 事じゃないぞってことですね」と確認する。
大 先生が頷き、記者氏に聞く。
 「そう、それは本来の物流管理じゃない。
そも そも物流管理って何だと思う?」  「物流を管理するってことですから、言葉どお りに解釈すると、ものの流れを管理するってこ とですか‥‥」  「そう、最も望ましいものの流し方を構築し、 管理することが物流管理の重要な仕事の一つの 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 71  JANUARY 2009 んだ」  「言ってみれば、四〇年前の役割分担はいま でも続いている。
倉庫が物流センターに変わっ ただけ‥‥なんて言ったら口を尖がらす物流部 長が出てくるかな」  「物流を管理する部門が出来たときに、物流を 管理するということを横に置いて、新しく生ま れた物流センターの管理に意識が集中してしま ったことが物流の守備範囲を狭めたってことな んですか、なるほど」  「物流技術管理が中心で物流管理はなおざり にされたってことさ」  大先生の言葉を聞いて記者氏がすぐに反応す る。
 「物流の資格で『物流技術管理士』っていう のがありますが、それはまさにそれですか?」  記者氏の妙な物言いに大先生が苦笑し、否定 する。
 「いや、あれはいろいろ経緯があって、あの称 号になったけど、あの講座では物流管理もちゃ んと教えてる。
それはいいとして、そんな物流 の現状を打破するにはどうしたらいいと思う?」  「えーと、ものの流れを制約している要因を取 り除くということですから、在庫の手配や生産 との調整などを物流がやるってことだと思いま す。
あっ、でも、営業と物流のこれまでの役割 分担を壊す必要があるってことですね。
でも、い まとなっては物流がそれをやるのは難しい。
そ こで、ロジスティクスという概念を持ち込んでく る‥‥ってことですか?」  記者氏が自分の考えをまとめている。
 「一番重要なのは、なぜロジスティクスなのか ということを明らかにすること。
物流活動はも ちろん、在庫にしたって物流サービスにしたって、 いまは問題だらけだ。
在庫手配、生産との調整 から最後の顧客納品までを一元的に管理するロ ジスティクスを導入すればそれらは解決する。
つ まり、ロジスティクスは企業にとって新たな利潤 源だってことさ。
この利潤源なんだという認識 が重要。
そして、ロジスティクスを動かすため には、これまで当たり前だと思われていた社内 の役割分担を変革する必要があるってことだ」  「そうか、新たな利潤源か。
なるほど。
トップ には利潤源だということを柱に進言するんです ね。
その進言する役割を担うのはやはり物流部 門ですか?」  「そりゃそうだよ。
ロジスティクスの効果を一 番実感じているのは物流部門だし、現にロジス ティクスを導入している企業では、その導入は 物流部門主導で行われている」  「なるほど、よくわかりました。
これから取材 で伺ったときなど、この話を物流部長さんにぶ つけてみます。
また、その報告にお邪魔させて もらいます」  そう言って、記者氏は元気よく帰っていった。
ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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