2009年1月号
判断学

GMの危機にどう対処するか

奥村宏 経済評論家 第80回GMの危機にどう対処するか JANUARY 2009  72          倒産の危機  ゼネラル・モーターズ(GM)がいま倒産の危機に直面 している。
ウォールストリート・ジャーナルは、GMの取締 役が破産法の申請について考慮している、と伝えているが、 もしGMが倒産したら、それこそアメリカが倒産したのと同 じようなショックを与えるだろう。
 GM、フォード、クライスラーの自動車ビッグスリーとい っても、アメリカの自動車メーカーは三社しかない。
この三 社が揃って大幅な赤字、そして資金難に悩み、政府に対し て三四〇億ドルの緊急融資を申請している。
 そこで十一月一八日、議会はGMのワゴナー、フォードの ムラーリー、クライスラーのナーデリという三人のCEO(最 高経営責任者)を呼んで公聴会を開いたが、議員の間では 政府による融資に反対する者も多く、とりわけ共和党の議 員から強い反対が出ているという。
 次期大統領に就任するオバマは、ビッグスリーに対する救 済策に賛成している。
だがそのオバマも先の公聴会にビッグ スリーのCEO三人がいずれも社用ジェット機に乗ってきた ことに反発して、きびしい批判をしている。
 アメリカでの新車販売台数は大幅に低下しており、GM は一〇月末で前年同期比二一・五%も落ちている。
そして 手持ち資金が少なくなっており、このまま放置しておくと 二カ月以内にGMは倒産するだろうといわれている。
この 経営危機に対処するためにGMはクライスラーとの合併交渉 を進めてきたが、もともと赤字の会社同士が合併してうま くいくはずがない。
にもかかわらず、資金繰りのためにG Mはあえてクライスラーと合併しようとした。
このあたりに、 もはや尋常な状態でないことが現れている。
 そしてこの合併交渉も失敗し、いよいよGMは存立の危 機に立たされ、あとは政府による救済策に頼るしかなくな っている。
      アメリカを代表する企業  二〇世紀のアメリカを代表する企業はGMであったといっ てもよい。
当初は一九〇一年にカーネギー製鋼を中心にして アメリカの鉄鋼会社が合併して生まれたUSスチールがアメ リカの代表的企業といわれたが、やがてGMがそれに代わ ってアメリカを代表する会社になった。
 一八九七年に設立されたオールズモビルを柱にして、その 後いろいろな自動車メーカーを合併してできたのがGMであ る。
そのGMも一時は経営危機に陥って化学大手のデュポン に支配権を奪われることもあった。
しかしアルフレッド・ス ローンが会長になった段階で経営は好転し、フォードを抜い てアメリカ第一位の自動車メーカーになった。
 大量生産、大量販売が自動車産業の主要原理であり、そ れを最初に開発したのはフォードであったが、大量生産方式 を進めていくためには分権化が必要である。
そこでスローン は事業部制を採用し、各車種ごとに事業部を作って、その トップに権限を委譲した。
 これが成功してGMはアメリカを代表する会社となり、第 二次大戦中はタンクなどの武器も作って軍需会社になった。
 第二次大戦後は再び民需会社として自動車を製造するだ けでなく、自動車部品はもちろん、GMACという会社を 設立して自動車の販売金融でも巨額の利益をあげるように なった。
 一九二〇年代からGMは外国にも進出し、ドイツでオペ ルを買収していたが、第二次大戦後はいわゆる多国籍企業 としてヨーロッパだけでなく世界各国に進出した。
 こうして二〇世紀のアメリカを代表する企業として君臨 してきたGMが、いまや倒産の危機に陥っているのである。
これはいったい何を意味するのだろうか。
それは自動車産 業の時代が終わったということを意味するのか、それとも 大企業の時代が終わったということを意味するのか‥‥。
 1950 年代、当時のGM 会長は「GM にとって良いことはアメリカにとっても良 いことである」と豪語した。
実際GMは政府と一体となってアメリカを支配してきた。
その凋落は何を示しているのだろうか。
73  JANUARY 2009       新しい原理を求めて  ではGMはどうするべきなのか。
アメリカの議会でGM などビッグスリーに対する救済策に反対があることは先に述 べた通りだが、なかには、「国民の税金を使って救済するの ならばGMやフォード、クライスラーを国有化すべきだ」と いう声もある。
 現在のブッシュ政権はこのような国有化論に反対なのはい うまでもなく、議会でも反対論が強い。
では、どうするのか。
国民の税金を使う以上、GMなどをどのようにして生き返 らせるのか、ということに答える必要がある。
 おそらくこれからアメリカでこれが議論されていくことに なるだろうが、そこでまず第一に問題になるのは、大量生産、 大量販売というこれまで自動車産業を貫いてきた主要原理 を考え直すことである。
 自動車産業は多くの部品産業の上に成り立っているので あり、GMやフォード、クライスラーはいずれも組立て会社(ア センブリー・メーカー)でしかない。
ただ、部品会社はすべ て組立て会社の下に系列化されている。
これを独立化させ、 そして顧客がさまざまな部品を自分で選び、それを組立て 会社に組み立てさせるようにしてはどうかということが考 えられる。
もちろん自動車文明そのものへの批判もあるの だが、すぐに自動車をやめてしまうわけにはいかない。
そ うだとするならば自動車会社のあり方を変え、その生産方式、 そして販売のやり方を変えることが必要である。
 かつてスローンがGMに事業部制を採用して、会社のあ り方を変えたように、いま改めて自動車メーカーとしてのG Mのあり方を変えていくことを考えるべきではないか。
そ れは大量生産、大量販売に代わる新しい原理によって会社 のあり方を変えるということである。
その新しい原理をど のようにして打ち出していくのか、それがいま問われてい るのである。
      GMにとって良いこと  一九五〇年代、アイゼンハワー大統領のもとで国防長官に なったのがチャールズ・ウィルソンであったが、彼はGMの 会長から国防長官に抜擢されたのである。
 そこで議会では、政府からタンクなどの武器の注文を受 けているGMの会長が国防長官になるのはおかしい、とい う反対意見があった。
これに対してウィルソンは「GMにと って良いことはアメリカにとっても良いことである」と発言 した。
単に政府から注文をもらうだけの会社ではない。
G Mにとって良いことはアメリカ国民全体にとっても良いこと だというわけだ。
 アイゼンハワー大統領は退任にあたって、アメリカを支配 しているのは軍産複合体(ミリタリー・インダストリアル・ コンプレックス)だと発言して有名になったが、それはまさ にGMが政府と一体となっている、ということを意味している。
 このようなGMに対して一九六〇年代頃から批判の声が 出てきた。
ラルフ・ネーダーが『どんなスピードでも自動車 は危険だ』という本を書いて、反自動車キャンペーンを始 めたのである。
それはGMを標的にするものであった。
そ こでGMはネーダーの周辺にスパイをつけて監視したのだが、 そのことをネーダーがつかんでこれを公開し、GMはネーダ ーに謝るという一幕もあった。
 GMにはまだその余裕があったともいえる。
しかしアメ リカにおける自動車文明批判、そしてGM批判の声はその ころから少しずつ高まっていた。
 もし、この段階でGMが方向転換していたら、今日のよ うなことにはならなかっただろうと思われる。
しかしそれ は無理というもの。
株式会社としてのGMは利益を追求す るためには車を、しかも儲かる車を作り続けなければなら ない。
こうして突っ走った結果が、いま危機となって現れ たのである。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社はどこへ行く』 (NTT 出版)。

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