ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年1号
物流指標を読む
ドライバーの賃金はもう下げられない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

75  JANUARY 2009 物流指標を読む ドライバーの賃金はもう下げられない さとう のぶひろ 1964年生まれ。
早 稲田大学大学院修了。
89年に日通総 合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
 国土交通省自動車交通局貨物課は二〇〇八 年九月に「輸送の安全向上のための優良な労 働力(トラックドライバー)確保対策の検討 報告書」を公表した。
そのなかで、二〇一五 年度におけるトラックドライバーの需要量およ び供給量を予測している。
一般に、こうした 将来の労働力を予測する場合、供給量のみを 予測するケースが多いが、本調査では、供給 面のみならず、将来貨物輸送量から必要ドラ イバー数(=需要量)の予測を行っているの が特徴だ。
 具体的には将来におけるGDP成長率とし て「ハイケース:二・三%」、「ミドルケース (標準ケース):二・二%」、「ローケース:〇・ 八%」の三つのパターンを想定し、それぞれ のケースごとに将来の営業用トラック輸送量 を予測し、そこから必要なトラックドライバー の人数をはじきだしている。
 ドライバーの供給量については、現在のト ラックドライバー数をベースに、継続率(=継 続して従事する人の割合)を用いて、継続従 事ドライバー数を予測する一方で、年齢階級 別の人口構成や免許保有者構成に占める新規 従事ドライバー率により新規従事ドライバー数 を予測している。
 また、経済成長率を勘案せずに、全産業に 対する道路貨物運送業の賃金格差が拡大して いく(時系列予測)と想定したケースのほかに、 ドライバー供給数が経済成長率パターン別に変 動するものと想定したケースについても予測 している。
 日本労働組合総連合会(連合)は、性別、 学歴、年齢、勤続同一条件で総給与額の産 業間格差比較を算出している。
これによると、 全産業に対するドライバー(道路貨物運送業 就業者)の賃金水準割合は、経済成長率が上 昇すると低下し、逆に景気が悪いと上昇する 傾向が読み取れる。
 すなわち、好景気の局面では、他産業の賃 金上昇率が運送業のそれを大きく上回るため 賃金格差が高まり、トラックドライバーの確保 が困難になるのに対し、景気が悪い局面では、 他産業の賃金上昇率が運送業のそれに近くな るため賃金格差が縮小し、トラックドライバー の確保は容易になる。
前述のドライバー供給 数が経済成長率パターン別に変動するものと 想定したケースの予測は、こうした景気動向 とトラックドライバー数との関係を加味したも のだ。
 その結果は表の通りである。
経済成長率を 勘案せずに、全産業に対する道路貨物運送業 の賃金格差が拡大していくと想定した場合には、 標準ケースにおいて一五年度には一四・九万 人のドライバー不足が発生するものと予測され、 ローケースでも三・六万人の不足が発生するも のとみられる。
 若年労働力自体が減少し、労働力確保に係 る競争が全産業の間で更に厳しくなるなかで、 仮にトラック業界が何も対策を打たなければ、 つまりドライバーの低賃金を放置すれば、いく ら景気が低迷しようと、ドライバーは集まらず、 大きな需給ギャップが発生することになる。
 一方、ドライバー供給数が経済成長率パター ン別に変動するものと想定したケースにおいて も、標準ケースでは、一五年度では一四・一 万人のドライバー不足が発生するものと予測さ れる。
 ただし、ローケースにおいては、ドライバ ー不足は発生しない。
逆に〇・九万人の余剰 が発生するという結果になっている。
〇・九 万人の余剰は供給全体の一%余りであるから、 ドライバーの賃金格差が縮小し、なおかつ不景 気が続いたときに、はじめてドライバーの需給 が拮抗することになる。
 なお、本調査では、GDP成長率が二・二% のケースを標準ケースとしているが、本報告書 の公表以降、景気は急速に悪化しており、日 本経済は、ローケース(GDP成長率:〇・ 八%)のパターンで推移する可能性も出ている。
トラック業界のドライバーの賃金はもう下げら れないところまできている。
●トラックドライバー需給の見通し A.ドライバー供給数が現状の時系列パターンで推移するケース ローケース 需給ギャップ 823,704 823,704 0 897,690 815,434 -82,256 892,020 733,906 -158,114 年必要人数 年 供給人数 823,704 823,704 0 893,312 815,434 -77,878 883,338 733,906 -149,432 823,704 823,704 0 833,779 815,434 -18,345 769,526 733,906 -35,620 2003 2010 2015 2003 2010 2015 2003 2010 2015 ハイケース 標準ケース B.ドライバー供給数が経済成長率パターン別に変動するケース ローケース 必要人数供給人数需給ギャップ 2003 2010 2015 2003 2010 2015 2003 2010 2015 ハイケース 標準ケース 823,704 823,704 0 897,690 819,236 -78,454 892,020 742,190 -149,830 823,704 823,704 0 893,312 819,236 -74,076 883,338 742,190 -141,148 823,704 823,704 0 833,779 837,240 3,461 769,526 778,785 9,259 出典:国土交通省自動車交通局貨物課資料 第1 回 新連載

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