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FEBRUARY 2009 52
物流共同化
コラボクリエイト
薬事法改正と業界再編を好機として
医薬品メーカーの共同物流事業を拡大
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。 現場で分別を行い、集荷拠点を経由して
自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること
で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。 さらに部
材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に
ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を
めざしている。
卸が描く物流ビジョン
大手医薬品卸のスズケンは?メーカーの物
流共同化支援?を標榜し、二〇〇五年三月に
コラボクリエイトを設立した。 その数年前から
医薬品業界では、メーカーの物流担当者らが
集まって研究会を設け、共通する課題の解決
策としてメーカー同士の物流共同化を模索し
ていた。 だが、それぞれに異なる事情を抱え
るメーカー各社の要望を吸い上げ、具体的な
仕組みにまとめ上げることは容易でなく、研
究会は意見交換の域を脱せずにいた。
この研究会にメンバーを送っていたスズケ
ンは、メーカーの物流共同化を実現するには
調整役となる第三者が必要だと考えた。 そし
て、社長直轄のプロジェクトを設け、一年か
けて検討を行った末に、自らが調整役となり
メーカーの共同物流支援という切り口で新規
事業を起こすことを決断した。
新設したコラボクリエイトの社長には、一
連のプロジェクトでリーダーを務めた浅野茂氏
を起用。 またスズケン色を薄めて中立的立場
を明確にし、事業運営の透明性を高めるため、
設立直後には第三者割当増資を実施した。 こ
れに応じて研究会のメンバーだった医薬品メ
ーカー一六社と大成建設、および中堅物流会
社のキムラユニティーが出資した。 その結果、
スズケンの出資比率は三割強に収まった。
コラボクリエイトの設立と同日、スズケンは
一〇〇%出資で倉庫内のオペレーションを担
当する「コラボワークス」という会社も設立
している。 コラボクリエイトがメーカーに共同
物流などの企画を提案し、受託した現場の運
営をコラボワークスが担うという役割分担だ。
これには医薬品業界の再編問題もからんで
いる。 この年の四月一日に、山之内製薬と藤
沢薬品工業が合併してアステラス製薬が発足
した。 それまで山之内製薬は大手倉庫会社に、
藤沢薬品工業は物流子会社の藤沢物流サービ
スに、それぞれ物流業務を委託していた。 合
併に先立って両社の物流を集約し、山之内製
薬の協力倉庫会社に業務を全面委託すること
になった。
これに伴い藤沢薬品工業は既存の物流イン
フラの処分を迫られた。 その受け皿となった
のがスズケンだ。 兵庫県神戸市および茨城県
古河市にある藤沢薬品工業の二カ所の配送セ
ンターを買収。 それをコラボワークスに貸与
し、さらに藤沢物流サービスの社員もコラボ
ワークスに移籍するかたちで受け入れた。
スズケンがここまで思い切った経営判断を
下したのは、医薬品業界の物流の現状に対し
て強い危機感を抱いているためだ。 薬価の引
き下げや医薬分業の推進など、国が医療費抑
制のために打ち出す諸政策のもと、医薬品の
物流は従来の高コスト体質を払拭する必要に
迫られている。
しかし医薬品メーカーには新たな物流機能
を自ら整備する余力がない。 メーカーによる
流通の系列化が顕著だった一九九〇年代に
大手医薬品卸のスズケンを筆頭株主に国内の医薬品
メーカー16社が出資、医薬品業界の物流プラットフォ
ームを目指している。 メーカーの物流共同化やジェネ
リック医薬品(後発医薬品)メーカーなど対象とし
た3PL事業で順調に業績を拡大。 今後は薬の特性応
じた多様な配送ネットワークの構築にも取り組む。
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は、メーカー各社は競って高機能な物流セン
ターの整備に動いた。 しかし近年、日本の医
薬品メーカーは欧米企業とのグローバル競争
にさらされ、合併や資本提携によって経営規
模の拡大を図るとともに、新薬の研究開発に
重点的に投資を振り向けるようになっている。
その結果、物流に関しては既存のアセットを
手放し、管理業務まで外部に委ねる傾向が強
まっている。 これに乗じて昨今は有力な物流
会社や総合商社らが医薬品メーカーをターゲ
ットとした物流業務の受託事業に相次ぎ進出
している。 物流は卸の主要の機能の一つ。 新
たな競合の出現にスズケンも手をこまぬいて
いるわけにはいかなかった。
コラボクリエイトの浅野社長は「メーカーが
物流をアウトソーシングするなら、医薬品の
ことを熟知する自分たちがその受け皿となる
会社をつくり、業界の人材や物流資源を活用
して新しい医薬品物流のモデルを創造するべ
きだ」という強い意志を持ってこの事業に臨
んだ。
“製造受託”メーカーの物流共同化
コラボクリエイトの事業が実際に動き出し
たのは会社設立から半年余り経ってからのこ
とだった。 旧藤沢薬品工業から譲り受けた拠
点は同社製品の仕様に合わせて機械化されて
おり、複数の顧客の業務を受託するには不向
きだった。 このため自動倉庫だけ残してマテ
ハン機器をすべて撤去し、平屋倉庫へリニュ
ーアルする必要があった。
その間、浅野社長はメーカーとの勉強会な
どを通じて業界の物流課題を抽出し、コラボ
クリエイトの事業につながる提案を行ってい
た。 そこから一つのプロジェクトが生まれた。
富山県の医薬品メーカーによる共同物流だ。
古くから配置薬で有名な富山県は、今も医
薬品の製造が主要な地場産業の一つになって
いる。 〇五年四月に改正薬事法が施行された
のを機に、県では産業振興策として県内のメ
ーカーによる医薬品受託製造の拡大を目指し
ていた。
従来、医薬品の製造を他社に委託する場合、
最終工程に当たる包装ラインなど最小限の設
備だけは自社で保有しなければならないとい
う規制があった。 この制約が薬事法の改正に
よってなくなった。 改正薬事法では?医薬品
を製造して市場へ出荷する?「製造業」の行
為のうち、?製品をつくる?行為だけが「製
造業」の範疇に残り、 ?市場へ出荷する?行
為については新たに「製造販売業」に区分さ
れた。 これよって医薬品メーカーは、製造部
門の分社化やアウトソーシングによって製造を
効率化しやすくなった。 製造を受託する側に
とっては新たなビジネスチャンスだ。
新法の施行に先立ち、富山県では効率的な
物流体制を整備することで県内の企業が製造
受託事業を有利に展開できるよう、支援に乗
り出した。 製造受託料には製造を委託したメ
ーカーの出荷基地へ製品を納めるまでの輸送
費が含まれている。 コスト効率の良い物流イ
ンフラは強力な武器になる。
そこで県は〇五年五月に富山県薬業連合会
に研究会を設け、物流を効率化する方法とし
てメーカー各社による物流共同化の検討を始
めた。 これにコラボクリエイトも加わり、プロ
ジェクトを通じて共同物流の企画・立案を支
援した。 メーカー各社から原料調達や製品出
荷のルート・数量などを提出してもらい、そ
れをもとに共同輸送のネットワークづくりに
取り組んだ。
翌〇六年の七月に共同輸送がスタートした。
コラボクリエイトがその運営を任された。 富
山県内の複数のメーカーの工場を一〇トン車
などで集荷に回り、各社の製品を混載して関
東・東海・関西圏にある製造委託メーカーの
工場や物流センターへ輸送する。 帰り便には
一部、県内の工場で生産される栄養ドリンク
剤用のビンなど副資材の調達物流を組み合わ
せて効率化を図るという内容だ。
現在、この共同輸送にはメーカー十一社が
参加している。 研究会では参加メーカーの拡
コラボクリエイトの浅野茂
社長
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大を目指し、富山県内に共同物流の拠点を設
けることなども検討しているという。
後発医薬品を二拠点で翌日配送
一方、コラボクリエイトは単独メーカーのア
ウトソーシング受託事業にも力を入れている。
コラボワークスが運営する物流センター内にメ
ーカーの卸売り一般販売業許可エリアを設け
て商品を保管し、入出庫・在庫管理、卸への
配送を行う。
この事業も二年目から軌道に乗った。 顧客
数が増えてきたことで、岐阜県の小牧と埼玉
県の久喜に専用のセンターをオープン。 さら
に〇七年二月には埼玉県杉戸と兵庫県尼崎の
二カ所にもセンターを開設した。 このうち杉
戸は延べ床面積一万二千坪の大型拠点だ。 昨
年一〇月には神戸地区の二つ目の拠点として
西神戸物流センターがオープンし、拠点数は
合わせて七カ所になった。
基本的にこれらの物流センターでは、コラ
ボワークスに所属する医薬品メーカー出身の
社員がセンター長を務めている。 メーカーの
物流業務を通じて蓄積したノウハウを現場の
オペレーションに活かしている。
ただし、久喜の物流センターだけは運営形
態が異なる。 ここでは、コラボクリエイトの
株主でもありトヨタ自動車の補修部品の物流
業務を長年手がけてきたキムラユニティーが、
現場改善のノウハウを持ち込んでオペレーショ
ンを支援している。 従来の医薬品の物流管理
対して、卸の拠点へ受注の翌日までに配送す
る、一カ月分以上の社内在庫を確保する、品
業務にトヨタ流の管理手法を取り入
れることで、生産性の向上を狙って
いる。
久喜の物流センターではジェネリ
ック医薬品(後発医薬品)製造大
手の日医工から物流業務を受託して
いる。 ジェネリック医薬品とは、新
薬の特許期間が過ぎた後に後発メー
カーが製造する、新薬と同じ有効成
分で効能や用法が同一の医薬品のこ
とをいう。 開発費用がほとんどかか
らず、承認までの期間も短いことな
どから、新薬に比べて薬価が二割〜
八割も安い。
このため厚生労働省では医療費の
抑制策としてジェネリック医薬品の
普及に力を入れている。 だが日本で
は欧米などと比べて普及が遅れ、〇
六年度の医薬品全体に占める比率は
数量ベースで一六・九%(日本ジェ
ネリック製薬協会調べ)にとどまっ
ている。 厚労省は二〇一二年までに
ジェネリック医薬品の数量シェアを
現在の二倍近い三〇%以上に引き上
げるという政策目標を掲げている。
その達成に向けて〇七年一〇月に
は、医療機関などがジェネリック医
薬品を安心して使用できるよう、安
定供給の条件などを明記したアクションプロ
グラムを打ち出した。 そのなかでメーカーに
富山県物流共同化モデルの全体体系図
富山県
都市部
共同集荷・配送
共同集荷
A 工場
製剤工場
B 工場
C 工場
D 工場
原材料仕入先
富山地区
共同倉庫
原薬工場
原材料
仕入先
包材仕入先
共同配送
卸物流センター
卸営業所
地方
遠隔地
路線統一
メーカー共同幹線便
メーカー共同幹線便
メーカー共同幹線便
関東圏
ターミナル
自社便
引取便
or
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物流センターにも展開する予定だという。
コラボクリエイトは設立から三年後の〇七
年度に三〇億円の売り上げを計上し、黒字化
を達成した。 〇八年度も協和発酵工業とキリ
ンファーマの経営統合に伴う物流統合や、そ
の前年に統合した田辺三菱製薬の物流再構築
を支援するなど積極的に事業を拡大し、四〇
億円超の売り上げを見込んでいる。
川上から川下までを視野に
同社が物流業務を受託しているメーカーの
数はすでに一五社に上り、この領域では大手
物流会社らと肩を並べる存在になった。 だが
浅野社長は「医薬品の物流はこれからダイナ
ミックに変わっていく。 従来型のモデルは通
用しなくなるだろう。 次のステップでは業界
の物流変革を支援するための新しいビジネス
モデルを一足早く構築したい」と先を急ぐ。
同社が今後の事業展開で重視しているのは
医薬品の製品特性に配慮した新しい配送ネッ
トワークづくりだ。 例えば最近、あるメーカー
から治験薬の保管・配送業務を受託した。 治
験薬とは国から承認を受けるための臨床試験
に用いる薬のことで、保管・輸送中を通して
二度〜八度の温度帯での厳格な温度管理が必
要とされる。
従来は治験の依頼者である製薬会社から実
施者の医療機関のもとへ直接届けることが義
務付けられていたが、昨年二月に省令が改正
されて、薬の品質管理や輸送・受領が依頼
者の責任で確実に行われることを条件として
第三者に業務を委託することが可能になった。
このため今後は外部委託が増えていくと同社
では予想している。
治験薬以外にも医薬品の中には、オーファン
ドラッグ(希少疾病用医薬品)のように、取
り扱いに特別な配慮の必要なものがある。 オ
ーファンドラッグは高額なうえに、対象の患
者数が少なく大学病院などの一部の医療機関
でしか使用されないため、従来の多段階な物
流には適していない。 そうした「薬の特性に
応じた多様な物流のネットワークがこれから
は必要になる」と浅野社長は見る。
最終的に同社が目指しているのは「医薬品
流通の川上から川下まで、サプライチェーン
全体を効率化するための物流インフラをつく
ること。 それが会社設立の時からの目標だっ
た。 そのために医薬品の配送事業者との戦略
的提携によって多様な流通形態に対応できる
新しいネットワークを構築したい」と浅野社
長は話す。
医薬品業界ではこのところ大手卸同士の大
型合併やドラッグストアチェーンによる卸の買
収、調剤薬局チェーンとの業務提携などが相
次ぎ発表され、近年にも増して大掛かりな業
界再編が進むとの観測が強まっている。 これ
に伴い物流の構造も大きく変わっていくこと
は間違いない。 その転換期に同社がどんな存
在感を発揮していくか注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
切れ品目をゼロにするなどの対応を求めてい
る。 ジェネリック医薬品メーカーは国の普及促
進という追い風を受ける一方で、物流体制の
整備が急務となったのだ。
従来、日医工は富山県の工場から全国の卸
へ製品を配送していた。 だがこの体制では全
国翌日配送が困難であったため、物流のアウ
トソーシングに踏み切った。 コラボクリエイト
はこれを受けて、久喜のセンターから二四時
間以内のリードタイムで届けるネットワークを
構築した。 さらに、昨年六月に日医工が帝国
製薬の子会社だったテイコクメディックスを買
収したのに伴い、同一〇月にコラボクリエイ
トは西神戸物流センターをオープン。 東西二
拠点体制で全国翌日配送をカバーする体制を
整えた。
ジェネリック医薬品は、メーカーの出荷単
位が新薬とは異なる。 新薬は外箱単位での出
荷が一般的だが、まだ流通量の少ないジェネ
リック医薬品は、アイテム数が多い割に出荷
単位が小さく、典型的な多品種少量物流にな
っている。 バラピッキングや詰め合わせ作業
が卸の拠点並みに発生する。
もともとコスト負担力が小さいうえ、扱い
に手間のかかるジェネリック医薬品の物流に
は、徹底したローコスト・オペレーションが求
められる。 久喜の物流センターではこれに対
応し、キムラユニティーの指導で?見える化?
による業務の効率化を試みた。 その成果は着
実に上がっており、今後は同じ手法をほかの
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